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聖女の旅路
第十三章第9話 難民キャンプへ
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晩餐会の翌日、私たちは周囲の魔物たちを解放するため、町の西側にある森へとやってきた。
なるほど。魔物が多いとは聞いていたとおり、それなりの頻度で魔物が襲ってきている。具体的には……そうだね。アイロールのときよりはまだ頻度は低い感じがする。体感的には三十分に一回くらいといっただろうか?
襲ってくる魔物はゴブリンやフォレストウルフなどといったお決まりの魔物からポイズンサーペントなどの毒を持つ魔物まで様々だ。
その中でも特に厄介そうだったのはアサシンレオパルドというヒョウの魔物だ。この魔物は茂みに潜み、近くを通った人間を音もなく暗殺するという恐ろしい習性を持っている。そのため熟練の戦士であったとしても苦労するのだが、ここは森、つまり森はエルフの領域だ。どんなに隠れたところでルーちゃんの前では意味がない。
とはいえ、そんな恐ろしい魔物のいる森を難民たちは歩いて通り抜けてきたわけで、彼らの感じた恐怖は想像に難くない。
一体どれほどの難民たちがこちらにたどり着けず、犠牲となってしまったのだろうか?
そのことを考えるとなんともやりきれない。
それともう一つ、気がかりなのは魔物暴走が発生するのではないかということだ。これだけ様々な種類の魔物が通常よりも多く発生しているとなると、やはりアイロールを思い出してしまう。
「フィーネ殿、念のため森全体を浄化したほうがいいかもしれないでござるよ」
どうやらシズクさんも同じことを懸念していたらしい。
「そうですね。やってみましょう」
とはいえ、フルパワーで全方位に放つのも効率が悪い。であればまずは南に向かって……えい!
私は浄化魔法を南のほうへ適当に長く展開すると、そのままそれを西に向けてぐるりと移動させる。そしてそのまま北東の方向まで移動させたところで浄化魔法を止めた。
「どう、でござったか?」
「特に何もありませんでしたね」
「そうでござるか。となると、ここは瘴気が溜まりやすい場所なのかもしれないでござるな」
「瘴気が溜まりやすい場所ですか。そうかもしれませんね」
「どうするでござるか? もう少し奥まで行ってみるでござるか?」
「はい。そうしましょう。それで魔物を解放してあげて、種を植えたら帰りましょう」
「そうでござるな」
それからしばらく森で魔物を解放し続け、そして夕方になるころ私たちはハイディンの町へと戻ったのだった。
◆◇◆
「聖女様、ありがとうございました」
戻ってきた私たちをレ・タインさんが出迎えてくれた。
「いえ、当然のことをしただけです。それより、難民の皆さんからの聞き取りはどうでしたか?」
「それが……」
レ・タインさんは申し訳なさそうな表情をしている。
「どうしたんですか?」
「実は、我々には話したくないと拒絶されてしまいまして」
「え?」
「どうやら我々が彼らを町の中に受け入れなかったことを根に持たれているようでして……」
「はぁ」
必死に魔物の出る森を抜けて逃げてきた難民たちの気持ちも分かるが、ハイディンの人たちだって勝手に押しかけてきた人たちを警戒するのは当然だろう。特に国同士は昔からの因縁も色々とありそうだし、人々の感情も複雑なのだろう。
ただ、もう少し歩み寄ろうとしてもいいのではないだろうか?
そんなことを考えていると、レ・タインさんがしょんぼりとした様子で謝ってきた。
「申し訳ございません」
「いえ、仕方ないです。それなら、私たちが話を聞いてみましょう」
「え? ですが……」
「大丈夫ですよ。私はグリーンクラウド王国の者ではないですし、それにかなりの数の魔物たちを解放してあげましたからね。外も多少は安全になったはずです」
「ありがとうございます!」
「フィーネ様……」
レ・タインさんはお礼を言ってきたが、その横でクリスさんが遠慮がちにぼそりと呟いた。
「え? クリスさん、なんですか?」
「いえ、なんでもありません」
あれ? どうしたんだろうか?
クリスさんがなんだか遠慮しているような?
「どうしたんですか? 心配なことがあるなら言ってください」
「いえ、大丈夫です」
「はぁ、わかりました」
まあ、なんでもないならいいか。
私は疑問を引っ込め、自室へと向かうのだった。
◆◇◆
翌日、私たちは街壁の外に作られた難民たちのキャンプへとやってきた。そこは木造の簡素な柵で囲われており、粗末な小屋が並んでいる。難民キャンプと言っているが、スラム街と表現したほうがしっくりくる有り様だ。
一応難民たちを守る兵士はいるものの、その人数は明らかに少ない。この状況でもし衝動に突き動かされた魔物がやってきたならば、きっと少なからぬ被害が出てしまうだろう。
それに衛生状態もよろしくない。汚物がきちんと処理されていないのか、悪臭が漂っている始末だ。これでは伝染病が発生してしまう可能性もある。
「酷いですね。まずは綺麗にしましょう。洗浄!」
私はすぐさま難民キャンプ全体をきれいにした。ダルハでルマ人たちの居住区画を洗浄したときとは違い、大した苦労もなくあっさりと綺麗にすることができた。
こうして考えてみると、やはり存在進化できたことは大きいのだろうなと強く思う。シズクさんも存在進化して以来文字どおり人間離れした強さになっているし。
これから龍王たちを解放してあげることを考えると、クリスさんも存在進化できたら心強いのだが……。
「い、今のは……?」
案内役としてついて来ているレ・タインさんの驚いたような声で私は現実に引き戻された。
「衛生状態が悪そうだったので、まとめて綺麗にしました」
「え? この難民キャンプをまとめて、でございますか?」
私の返答がレ・タインさんの想像を超えていたのだろう。レ・タインさんは引きつった表情をしている。
「はい。ただ、この状況ですとすでに病人もいるかもしれませんね。まずはそちらの治療を優先しましょう」
「か、かしこまりました」
レ・タインさんは引きつった表情のまま、そう答えたのだった。
なるほど。魔物が多いとは聞いていたとおり、それなりの頻度で魔物が襲ってきている。具体的には……そうだね。アイロールのときよりはまだ頻度は低い感じがする。体感的には三十分に一回くらいといっただろうか?
襲ってくる魔物はゴブリンやフォレストウルフなどといったお決まりの魔物からポイズンサーペントなどの毒を持つ魔物まで様々だ。
その中でも特に厄介そうだったのはアサシンレオパルドというヒョウの魔物だ。この魔物は茂みに潜み、近くを通った人間を音もなく暗殺するという恐ろしい習性を持っている。そのため熟練の戦士であったとしても苦労するのだが、ここは森、つまり森はエルフの領域だ。どんなに隠れたところでルーちゃんの前では意味がない。
とはいえ、そんな恐ろしい魔物のいる森を難民たちは歩いて通り抜けてきたわけで、彼らの感じた恐怖は想像に難くない。
一体どれほどの難民たちがこちらにたどり着けず、犠牲となってしまったのだろうか?
そのことを考えるとなんともやりきれない。
それともう一つ、気がかりなのは魔物暴走が発生するのではないかということだ。これだけ様々な種類の魔物が通常よりも多く発生しているとなると、やはりアイロールを思い出してしまう。
「フィーネ殿、念のため森全体を浄化したほうがいいかもしれないでござるよ」
どうやらシズクさんも同じことを懸念していたらしい。
「そうですね。やってみましょう」
とはいえ、フルパワーで全方位に放つのも効率が悪い。であればまずは南に向かって……えい!
私は浄化魔法を南のほうへ適当に長く展開すると、そのままそれを西に向けてぐるりと移動させる。そしてそのまま北東の方向まで移動させたところで浄化魔法を止めた。
「どう、でござったか?」
「特に何もありませんでしたね」
「そうでござるか。となると、ここは瘴気が溜まりやすい場所なのかもしれないでござるな」
「瘴気が溜まりやすい場所ですか。そうかもしれませんね」
「どうするでござるか? もう少し奥まで行ってみるでござるか?」
「はい。そうしましょう。それで魔物を解放してあげて、種を植えたら帰りましょう」
「そうでござるな」
それからしばらく森で魔物を解放し続け、そして夕方になるころ私たちはハイディンの町へと戻ったのだった。
◆◇◆
「聖女様、ありがとうございました」
戻ってきた私たちをレ・タインさんが出迎えてくれた。
「いえ、当然のことをしただけです。それより、難民の皆さんからの聞き取りはどうでしたか?」
「それが……」
レ・タインさんは申し訳なさそうな表情をしている。
「どうしたんですか?」
「実は、我々には話したくないと拒絶されてしまいまして」
「え?」
「どうやら我々が彼らを町の中に受け入れなかったことを根に持たれているようでして……」
「はぁ」
必死に魔物の出る森を抜けて逃げてきた難民たちの気持ちも分かるが、ハイディンの人たちだって勝手に押しかけてきた人たちを警戒するのは当然だろう。特に国同士は昔からの因縁も色々とありそうだし、人々の感情も複雑なのだろう。
ただ、もう少し歩み寄ろうとしてもいいのではないだろうか?
そんなことを考えていると、レ・タインさんがしょんぼりとした様子で謝ってきた。
「申し訳ございません」
「いえ、仕方ないです。それなら、私たちが話を聞いてみましょう」
「え? ですが……」
「大丈夫ですよ。私はグリーンクラウド王国の者ではないですし、それにかなりの数の魔物たちを解放してあげましたからね。外も多少は安全になったはずです」
「ありがとうございます!」
「フィーネ様……」
レ・タインさんはお礼を言ってきたが、その横でクリスさんが遠慮がちにぼそりと呟いた。
「え? クリスさん、なんですか?」
「いえ、なんでもありません」
あれ? どうしたんだろうか?
クリスさんがなんだか遠慮しているような?
「どうしたんですか? 心配なことがあるなら言ってください」
「いえ、大丈夫です」
「はぁ、わかりました」
まあ、なんでもないならいいか。
私は疑問を引っ込め、自室へと向かうのだった。
◆◇◆
翌日、私たちは街壁の外に作られた難民たちのキャンプへとやってきた。そこは木造の簡素な柵で囲われており、粗末な小屋が並んでいる。難民キャンプと言っているが、スラム街と表現したほうがしっくりくる有り様だ。
一応難民たちを守る兵士はいるものの、その人数は明らかに少ない。この状況でもし衝動に突き動かされた魔物がやってきたならば、きっと少なからぬ被害が出てしまうだろう。
それに衛生状態もよろしくない。汚物がきちんと処理されていないのか、悪臭が漂っている始末だ。これでは伝染病が発生してしまう可能性もある。
「酷いですね。まずは綺麗にしましょう。洗浄!」
私はすぐさま難民キャンプ全体をきれいにした。ダルハでルマ人たちの居住区画を洗浄したときとは違い、大した苦労もなくあっさりと綺麗にすることができた。
こうして考えてみると、やはり存在進化できたことは大きいのだろうなと強く思う。シズクさんも存在進化して以来文字どおり人間離れした強さになっているし。
これから龍王たちを解放してあげることを考えると、クリスさんも存在進化できたら心強いのだが……。
「い、今のは……?」
案内役としてついて来ているレ・タインさんの驚いたような声で私は現実に引き戻された。
「衛生状態が悪そうだったので、まとめて綺麗にしました」
「え? この難民キャンプをまとめて、でございますか?」
私の返答がレ・タインさんの想像を超えていたのだろう。レ・タインさんは引きつった表情をしている。
「はい。ただ、この状況ですとすでに病人もいるかもしれませんね。まずはそちらの治療を優先しましょう」
「か、かしこまりました」
レ・タインさんは引きつった表情のまま、そう答えたのだった。
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