陽だまりキッチン、ときどき無双~クラス転移したけどかわいい幼馴染とのんびり異世界を観光します~

一色孝太郎

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第38話 聖女からの餞別

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 入口の近くで立って待っていると、扉が開かれて聖女様が入ってきた。

 俺は片膝を付いて、陽菜はカーテシーをしてそれを迎える。陽菜はカーテシーも上達していて、ハイヒールだというのに綺麗な姿勢を保ち続けている。

「二人とも楽にするが良いぞえ。さあ、掛けるのじゃ」

 俺たちは聖女様に許可され、ソファーに着席した。

「さて、妾も疲れておる故、用件のみ先に話そう。ヒーナよ。よくやった」

 お? 俺が留守にしている間に陽菜が何かやったのか?

「今回の魔窟攻略、そなたの彼氏の力が無ければまだ完了していなかったとの報告を受けておる」

 おっと……そういえばこの世界、そういう世界だっけ。

「聖女様にそのように仰っていただき、光栄の至りでございます。わたくしも、わたくしの祥太も、聖女様とサン=アニエシアのお役に立てたこと、心より嬉しく思っております」

 すごい。陽菜が堂々と受け答えをしている。きっと俺が魔窟にいる間、ものすごい努力してたんだろうな。

 そう考えると、やっぱり俺なんてまだまだだ。さっきだってエスコートのやり方が頭から飛んじゃったし。

 俺、魔窟で料理をしていただけで、大して成長できていないな。

 はぁ。もっと成長して、早く陽菜の隣に立っても恥ずかしくない男にならないと!

「左様か。うむ、感心なことじゃ」

 聖女様は満足げにうなずく。

「ではヒーナよ。そなたの功績を讃え、褒美を取らせよう」

 聖女様が小さく手振りで指示をすると、後ろに控えていた執事の人がお盆に載せて運んでいた袋を目の前のテーブルに置いた。

「褒美として大金貨百枚を取らせる」
「ありがとう存じます」
「ときにヒーナよ。そなたたちは神の試練を乗り越えるために旅をしておるのじゃったな?」
「はい」
「そこで餞別せんべつとして、そなたたちに馬車を授けよう。馬車工房アルバン・エ・フロランを訪ねるが良い」
「ありがとう存じます」
「うむ」

 聖女様は短くそう言ってすぐに立ち上がった。俺たちも見送るために立ち上がる。

「では、達者でのう」

 聖女様はそう言い残し、そのまま応接室を出ていった。俺たちはその後ろ姿が見えなくなるまで、立ったまま見送りを続けるのだった。

◆◇◆

 宮殿内の俺たちの部屋に戻ってきた。執事さんが同行してくれ、聖女様からもらった報奨金を部屋まで運んでくれている。

「こちらに置かせていただきますね」
「ありがとうございます」
「いえ、職責を果たしたまでです」

 執事の人は優雅に一礼してきた。そして陽菜に向き直り、再び一礼する。それを見た陽菜は小さく微笑んだ。

「ヒーナ様、おそれながら聖女様より命令書をお預かりしております。聖女様に代わりまして、このわたくしめが代読させていただきます」

 執事さんは懐から紙を取り出し、見えるように広げた。

「ヒーナ・ヨゥツバーに命じる。アニエシア歴百年七月二十日午後二つ目の鐘が鳴る時をもって、ショータ・アジーサワーと共に宮殿から退去せよ。その際、使用済みの貸与品をすべて処分すること。以上。アニエシア歴百年七月十九日、聖女アニエス」

 執事さんは命令書を陽菜に手渡した。

 ……魔窟攻略が終わって陽菜の軟禁は解かれたけど、裏を返せば宮殿に住まわせる理由が無くなったってことだもんな。

 あ! そうか! 聖女様のあの言葉って……!

「陽菜……」
「うん。ちょっと寂しいね……」
「おやおや、そんな顔をなさいますな。どうやら聖女様はヒーナ様を殊の外お気に召されたようです」
「えっ? どういうことですか?」
「実は、こちらの部屋をそのままお貸しすることも可能なのです」
「そうなんですか?」
「はい。ですが無料でお貸しする理由がありませんので、賃料をいただくことになってしまいます。ですが彼氏様お一人しかお傍に置かれていないヒーナ様に、一日大金貨一枚の賃料をずっとご負担いただくことは難しいでしょう」
「え? だ、大金貨一枚!?」
「はい。ですから、神殿の宿泊所にお戻りいただいたほうがヒーナ様のためである、との聖女様のご配慮にございます」
「……そうですね。ありがとうございます」
「いえいえ。あとは処分いただく貸与品ですが……」
「あ、そうです。それってどういうことですか? あたしたち、何をすればいいんですか?」
「ははは、そのように難しくお考えにならないでください。要するに、聖女様はヒーナ様と彼氏様にお貸しした服の中から、どれでも好きなものを持って行って良いと仰っているのです」
「えっ!?」
「特にヒーナ様は元々ドレスをお持ちでなかったと伺っております。ドレスをお持ちでないと、今後は色々とご苦労なさるでしょう。ですから、そちらの衣装室内にあるものはどうぞご自由にお持ちください」
「え? でもさすがにそこまでしてもらうのは……」
「よろしいのですか? 女性用のドレスはどんなに安くとも大金貨五枚はかかりますよ?」
「そ、そんなに……」
「ですから、遠慮なくお持ちください。そもそもお貸ししたドレスはどれも古いものですし、ヒーナ様の体型に合わせてお直しをしたものは他の女性の体型には合いません。となるとどのみち廃棄処分するしかなくなってしまいます」
「でも……」
「でしたら聖女様のご命令どおり、一度ご着用なさったものはすべて処分をお願い致します。お持ちになっていただけない場合、処分費用をお支払いいただくことになりますがよろしいでしょうか?」
「……わかりました。ありがとうございます」

 そこまで言われてはもう引き下がるしかない。聖女様のご厚意をありがたく受け取るべきだ。

 陽菜は申し訳なさそうにしつつも、執事さんにお礼を言うのだった。

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 次回更新は通常どおり、2024/03/13 (水) 18:00 を予定しております。
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