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はじめまして

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次の日私はお父様とアンセム侯爵家へ出向いた。リーストファー副隊長はまだ怪我の治りが悪いと聞いた。

目の前には侯爵と侯爵夫人の姿だけ。本人はいない。


「今回は何と言っていいのか…」


分かりますわ侯爵様。お父様の放つ空気に侯爵夫人は今にも倒れそうですもの。ソファーに座っているから大丈夫だとは思いますが。


「お父様」

「ああ。侯爵お主の息子の褒美が私の娘と言うのは身の丈に合ってないとは思うが、それでも決まったものは今更何を言って覆らない」

「申し訳ございません」


侯爵夫妻はお父様と私に頭を下げた。

お父様の気持ちは分かるわよ?私より10歳も年上で譲られる爵位はない。それに爵位だけではなく領地もない。名は名乗れても平民と同等。それに今まで接点もない他人を急に妻に欲しいなんて、一応私は王太子殿下の婚約者だった訳だし。

今現在の爵位だけ見れば身の丈に合っていてもお父様にとって可愛い娘を平民同等にすると宣言したようなものだもの。

それも家と家の繋がりの為ではなく一個人の意思だけで。

侯爵家にはリーストファー副隊長に譲る爵位はない。勿論私が陛下から領地を貰った事など知らない。

お父様の怒りは分かるわ。

でもあっさり私を捨てた王太子殿下にその怒りを向けてほしい。きっと向けているだろうけど。


「リーストファー様はどちらにお見えでしょうか」


私は侯爵に尋ねた。本人がいないと話が進まない。


「今は部屋で療養しています」

「ではお部屋までご案内頂けます?」

「いや、だが…」

「わたくしはリーストファー様の妻になりますの。お顔もよく存じあげないお方ですし、それに妻になるのにご挨拶は必要ですわよね」


私はにっこりと微笑んだ。

侯爵は部屋の外にいた執事を呼び私は執事に案内されリーストファー様の部屋に向かった。後はお父様が侯爵夫妻と話を進めてくれるでしょう。


「申し訳ございません、エルギール公爵令嬢様」


執事は突然止まり振り返り私に頭を下げた。


「あら貴方が私に謝る必要はなくてよ」

「申し訳ございません」


執事は私に頭を下げ続けた。


「何か理由がおありですの?」

「はい。リーストファー様は今気が立っております。多分ですが…酷い言葉を…」

「そんな事ですのね。ええ分かっておりますわ、ご心配なさらないで。今はお部屋に案内して頂けます?」


執事は前を歩き遠くからでも物音が聞こえた部屋の前に立ち止まった。部屋の中では物を投げる音や何かが割れる音が聞こえる。

私は『ふぅ』と一息吐いた。


「ご案内ありがとうございます。ここからはわたくし一人で」

「ですが」


私は執事を手で制した。


「ご案内ありがとうございます」

「はい、では失礼致します」


コンコン

「入りますね旦那様」


まだお互い名も名乗っていない。

私は部屋の扉を開け部屋に一歩入った。一応部屋の扉は開けておいた方が良さそうね。


「はじめまして旦那様」


ベッドの上で上半身を起こし座っているリーストファー副隊長。足の踏み場もないほどに部屋の中は荒れている。

副隊長は私をキッと睨んだ。それでも私は微笑んだ。


「はじめまして旦那様、貴方様が妻にと御所望したミシェルと申します。旦那様のお名前も伺ってもよろしいかしら」


副隊長は私を睨みながら唇を噛み握った拳に力を入れた。


「旦那様お名前を、どうぞ妻にお教え願いますか?」


私はにっこりと微笑みもう一度名前を聞いた。名前をお互い名乗らないと何も始まらない。


「リーストファーだ」

「リーストファー様、改めてリーストファー様の妻になりますミシェルです。どうかお見知り置きを」

「出てけ」


リーストファー様は怒気を含んだ低い声で私に言った。それでも私はリーストファー様を真っ直ぐ見つめた。


「出ていきません。リーストファー様、はっきり言わせて頂きます。何をそんなにお怒りなのかは知りませんが貴方が私を妻にと言ったんですよ、それも昨日です。

それは覚えていますか?」


リーストファー様の鋭い視線。


「覚えていますか」

「………ああ」

「なら今日は一言だけ。私達はお互いを何も知らない赤の他人です。他人を急に妻にと所望したのならそちらの態度も改めて頂けますか?明日また改めてお伺いさせていただきます」


私は踵を返し部屋をあとにした。

次の日も私はリーストファー様の部屋に来た。一段と荒れた部屋の中。


「今日もお部屋は賑やかですのね」

「出てけ、お前の顔なんか見たくない」


このやり取りを1ヶ月続け、私も流石に堪忍袋の緒が切れた。こんな所で立ち止まっている時間はない。早く婚姻式を挙げて領地へ向かわないといけない。


「出てけ!」


部屋に入るといきなり枕が投げられた。それでも私には当たらず私の前に落ちた。


「いい加減にして下さい」


私は枕を手に取りリーストファー様のもとへ歩いて行った。


「リーストファー様いい加減にして下さい。貴方は私よりも10歳も年上なんですよ。それなのに貴方は駄々をこねる子供ですか?

妻にと望んだのは貴方。他人当然の私達に必要なのは会話です。今の貴方では会話にもならない」


私は部屋に散らばる本を拾い机の上に置いた。


「こんな荒れた部屋で過ごし続ければ心は荒れていく一方。貴方は副隊長でしょう」


私はリーストファー様に微笑んだ。



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