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第46話 Side. サラ(6)
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乱闘が始まり、数時間が経過した広場は惨憺たる有り様となっていた。大勢の男たちが血を流して倒れており、さらに今もなお乱闘が継続しているのだ。
「くそっ! 俺たちは無実の神官様をお助けするんだ!」
「そうだ! 実力行使だ! 神に逆らう不届き者を処罰しろ!」
「そうだそうだ!」
「させるか!」
「聖女様に無礼を働いた奴を許すわけにはいかねぇ!」
「処刑だー!」
「ふざけるな! 神官様は無実だって評議会議員が言ってたぞ!」
「じゃあなんで牢屋に入ってんだ!」
「だから冤罪だって言ってんだろうが! いい加減解れ!」
「冤罪なわけあるか! 聖女様はぐあっ!?」
「おい! 刺されたぞ! おい! 大丈夫か!?
「お前! 何やってんだ!」
「うるせぇ! 言って分からねぇならこうするしかねぇだろ!」
「なんだと!? もう許さねぇ。お前ら! 武器を持ってこい!」
「おい! こっちもだ! 負けるな!」
こうしてついには武器を用いた流血沙汰が起き、大規模な武力衝突にまで発展していく。
一方、そんな騒ぎが起きているとは夢にも思っていないダニエラは、町長公邸の執務室で必死に考えていた。
「聖女様に残っていただくには、やはり町の者たちがどれほど聖女様を歓迎しているかをお示しする必要があるはず。やっぱり盛大な歓迎式典? それとも豪華な晩餐? でも、あれほどの美貌をお持ちのお方にご満足いただけるかしら?」
ダニエラは眉間に皺を寄せながらブツブツと独り言を呟くが、すぐに首を横に振った。
「ダメだわ。うちの町は貧しいし、もう女が二人しか残ってない限界集落だもの。きっとそういう物質的なところじゃ勝ち目がないわ。だったらせめて真心だけは示して、クラインボフトも悪くないって思ってもらわなきゃ。うん、それしかないわ」
ダニエラはベルを鳴らす。するとすぐに執事の男が入ってきた。
「失礼します。お呼びでしょうか?」
「ええ。緊急で臨時評議会を招集するわ」
「え? ですがホルスト様は現在収監されております。評議会は全員出席が慣例では……」
「議員が一人いなくても開催できるでしょう? 聖女様に関する話よ。今すぐ! 全員を招集なさい!」
「かしこまりました」
執事は一礼すると、足早に退室していくのだった。
◆◇◆
それから一時間ほどが経った。
執務室で評議会開催の連絡を待っているダニエラは、しびれを切らしたのか再びベルを鳴らした。
だが普段であればすぐにやってくるはずの執事が入ってこない。
ダニエラはなんどもベルを鳴らし、ようやく執事がやってきた。かなり急いで来たようで、額に汗をかき、肩で大きく息をしている。
「どういうこと? なんでまだ評議会が開催されないの? 聖女様に関する緊急の話って言ったわよね!?」
「はぁはぁはぁ。はい、そのようにお伝えしているのですが……」
「じゃあなんで!」
「半数の評議会議員の方は出席を拒否され、残る方々とは連絡が取れません」
「はぁ!? どういうこと!?」
「まだ詳しくは把握できていないのですが、どうやら一部の民衆が暴徒化したようでして……」
「え? 何それ? 暴動が起きたってこと?」
「いえ、住民同士が二つのグループに分かれて争っているようです」
「え? じゃあ男同士の喧嘩?」
「いえ、そんな規模ではないようです」
「どういうこと?」
「申し訳ございません。まだ状況が把握できておりません。ただ、出席を拒否された評議会議員の方々が事態の収拾に当たっているそうでして、いつもどおり任せてほしいとのことでした」
「いつもどおり……そうね……」
「では、臨時評議会のご招集は取りやめる、ということでよろし――」
「よろしいわけないでしょう!」
ダニエラは怒りを爆発させた。
「警備隊に招集を掛けなさい! 聖女様がいらしているこのタイミングで暴れた馬鹿どもを全員逮捕しなさい! 私が直々に出ます!」
「えっ? ですが……」
「何? 文句あるの?」
ダニエラは執事をギロリと睨んだ。その眼力に執事は体を硬くし、小さく息を呑んだ。
「行くわよ」
ダニエアは立ち上がり、警備隊の本部へと向かうのだった。
◆◇◆
ふう。ふう。やっぱりこの体、本当に体力がないわ。
ちょっと町の中をちょっと散歩しただけでこんなに足がくたくたになるだなんて、思わなかったわ。
うーん。やっぱりそこの筋肉ダルマにお姫様抱っこしてもらおうかしら?
筋肉ダルマだけあって、安定感は抜群なのよね。
って、あれ? なんか向こうが騒がしいわね。何かしら?
行ってみましょ。
「っ!? 聖女様! あちらは危険な感じがします!」
「えっ? そぉなんですかぁ?」
「はい。ちょっと見て参りますので、ここでお待ちください」
そう言って地味顔が走って行ったわ。
って、あれ? なんかものすごい顔で戻ってきたけど?
「聖女様! すぐにこの場から離れてください! あちらでは大規模な乱闘が起きています」
「えっ?」
「怪我人も多く、もしかすると聖女様がお怪我をされてしまうかもしれません」
乱闘? ってことはもしかしてチャンスじゃない?
「あのぉ、それってぇ、もしかしてぇ、怪我をぉ、しちゃってる人がぁ、いるんですかぁ?」
あれ? ちょっと、地味顔。その顔、何? 口をあんぐり開けちゃって。
あはは、すごい馬鹿っぽーい。
「聖女様、もしや、怪我人を治療なさろうと?」
「はぁい。だってぇ、怪我をぉ、したらぁ、痛くてぇ、かわいそぉじゃないですかぁ」
「「「せっ、聖女様……」」」
あ、冒険三兄弟の声が揃った。ホントに兄弟みたい。おもしろーい。
「お任せください! 俺たちが命に代えてでも、聖女様をお守りします」
「はぁい。じゃあぁ、行きましょぉ」
地味顔を先頭にして、乱闘の現場に来たんだけど……これ、乱闘ってレベルじゃなくない?
なんでみんな武器なんて持ってるの? しかも、なんで二手に分かれて戦ってるのよ?
っていうか、何人いるのよ!?
大丈夫? 死人、出てない? あっちこっちで血まみれの人が倒れてるし……。
「お前らー! 聞けー!」
わっ! 地味顔、ものすごい声量ね。あたしには無理だわぁ。
「乱闘の理由は知らん! 止めもしない! だが! 聖女様がー! 怪我人をー! 治療してー! くださるとー! 仰っている! 手遅れになる前に! 怪我人をー! こっちに運べえええぇぇぇ!」
あれ? 乱闘が止まったわね。
地味顔、やるじゃん。
でも、怪我人を運んで来てはくれないみたいね。
ま、いきなり言われても信じられないわよね。
じゃあ、そこで血を流してる小汚いおっさんで見せてあげましょうか。あたしの歴代最高の聖女の神聖力を。
さあ、あんたら、ちゃあんと見てなさいよ!
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次回更新は通常どおり、2024/03/21 (木) 18:00 を予定しております。
「くそっ! 俺たちは無実の神官様をお助けするんだ!」
「そうだ! 実力行使だ! 神に逆らう不届き者を処罰しろ!」
「そうだそうだ!」
「させるか!」
「聖女様に無礼を働いた奴を許すわけにはいかねぇ!」
「処刑だー!」
「ふざけるな! 神官様は無実だって評議会議員が言ってたぞ!」
「じゃあなんで牢屋に入ってんだ!」
「だから冤罪だって言ってんだろうが! いい加減解れ!」
「冤罪なわけあるか! 聖女様はぐあっ!?」
「おい! 刺されたぞ! おい! 大丈夫か!?
「お前! 何やってんだ!」
「うるせぇ! 言って分からねぇならこうするしかねぇだろ!」
「なんだと!? もう許さねぇ。お前ら! 武器を持ってこい!」
「おい! こっちもだ! 負けるな!」
こうしてついには武器を用いた流血沙汰が起き、大規模な武力衝突にまで発展していく。
一方、そんな騒ぎが起きているとは夢にも思っていないダニエラは、町長公邸の執務室で必死に考えていた。
「聖女様に残っていただくには、やはり町の者たちがどれほど聖女様を歓迎しているかをお示しする必要があるはず。やっぱり盛大な歓迎式典? それとも豪華な晩餐? でも、あれほどの美貌をお持ちのお方にご満足いただけるかしら?」
ダニエラは眉間に皺を寄せながらブツブツと独り言を呟くが、すぐに首を横に振った。
「ダメだわ。うちの町は貧しいし、もう女が二人しか残ってない限界集落だもの。きっとそういう物質的なところじゃ勝ち目がないわ。だったらせめて真心だけは示して、クラインボフトも悪くないって思ってもらわなきゃ。うん、それしかないわ」
ダニエラはベルを鳴らす。するとすぐに執事の男が入ってきた。
「失礼します。お呼びでしょうか?」
「ええ。緊急で臨時評議会を招集するわ」
「え? ですがホルスト様は現在収監されております。評議会は全員出席が慣例では……」
「議員が一人いなくても開催できるでしょう? 聖女様に関する話よ。今すぐ! 全員を招集なさい!」
「かしこまりました」
執事は一礼すると、足早に退室していくのだった。
◆◇◆
それから一時間ほどが経った。
執務室で評議会開催の連絡を待っているダニエラは、しびれを切らしたのか再びベルを鳴らした。
だが普段であればすぐにやってくるはずの執事が入ってこない。
ダニエラはなんどもベルを鳴らし、ようやく執事がやってきた。かなり急いで来たようで、額に汗をかき、肩で大きく息をしている。
「どういうこと? なんでまだ評議会が開催されないの? 聖女様に関する緊急の話って言ったわよね!?」
「はぁはぁはぁ。はい、そのようにお伝えしているのですが……」
「じゃあなんで!」
「半数の評議会議員の方は出席を拒否され、残る方々とは連絡が取れません」
「はぁ!? どういうこと!?」
「まだ詳しくは把握できていないのですが、どうやら一部の民衆が暴徒化したようでして……」
「え? 何それ? 暴動が起きたってこと?」
「いえ、住民同士が二つのグループに分かれて争っているようです」
「え? じゃあ男同士の喧嘩?」
「いえ、そんな規模ではないようです」
「どういうこと?」
「申し訳ございません。まだ状況が把握できておりません。ただ、出席を拒否された評議会議員の方々が事態の収拾に当たっているそうでして、いつもどおり任せてほしいとのことでした」
「いつもどおり……そうね……」
「では、臨時評議会のご招集は取りやめる、ということでよろし――」
「よろしいわけないでしょう!」
ダニエラは怒りを爆発させた。
「警備隊に招集を掛けなさい! 聖女様がいらしているこのタイミングで暴れた馬鹿どもを全員逮捕しなさい! 私が直々に出ます!」
「えっ? ですが……」
「何? 文句あるの?」
ダニエラは執事をギロリと睨んだ。その眼力に執事は体を硬くし、小さく息を呑んだ。
「行くわよ」
ダニエアは立ち上がり、警備隊の本部へと向かうのだった。
◆◇◆
ふう。ふう。やっぱりこの体、本当に体力がないわ。
ちょっと町の中をちょっと散歩しただけでこんなに足がくたくたになるだなんて、思わなかったわ。
うーん。やっぱりそこの筋肉ダルマにお姫様抱っこしてもらおうかしら?
筋肉ダルマだけあって、安定感は抜群なのよね。
って、あれ? なんか向こうが騒がしいわね。何かしら?
行ってみましょ。
「っ!? 聖女様! あちらは危険な感じがします!」
「えっ? そぉなんですかぁ?」
「はい。ちょっと見て参りますので、ここでお待ちください」
そう言って地味顔が走って行ったわ。
って、あれ? なんかものすごい顔で戻ってきたけど?
「聖女様! すぐにこの場から離れてください! あちらでは大規模な乱闘が起きています」
「えっ?」
「怪我人も多く、もしかすると聖女様がお怪我をされてしまうかもしれません」
乱闘? ってことはもしかしてチャンスじゃない?
「あのぉ、それってぇ、もしかしてぇ、怪我をぉ、しちゃってる人がぁ、いるんですかぁ?」
あれ? ちょっと、地味顔。その顔、何? 口をあんぐり開けちゃって。
あはは、すごい馬鹿っぽーい。
「聖女様、もしや、怪我人を治療なさろうと?」
「はぁい。だってぇ、怪我をぉ、したらぁ、痛くてぇ、かわいそぉじゃないですかぁ」
「「「せっ、聖女様……」」」
あ、冒険三兄弟の声が揃った。ホントに兄弟みたい。おもしろーい。
「お任せください! 俺たちが命に代えてでも、聖女様をお守りします」
「はぁい。じゃあぁ、行きましょぉ」
地味顔を先頭にして、乱闘の現場に来たんだけど……これ、乱闘ってレベルじゃなくない?
なんでみんな武器なんて持ってるの? しかも、なんで二手に分かれて戦ってるのよ?
っていうか、何人いるのよ!?
大丈夫? 死人、出てない? あっちこっちで血まみれの人が倒れてるし……。
「お前らー! 聞けー!」
わっ! 地味顔、ものすごい声量ね。あたしには無理だわぁ。
「乱闘の理由は知らん! 止めもしない! だが! 聖女様がー! 怪我人をー! 治療してー! くださるとー! 仰っている! 手遅れになる前に! 怪我人をー! こっちに運べえええぇぇぇ!」
あれ? 乱闘が止まったわね。
地味顔、やるじゃん。
でも、怪我人を運んで来てはくれないみたいね。
ま、いきなり言われても信じられないわよね。
じゃあ、そこで血を流してる小汚いおっさんで見せてあげましょうか。あたしの歴代最高の聖女の神聖力を。
さあ、あんたら、ちゃあんと見てなさいよ!
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次回更新は通常どおり、2024/03/21 (木) 18:00 を予定しております。
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