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久しぶりに
しおりを挟む夕食はスープとパン、焼いただけのお肉。
とても美味しかったわ。
シャルクも戻り、これから伯爵家を築いていく5人で同じテーブルに座り、初めて食べる食事。
とても美味しかった…。
夕食が出来上がるまで一人でソファーに座り待っていた。調理場から聞こえてきた二人の会話。少しぎごちなく、それでもお互い気軽に話していた。
少しづつお互いを信頼していけばいい。
年が近い二人。お父様とリックの関係性とは違い、リーストファー様とリックなりに二人の関係性をこれから築けばいい。
そう思い、どんな二人になるか楽しみにもしている。
皆で話しながら食べた夕食は楽しかった。今は夫婦の寝室で隣にはリーストファー様が横になっている。
「ああ…」
そう言うとリーストファー様はベッドから出てソファーで横になった。
私は上半身を起こした。
「リーストファー様どうされました?」
「いや、な…、」
「私とはもう一緒に眠りたくありませんか?」
「違う」
横になっていたリーストファー様は勢いよく起き上がった。そしてソファーに座り真っ直ぐ私を見つめる。
「笑うなよ?……久しぶりにミシェルが隣にいて、その、な、嬉しいんだ。だが恥ずかしくもある。昼間よりは薄い夜着だろ?」
私は自分の夜着を見た。
確かに昼間よりは薄い夜着を着ている。それは寝苦しくないように。
天幕で寝ていた時は昼間に着るワンピースを夜着代わりにして寝ていた。隣の天幕にはリーストファー様が居ると分かっていても常に気を張っていた。すぐに動ける格好で眠るのが好ましいと思っていたから。
でも今は信頼の置ける者達しかこの邸にはいない。
ニーナは寝苦しくない夜着を用意した。
「その、久しぶりにミシェルの温もりが直に伝われば、あれだ、俺も男だ、と言う事だ」
「はい…、ん?」
私達は夫婦なんだから問題はないのでは?そう思った。
「流石に駄目だろ。うん、今日は駄目だ」
リーストファー様は一人で『うんうん』と頷きながら納得している。何を納得しているのかは分からないけど。
「では同じ部屋なのに別々で眠るんですか?」
「まぁそうだな」
「嫌です、私は一緒に眠りたいです」
「俺だって一緒に眠りたい。だが、ミシェルの匂いや温もりが、それに、触れたくなる。あの柔らかいミシェルの肌に、どうしても触れたくなる。
もうどれだけ触れていないと思う」
「ですが私達は夫婦です」
私はリーストファー様を見つめた。
「今触れたら俺は一晩中離してやれない」
リーストファー様の熱のこもった瞳。
「それでも私達は夫婦です…」
私は恥ずかしくなって顔を俯けた。
私を抱く時に向ける、あの熱のこもった視線も久しぶりに浴びる。獣のようなあの瞳。あの瞳の前で私は抗う事なんて出来ない。
もう知っているから。
リーストファー様の温もりも熱も、優しく撫でるあの手も、伝わる心も愛も。
それはリーストファー様も同じ。
「明日領地を回るんだろ?」
「はい」
「妖艶な顔を皆に見せるつもりか?それは俺が許さない。俺に愛された顔は俺だけのものだ、違うか?」
「そうです」
妖艶とは思わないけど、リーストファー様に愛された朝は気怠く体はまだ火照っている感じが残る。
その姿を思い出し私は顔が熱くなった。
「な?その顔は俺だけの特権だ。誰にも見せたくない。もしそれでも触れてもいいと言われたら、俺も我慢はしない。だが明日はこの部屋から一歩も出さないぞ」
「…分かりました。今日は別々に眠りましょう。お互い体を休めないと」
私は勢いよく横になって布団で顔を覆い隠した。
私は布団の中であの光景を思い出した自分が恥ずかしく思えた。それでも『夫婦なんたから』と段々冷静になってきた。
冷静になり布団の隙間からリーストファー様を覗いた。
険しい顔で天井をじっと見つめるリーストファー様は何か考えているようだった。
『ああ、この領地で彼は私には触れない』
そう直感した。
さっきのリーストファー様の思いも本心。一緒に眠れば触れたくなる、それは紛れもなく彼の本心。
それでもこの領地で、彼等の魂が眠るこの領地で、自分だけ幸せなのが、リーストファー様自身が赦せない。
ここへ来れば何度も思い出す。
あの日の出来事を、
彼等の最期を、
彼等と過ごした日々を、
今、彼は暗闇にいる。
きっとリーストファー様は、今ここで私に触れれば獣のように激しく抱き潰してしまう。優しく抱きたい彼の思いとは正反対の感情のままに。
私はそれでも構わない。
でもリーストファー様は違う。感情のままに抱けば彼は後悔し続ける。
今の彼は一人で暗闇と戦っている。
その姿を私に悟らせないように、
彼は戦っている。
なら私はリーストファー様を信じて見守るだけ。彼ならもう自分で立ち上がれる。彼の心には大勢の愛や情が詰まっているから。
一人じゃない
それをもう知っているから。
それでも時には一人で自分自身と向き合う時間も必要。一人で戦う時間も必要。
どれだけ暗闇に墜ちようが、自分で這い上がれるだけの強さがリーストファー様にはある。
なら私は這い上がってきたリーストファー様を抱きしめればいい。『おかえりなさい』と笑顔で迎えればいい。きっと『ただいま』と笑ってくれる。
その時まで私は待とう。
焦らず気長に。
そうね、私達はゆっくりゆっくり今まできたじゃない。
あの時が懐かしいと思うくらい、今の私達は夫婦として関係を築いてきた。信用も信頼も、愛も、二人で育んできた。
だから待てるの。
私が手を差し出さなくても彼は光の世界に戻ってくる、そう信じているから。
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