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妻の資格

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「謝罪の言葉を受け入れる」


辺境伯の声に皆の動揺が伝わる。


「二人共立ち上がりなさい」


リーストファー様は私を立ち上がらせた。そして私の手を握った。

私はリーストファー様を見上げ顔を横に振った。私の手をギュッと握りリーストファー様は離さない。

殿下もおじさまに促され立ち上がった。


「謝罪の言葉は受け取ったが、心はまた別だ。これで帰っても良し残っても良し、機会は君達に与えよう」

「ありがとうございます」


私は辺境伯に頭を下げた。


「ありがとうございます」


殿下も頭を下げた。


「お前達は辺境の騎士だ、情が深く強い辺境の騎士だ、その誇りを忘れるな」


静かな訓練場に辺境伯の声が響いた。


「解散」


騎士達は訓練場を後にした。


「だから言っただろ、今は危険だと、どうして分かってくれない」


リーストファー様の怒鳴り声が訓練場に響いた。


「危険だと知っていても、皆が彼等の為に動いているのに、どうして私だけ護られていられると?私の罪は私が償う、その為に来ました」

「ミシェル!」

「貴方の隣に立つ為に、貴方の妻だと、私は堂々と彼等に言いたい。でも今の私にはその資格がありません。

だから私は自分の為に、私は貴方の妻だと堂々と貴方の隣に立ちたい…」


リーストファー様は私を抱きしめた。


「ミシェルは俺の妻だ、誰が何を言おうと、俺が愛してやまない妻だ。堂々と立てばいい、俺の隣で俺の妻として立てばいいだろ」


『ミシェル』と私の頭を撫でるおじさま。


「お前はこうするつもりで動いていたんだな。分かった、とことんやりたいだけやれ、お前ならできる。

リーストファー、諦めろ、これがミシェルだ」

「分かっていますが、妻を危険に晒したくありません」

「そこはお前が目を光らせて護ればいいだろ、お前の奥さんなんだからな。素顔を晒したミシェルだぞ?良いのか、ここは男ばかりの辺境だ。

ミシェル、布を被った方がいいんじゃないか?」


『ククッ』と笑うおじさま。『そしたら半数はお前を恕すだろうからな』


「俺には紹介をしてくれないのか?」


辺境伯が私達を見つめる。


「貴女とは初めて会った気がしないな。ククッ、貴女の目はとても印象深い」


辺境伯の後ろでおじさまは目の部分を手で囲み『ばれてるぞ』と口だけをパクパクと動かした。

『え?』と思わず声を出したのは仕方がない。


「君達には機会を与えたが、どうするつもりだ」

「私はこちらに残ります」


私は辺境伯を見つめ答えた。


「では君がここに滞在中一人騎士を付ける」

「ですが」

「君はリーストファーの奥方だ、君に何かあればリーストファーは黙っていない。それに今度こそ国の上層部と戦になる。勝ち目のない争いは極力避けたい」


『ククッ』と笑っているおじさま。笑う要素がどこにあるというの?


「分かりました。ではお願い致します」


私は辺境伯に頭を下げた。


「殿下はどうされます?」


私は少し離れた所にいる殿下と見つめた。


「ミシェルは残るんだよな、なら私も残る」

「殿下、私の意志ではなくご自分の意志でお決め下さい。ご自分がどうしたいかです」


少し怒ったように言ったのは仕方がない。


「私も自分の意志で残る」

「ではご覚悟をお持ち下さい、どのような扱いをされても我慢すると。罵倒は当たり前、蔑まれるのも当たり前、酷い仕打ちも邪険にされる事も、どのような態度を取られても我慢すると、自分の意志で決めたのならご覚悟をお持ち下さい」

「分かってる」

「私もお力をお貸ししますから、一緒に償いましょう」

「ああ、頼む」


辺境伯は静かに私達のやり取りを見ていた。


「では殿下には辺境隊隊長を付けましょう」


殿下は頷いた。


「では後ほど」


辺境伯が訓練場を去り、私達は一度王宮軍の天幕へ向かった。

シャルクとニーナはここに残ると言い、ボビン達も『ついでに我々も辺境隊の訓練に参加させて頂きます』と辺境に残ることになった。

陛下の近衛隊は一度王都に戻ると、一人だけ騎士を残して明日帰ることになった。


「ミシェル」


と私の頭を撫でるおじさま。


「真剣な話をしている時は笑わないで下さい」

「ああ、あれな、そりゃあ笑えるだろ。辺境伯でも鬼公子は怖い存在なんだなって思ったら笑えないか?」

「笑えません」

「でも実際、鳴りを潜めてる鬼公子がもう一度剣を持ったら後ろに続く者は多い。俺もだが公爵隊もだろ?それに鬼公子の姿を見た者は憧れ心酔する。またその姿を見れるなら力を貸すという者が集まるのは目に見えている。腕っぷしの強い奴等だけじゃなく頭の切れる軍師も加われば辺境を潰すのは簡単だ。それにこいつも必ず加わる」


おじさまはリーストファー様をチラッと見た。


「辺境伯も馬鹿じゃない。辺境伯の騎士が馬鹿じゃない限りお前は必ず恕される。まあ、お前はお前らしくやればいい」


呆れているのか怒っているのか、複雑な顔をしたリーストファー様を残して、おじさまは手をヒラヒラと振り去って行った。

少しだけ、少しだけよ?リーストファー様も連れて行ってほしかった…、とは絶対に言えないけど…、連れて行ってほしかったわ…。


「ミシェル」


ほら、やっぱり。

リーストファー様は低い声で私の名を呼んだ。


「なあに?リーストファー様」


できるだけ明るく言ってみたけど…。


「ミシェル」


リーストファー様の鋭い視線が……、怖い………。



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