俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

文字の大きさ
上 下
5 / 237

しおりを挟む
 色々気になることがある。
 まずそれぞれの名称の前についている〝F〟というのは何なのか。
 するとそれはすぐに解明することができた。先ほど確認した〝新着〟などの枠の延長線上に〝ランク別〟というのがあったのだ。

 そこに指で振ると、画面が切り替わり今度は〝A〟やら〝D〟などのアルファベットが刻まれている。
 また〝F〟もあったので押してみると、白紙だった画面にまたさっきと同じペットボトルたちが浮かび上がる。

 どうやら〝回収〟したものそれぞれにランクが自動でつけられるらしい。こういう場合、〝S〟が一番高いことが多いが、その上に〝SS〟と〝SSS〟があった。

 そして〝F〟が最後ということは、まず間違いなく最低ランクなのだろう。まあゴミクズだから当然と言えば当然だろうが。

(誰がランク付けしてんだろ? 神か? ……まあいいや、貴重さがハッキリしてて分かりやすいし)

 こんな便利機能は望んでいない。そもそも検索システムもだ。
沖長が望んだのは――。

【便利で使い勝手の良いアイテムボックス】

 これをどう解釈してくれたのか、問い質す時間もなかったため分からないが、今のところ不満はないので問題ない。

(次は……このマークだよな)

 名称の最後についている〝∞〟のマーク。普通だったら何個所持しているかを表す数字だと思う。

(……! いや待てよ、数字……じゃなくてこれ無限を示す記号か?)

 そう思いついてすぐに考えを捨て去る。何故なら〝回収〟したのは個数にすると全部で六つだ。ペットボトルが二個でウキも二個。だったら〝2〟と書かれるのが普通だ。
 ならこのマークは一体どういう意味なのか……。

(そうか、取り出してみれば分かるよな)

 ペットボトルの文字に触れると、また別画面でペットボトルの説明欄が出現し、さらにそこには困惑する文字が存在した。

〝使用〟〝消去〟〝再生〟

 まず〝使用〟は分かる。これは取り出して使うことを示しているはず。だが残り二つが困惑の原因だ。 
 確認してみると、どうやらこの〝消去〟は文字通りリストからの消去。外に捨てるのではなく、存在そのものを抹消するらしい。消えたものがどこに行くのかは分からないが、考えようによってはとてもエコな便利機能だった。

 そして残った〝再生〟とは、想像以上にとんでもない機能を備えていた。
 何故ならこの機能――破損したり中古だったものを再生し戻すことができるからだ。

 つまりグシャグシャだった使用済みのペットボトルを、綺麗な新品にすることが可能なのである。

(な、何そのチート……?)

 思わず顔が引き攣ってしまった。
 だってそうだろう。この機能さえあれば、たとえ修理不可能だと烙印を押されたものでも新品で戻ってくるのだ。これは便利とかそういう言葉では表現できないほどの力である。

 ただし中身までは再生することができない。元々ペットボトルに何かが入っていたとしても、その中身の液体などは再生することは不可能らしい。そしてそれは駄菓子の袋にも言えることであり、できることは見栄えを整えることだけのようだ。

(それでも壊れたものが治るんなら十分過ぎるけどな)

 当然こんなチートを要求したつもりはない。沖長としては、自在に物を収納して取り出せるだけのものをイメージしていたから。

「……と、待てよ。じゃあこの記号……マジで無限ってことなんじゃ……」

 そしてとりあえず〝使用〟を押して目立たないウキを取り出してみることにした。すると【×1】と表示が現れ。その上下には矢印があった。

 恐る恐る上部の矢印を押すと、【×2】となり、通常ならここでストップするはずだが……押し続けていると、どんどん数字が上がっていく。

「………………」

 そうして【×2340】になったところで、沖長はフッと静かに笑みを浮かべると、一旦リスト自体を閉じた。そして力強く立つと深く息を吸って……。

「どんだけだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 全身を震わせながら、天に向かってツッコミを入れたのであった。

「ちょ、ちょっとどうしたの沖ちゃん!?」

 マズイ。後ろに葵がいることをすっかり忘れてしまっていた。ただそれほどまでにショックだったということだけは分かってもらいたい。

「い、いや、その……ほらっ、ゴミがこんなにあるからダメだろーって思って!」

 咄嗟にしては上手い言い訳ではなかろうか。その証拠に、まだ〝回収〟していないゴミがあるので、そちらに意識を向けさせた。

「まあ、本当ねぇ。海はみんなのものなのにいけないわぁ」

 そう言うと、葵は所持していたバッグからエチケット袋を取り出すと、そこにゴミを拾って入れ始めた。
 こういうことが自然とできるなんて、本当に我が母ながらできた人格者である。

 沖長も、言葉にした手前、ゴミ拾いを手伝うことになった。〝回収〟すればすぐに終わるが、さすがに今は葵が近過ぎてバレかねないのでできない。
 そうして十分ほどゴミ拾いをしていると、さすがに水と風の冷たさで手がかじかんできた。それなりに綺麗にもなったところで切り上げて、悠二のところへ戻った。

 ちなみにゴミは砂浜に設置されているゴミ置き場にちゃんと分別して置いてきた。
 悠二の傍に置かれたバケツを見てみると、そこには数匹の魚がいるので、どうやら坊主ではなかったようだ。

「へぇ、ゴミ拾いしてたのか、偉いじゃないか、沖長」
「へへへ、でも手が氷みたいになっちゃったよ。ね、お母さん?」
「そうそう。だからあったかぁいものでも食べたいなぁ」

 暗に早く終わらせて食事行こうと言っているのだろう。どちらかというと沖長も賛成派である。
 悠二はそこそこ釣果があったことで満足していたのか、二人の気持ちを察して片づけを始めた。

 釣った魚を調理してもらえる店が近場にあるようなので、三人でそちらに足を伸ばす。
 昼時ということもあって、店内は九割ほどの客で埋まっていて、ギリギリ並ばなくてもテーブルに着くことができた。

 注文してしばらく待っていると、美味しそうな海鮮料理が出てきて、思わずよだれが溢れてくる。刺身や焼き魚など、悠二が釣った魚が極上の料理となって帰ってきた。

 特に湯気が立ち昇るあら汁が、とても魅力的に見える。さっそく沖長と葵はあら汁から頂くことに。 

「「んぅ…………はふぅぅぅ~」」

 親子らしく、リアクションが一緒だった。
 この熱いくらいのだし汁が冷え切った身体を温めてくれる。魚の旨みがたっぷりと出ていて、それでいてあっさり系だから物凄く飲みやすい。

 次いで刺身も口にするが、ついさっきまで生きていたからか身がプリプリとしていて美味しい。それにこのなめろうも最高だ。つい子供だということを忘れてビールが飲みたくなるが、ここは大人になるまでグッと我慢だ。

「沖ちゃんってば、そんなに刺身好きだったっけ? なめろうも食べちゃって」
「え? あ、うん! だって美味しいし!」

 確かに子供が好むようなものではなかったかもしれない。特になめろうは。

「ん~そっかぁ。じゃあ今度から魚料理もい~っぱい作ったげるからねぇ~」

 良かった。大して不思議がられずに済んだ。
 そうして転生してから初めての外食は有意義なものであった。
 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...