俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

文字の大きさ
上 下
5 / 238

しおりを挟む
 色々気になることがある。
 まずそれぞれの名称の前についている〝F〟というのは何なのか。
 するとそれはすぐに解明することができた。先ほど確認した〝新着〟などの枠の延長線上に〝ランク別〟というのがあったのだ。

 そこに指で振ると、画面が切り替わり今度は〝A〟やら〝D〟などのアルファベットが刻まれている。
 また〝F〟もあったので押してみると、白紙だった画面にまたさっきと同じペットボトルたちが浮かび上がる。

 どうやら〝回収〟したものそれぞれにランクが自動でつけられるらしい。こういう場合、〝S〟が一番高いことが多いが、その上に〝SS〟と〝SSS〟があった。

 そして〝F〟が最後ということは、まず間違いなく最低ランクなのだろう。まあゴミクズだから当然と言えば当然だろうが。

(誰がランク付けしてんだろ? 神か? ……まあいいや、貴重さがハッキリしてて分かりやすいし)

 こんな便利機能は望んでいない。そもそも検索システムもだ。
沖長が望んだのは――。

【便利で使い勝手の良いアイテムボックス】

 これをどう解釈してくれたのか、問い質す時間もなかったため分からないが、今のところ不満はないので問題ない。

(次は……このマークだよな)

 名称の最後についている〝∞〟のマーク。普通だったら何個所持しているかを表す数字だと思う。

(……! いや待てよ、数字……じゃなくてこれ無限を示す記号か?)

 そう思いついてすぐに考えを捨て去る。何故なら〝回収〟したのは個数にすると全部で六つだ。ペットボトルが二個でウキも二個。だったら〝2〟と書かれるのが普通だ。
 ならこのマークは一体どういう意味なのか……。

(そうか、取り出してみれば分かるよな)

 ペットボトルの文字に触れると、また別画面でペットボトルの説明欄が出現し、さらにそこには困惑する文字が存在した。

〝使用〟〝消去〟〝再生〟

 まず〝使用〟は分かる。これは取り出して使うことを示しているはず。だが残り二つが困惑の原因だ。 
 確認してみると、どうやらこの〝消去〟は文字通りリストからの消去。外に捨てるのではなく、存在そのものを抹消するらしい。消えたものがどこに行くのかは分からないが、考えようによってはとてもエコな便利機能だった。

 そして残った〝再生〟とは、想像以上にとんでもない機能を備えていた。
 何故ならこの機能――破損したり中古だったものを再生し戻すことができるからだ。

 つまりグシャグシャだった使用済みのペットボトルを、綺麗な新品にすることが可能なのである。

(な、何そのチート……?)

 思わず顔が引き攣ってしまった。
 だってそうだろう。この機能さえあれば、たとえ修理不可能だと烙印を押されたものでも新品で戻ってくるのだ。これは便利とかそういう言葉では表現できないほどの力である。

 ただし中身までは再生することができない。元々ペットボトルに何かが入っていたとしても、その中身の液体などは再生することは不可能らしい。そしてそれは駄菓子の袋にも言えることであり、できることは見栄えを整えることだけのようだ。

(それでも壊れたものが治るんなら十分過ぎるけどな)

 当然こんなチートを要求したつもりはない。沖長としては、自在に物を収納して取り出せるだけのものをイメージしていたから。

「……と、待てよ。じゃあこの記号……マジで無限ってことなんじゃ……」

 そしてとりあえず〝使用〟を押して目立たないウキを取り出してみることにした。すると【×1】と表示が現れ。その上下には矢印があった。

 恐る恐る上部の矢印を押すと、【×2】となり、通常ならここでストップするはずだが……押し続けていると、どんどん数字が上がっていく。

「………………」

 そうして【×2340】になったところで、沖長はフッと静かに笑みを浮かべると、一旦リスト自体を閉じた。そして力強く立つと深く息を吸って……。

「どんだけだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 全身を震わせながら、天に向かってツッコミを入れたのであった。

「ちょ、ちょっとどうしたの沖ちゃん!?」

 マズイ。後ろに葵がいることをすっかり忘れてしまっていた。ただそれほどまでにショックだったということだけは分かってもらいたい。

「い、いや、その……ほらっ、ゴミがこんなにあるからダメだろーって思って!」

 咄嗟にしては上手い言い訳ではなかろうか。その証拠に、まだ〝回収〟していないゴミがあるので、そちらに意識を向けさせた。

「まあ、本当ねぇ。海はみんなのものなのにいけないわぁ」

 そう言うと、葵は所持していたバッグからエチケット袋を取り出すと、そこにゴミを拾って入れ始めた。
 こういうことが自然とできるなんて、本当に我が母ながらできた人格者である。

 沖長も、言葉にした手前、ゴミ拾いを手伝うことになった。〝回収〟すればすぐに終わるが、さすがに今は葵が近過ぎてバレかねないのでできない。
 そうして十分ほどゴミ拾いをしていると、さすがに水と風の冷たさで手がかじかんできた。それなりに綺麗にもなったところで切り上げて、悠二のところへ戻った。

 ちなみにゴミは砂浜に設置されているゴミ置き場にちゃんと分別して置いてきた。
 悠二の傍に置かれたバケツを見てみると、そこには数匹の魚がいるので、どうやら坊主ではなかったようだ。

「へぇ、ゴミ拾いしてたのか、偉いじゃないか、沖長」
「へへへ、でも手が氷みたいになっちゃったよ。ね、お母さん?」
「そうそう。だからあったかぁいものでも食べたいなぁ」

 暗に早く終わらせて食事行こうと言っているのだろう。どちらかというと沖長も賛成派である。
 悠二はそこそこ釣果があったことで満足していたのか、二人の気持ちを察して片づけを始めた。

 釣った魚を調理してもらえる店が近場にあるようなので、三人でそちらに足を伸ばす。
 昼時ということもあって、店内は九割ほどの客で埋まっていて、ギリギリ並ばなくてもテーブルに着くことができた。

 注文してしばらく待っていると、美味しそうな海鮮料理が出てきて、思わずよだれが溢れてくる。刺身や焼き魚など、悠二が釣った魚が極上の料理となって帰ってきた。

 特に湯気が立ち昇るあら汁が、とても魅力的に見える。さっそく沖長と葵はあら汁から頂くことに。 

「「んぅ…………はふぅぅぅ~」」

 親子らしく、リアクションが一緒だった。
 この熱いくらいのだし汁が冷え切った身体を温めてくれる。魚の旨みがたっぷりと出ていて、それでいてあっさり系だから物凄く飲みやすい。

 次いで刺身も口にするが、ついさっきまで生きていたからか身がプリプリとしていて美味しい。それにこのなめろうも最高だ。つい子供だということを忘れてビールが飲みたくなるが、ここは大人になるまでグッと我慢だ。

「沖ちゃんってば、そんなに刺身好きだったっけ? なめろうも食べちゃって」
「え? あ、うん! だって美味しいし!」

 確かに子供が好むようなものではなかったかもしれない。特になめろうは。

「ん~そっかぁ。じゃあ今度から魚料理もい~っぱい作ったげるからねぇ~」

 良かった。大して不思議がられずに済んだ。
 そうして転生してから初めての外食は有意義なものであった。
 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

モブ高校生、ダンジョンでは話題の冒険者【ブラック】として活動中。~転校生美少女がいきなり直属の部下とか言われても困るんだが~

エース皇命
ファンタジー
 学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は【ブラック】という活動名でダンジョンに潜っているAランク冒険者だった。  ダンジョンが世界に出現して30年後の東京。  モンスターを倒し、ダンジョンの攻略を目指す冒険者は、新しい職業として脚光を浴びるようになった。  黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。果たして、白桃の正体は!?  「才斗先輩、これからよろしくお願いしますねっ」  これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。 ※序盤は結構ラブコメ感がありますが、ちゃんとファンタジーします。モンスターとも戦いますし、冒険者同士でも戦ったりします。ガチです。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。 ※お気に入り登録者2600人超えの人気作、『実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する』も大好評連載中です!

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤
ファンタジー
 実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。  そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。  舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。  そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。  500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。  それは舞と関係のある人物であった。  その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。  しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。  そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。  ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。  そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。  そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。  その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。  戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。  舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。  何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。  舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。  そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。   *第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編  第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。  第5章 闇の遺跡編に続きます。

処理中です...