上 下
6 / 220

しおりを挟む
 夕食の買い出しをしてから自宅に戻ってきた沖長たち。
 葵は掃除やら洗濯物などの家事に勤しみ、悠二はスイミングスクールの事務処理のために自室へと向かったので、沖長もまた自分の部屋で今日判明した自分の能力について考察していた。

 神が気を利かせてくれてプラスアルファを能力に付与してくれたことは分かったが、それにしてもプラスの要素が強烈過ぎた。
正直いって予想外な機能ばかりで神に対してやり過ぎだと思っていた。
 それでも冷静に考えてみれば、どれも非常に便利で使い勝手の良いものばかり。

「まあ……確かに使い勝手の良い《アイテムボックス》を願ったけどさ……」

 不満は何一つない。それどころかこれだけのものをもらったことが何となく申し訳なささえ覚えるほどだ。

「けどもらった以上はありがたく使わせてもらいます。ありがとうございます、神様」

 合掌しながら、神へと感謝を告げる。
 そして改めてリストを開いて能力を確かめていく。

(整理してみよう。まず《アイテムボックス》に〝回収〟したものは、その瞬間に個数が無限化する)

 試しに部屋にある絵本やティッシュ箱などを〝回収〟してみたが、先に〝回収〟したものと同じように個数が無限と化していた。

「マジで便利だな。これでもう一生ティッシュには困らないし、絵本を古本屋とかに売れば何割かの金銭も回収できる。まあでも……単純に金銭を増やすのは危険だよな」

 当然一万円札などの金を〝回収〟すれば、それこそ無限の富を手にできるが、それは複製と同じであり要は偽札となってしまう。それを使うにはリスクがあり過ぎる。 
 悪党なら何も考えずに使用するだろうが、トラブルをできるだけ抱え込みたくない人生を送りたい自分としては避けたい行動だ。

「それにこれなら食べ物にも困らないだろうし、それだけでも十分過ぎる」

 例えば一人暮らしをしたとして、やはり一番の支出は食費であろう。それがその気になれば皆無となるのだから驚嘆ものだ。それに日用品も、一度購入するだけで一生涯困らないのだから素晴らしい。

「〝消去〟の機能があればゴミ出しとかも必要なくなるしな」

 一般家庭はゴミを分別し、住んでいる地域のゴミ置き場に持っていく必要がある。しかしこの能力があれば、わざわざ分別しなくても任意でこの世から消すことができる。

「あとは〝再生〟だけど、これがまた強力だよな」

 試しに悪いと思いながらも、絵本の表紙を破ったあとに〝回収〟して〝再生〟してみた。そのあとに取り出して新品になっているのを見て嘆息する。

(もう何て言ったらいいか分かんないけど、欲しいものがあったら中古でもジャンク品でも問題ないってことだよな)

 たとえ壊れて動かない電化製品などでも、新品にすることが可能。本当にデタラメな機能である。
 ということで、とりあえず部屋のものを片っ端らから〝回収〟して、また取り出して設置しおいた。

 すぐに必要になるようなものばかりではないが、それでも何かしらに役立てると思うから。まあエアコンのリモコンや今年のカレンダーが無限にあってもどうしようもないとは思うが、別にいつでも消せるし持っていても問題はない。

「う~ん、でもランクは〝F〟ばっかだなぁ」

 この部屋にあるものだけでも、値段にしたらピンキリだ。ゴミ同然の価値のものから、そこそこ値の張るベッドやクローゼットなども同じランク。

「金銭的価値でランクが決まってわけじゃないのかな……?」

 そう思い、自室を出て家事をしている葵にバレないように家の中の物を手あたり次第に〝回収〟していく。当然〝回収〟したあとは、すぐに一個だけ取り出して元に戻している。

 しかしテレビを回収したのはいいが、取り出してアッとなった。何故ならコンセントやレコーダーなどに繋がっている配線などが外れていたからだ。

(ヤバッ!? このままじゃテレビが映らないじゃんか!?)

 慌てて配線を繋いでいく。あまり音を出してしまうと葵に気づかれてしまうから、できるだけ隠密にかつ素早くこなしていった。
 そうして〝回収〟したものの確認は後回しにし、とりあえず回収ミッションを終えると、また自室へと入ろうとすると、悠二が仕事部屋から出てきた。どうやらトイレに向かったようだ。

 しめたと思い、素早く悠二の部屋へ侵入する。ここには高級そうなテーブルや椅子、トレーニング機器やパソコンなどがあるので、それも〝回収〟させてもらうつもりだった。
 しかしここでパソコンが起動していることに気づく。

(パソコンは止めとくか。さすがに急に電源が切れてたらおかしいだろうし)

 それに作業中みたいだし、データが飛んだりしたら申し訳ないので、残念ながらまた使っていない時にしようと思った。

 そうやって〝回収〟しても支障がないものだけを素早く頂いていく。大き過ぎるものは、同じ場所に戻すことができないかもしれないので、棚そのものではなく、引き出しを開けて中身だけを〝回収〟した。

 あまり長居すると悠二が帰ってきてしまうので、ここら辺で切り上げることにする。
 そして急いで自室へと向かおうと悠二の仕事部屋から出たその時だ。

「あらぁ? 沖ちゃん?」
「え?」

 そこには洗濯物を抱えた葵が立っていた。

(うわ、見つかってしまった……!)

 潜入ミッションが失敗してしまったことに焦る。

「こーら、そこはパパのお部屋でしょぉ? もしかして悪戯でもしたのぉ?」

 口を尖らせながら叱りつけてくる。

「ご、ごめんなさい……扉が開いてたから気になって」
「もうダメよ。ここはパパのお部屋なんだしねぇ」

 どうやらあまり怒られはしないようだ。ホッと息を吐いていると、そこへ悠二がトイレから帰ってきた。

「どうしたんだ?」

 そう問う悠二に葵が軽く説明した。

「なるほどな。まあ、危険なものは置いてないし……あ、パソコンは触ってないか?」
「う、うん、チョコがあったからもらっただけ!」

 実際にテーブルの上に置かれた籠にはチョコや飴などの菓子が入っていた。

「ははは、ならいいんだよ」

 そう言いながら頭を多少強引に撫でてきた。そしてそのまま笑いながら部屋へと戻っていく。

「もしかしてお腹が空いてたのぉ? あ、昨日買ったアイスでも食べる?」
「い、いいの?」

 別に腹も減ってないし食べたいとは思わないが、そういうことにしておいた方が良さそうなので葵と一緒にリビングでアイスを食べることになった。

 冷蔵庫も〝回収〟しておきたかったが、テレビの件があるので控えたのだ。冷蔵庫の裏の方にコンセントがあり、壁と食器棚に挟まれているから子供ではコンセントを指し直すにはなかなか困難なのだ。

 とりあえず隙を見て、食べる前にカップアイスを〝回収〟し、すぐに一個だけ取り出して食べ始めた。
 おやつタイムが終わったあと、ようやく落ち着いて自室で回収物を確認することができる。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

女子力の高い僕は異世界でお菓子屋さんになりました

初昔 茶ノ介
ファンタジー
昔から低身長、童顔、お料理上手、家がお菓子屋さん、etc.と女子力満載の高校2年の冬樹 幸(ふゆき ゆき)は男子なのに周りからのヒロインのような扱いに日々悩んでいた。 ある日、学校の帰りに道に悩んでいるおばあさんを助けると、そのおばあさんはただのおばあさんではなく女神様だった。 冗談半分で言ったことを叶えると言い出し、目が覚めた先は見覚えのない森の中で…。 のんびり書いていきたいと思います。 よければ感想等お願いします。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

ちょっとエッチな執事の体調管理

mm
ファンタジー
私は小川優。大学生になり上京して来て1ヶ月。今はバイトをしながら一人暮らしをしている。 住んでいるのはそこらへんのマンション。 変わりばえない生活に飽き飽きしている今日この頃である。 「はぁ…疲れた」 連勤のバイトを終え、独り言を呟きながらいつものようにマンションへ向かった。 (エレベーターのあるマンションに引っ越したい) そう思いながらやっとの思いで階段を上りきり、自分の部屋の方へ目を向けると、そこには見知らぬ男がいた。 「優様、おかえりなさいませ。本日付けで雇われた、優様の執事でございます。」 「はい?どちら様で…?」 「私、優様の執事の佐川と申します。この度はお嬢様体験プランご当選おめでとうございます」 (あぁ…!) 今の今まで忘れていたが、2ヶ月ほど前に「お嬢様体験プラン」というのに応募していた。それは無料で自分だけの執事がつき、身の回りの世話をしてくれるという画期的なプランだった。執事を雇用する会社はまだ新米の執事に実際にお嬢様をつけ、3ヶ月無料でご奉仕しながら執事業を学ばせるのが目的のようだった。 「え、私当たったの?この私が?」 「さようでございます。本日から3ヶ月間よろしくお願い致します。」 尿・便表現あり アダルトな表現あり

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

はずれスキル『模倣』で廃村スローライフ!

さとう
ファンタジー
異世界にクラス丸ごと召喚され、一人一つずつスキルを与えられたけど……俺、有馬慧(ありまけい)のスキルは『模倣』でした。おかげで、クラスのカースト上位連中が持つ『勇者』や『聖女』や『賢者』をコピーしまくったが……自分たちが活躍できないとの理由でカースト上位連中にハメられ、なんと追放されてしまう。 しかも、追放先はとっくの昔に滅んだ廃村……しかもしかも、せっかくコピーしたスキルは初期化されてしまった。 とりあえず、廃村でしばらく暮らすことを決意したのだが、俺に前に『女神の遣い』とかいう猫が現れこう言った。 『女神様、あんたに頼みたいことあるんだって』 これは……異世界召喚の真実を知った俺、有馬慧が送る廃村スローライフ。そして、魔王討伐とかやってるクラスメイトたちがいかに小さいことで騒いでいるのかを知る物語。

異世界転生は、0歳からがいいよね

八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。 神様からのギフト(チート能力)で無双します。 初めてなので誤字があったらすいません。 自由気ままに投稿していきます。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

処理中です...