勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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聖女の旅路

第十三章第15話 セラポン・チキンライス

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「お待たせいたしました。セラポン名物のチキンライスでございます」

 そう言って差し出されたお皿には白いごはんと茹でた鶏肉、パクチーが盛り付けられている。

「鶏肉はそのまま召し上がることもできますし、こちらのスイートチリソースを付けてお召し上がりいただくこともできます」

 なるほど。途中で味の変化を楽しめるというのはいいね。

「こちら、鶏のスープでございます」

 白い小さなお椀に入れられたスープはわずかに白く濁っている。白湯スープだろうか?

 ウェイトレスさんがテーブルを囲む私たちの前に次々と並べていってくれるのだが、ルーちゃんの分が出てこない。

 ええと、これは一体?

 不思議に思い、奥のほうを見た私は自分の目を疑った。

 なんと、コックさんの格好をしている男性が二人で巨大な皿を落とさないように運んでいるのだ。しかもお皿のうえにはまるで漫画のような山盛りの白いごはんが見える。

「ええと……」
「お待たせいたしました。特盛のチキンライスでございます」
「わ! やったぁ!」

 ルーちゃんは目を輝かせているが、本当に食べきれるのだろうか?

 あれ、どう見てもミサキで食べたまんぷく定食よりも量が多いのだが……。

「ルミア様は大変な健啖家でらっしゃるとお聞きしましたので、特盛をご用意させていただきました。どうぞお召し上がりください」
「ありがとうございますっ!」

 ルーちゃんはさっそくチキンライスにかぶりついていた。

 ううん。毎度思うが、あの細い体のどこにあれだけの量が入るのだろうか?

 親が親なので遺伝なのだとは思うけれど……。

「ささ、聖女様もどうぞお召し上がりください。聖女様は小食でいらっしゃると伺っておりますので、量は少なめとさせていただきました。足りなかった場合はお代わりできますので、お気軽にお申し付けください」
「あ、はい。ありがとうございます。それじゃあ、いただきます」

 バラプトゥラさんに促され、私はまずスープを一口いただいた。

 うん。これは優しい味だね。だが鶏ガラだけでなくお肉の出汁もしっかりと出ており、ショウガを使っているからか臭みもまったくない。それに薄塩なところもまたポイントが高い。こういった味だとごはんとも合うだろうし、鶏肉と合わせてもいいだろう。

 よし、続いてごはんをいただこう。

 ……お、これは長米種だ。ちょっとパラパラしている独特な感じの食感に少し驚いたが、それよりももっと驚いたのはその味だ。なんとこのごはん、しっかり出汁が染み込んでいるのだ。

 そうか! このお米はこのスープを使って炊いたのか!

 いやはや、これは素晴らしいね。

 ということはこのごはんと鶏肉を一緒に食べれば……うん! やっぱり! 相性は抜群だ。

 鶏肉は冷製になっており、脂分がゼラチン状になっている。そのおかげでしっとりとした鶏肉の歯ごたえとゼラチンの歯ごたえの差が口を楽しませてくれる。もちろん噛めばじゅわりに肉汁があふれ、一緒に口に含んだごはんに更なる鶏肉成分を追加してくれるのだ。

 もちろんこの鶏肉にも臭みはまったくなく、わずかに香るショウガの香りが爽やかな後味を残してくれる。

 よし、では次はスイートチリソースを付けてみよう。

 うんうん、なるほど。これもいいね。スイートチリソースの甘味とほんのわずかな辛さが加わり、味が引き締まった感じがしてくれる。いや、だがちょっとスイートチリソースの投入は早すぎたかもしれない。この感じだともう一切れ何もつけずに食べてからのほうが味の変化を楽しめたような気がする。

 だが、もう食べてしまったものは仕方ない。私はスープを飲んで口の中をスッキリさせると、再び何もつけずに鶏肉をいただいた。

 うん。やっぱり美味しい。本当に美味しいお肉は最低限の味付けでも美味しいということがよく分かる。

 続いて私はパクチーをいただく。すっとした独特の香りが鼻から抜けたので、すかさず鶏肉を口に運んだ。

 うん。こういう食べ方もいいね。

 いやはや、ワンプレートなのにこれほど様々な味を楽しませてくれるとは、セラポンの料理は侮れない。

 それから私は夢中で食べ、気が付けば完食していたのだった。量を少なくしてくれたと言っていたが、たしかな満腹感がある。

「バラプトゥラさん、とても美味しかったです」
「お気に召していただき、大変光栄でございます。量は十分でしたかな?」
「はい。もうお腹いっぱいです」
「それはそれは……」

 バラプトゥラさんが嬉しそうにそう言った瞬間、信じられない声が聞こえてきた。

「おかわりっ!」
「「えっ!?」」

 私とバラプトゥラさんは同時に声を上げ、ルーちゃんのほうを振り向いた。するとあれほど山盛りだったチキンライスはすっかりルーちゃんの胃袋の中に収まっており、ルーちゃんはキラキラと期待のまなざしを厨房に向けていたのだった。
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