魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結】

一色孝太郎

文字の大きさ
上 下
131 / 182

第131話 絶望

しおりを挟む
 ミヤマーの姿が突然消え、激しい金属音が鳴った。

 いつの間にかショーズィさんとミヤマーが剣をぶつけていて、ものすごい速さで移動しながら次々と剣をぶつけ合っている。

「姫様! 今のうちのニール殿を」
「はい!」

 私は吹っ飛ばされたニール兄さんのもとへと駆け寄り、怪我の状態を確認した。するとなんと左腕の義手に剣でつけられたと思しき大きな傷があり、さらに地面に叩きつけられたときにできたと思しき無数の傷がある。

 息はあるが意識はない。

 首の骨は大丈夫そうだが……あ! これは頭を打っている。

 私はすぐさま大治癒の奇跡を発動した。激しい金属音が鳴り響く中、ニール兄さんの体が金色の光に包まれる。

「う……」

 ニール兄さんが小さなうめき声を上げたところで治療が完了した。とはいえ失神している人を治療したところですぐに意識が戻るというものではない。

 運よくすぐに目覚めてくれればいいが、そうでない場合はベッドに寝かしておくほうが望ましい。

「あの、マクシミリアンさん。ニール兄さんを病室まで運びたいんですけど……」
「うむ。姫様では難しいでしょう。ワシにお任せくだされ」

 マクシミリアンさんはそう言って気絶したニール兄さんの上体を起こすとニール兄さんの腕を自分の肩にかけるようにして立ち上がらせる。

 そのまま器用に体を入れて背負おうとした瞬間だった。

 私たちの近くにオレンジ色の球が着弾し、小さな爆発が起きる。

「いけない人だな。魔族を逃がそうだなんて」

 ミヤマーが笑いながらそんなことを言ってきた。

 その言葉に私の背筋を悪寒が駆け抜ける。

「どうして! どうして魔族をそんなに嫌うんですか!」
「どうして? 魔族は滅ぼさなきゃいけない相手だからだよ。君も聖女なら分かるはずだよ。魔族を滅ぼせば世界は平和になるんだ」
「何を言ってるんですか! 争いの原因は聖導教会じゃないですか!」

 するとミヤマーは不思議そうに首をかしげる。

「魔族がいるからいけないんじゃないか。魔族がいなければ争いなんて起きないだろう?」
「は?」

 あまりにも酷い発言だが、ミヤマーはそのことを心の底から信じている様子だ。

「ねえ! 滝川くん!」

 ミヤマーはそう言って斬り合っていたショーズィさんのお腹に再びオレンジ色の球をぶつけ、吹き飛ばした。

 さらに吹き飛んだ先にまるで瞬間移動でもするかのように回り込むとショーズィさんを蹴り飛ばす。

 ショーズィさんの体は地面をゴロゴロと転がり、私たちの前まで飛ばされてきた。

「く、くそっ」

 ショーズィさんは血を流しながらもなんとか立ち上がろうとしているが、うまくいっていない。

 どうやらもうそんな力は残されていないようだ。

 するとミヤマーは意外なことを言ってきた。

「ほら、早く治療しないと」
「え?」
「治療するんでしょ?」

 ミヤマーは、一体何を言っているのだろうか?

「ほら、死んじゃうよ?」
「……はい」

 私はショーズィさんの怪我の状態を確認する。

 蹴られたところは大したことなさそうだ、お腹に爆発を受けたときの傷がかなり大きい。

 私は大治癒の奇跡を発動し、ショーズィさんの怪我を治療した。

「ありがとう」

 ショーズィさんはそう言ってまた立ち上がった。

「何度やっても結果は同じだと思うけれど、その前にまずは魔族を殺さないとね」

 そう言うとミヤマーは直径一メートルほどの大きなオレンジ色の球を出現させると、なんと建物に向かって無造作に放った。

 その建物はその爆発で吹き飛び、瓦礫の山と化した。

「さて、どれくらいの魔族を殺せたかな? たくさん殺せていればいいんだけど……」

 そう言い放つミヤマーの目からはある種の狂気を感じ、再び私の背筋に悪寒が走る。

「ホリーさん、あいつの呪いを解けませんか?」

 ショーズィさんがそう言ってくるが、あのときのショーズィさんとは明らかに様子が違う。

 聖域の奇跡でどうにかできる状態ではない気もするが、それしか手が無いのかもしれない。

「ねえ、それよりそこのおじいさん。その魔族のトドメを刺すからどいてほしいんだけど」
「なっ!? お主、一体何を言っているのじゃ?」
「何って、魔族を殺すって言ってるんだけど?」
「剣を持たず、傷ついた戦士を殺すというのか? 恥を知れ! 恥を!」
「え? 魔族なのに? 魔族は滅ぼさないと」

 ミヤマーは真顔でそんなことを言ってきた。

 どうやらミヤマーの中では人族と魔族が厳密に区別されているらしく、魔族はそれこそ害虫のような扱いようだ。

「やめてください。ニール兄さんは私の幼馴染で、兄のような存在です」

 私は覚悟を決め、ミヤマーの前に立った。

「魔族が兄? やっぱり魔族に騙されておかしくなっちゃってるんだね」
「おかしいのはあなたです。魔族だって人族だって、みんな生きているんです。言葉を交わせば分かり合えて、仲良く暮らしていくことだってできるんです」
「君は聖女だからね。魔族にとって利用価値があるから、そうやって騙してるんだよ。でもさ? 魔族を滅ぼせば世界は平和になるんだ。だったら滅ぼしたほうがいいに決まってるでしょ?」
「滅ぼされた魔族はどうなるんですか? それに人族は人族同士で争い、私の両親を殺したそうじゃないですか」
「滅ぶべきなんだから、滅べばいいんじゃない? それに君の両親が殺されたって本当に? 君を騙すためにそう言っているだけじゃないの?」
「姫様を愚弄するとは! ソフィア陛下が! レックス殿下が! 一体どれほど姫様との時間を楽しみにしておられたか!」
「おじいさんがそう考えるならそうなんじゃない? おじいさんの中ではさ。ま、仮にそうだったとしても魔族が滅ぶべきということには変わらないけど」

 ダメだ。全く話が通じない。

「ホリーさん、聖域の奇跡を!」
「はい!」

 私はすぐさま聖域の奇跡を発動した。

「うっ……」

 ミヤマーは一瞬たじろいだ。だがショーズィさんのときのようなことにはならない。

「ふう。それで? 何かをしたみたいだけど、僕の考えは変わらないよ。魔族を倒し、クラウディアを守る。それだけだから」

 ミヤマーは狂気を宿した瞳ではっきりとそう言い切ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

(完)聖女様は頑張らない

青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。 それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。 私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!! もう全力でこの国の為になんか働くもんか! 異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

処理中です...