魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結】

一色孝太郎

文字の大きさ
上 下
130 / 182

第130話 包囲

しおりを挟む
 砦内を駆け抜け、北門に到着した私たちを待っていたのは想定とは違う光景だった。

 門は固く閉ざされ、砦をぐるりと囲う壁の上からは兵士たちが外に向かって魔法を撃って応戦していた。

 どうしようかと途方に暮れていると、私に気付いた兵士の一人が私に声をかけてきた。

「ホリー先生、こんなところにいてはいけません! すでにこの砦は包囲されています。どうか指令所にある安全な地下シェルターにお逃げください」
「え? でも……」

 怪我人の手当ができるのではないか?

 そう考えたのだが、マクシミリアンさんに止められてしまった。

「姫様! ここは言うとおりになさってください」
「あ……」
「ホリー、俺が背負う」
「……うん」

 私はニール兄さんに背負われ、来た道を引き返すことになったのだった。

◆◇◆

 ニール兄さんにおんぶされ、ものすごい速さで砦の中を走っていると南側で大きな爆発が何度も発生する。

「ねえ、ニール兄さん。私、病院に戻りたい。あれだけ戦闘が起きてるってことは、怪我人がたくさん出るってことでしょ?」
「それはそうだが、敵の狙いはホリー、お前なんだぞ?」
「でも地下シェルターに隠れていたって、負けたら結局捕まるでしょ? それなら私は私にできることをしたいの」
「……そうか。そうだよな。分かった」

 こうして私たちは指令所ではなく病院へと向かって進み始める。

 だが私たちの進む先ですさまじい爆発が起きた。土煙がもうもうと上がり、誰かが宙を舞っているのが目に入る。

 しかもその人はボロボロの建物に激突し、その拍子に崩れた瓦礫の山に埋もれてしまったではないか!

「ニール兄さん! あそこに! 人が!」
「……ああ、分かってる。マクシミリアン師匠、ホリーをお願いします。俺、瓦礫をどけます」
「うむ。さあ、姫様」

 ニール兄さんの背中から降りた私の前でマクシミリアンさんがしゃがんだ。私を背負っていくと言っているのだろうが、それは得策だとは思わない。

「大丈夫です。私、自分で走ります。マクシミリアンさんはいざというときに身体強化を使えるように魔力を温存してください」
「かしこまりました」

 マクシミリアンさんは少し残念そうにはしているが、分かってくれて立ち上がる。

 マクシミリアンさんは人族なので魔力が少ない。だからニール兄さんとは違い、身体強化をずっと使い続けることはできないのだ。

 私たちが瓦礫の山に近づくと、なんと瓦礫の山がはじけ飛んだ。そして中からなんと全身血まみれのショーズィさんが立ち上がったではないか!

「宮間ァァァァァァァ!」
「やれやれ、滝川くんもしぶといね」

 ショーズィさんが叫びながら睨んだその先には黒髪の戦士が立っていた。しかもその手にはあのときショーズィさんが持っていたものとよく似た剣が握られている。

 もしかして……!

「ま、クラスメイトを殺さずに済んだと思えば……ん?」

 黒髪の戦士は駆け寄ってくる私たちに気付いてこちらを見ると、ニタリと笑った。

「ああ、なるほど。君が魔族に騙されている聖女の子だね。教皇様から聞いてるよ。さあ、一緒に帰ろうか。あれ? どうして人族がいるの? まあいいや。とりあえずそこの魔族を――」
「宮間ぁ! やめろぉ!」

 ショーズィさんが血まみれになりながらもミヤマーという名前らしい黒髪の戦士に斬りかかる。

 しかしミヤマーはショーズィさんの剣を簡単に防ぐと、そのショーズィさんのお腹にオレンジ色の球をぶつけて爆発させた。

 ショーズィさんは吹っ飛び、地面に転がった。

「ショーズィさん!」

 私は慌てて駆け寄ってその怪我の具合を確認した。

 全身の切り傷と擦り傷があり、打撲に火傷までしている。骨折もあるかもしれないが、これなら致命傷ではないので中治癒の奇跡で治せる。

 私が奇跡を使おうとすると、ミヤマーがいつの間にか私たちからほんの数メートルの距離にまで近づいて来ていた。

「さて、聖女の子は連れて帰るとして、一応滝川くんも連れて帰ればいいのかな」
「やめろ!」
「邪魔」

 止めに入ろうとしたニール兄さんに対してミヤマーは面倒くさそうに剣を振った。

 私にはその剣の動きは全く見えなかったが、金属音とともにニール兄さんは大きく吹き飛ばされる。

「あれ? なんだ? 今の感触? まあ、いいや」

 ミヤマーが吹き飛ばされたニール兄さんに手のひらを向けると、マクシミリアンさんが剣を抜いて立ちはだかる。

「何? おじいさんも魔族の味方をするの?」
「ワシは魔族の味方ではない。姫様にお仕えしているのじゃ!」
「姫様? ああ、あのなんだかよく分からない昔話?」

 マクシミリアンさんが時間を稼いでくれている間に私は急いで中治癒の奇跡を発動した。

「え? それが奇跡? 神に祈りも捧げてないし、僕の知ってるのとは違うなぁ」

 ミヤマーは余裕からだろうか? 私がショーズィさんを治療しているのに気付いているにもかかわらず、止める素振りすら見せない。

 その間にもショーズィさんはみるみるうちに回復し、傷一つない状態になった。

「もう大丈夫ですよ」
「ホリーさん……」
「ふーん。なるほどね。そうやって治療されて、人間を裏切ったんだ」
「違う! 聖導教会が俺に呪いをかけて利用しようとしていたんだ! 宮間! 目を覚ませ!」
「結局その話? 勝てないからって見苦しいよね。そんな姿を見たらクラスのきゃあきゃあ言ってた女子はどう思うんだろうねぇ」
「なっ!? お前、一体何を……?」
「まあ、僕は魔族を滅ぼしてクラウディアを守る。それだけだから」

 ミヤマーはどこかぼうっとしたような目でそう言ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

(完)聖女様は頑張らない

青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。 それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。 私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!! もう全力でこの国の為になんか働くもんか! 異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...