567 / 625
正義と武と吸血鬼
第十二章第35話 オキツ島の戦い
しおりを挟む
サキモリからおよそ三十キロメートルほど西の海上にオキツ島という島がある。この島は幅十五キロメートルほどの有人島であり、レッドスカイ帝国との航路上にある重要な島である。
ようやく春を迎えたオキツ島には美しい桜の花が咲き誇っているのだが、その下をしっかりと侍風の鎧と長弓で武装した兵士たちが緊張した面持ちで西の海を見つめている。
「本当にレッドスカイ帝国が攻めてくるのか?」
「スイキョウ様がそう仰っていたのだ。間違いない」
「そうか。そうだよな。スイキョウ様のお言葉に間違いがあるはずがないからな」
そんな会話を交わしながら彼らがじっと西の海を見つめていると、水平線の向こうからおびただしい数の船が姿を現した。
「あれは……?」
「あの形、おそらく軍船だな。……レッドスカイ帝国の旗が掲げられているぞ。とうとう攻めてきやがったのか?」
「かもな。よし! お館様に伝えろ!」
「おう!」
一人の兵士は大急ぎで海岸を離れ、オキツ島の守護代の館へと走っていったのだった。
◆◇◆
「ついに来たか。やはりスイキョウ様の予言のとおりであったな。よし! 皆の者! 出撃だ! スイキョウ様の地に土足で踏み入る連中を許すな! 死守するぞ!」
「「「ははっ」」」
見張りの兵士の報せを受けたこの島の守護代であるスケクニ・タイラはそう檄を飛ばすと、すぐさま武装して迎撃に向かう。
そうしてスケクニたちが西の海岸にやってくると、そこではすでにレッドスカイ帝国の兵士たちが小舟を使って砂浜に上陸していた。
それを見たスケクニはすぐさま警告を行う。
「ここはゴールデンサン巫国領オキツ島である。レッドスカイ帝国の者たちよ! 今すぐ立ち去れ!」
しかしレッドスカイ帝国の兵士たちはその警告を聞かず、次々と上陸し、剣や盾を構えて戦闘姿勢を取る。
「ぐぬぬ、仕方がない」
スケクニは渋い表情を浮かべた。だがすぐに意を決したかのように馬に乗ったまま最前列まで進み出ると、高らかに名乗りを上げる。
「やぁやぁ、遠からん者は音にも聞け! 近くば寄って眼にも見よ! 我こそはオキツ島の守護代スケクニ・タイラなり!」
しかしそんなスケクニの顔面にレッドスカイ帝国兵の放った矢が突き刺さった。
「がっ!?」
スケクニは力なく落馬し、地面に崩れ落ちる。
「なっ!?」
「神聖な名乗りの最中に!?」
「なんて奴らだ!」
動揺が広がるゴールデンサン巫国の兵士たちに対し、レッドスカイ帝国の兵士たちが矢を射掛けながら突撃を仕掛けてくる。
「ぐあっ!」
「な、なんと卑怯な!」
「ぐああ」
ゴールデンサン巫国の兵士たちは次々と矢を受け、倒れていく。
「な、これは……毒か。おい! お前! 早くサキモリへ報せに行くんだ!」
「は、はいっ!」
数人の兵士がその場を逃げ出した。その間にもレッドスカイ帝国の兵士たちは次々とゴールデンサン巫国の兵士たちを蹂躙していったのだった。
◆◇◆
「リィウ・ドン将軍、吸血鬼の手下どもを一掃いたしました!」
「ふはははは。吸血鬼とその手下どもめ。大したことないではないか。お前たち! 島民を全員連れてこい! 物資はすべて奪え!」
「はっ!」
リィウ・ドンは上機嫌な様子でそう命じた。兵士たちは命令に従い、島中の集落から住民たちを集めてくる。
「よし。吸血鬼に従う連中は全員処刑だ! 老人、子供、男は全員首を刎ねろ! 赤子は又股裂きにし、妊婦は腹を裂いて胎児を殺せ!」
「「ははっ!」」
「女は自由に使え! だが殺すなよ。使い終わったら手に穴をあけ、数珠つなぎにして船に吊るせ!」
「ははっ!」
こうしてレッドスカイ帝国軍に蹂躙されたオキツ島では見るに堪えない虐殺が行われ、ほぼすべての島民が殺されることとなった。
生き延びた島民は山の中などにあった洞穴に逃げ込んだ者だけで、島の人口は数えるほどにまで減ってしまったのだった。
================
お気付きの方もいらっしゃるかと思いますが、本話は文永の役(一度目の元寇)で実際に対馬と壱岐島で起こったとされているエピソードを基にしております。
文永の役の後に日蓮が、「モンゴルからやってきた者たちによって対馬の百姓などの男は殺され、あるいは連れ去られ、女は集められ、手の平に穴をあけてこれを貫き通して船に括りつけられ、あるいは生け捕りにされてしまった。助かった者は一人としていなかった。壱岐島でもまた同様のことが起こった」と書き残しています。
なお、ネットでは元寇時における鎌倉武士について色々と言われておりますが、かなりの部分は某巨大掲示板発と思われる裏付けのない、または大幅に誇張されたものです。
ようやく春を迎えたオキツ島には美しい桜の花が咲き誇っているのだが、その下をしっかりと侍風の鎧と長弓で武装した兵士たちが緊張した面持ちで西の海を見つめている。
「本当にレッドスカイ帝国が攻めてくるのか?」
「スイキョウ様がそう仰っていたのだ。間違いない」
「そうか。そうだよな。スイキョウ様のお言葉に間違いがあるはずがないからな」
そんな会話を交わしながら彼らがじっと西の海を見つめていると、水平線の向こうからおびただしい数の船が姿を現した。
「あれは……?」
「あの形、おそらく軍船だな。……レッドスカイ帝国の旗が掲げられているぞ。とうとう攻めてきやがったのか?」
「かもな。よし! お館様に伝えろ!」
「おう!」
一人の兵士は大急ぎで海岸を離れ、オキツ島の守護代の館へと走っていったのだった。
◆◇◆
「ついに来たか。やはりスイキョウ様の予言のとおりであったな。よし! 皆の者! 出撃だ! スイキョウ様の地に土足で踏み入る連中を許すな! 死守するぞ!」
「「「ははっ」」」
見張りの兵士の報せを受けたこの島の守護代であるスケクニ・タイラはそう檄を飛ばすと、すぐさま武装して迎撃に向かう。
そうしてスケクニたちが西の海岸にやってくると、そこではすでにレッドスカイ帝国の兵士たちが小舟を使って砂浜に上陸していた。
それを見たスケクニはすぐさま警告を行う。
「ここはゴールデンサン巫国領オキツ島である。レッドスカイ帝国の者たちよ! 今すぐ立ち去れ!」
しかしレッドスカイ帝国の兵士たちはその警告を聞かず、次々と上陸し、剣や盾を構えて戦闘姿勢を取る。
「ぐぬぬ、仕方がない」
スケクニは渋い表情を浮かべた。だがすぐに意を決したかのように馬に乗ったまま最前列まで進み出ると、高らかに名乗りを上げる。
「やぁやぁ、遠からん者は音にも聞け! 近くば寄って眼にも見よ! 我こそはオキツ島の守護代スケクニ・タイラなり!」
しかしそんなスケクニの顔面にレッドスカイ帝国兵の放った矢が突き刺さった。
「がっ!?」
スケクニは力なく落馬し、地面に崩れ落ちる。
「なっ!?」
「神聖な名乗りの最中に!?」
「なんて奴らだ!」
動揺が広がるゴールデンサン巫国の兵士たちに対し、レッドスカイ帝国の兵士たちが矢を射掛けながら突撃を仕掛けてくる。
「ぐあっ!」
「な、なんと卑怯な!」
「ぐああ」
ゴールデンサン巫国の兵士たちは次々と矢を受け、倒れていく。
「な、これは……毒か。おい! お前! 早くサキモリへ報せに行くんだ!」
「は、はいっ!」
数人の兵士がその場を逃げ出した。その間にもレッドスカイ帝国の兵士たちは次々とゴールデンサン巫国の兵士たちを蹂躙していったのだった。
◆◇◆
「リィウ・ドン将軍、吸血鬼の手下どもを一掃いたしました!」
「ふはははは。吸血鬼とその手下どもめ。大したことないではないか。お前たち! 島民を全員連れてこい! 物資はすべて奪え!」
「はっ!」
リィウ・ドンは上機嫌な様子でそう命じた。兵士たちは命令に従い、島中の集落から住民たちを集めてくる。
「よし。吸血鬼に従う連中は全員処刑だ! 老人、子供、男は全員首を刎ねろ! 赤子は又股裂きにし、妊婦は腹を裂いて胎児を殺せ!」
「「ははっ!」」
「女は自由に使え! だが殺すなよ。使い終わったら手に穴をあけ、数珠つなぎにして船に吊るせ!」
「ははっ!」
こうしてレッドスカイ帝国軍に蹂躙されたオキツ島では見るに堪えない虐殺が行われ、ほぼすべての島民が殺されることとなった。
生き延びた島民は山の中などにあった洞穴に逃げ込んだ者だけで、島の人口は数えるほどにまで減ってしまったのだった。
================
お気付きの方もいらっしゃるかと思いますが、本話は文永の役(一度目の元寇)で実際に対馬と壱岐島で起こったとされているエピソードを基にしております。
文永の役の後に日蓮が、「モンゴルからやってきた者たちによって対馬の百姓などの男は殺され、あるいは連れ去られ、女は集められ、手の平に穴をあけてこれを貫き通して船に括りつけられ、あるいは生け捕りにされてしまった。助かった者は一人としていなかった。壱岐島でもまた同様のことが起こった」と書き残しています。
なお、ネットでは元寇時における鎌倉武士について色々と言われておりますが、かなりの部分は某巨大掲示板発と思われる裏付けのない、または大幅に誇張されたものです。
0
お気に入りに追加
436
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる