588 / 625
聖女の旅路
第十三章第15話 セラポン・チキンライス
しおりを挟む
「お待たせいたしました。セラポン名物のチキンライスでございます」
そう言って差し出されたお皿には白いごはんと茹でた鶏肉、パクチーが盛り付けられている。
「鶏肉はそのまま召し上がることもできますし、こちらのスイートチリソースを付けてお召し上がりいただくこともできます」
なるほど。途中で味の変化を楽しめるというのはいいね。
「こちら、鶏のスープでございます」
白い小さなお椀に入れられたスープはわずかに白く濁っている。白湯スープだろうか?
ウェイトレスさんがテーブルを囲む私たちの前に次々と並べていってくれるのだが、ルーちゃんの分が出てこない。
ええと、これは一体?
不思議に思い、奥のほうを見た私は自分の目を疑った。
なんと、コックさんの格好をしている男性が二人で巨大な皿を落とさないように運んでいるのだ。しかもお皿のうえにはまるで漫画のような山盛りの白いごはんが見える。
「ええと……」
「お待たせいたしました。特盛のチキンライスでございます」
「わ! やったぁ!」
ルーちゃんは目を輝かせているが、本当に食べきれるのだろうか?
あれ、どう見てもミサキで食べたまんぷく定食よりも量が多いのだが……。
「ルミア様は大変な健啖家でらっしゃるとお聞きしましたので、特盛をご用意させていただきました。どうぞお召し上がりください」
「ありがとうございますっ!」
ルーちゃんはさっそくチキンライスにかぶりついていた。
ううん。毎度思うが、あの細い体のどこにあれだけの量が入るのだろうか?
親が親なので遺伝なのだとは思うけれど……。
「ささ、聖女様もどうぞお召し上がりください。聖女様は小食でいらっしゃると伺っておりますので、量は少なめとさせていただきました。足りなかった場合はお代わりできますので、お気軽にお申し付けください」
「あ、はい。ありがとうございます。それじゃあ、いただきます」
バラプトゥラさんに促され、私はまずスープを一口いただいた。
うん。これは優しい味だね。だが鶏ガラだけでなくお肉の出汁もしっかりと出ており、ショウガを使っているからか臭みもまったくない。それに薄塩なところもまたポイントが高い。こういった味だとごはんとも合うだろうし、鶏肉と合わせてもいいだろう。
よし、続いてごはんをいただこう。
……お、これは長米種だ。ちょっとパラパラしている独特な感じの食感に少し驚いたが、それよりももっと驚いたのはその味だ。なんとこのごはん、しっかり出汁が染み込んでいるのだ。
そうか! このお米はこのスープを使って炊いたのか!
いやはや、これは素晴らしいね。
ということはこのごはんと鶏肉を一緒に食べれば……うん! やっぱり! 相性は抜群だ。
鶏肉は冷製になっており、脂分がゼラチン状になっている。そのおかげでしっとりとした鶏肉の歯ごたえとゼラチンの歯ごたえの差が口を楽しませてくれる。もちろん噛めばじゅわりに肉汁が溢れ、一緒に口に含んだごはんに更なる鶏肉成分を追加してくれるのだ。
もちろんこの鶏肉にも臭みはまったくなく、わずかに香るショウガの香りが爽やかな後味を残してくれる。
よし、では次はスイートチリソースを付けてみよう。
うんうん、なるほど。これもいいね。スイートチリソースの甘味とほんのわずかな辛さが加わり、味が引き締まった感じがしてくれる。いや、だがちょっとスイートチリソースの投入は早すぎたかもしれない。この感じだともう一切れ何もつけずに食べてからのほうが味の変化を楽しめたような気がする。
だが、もう食べてしまったものは仕方ない。私はスープを飲んで口の中をスッキリさせると、再び何もつけずに鶏肉をいただいた。
うん。やっぱり美味しい。本当に美味しいお肉は最低限の味付けでも美味しいということがよく分かる。
続いて私はパクチーをいただく。すっとした独特の香りが鼻から抜けたので、すかさず鶏肉を口に運んだ。
うん。こういう食べ方もいいね。
いやはや、ワンプレートなのにこれほど様々な味を楽しませてくれるとは、セラポンの料理は侮れない。
それから私は夢中で食べ、気が付けば完食していたのだった。量を少なくしてくれたと言っていたが、たしかな満腹感がある。
「バラプトゥラさん、とても美味しかったです」
「お気に召していただき、大変光栄でございます。量は十分でしたかな?」
「はい。もうお腹いっぱいです」
「それはそれは……」
バラプトゥラさんが嬉しそうにそう言った瞬間、信じられない声が聞こえてきた。
「おかわりっ!」
「「えっ!?」」
私とバラプトゥラさんは同時に声を上げ、ルーちゃんのほうを振り向いた。するとあれほど山盛りだったチキンライスはすっかりルーちゃんの胃袋の中に収まっており、ルーちゃんはキラキラと期待のまなざしを厨房に向けていたのだった。
そう言って差し出されたお皿には白いごはんと茹でた鶏肉、パクチーが盛り付けられている。
「鶏肉はそのまま召し上がることもできますし、こちらのスイートチリソースを付けてお召し上がりいただくこともできます」
なるほど。途中で味の変化を楽しめるというのはいいね。
「こちら、鶏のスープでございます」
白い小さなお椀に入れられたスープはわずかに白く濁っている。白湯スープだろうか?
ウェイトレスさんがテーブルを囲む私たちの前に次々と並べていってくれるのだが、ルーちゃんの分が出てこない。
ええと、これは一体?
不思議に思い、奥のほうを見た私は自分の目を疑った。
なんと、コックさんの格好をしている男性が二人で巨大な皿を落とさないように運んでいるのだ。しかもお皿のうえにはまるで漫画のような山盛りの白いごはんが見える。
「ええと……」
「お待たせいたしました。特盛のチキンライスでございます」
「わ! やったぁ!」
ルーちゃんは目を輝かせているが、本当に食べきれるのだろうか?
あれ、どう見てもミサキで食べたまんぷく定食よりも量が多いのだが……。
「ルミア様は大変な健啖家でらっしゃるとお聞きしましたので、特盛をご用意させていただきました。どうぞお召し上がりください」
「ありがとうございますっ!」
ルーちゃんはさっそくチキンライスにかぶりついていた。
ううん。毎度思うが、あの細い体のどこにあれだけの量が入るのだろうか?
親が親なので遺伝なのだとは思うけれど……。
「ささ、聖女様もどうぞお召し上がりください。聖女様は小食でいらっしゃると伺っておりますので、量は少なめとさせていただきました。足りなかった場合はお代わりできますので、お気軽にお申し付けください」
「あ、はい。ありがとうございます。それじゃあ、いただきます」
バラプトゥラさんに促され、私はまずスープを一口いただいた。
うん。これは優しい味だね。だが鶏ガラだけでなくお肉の出汁もしっかりと出ており、ショウガを使っているからか臭みもまったくない。それに薄塩なところもまたポイントが高い。こういった味だとごはんとも合うだろうし、鶏肉と合わせてもいいだろう。
よし、続いてごはんをいただこう。
……お、これは長米種だ。ちょっとパラパラしている独特な感じの食感に少し驚いたが、それよりももっと驚いたのはその味だ。なんとこのごはん、しっかり出汁が染み込んでいるのだ。
そうか! このお米はこのスープを使って炊いたのか!
いやはや、これは素晴らしいね。
ということはこのごはんと鶏肉を一緒に食べれば……うん! やっぱり! 相性は抜群だ。
鶏肉は冷製になっており、脂分がゼラチン状になっている。そのおかげでしっとりとした鶏肉の歯ごたえとゼラチンの歯ごたえの差が口を楽しませてくれる。もちろん噛めばじゅわりに肉汁が溢れ、一緒に口に含んだごはんに更なる鶏肉成分を追加してくれるのだ。
もちろんこの鶏肉にも臭みはまったくなく、わずかに香るショウガの香りが爽やかな後味を残してくれる。
よし、では次はスイートチリソースを付けてみよう。
うんうん、なるほど。これもいいね。スイートチリソースの甘味とほんのわずかな辛さが加わり、味が引き締まった感じがしてくれる。いや、だがちょっとスイートチリソースの投入は早すぎたかもしれない。この感じだともう一切れ何もつけずに食べてからのほうが味の変化を楽しめたような気がする。
だが、もう食べてしまったものは仕方ない。私はスープを飲んで口の中をスッキリさせると、再び何もつけずに鶏肉をいただいた。
うん。やっぱり美味しい。本当に美味しいお肉は最低限の味付けでも美味しいということがよく分かる。
続いて私はパクチーをいただく。すっとした独特の香りが鼻から抜けたので、すかさず鶏肉を口に運んだ。
うん。こういう食べ方もいいね。
いやはや、ワンプレートなのにこれほど様々な味を楽しませてくれるとは、セラポンの料理は侮れない。
それから私は夢中で食べ、気が付けば完食していたのだった。量を少なくしてくれたと言っていたが、たしかな満腹感がある。
「バラプトゥラさん、とても美味しかったです」
「お気に召していただき、大変光栄でございます。量は十分でしたかな?」
「はい。もうお腹いっぱいです」
「それはそれは……」
バラプトゥラさんが嬉しそうにそう言った瞬間、信じられない声が聞こえてきた。
「おかわりっ!」
「「えっ!?」」
私とバラプトゥラさんは同時に声を上げ、ルーちゃんのほうを振り向いた。するとあれほど山盛りだったチキンライスはすっかりルーちゃんの胃袋の中に収まっており、ルーちゃんはキラキラと期待のまなざしを厨房に向けていたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる