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聖女の旅路
第十三章第10話 難民たちの事情(前編)
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「だ、誰?」
「が、外国人?」
難民キャンプの中へ足を踏み入れた私たちを、難民の人たちは遠巻きにジロジロと私たちのことを見てくる。
「なんかさっきすごい魔法を使ってたのはあの小さい女の人だよ」
「いい人?」
「でもあいつらが……」
彼らはそんなひそひそ話をしている。
うーん、どうやらレ・タインさんたちはかなり警戒されているらしい。
「レ・タインさん、ここの代表者みたいな人はいないんですか?」
「はい。あまり組織だったものはいないようでして」
「そうですか。じゃあ、その辺の人に聞いてみましょう。あの、すみません」
私のほうを遠巻きに見ている一団に声をかけてみると、彼らはビクンと身を固くし、一様に不安そうな表情を浮かべた。
「はじめまして。私はフィーネ・アルジェンタータといいます。ちょっとお話を聞かせていただきたいんですが……」
「え?」
にこやかに話しかけたつもりだったのだが、恐れにも似た表情と共に護衛として一緒に来ている兵士たちのほうをちらちらと窺っている。
それに怒ったのか、レ・タインさんが怒鳴り声を上げる。
「お、お前たち! せっかく聖女様がお声掛けくださっているのになんという失礼を!」
他の兵士たちも一様にうんうんと頷き、冷ややかな視線を彼らに向けている。
当然かもしれないがそんなことをされた彼らはさらに身を固くし、強い警戒の視線をレ・タインさんと兵士たちに向けている。
詳しい事情はさておき、かなり関係がこじれているということはたしかなようだ。
「すみません、レ・タインさんと兵士の皆さんは席を外してもらえますか? 護衛は結構です」
「え? 聖女様?」
「だって、この状況だと皆さんがいたら話を聞けそうにないじゃないですか」
「で、ですが……」
「身の安全は大丈夫ですから。ね?」
「……かしこまりました。おい、分かったな?」
「「「はっ!」」」
こうしてレ・タインさんに下がってもらい、改めて私は彼らに声を掛けてみる。
「あの、お話を……」
すると一人の中年男性が警戒した様子ではあるものの、返事をしてくれた。
「……はい。なんでしょう?」
「はい。私はこの国の瘴気……魔物の問題をどうにかしてほしいと言われて来ました。ですがレッドスカイ帝国から逃れてきた皆さんのことを聞きまして、それでどうしてこんなことになっているのかを聞きたいんです。レッドスカイ帝国の皇帝には瘴気を浄化する種を少し多めにあげたはずです。それに将軍だっているはずなのに……」
「種を陛下に? ということは、もしや貴女様は本当に聖女様なのですか?」
「え? ええと、はい。一応そういうことになっています」
「聖女様! お願いします! どうかお助け下さい!」
男性がいきなり土下座を始めた。
「ええと、顔を上げてください。一体どうしたんですか?」
「陛下は南部にまで種を回してくださらなかったのです。それで魔物がたくさん出て村が!」
「そうだったんですね」
「しかも陛下は種を回してくださらないだけじゃなく、魔物を退治してくださる赤天将軍も派遣してくださらなかったんです!」
「そうでしたか」
「そうなんです! 陛下はゴールデンサン巫国の吸血鬼退治に夢中で、きっと民のことなどどうでもよくなったに違いありません!」
「それは……大変でしたね。でもどうして皆さんはハイディンに逃げてきたんですか? 森はたくさんの魔物が出て危険ですよね?」
「ですが、俺たちはもう生きていけないんです」
「え?」
「種も頂けず、魔物退治もしてくださらない。そんなんじゃ俺らは生きていけないと年貢の支払いを拒否したんです。それには太守様も賛同してくださって」
「それで、どうなったんですか?」
「陛下は兵を送ってきたんです。そんで太守様は捕らえられ、年貢の支払いを拒否した仲間だって次々と……それでこのままじゃ俺らも殺されると思って」
「それは……ひどいですね」
「そうなんです! 守ってもくれないのになんで俺らは!」
なるほど。それはたしかに逃げたくなっても仕方がないかもしれない。せっかく多めに種をおいていったのに魔物の多く出現する場所に植えないなんて何を考えているんだろうか?
これはあまりにもひどい。放っておいていいのだろうか?
それにレッドスカイ帝国の皇帝には、ゴールデンサン巫国から拉致した人たちを返してもらわなきゃいけない。
よし、ここは一つ、このままレッドスカイ帝国に行ってちょっと文句を言ってきてやろう。
「わかりました。それじゃあ私が行って文句を――」
「フィーネ様!」
「え? クリスさん?」
「さすがにそれは……あ、いえ、なんでもありません」
ええと? なんだかここのところクリスさんはずっと遠慮しているように見えるのだが……。
「クリスさん、さすがにそこまで言われてやっぱりなんでもないは気になるじゃないですか」
「で、ですがフィーネ様のご意志を妨げるのは……」
「え?」
あれれ? クリスさんってもっと遠慮のない人だと思っていたのだが……。
「あ! もしかしてアーデに言われたことを気にしているんですか?」
「……はい」
クリスさんは申し訳なさそうに頷いた。
「ええとですね、クリスさん。私はあまり国がどうのといった話は分からないので、クリスさんがアドバイスしてくれることはとてもありがたく思っています。ですから、気になることがあればどんどん言ってください」
「……ありがとうございます」
クリスさんはどこかほっとした表情を浮かべたのだった。
「が、外国人?」
難民キャンプの中へ足を踏み入れた私たちを、難民の人たちは遠巻きにジロジロと私たちのことを見てくる。
「なんかさっきすごい魔法を使ってたのはあの小さい女の人だよ」
「いい人?」
「でもあいつらが……」
彼らはそんなひそひそ話をしている。
うーん、どうやらレ・タインさんたちはかなり警戒されているらしい。
「レ・タインさん、ここの代表者みたいな人はいないんですか?」
「はい。あまり組織だったものはいないようでして」
「そうですか。じゃあ、その辺の人に聞いてみましょう。あの、すみません」
私のほうを遠巻きに見ている一団に声をかけてみると、彼らはビクンと身を固くし、一様に不安そうな表情を浮かべた。
「はじめまして。私はフィーネ・アルジェンタータといいます。ちょっとお話を聞かせていただきたいんですが……」
「え?」
にこやかに話しかけたつもりだったのだが、恐れにも似た表情と共に護衛として一緒に来ている兵士たちのほうをちらちらと窺っている。
それに怒ったのか、レ・タインさんが怒鳴り声を上げる。
「お、お前たち! せっかく聖女様がお声掛けくださっているのになんという失礼を!」
他の兵士たちも一様にうんうんと頷き、冷ややかな視線を彼らに向けている。
当然かもしれないがそんなことをされた彼らはさらに身を固くし、強い警戒の視線をレ・タインさんと兵士たちに向けている。
詳しい事情はさておき、かなり関係がこじれているということはたしかなようだ。
「すみません、レ・タインさんと兵士の皆さんは席を外してもらえますか? 護衛は結構です」
「え? 聖女様?」
「だって、この状況だと皆さんがいたら話を聞けそうにないじゃないですか」
「で、ですが……」
「身の安全は大丈夫ですから。ね?」
「……かしこまりました。おい、分かったな?」
「「「はっ!」」」
こうしてレ・タインさんに下がってもらい、改めて私は彼らに声を掛けてみる。
「あの、お話を……」
すると一人の中年男性が警戒した様子ではあるものの、返事をしてくれた。
「……はい。なんでしょう?」
「はい。私はこの国の瘴気……魔物の問題をどうにかしてほしいと言われて来ました。ですがレッドスカイ帝国から逃れてきた皆さんのことを聞きまして、それでどうしてこんなことになっているのかを聞きたいんです。レッドスカイ帝国の皇帝には瘴気を浄化する種を少し多めにあげたはずです。それに将軍だっているはずなのに……」
「種を陛下に? ということは、もしや貴女様は本当に聖女様なのですか?」
「え? ええと、はい。一応そういうことになっています」
「聖女様! お願いします! どうかお助け下さい!」
男性がいきなり土下座を始めた。
「ええと、顔を上げてください。一体どうしたんですか?」
「陛下は南部にまで種を回してくださらなかったのです。それで魔物がたくさん出て村が!」
「そうだったんですね」
「しかも陛下は種を回してくださらないだけじゃなく、魔物を退治してくださる赤天将軍も派遣してくださらなかったんです!」
「そうでしたか」
「そうなんです! 陛下はゴールデンサン巫国の吸血鬼退治に夢中で、きっと民のことなどどうでもよくなったに違いありません!」
「それは……大変でしたね。でもどうして皆さんはハイディンに逃げてきたんですか? 森はたくさんの魔物が出て危険ですよね?」
「ですが、俺たちはもう生きていけないんです」
「え?」
「種も頂けず、魔物退治もしてくださらない。そんなんじゃ俺らは生きていけないと年貢の支払いを拒否したんです。それには太守様も賛同してくださって」
「それで、どうなったんですか?」
「陛下は兵を送ってきたんです。そんで太守様は捕らえられ、年貢の支払いを拒否した仲間だって次々と……それでこのままじゃ俺らも殺されると思って」
「それは……ひどいですね」
「そうなんです! 守ってもくれないのになんで俺らは!」
なるほど。それはたしかに逃げたくなっても仕方がないかもしれない。せっかく多めに種をおいていったのに魔物の多く出現する場所に植えないなんて何を考えているんだろうか?
これはあまりにもひどい。放っておいていいのだろうか?
それにレッドスカイ帝国の皇帝には、ゴールデンサン巫国から拉致した人たちを返してもらわなきゃいけない。
よし、ここは一つ、このままレッドスカイ帝国に行ってちょっと文句を言ってきてやろう。
「わかりました。それじゃあ私が行って文句を――」
「フィーネ様!」
「え? クリスさん?」
「さすがにそれは……あ、いえ、なんでもありません」
ええと? なんだかここのところクリスさんはずっと遠慮しているように見えるのだが……。
「クリスさん、さすがにそこまで言われてやっぱりなんでもないは気になるじゃないですか」
「で、ですがフィーネ様のご意志を妨げるのは……」
「え?」
あれれ? クリスさんってもっと遠慮のない人だと思っていたのだが……。
「あ! もしかしてアーデに言われたことを気にしているんですか?」
「……はい」
クリスさんは申し訳なさそうに頷いた。
「ええとですね、クリスさん。私はあまり国がどうのといった話は分からないので、クリスさんがアドバイスしてくれることはとてもありがたく思っています。ですから、気になることがあればどんどん言ってください」
「……ありがとうございます」
クリスさんはどこかほっとした表情を浮かべたのだった。
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