勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

文字の大きさ
566 / 625
正義と武と吸血鬼

第十二章第34話 始動

しおりを挟む
 おにぎりを食べ、ひとしきりゆっくりしたところで私は精霊神様に教えてもらった話を伝えた。

「まさかそのようなことが……」
「進化の秘術は神の生み出したものでござったか……」
「精霊神様……」

 三人の反応はそれぞれだ。

「それで、フィーネ殿はどうするでござるか? 精霊界にある光をもってしても瘴気はもはやどうにもならないのでござろう?」
「はい。でも私はこの世界に愛着がありますからね。滅びを回避できる方法を探したいです」
「どうするでござるか? 何か妙案でもあるでござるか?」
「それは分からないです。ただ、精霊神様は勇者と魔王が協力する必要があると言っていました。だからまずはシャルとベルードに会ってみようと思います」
「そうでござるか。シャルロット殿でござるか……」
「シャルがどうしたんですか?」
「いや、あの御仁は難しそうだと思ったでござるよ」
「え? でもシャルは話せばわかってくれると思いますよ」
「……だといいでござるが、魔王と協力することに首を縦には振らなそうな気がするでござるよ」
「それは……」

 炎龍王との戦いのあと、一緒に魔王を滅ぼそうと言っていたシャルの姿を思い出し、少し重たい気分になる。

 たしかにシャルは勇者が魔王を滅ぼすという神の決めた使命を果たそうとしていたし、ユーグさんを奪った進化の秘術を憎んでいる。そんな進化の秘術を研究しているベルードと手を組むことを受け入れてくれるだろうか?

 ……ちょっと難しいかもしれない。そんなすぐに気持ちの整理がつくものでもないだろう。

 となると先にベルードと話をするべきなのかもしれないが、一体どうすればもう一度話合いの場を持てるのだろうか?

 アイリスタウンに行く?

 いや、それは難しいだろう。そもそも、あの島がどのあたりにあるのかさっぱりわからない。もう一度漂流するなんてごめんだし、もし仮にそうしたとしてもあの島にもう一度流れ着くとも限らない。

 となると、やはり魔大陸だろうか?

 それに四龍王の残りを探す必要だってある。炎龍王は解放してあげたが、水龍王はミヤコに封印されている。あと残るは地龍王と嵐龍王だけれど……。

 答えを出せずに悩んでいると、シズクさんが声を掛けてきた。

「フィーネ殿、ここで悩んでいても仕方がないでござるよ。日が暮れる前に船に戻ったほうが良いのではござらんか?」
「……それもそうですね。それじゃあそろそろ戻りましょう」

 私は食器などを収納に入れると防壁で足場を作り出したのだった。

◆◇◆

 私たちは足場の上を歩き、カヘエさんの船の近くまで戻ってきた。カヘエさんたちは特に何をするでもなく、手持ち無沙汰な様子でこちらを眺めている。

 防壁の足場から船に飛び移り、ボーっとしているカヘエさんに正面から声を掛ける。

「戻りました」
「うおぁぇっ!?」

 カヘエさんはどこから出したか分からないような声を上げながら飛び上がって驚き、そのまま尻もちをついてしまった。

「ええと? カヘエさん?」
「あ、ああ」
「どうしたんですか?」
「いや、アンタが突然何もない場所から現れたんだ。驚くに決まってるだろ」
「はぁ」

 どういうことだろうか? もしかすると不思議な何かで精霊の島が見えなかったのと同じように、私たちの姿も見えなくなっていたということかもしれない。

「ええと、びっくりさせてすみませんでした?」
「お、おう……それで、どうだったんだ?」
「はい。たしかに精霊の島はありました。ただ、認められた者以外は足を踏み入れられないみたいです」
「そうか……」

 カヘエさんは悔しそうにしている。そういえば、カヘエさんは財宝と人を求めて舟を出してくれたのだ。

「ただ、財宝も住人もいませんでしたよ」
「ん? ああ、そうか。そういうことじゃねぇんだが……ま、仕方ねぇ。俺らじゃあの霧は越えられねぇ。撤収だ! 戻るぞ! 目標、オオダテ!」

 カヘエさんは気持ちを切り替えたようで、力強くそう宣言した。それから船はゆっくりと動き出し、精霊の島に背を向けて進んでいくのだった。

◆◇◆

 フィーネたちが精霊の島に到着したころ、ナンハイの港町にはすさまじい数のレッドスカイ帝国の兵士たちが終結していた。

 その兵士たちの前で立派な身なりをした男が訓示をしている。

「良いか! 我々は吸血鬼に乗っ取られたゴールデンサン巫国を解放するのだ! 吸血鬼は生きとし生けるものすべての敵だ! 今ゴールデンサン巫国を滅ぼし、吸血鬼を根絶やしにしておかねば次に吸血鬼によって蹂躙されるのは我が国だ! お前たちの子が! 妻が! 恋人が! 親が! 親戚が! 友が! 吸血鬼によって殺されるのだ! お前たちは大切な者を守るために戦うのだ!」
「「「うおおおおお」」」
「いいか! 我らが赤天将軍は第二陣としておいでになる! 我らの役目はゴールデンサン巫国に橋頭保を作ることだ! 橋頭保さえ確保できれば、あとは赤天将軍が蹴散らしてくれよう!」
「「「うおおおおおお!」」」
「金陽作戦、開始! 総員、手筈どおりに進軍せよ!」
「「「うおおおおおお!」」」

 ナンハイの港は異様な熱気に包まれ、兵士たちは整然と船に乗り込んでいき、続々とゴールデンサン巫国へと出撃していく。

 その様子をローブ姿の男がはるか遠くの海上から見守っていた。その男はゴールデンサン巫国へと向かう船団を見て、ニヤリと不敵な笑みを浮かべていたのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

処理中です...