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聖女の旅路

第十三章第14話 船の減った港町

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 ハイディンを出発して四日後、私たちはセラポンという港町に到着した。下船した私たちを一人のしっかりした身なりの男性が出迎えてくれる。

「聖女様、ようこそお越しくださいました。わたくしめはセラポン太守のバラプトゥラと申します」
「フィーネ・アルジェンタータです。わざわざお出迎えいただきありがとうございます」
「ハイディンでのご活躍、チャンドラ殿下よりお伺いしておりますぞ。しかもレッドスカイ帝国に対してゴールデンサン巫国から拉致された人々の返還をお求めだとか」
「そうですね」
「いやはや、さすがは歴代最高の聖属性魔法の使い手と噂されるだけありますな。あのレッドスカイ帝国を相手に一歩も引かないとは。このバラプトゥラ、感服いたしました」

 それからしばらくバラプトゥラさんのあからさまなおべっかが続く。途中で話を遮るのも悪いかと思ってしばらく営業スマイルで聞いていたのだが、一向に終わらなそうなのでたまらず割り込んだ。

「あの、すみません。私たちも長旅でしたので……」
「おお! これは気が利かず申し訳ございません。ちょうど良い時間ですし、港を一望できるレストランにて昼食をご用意しております。どうぞこちらへ」

 うーん、そういう意味ではなかったのだが、別に悪いことをしたわけでもないこの人の誘いを断るのも失礼な気がする。

「分かりました。それではお言葉に甘えて」

 こうして私たちは馬車に乗って移動し、高台にあるレストランへとやってきた。

「いかがでしょう? ここはセラポンでも屈指の風景が楽しめる自慢のレストランですぞ」
「そうなんですね」

 なるほど。たしかに自慢するだけあって席から見える景色は素晴らしい。

 眼下には南国らしい濃い緑の森と赤い屋根瓦の家々、その先には広い港から続く青く美しい穏やかな海が広がっており、空を見上げれば白いもこもことした雲の合間から南国特有の強い日差しが照り付けている。

 そんな素晴らしい景色なのだが、少し気になることがある。それは港がこれほど広いにもかかわらず、停泊している船があまりにも少なく、それこそ、ガラガラという表現がピッタリに思えるほどだ。

 そしてこの港がどれくらい広いかというと、ナンハイと同じくらい、いや、もしかするともっと広いかもしれない。

 港がこれほど広いということは、それだけ多くの船が利用するということだと思うのだが……。

「バラプトゥラさん」
「なんでしょうか? 聖女様」
「とても広くて立派な港ですね」

 とりあえず褒めてみると、バラプトゥラさんは誇らしげな表情を浮かべる。

「ありがとうございます。港はセラポンの始まりであり、誇りでもあるのです。セラポンは港と共に発展して参りました。ですが……」

 バラプトゥラさんの表情が突然暗くなる。

「何かあったのですか?」
「ご覧のとおり、最近は船も出せなくなってしまったのです。昔は昼夜を問わずひっきりなしに船が出入りしていたため不夜港などと呼ばれており、ここからの夜景も自慢だったのですが……」
「どうして船が出せなくなってしまったんですか?」
「魔物のせいでございます。セラポンの西の海域にはたまにイエロープラネット首長国連邦のほうから流れてきたシーサーペントが出現していたのですが、このところその数が急激に増えてしまい、おかげで船がかなり出しづらくなってしまったのです」
「シーサーペントが……」

 なるほど。それは大変なことになりそうだ。

 シーサーペントといえばグリーンクラウド王国からホワイトムーン王国に直接船を出せない原因だったはずだが、急に増えたということは何か理由があるのだろうか?

 少なくともイエロープラネット首長国連邦がまるごと炎龍王に滅ぼされたため、瘴気が発生する量自体は減っているはずだ。

「それともう一つはイエロープラネット首長国連邦の崩壊もございます」
「え?」
「彼の国へと向かうレッドスカイ帝国南部の品物のほとんどがセラポンを経由しておりました。ですがイエロープラネット首長国連邦による需要がなくなり、無人の砂漠地帯を通過するだけになってしまいましたので……」
「ああ、それは……」

 国が一つ、まるごとなくなったのだ。影響が出ないはずがない。

「とはいえ、我々とてこのまま手をこまねいておるわけではございません。海がダメなら陸ということで、現在は内陸の大都市アーユトールへと向かう新道の整備を行っているところなのです。レッドスカイ帝国に西方との交易を握られるわけには行きませんからね」
「なるほど」
「馬車が止まらずにすれ違えるほど広い道を作れば船ほどではないにしろ、ある程度物流が戻ってくると思うのです」
「そうでしたか」

 計画を生き生きと語るバラプトゥラさんの目は輝いている。

「おっと、わたくしめばかりが話してしまい、失礼しました。そろそろ料理の準備もできたようですし、この話はここまでとしましょう。セラポンの名物料理をご用意させましたので、ぜひご賞味ください」

 バラプトゥラさんの言葉につられてレストランの奥のほうを見ると、ちょうどウェイトレスさんがお盆をもって私たちのほうへと近づいてくるのが目に入ったのだった。
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