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正義と武と吸血鬼
第十二章第34話 始動
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おにぎりを食べ、ひとしきりゆっくりしたところで私は精霊神様に教えてもらった話を伝えた。
「まさかそのようなことが……」
「進化の秘術は神の生み出したものでござったか……」
「精霊神様……」
三人の反応はそれぞれだ。
「それで、フィーネ殿はどうするでござるか? 精霊界にある光をもってしても瘴気はもはやどうにもならないのでござろう?」
「はい。でも私はこの世界に愛着がありますからね。滅びを回避できる方法を探したいです」
「どうするでござるか? 何か妙案でもあるでござるか?」
「それは分からないです。ただ、精霊神様は勇者と魔王が協力する必要があると言っていました。だからまずはシャルとベルードに会ってみようと思います」
「そうでござるか。シャルロット殿でござるか……」
「シャルがどうしたんですか?」
「いや、あの御仁は難しそうだと思ったでござるよ」
「え? でもシャルは話せばわかってくれると思いますよ」
「……だといいでござるが、魔王と協力することに首を縦には振らなそうな気がするでござるよ」
「それは……」
炎龍王との戦いのあと、一緒に魔王を滅ぼそうと言っていたシャルの姿を思い出し、少し重たい気分になる。
たしかにシャルは勇者が魔王を滅ぼすという神の決めた使命を果たそうとしていたし、ユーグさんを奪った進化の秘術を憎んでいる。そんな進化の秘術を研究しているベルードと手を組むことを受け入れてくれるだろうか?
……ちょっと難しいかもしれない。そんなすぐに気持ちの整理がつくものでもないだろう。
となると先にベルードと話をするべきなのかもしれないが、一体どうすればもう一度話合いの場を持てるのだろうか?
アイリスタウンに行く?
いや、それは難しいだろう。そもそも、あの島がどのあたりにあるのかさっぱりわからない。もう一度漂流するなんてごめんだし、もし仮にそうしたとしてもあの島にもう一度流れ着くとも限らない。
となると、やはり魔大陸だろうか?
それに四龍王の残りを探す必要だってある。炎龍王は解放してあげたが、水龍王はミヤコに封印されている。あと残るは地龍王と嵐龍王だけれど……。
答えを出せずに悩んでいると、シズクさんが声を掛けてきた。
「フィーネ殿、ここで悩んでいても仕方がないでござるよ。日が暮れる前に船に戻ったほうが良いのではござらんか?」
「……それもそうですね。それじゃあそろそろ戻りましょう」
私は食器などを収納に入れると防壁で足場を作り出したのだった。
◆◇◆
私たちは足場の上を歩き、カヘエさんの船の近くまで戻ってきた。カヘエさんたちは特に何をするでもなく、手持ち無沙汰な様子でこちらを眺めている。
防壁の足場から船に飛び移り、ボーっとしているカヘエさんに正面から声を掛ける。
「戻りました」
「うおぁぇっ!?」
カヘエさんはどこから出したか分からないような声を上げながら飛び上がって驚き、そのまま尻もちをついてしまった。
「ええと? カヘエさん?」
「あ、ああ」
「どうしたんですか?」
「いや、アンタが突然何もない場所から現れたんだ。驚くに決まってるだろ」
「はぁ」
どういうことだろうか? もしかすると不思議な何かで精霊の島が見えなかったのと同じように、私たちの姿も見えなくなっていたということかもしれない。
「ええと、びっくりさせてすみませんでした?」
「お、おう……それで、どうだったんだ?」
「はい。たしかに精霊の島はありました。ただ、認められた者以外は足を踏み入れられないみたいです」
「そうか……」
カヘエさんは悔しそうにしている。そういえば、カヘエさんは財宝と人を求めて舟を出してくれたのだ。
「ただ、財宝も住人もいませんでしたよ」
「ん? ああ、そうか。そういうことじゃねぇんだが……ま、仕方ねぇ。俺らじゃあの霧は越えられねぇ。撤収だ! 戻るぞ! 目標、オオダテ!」
カヘエさんは気持ちを切り替えたようで、力強くそう宣言した。それから船はゆっくりと動き出し、精霊の島に背を向けて進んでいくのだった。
◆◇◆
フィーネたちが精霊の島に到着したころ、ナンハイの港町にはすさまじい数のレッドスカイ帝国の兵士たちが終結していた。
その兵士たちの前で立派な身なりをした男が訓示をしている。
「良いか! 我々は吸血鬼に乗っ取られたゴールデンサン巫国を解放するのだ! 吸血鬼は生きとし生けるものすべての敵だ! 今ゴールデンサン巫国を滅ぼし、吸血鬼を根絶やしにしておかねば次に吸血鬼によって蹂躙されるのは我が国だ! お前たちの子が! 妻が! 恋人が! 親が! 親戚が! 友が! 吸血鬼によって殺されるのだ! お前たちは大切な者を守るために戦うのだ!」
「「「うおおおおお」」」
「いいか! 我らが赤天将軍は第二陣としておいでになる! 我らの役目はゴールデンサン巫国に橋頭保を作ることだ! 橋頭保さえ確保できれば、あとは赤天将軍が蹴散らしてくれよう!」
「「「うおおおおおお!」」」
「金陽作戦、開始! 総員、手筈どおりに進軍せよ!」
「「「うおおおおおお!」」」
ナンハイの港は異様な熱気に包まれ、兵士たちは整然と船に乗り込んでいき、続々とゴールデンサン巫国へと出撃していく。
その様子をローブ姿の男がはるか遠くの海上から見守っていた。その男はゴールデンサン巫国へと向かう船団を見て、ニヤリと不敵な笑みを浮かべていたのだった。
「まさかそのようなことが……」
「進化の秘術は神の生み出したものでござったか……」
「精霊神様……」
三人の反応はそれぞれだ。
「それで、フィーネ殿はどうするでござるか? 精霊界にある光をもってしても瘴気はもはやどうにもならないのでござろう?」
「はい。でも私はこの世界に愛着がありますからね。滅びを回避できる方法を探したいです」
「どうするでござるか? 何か妙案でもあるでござるか?」
「それは分からないです。ただ、精霊神様は勇者と魔王が協力する必要があると言っていました。だからまずはシャルとベルードに会ってみようと思います」
「そうでござるか。シャルロット殿でござるか……」
「シャルがどうしたんですか?」
「いや、あの御仁は難しそうだと思ったでござるよ」
「え? でもシャルは話せばわかってくれると思いますよ」
「……だといいでござるが、魔王と協力することに首を縦には振らなそうな気がするでござるよ」
「それは……」
炎龍王との戦いのあと、一緒に魔王を滅ぼそうと言っていたシャルの姿を思い出し、少し重たい気分になる。
たしかにシャルは勇者が魔王を滅ぼすという神の決めた使命を果たそうとしていたし、ユーグさんを奪った進化の秘術を憎んでいる。そんな進化の秘術を研究しているベルードと手を組むことを受け入れてくれるだろうか?
……ちょっと難しいかもしれない。そんなすぐに気持ちの整理がつくものでもないだろう。
となると先にベルードと話をするべきなのかもしれないが、一体どうすればもう一度話合いの場を持てるのだろうか?
アイリスタウンに行く?
いや、それは難しいだろう。そもそも、あの島がどのあたりにあるのかさっぱりわからない。もう一度漂流するなんてごめんだし、もし仮にそうしたとしてもあの島にもう一度流れ着くとも限らない。
となると、やはり魔大陸だろうか?
それに四龍王の残りを探す必要だってある。炎龍王は解放してあげたが、水龍王はミヤコに封印されている。あと残るは地龍王と嵐龍王だけれど……。
答えを出せずに悩んでいると、シズクさんが声を掛けてきた。
「フィーネ殿、ここで悩んでいても仕方がないでござるよ。日が暮れる前に船に戻ったほうが良いのではござらんか?」
「……それもそうですね。それじゃあそろそろ戻りましょう」
私は食器などを収納に入れると防壁で足場を作り出したのだった。
◆◇◆
私たちは足場の上を歩き、カヘエさんの船の近くまで戻ってきた。カヘエさんたちは特に何をするでもなく、手持ち無沙汰な様子でこちらを眺めている。
防壁の足場から船に飛び移り、ボーっとしているカヘエさんに正面から声を掛ける。
「戻りました」
「うおぁぇっ!?」
カヘエさんはどこから出したか分からないような声を上げながら飛び上がって驚き、そのまま尻もちをついてしまった。
「ええと? カヘエさん?」
「あ、ああ」
「どうしたんですか?」
「いや、アンタが突然何もない場所から現れたんだ。驚くに決まってるだろ」
「はぁ」
どういうことだろうか? もしかすると不思議な何かで精霊の島が見えなかったのと同じように、私たちの姿も見えなくなっていたということかもしれない。
「ええと、びっくりさせてすみませんでした?」
「お、おう……それで、どうだったんだ?」
「はい。たしかに精霊の島はありました。ただ、認められた者以外は足を踏み入れられないみたいです」
「そうか……」
カヘエさんは悔しそうにしている。そういえば、カヘエさんは財宝と人を求めて舟を出してくれたのだ。
「ただ、財宝も住人もいませんでしたよ」
「ん? ああ、そうか。そういうことじゃねぇんだが……ま、仕方ねぇ。俺らじゃあの霧は越えられねぇ。撤収だ! 戻るぞ! 目標、オオダテ!」
カヘエさんは気持ちを切り替えたようで、力強くそう宣言した。それから船はゆっくりと動き出し、精霊の島に背を向けて進んでいくのだった。
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「「「うおおおおおお!」」」
「金陽作戦、開始! 総員、手筈どおりに進軍せよ!」
「「「うおおおおおお!」」」
ナンハイの港は異様な熱気に包まれ、兵士たちは整然と船に乗り込んでいき、続々とゴールデンサン巫国へと出撃していく。
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