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正義と武と吸血鬼
第十二章第25話 帰らずの海へ
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それから三日後、私たちはカヘエさんの船に乗ってオオダテの港を出発した。普段この船はミヤコ方面との貿易に使われているらしい。
オオダテの港がどんどん遠くなっていき、やがてレイザンを右手に見ながらぐるりと回るように舵を切ったところでその姿も見えなくなった。
海上から見るレイザンはたしかに富士山のように雄大で、その姿に霊的なものを感じてしまうのも無理はないと思った。だがよく目を凝らして見てみると、その山肌は聞いていたとおりごつごつとした岩に覆われており、荒涼としている。
温泉が湧いていたことからもわかるとおり、きっとあの山は火山なのだろう。
そんなことを考えていると、風をつかんだ船は勢いよく東へと向かって進んでいく。
波も穏やかで、絶好の航海日和だ。
「そういえばカヘエさん、帰らずの海まではどのくらいでしたっけ?」
「この風なら今日の夕方には着くな」
「そうですか。意外と近いんですね」
「そりゃあ、な。うちの国じゃぁこいつみたいなベンザイ船が主役だからな」
「ベンザイ船?」
「おう、この船のことだ。サキモリ以外にゃ外洋船の需要はねぇからな。基本的にゃ沿岸を航行するだけさ」
「そうなんですね。あれ? じゃあこんな風に沖へ出て大丈夫なんですか?」
「もちろんだぜ。こいつは普通のベンザイ船じゃねぇ。うちで特別に改良したベンザイ船だ。ちょっとやそっとの波じゃビクともしねぇ」
「それなら安心ですね」
「おうよ」
カヘエさんは自信満々な様子でそう答えたのだった。
◆◇◆
やがて日が傾いてきたころ、遠くにまるで富士山が海から突き出ているような形をした島が見えてきた。
ただ不思議なのは、こちらには雪がまったく積もっていないことだ。それどころか生い茂る緑がはっきりと見える。
レイザンはあれほど雪化粧をしていたというのに、これも精霊神様の力なのだろうか?
「やべぇ。やっぱりこのあたりは霧が濃いな。さすが帰らずの海だ。お前ら、気合を入れろ!」
「「「はい!」」」
え!?
カヘエさんたちの緊迫した様子に私は思わず自分の耳を疑った。
海は穏やかで、こんなにも晴れているというのに!
「フィーネ様、本当にこの霧の先に精霊の島があるのでしょうか?」
「クリスさんまで!?」
隣にいるクリスさんの不安げな様子に私は思わず大きな声でそう聞き返した。
「フィーネ様?」
「あ、いえ、まさかクリスさんまでそんなことを言うとは思っていなくて」
「っ! 失礼しました。フィーネ様が不安がられていないのに私が不安がるなど……」
私の言葉の意味を勘違いしたクリスさんが申し訳なさそうにそう謝罪してきた。
「い、いえ。そういう意味ではなく……」
「姉さま、この霧、なんか変じゃありませんか?」
「えっ? ルーちゃんまで!?」
するとルーちゃんはこてんと小首をかしげた。
……うーん? この状況ってもしかして?
私は試しにクリスさんの手を握ってみた。
「フィーネ様?」
「これでどうですか?」
「……ご心配いただきありがとうございます。もう大丈夫です」
どうやらダメなようだ。白銀の里のときと同じような感じかと思ったが、そうではないらしい。
「くそっ! 何も見えねぇ!」
「カヘエの旦那! このままじゃ!」
「ええい! ここで負けんじゃねぇ! スイキョウ様のお客人をこの霧の向こうへ届けるんだ!」
「へい!」
カヘエさんたちは必死に船を動かそうとしているようだが、いくら進んでも島へは近づいている気配すらない。むしろ島から遠ざかっているようにさえ見える。
私以外は何も見えていないようだし……うーん。どうしよう? やはりここはシズクさんに。
「シズクさん」
「なんでござるか?」
「どう思いますか?」
「どう、と言われても困るでござるな。この霧では何も見えないでござるよ。晴れてくれるのを霧の外で待ったほうがいいような気もするでござるが、常に霧が出ているのでござろう?」
「ええと……」
「であれば波が低い今のうちに進んでしまうのもありだと思うでござるよ。幸いなことに、船はきちんと前に進んでいるようでござるからな」
「……」
ダメだ。どうやら私以外にあの島が見えておらず、島から遠ざかっていることにすら気付いていないらしい。
「ええとですね。私には霧は見えていなくて、島が見えるんです。それと、私にはこの船がその島から遠ざかっているように見えるんです」
「「「えっ!?」」」
三人が同時に声を上げた。
「し、しかし、たしかに進んでいる感覚があるでござるよ?」
「私もです」
シズクさんとクリスさんに同意するかのように、ルーちゃんもうんうんと頷いている。
「そうなんですね。じゃあ、もしかすると船では行けないのかもしれません」
「どういうことでござるか?」
「精霊神様が拒否していると考えれば、納得できませんか?」
「そうかもしれません。ですが、フィーネ様が行かれるのでしたら私もお供いたします!」
「あ、あたしも!」
「拙者もでござるよ」
うーん、まあ三人ならそう言うよね。
さて、これは一体どうしたものだろうか?
オオダテの港がどんどん遠くなっていき、やがてレイザンを右手に見ながらぐるりと回るように舵を切ったところでその姿も見えなくなった。
海上から見るレイザンはたしかに富士山のように雄大で、その姿に霊的なものを感じてしまうのも無理はないと思った。だがよく目を凝らして見てみると、その山肌は聞いていたとおりごつごつとした岩に覆われており、荒涼としている。
温泉が湧いていたことからもわかるとおり、きっとあの山は火山なのだろう。
そんなことを考えていると、風をつかんだ船は勢いよく東へと向かって進んでいく。
波も穏やかで、絶好の航海日和だ。
「そういえばカヘエさん、帰らずの海まではどのくらいでしたっけ?」
「この風なら今日の夕方には着くな」
「そうですか。意外と近いんですね」
「そりゃあ、な。うちの国じゃぁこいつみたいなベンザイ船が主役だからな」
「ベンザイ船?」
「おう、この船のことだ。サキモリ以外にゃ外洋船の需要はねぇからな。基本的にゃ沿岸を航行するだけさ」
「そうなんですね。あれ? じゃあこんな風に沖へ出て大丈夫なんですか?」
「もちろんだぜ。こいつは普通のベンザイ船じゃねぇ。うちで特別に改良したベンザイ船だ。ちょっとやそっとの波じゃビクともしねぇ」
「それなら安心ですね」
「おうよ」
カヘエさんは自信満々な様子でそう答えたのだった。
◆◇◆
やがて日が傾いてきたころ、遠くにまるで富士山が海から突き出ているような形をした島が見えてきた。
ただ不思議なのは、こちらには雪がまったく積もっていないことだ。それどころか生い茂る緑がはっきりと見える。
レイザンはあれほど雪化粧をしていたというのに、これも精霊神様の力なのだろうか?
「やべぇ。やっぱりこのあたりは霧が濃いな。さすが帰らずの海だ。お前ら、気合を入れろ!」
「「「はい!」」」
え!?
カヘエさんたちの緊迫した様子に私は思わず自分の耳を疑った。
海は穏やかで、こんなにも晴れているというのに!
「フィーネ様、本当にこの霧の先に精霊の島があるのでしょうか?」
「クリスさんまで!?」
隣にいるクリスさんの不安げな様子に私は思わず大きな声でそう聞き返した。
「フィーネ様?」
「あ、いえ、まさかクリスさんまでそんなことを言うとは思っていなくて」
「っ! 失礼しました。フィーネ様が不安がられていないのに私が不安がるなど……」
私の言葉の意味を勘違いしたクリスさんが申し訳なさそうにそう謝罪してきた。
「い、いえ。そういう意味ではなく……」
「姉さま、この霧、なんか変じゃありませんか?」
「えっ? ルーちゃんまで!?」
するとルーちゃんはこてんと小首をかしげた。
……うーん? この状況ってもしかして?
私は試しにクリスさんの手を握ってみた。
「フィーネ様?」
「これでどうですか?」
「……ご心配いただきありがとうございます。もう大丈夫です」
どうやらダメなようだ。白銀の里のときと同じような感じかと思ったが、そうではないらしい。
「くそっ! 何も見えねぇ!」
「カヘエの旦那! このままじゃ!」
「ええい! ここで負けんじゃねぇ! スイキョウ様のお客人をこの霧の向こうへ届けるんだ!」
「へい!」
カヘエさんたちは必死に船を動かそうとしているようだが、いくら進んでも島へは近づいている気配すらない。むしろ島から遠ざかっているようにさえ見える。
私以外は何も見えていないようだし……うーん。どうしよう? やはりここはシズクさんに。
「シズクさん」
「なんでござるか?」
「どう思いますか?」
「どう、と言われても困るでござるな。この霧では何も見えないでござるよ。晴れてくれるのを霧の外で待ったほうがいいような気もするでござるが、常に霧が出ているのでござろう?」
「ええと……」
「であれば波が低い今のうちに進んでしまうのもありだと思うでござるよ。幸いなことに、船はきちんと前に進んでいるようでござるからな」
「……」
ダメだ。どうやら私以外にあの島が見えておらず、島から遠ざかっていることにすら気付いていないらしい。
「ええとですね。私には霧は見えていなくて、島が見えるんです。それと、私にはこの船がその島から遠ざかっているように見えるんです」
「「「えっ!?」」」
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「し、しかし、たしかに進んでいる感覚があるでござるよ?」
「私もです」
シズクさんとクリスさんに同意するかのように、ルーちゃんもうんうんと頷いている。
「そうなんですね。じゃあ、もしかすると船では行けないのかもしれません」
「どういうことでござるか?」
「精霊神様が拒否していると考えれば、納得できませんか?」
「そうかもしれません。ですが、フィーネ様が行かれるのでしたら私もお供いたします!」
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