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欲と業
第十一章最終話 レイアの行方
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「聖女様、こちらとなります」
セルジュさんに案内され、地下室へと向かった私たちの目の前にはドス黒い液体の入った大きなガラス瓶があった。
「これが、秘薬の原液となります」
「この秘薬を薄めて飲ませるんですか?」
「そのとおりです」
セルジュさんの話によると、この秘薬とやらは自分たちで生産したものではなく、ローブを目深にかぶった謎の男によって渡されたものなのだそうだ。
「これを飲めばたちどころに力が得られ、しかも全能感と多幸感を得られるのです。しかし飲み続けると飲まずには……うっ……」
セルジュさんは思い出してしまったようで脂汗を再び流し始めた。
「大丈夫ですか?」
私は先ほどと同じように鎮静魔法を掛け、さらに【闇属性魔法】でその衝動を減らしてあげる。
「聖女様、ありがとうございます」
「いえ」
「ともかく、こちらが原液です。あとはそちらに経口摂取用の麻薬がございまして、先ほどの原液をかなり薄めたものに混ぜて流しておりました。麻薬を入れるのは、そのほうが依存性がより高くなるからのようです」
「なるほど」
セルジュさんはそう説明しつつも、かなり後悔しているような表情を浮かべている。
「セルジュさん、隷属の呪印で操られていたのですから仕方ないですよ」
「……はい」
そうは言うものの、やはり良心の呵責に苛まれているのだろう。
まともな人だからこそ、フロランの悪事に加担したということは許せないのだろう。その気持ちはよく理解できる。
私は原液の入った瓶に近づいた。
その瓶の中身の液体は真っ黒だが、どことなく黒い靄のようなものが纏わりついているような?
うーん、どうも瘴気っぽい感じがする。
私は瓶のふたを開け、中に向かって全力で浄化魔法を叩き込んだ。
するとすさまじい手応えと共に中の液体が浄化されていく。やがて光が消えると中の液体は無色透明になっていた。
「やっぱり瘴気でしたね。一体誰がこんなことを……」
「フィーネ様、お疲れ様でした」
こうして私たちはここに保存されていた秘薬の原液を全て浄化したのだった。
◆◇◆
それからさらに調べていると、シズクさんが一つの帳簿を手に私のところへとやってきた。
「フィーネ殿、ルミア殿もこれを見るでござるよ」
シズクさんは帳簿を開いて差し出す。
「はい。ええと……これは!」
「そうでござる。アミスタッド商会が奴隷を売った相手でござる」
シズクさんの開いているそのページには、三件のエルフの販売記録が残されていた。
「ルミア、イルミシティ(ホワイトムーン)、販売先はアルフレッド・メイナード。リエラ、エルムデン、販売先はランベール・バティーニュ。そしてレイア、ダルハ(イエロープラネット)、仲介」
「っ!」
「ダル……ハ……」
探し求めていた情報だ。探し求めていた情報なのだが……。
「フィーネ様、ダルハはもう……」
そうだ。クリスさんの言うとおり、ダルハにはもう何一つ残っていない。文字どおりの廃墟だ。
「そん……な……」
ルーちゃんががっくりと膝から崩れ落ちる。
「ルーちゃん、まだ死んだと決まったわけじゃありません。イエロープラネットへ行ったときにいなかったんですから、まだ他の場所に売られた可能性だってあります。ほら、ここにも仲介って書いてありますから」
「……そう、でうすよね」
「はい。だから諦めずに探しましょう」
「……はい」
こうしてすっかり落ち込んでしまったルーちゃんをなんとか励まし、私たちはフロランのアジトを後にしたのだった。
◆◇◆
私たちはフロランの遺体を修道院の墓地に埋葬し、その墓地の端にリーチェの種を植えた。
とんでもなく悪いことをした奴ではあるが、それでも母親であるドロテさんにとっては大切な息子で、残された唯一の家族だったのだ。
ドロテさんがブルースター共和国で何をしてきたのかは分からない。だが家族を全て失い、罪を反省して修道院で祈り続けるというドロテさんにこれ以上の罰を与えても意味はないだろう。
そう考えた私はあえてドロテさんのことを通報しなかった。
その後再びジルベール七世のところに行き、ドロテさんのことをぼかしつつ事の顛末を報告した。
ジルベール七世は私たちに感謝をしてはいたものの、それよりも自分たちの入国管理が杜撰であったことを恥じている様子だった。
これからは国境警備をしっかりするだけでなく住民一人一人をきちんと管理し、民が幸せに暮らせるよう全力を尽くしていくと約束してくれた。
ジルベール七世が約束を守り、しっかりとオレンジスター公国を治めてくれることを願うばかりだ。
それからしばらくの間、私たちはスラム街でフロランが行った非道の後始末に追われることとなった。
隷属の呪印を入れられた人々を解放しつつ秘薬を処分し、さらには麻薬中毒者たちの治療も行った。
その過程で麻薬については解毒魔法でどうにかすることができたが、秘薬については解毒魔法が効かないということが分かった。
よくは分からないが、麻薬は毒だが秘薬は毒ではないということのようだ。
そんな秘薬に侵されてしまった人の症状も【闇属性魔法】で多少緩和することができたが、やはりレベルがMAXではないこともあってか完全に回復させることはできなかった。
こういった人たちを救うためにも、【闇属性魔法】をもう少し上げるというのもありかもしれない。
あ、でもこれを上げるにはまたあのハゲ神様のタブレットが必要になるんだったね。
となるとこれはちょっと難しいかもしれない。
◆◇◆
そんなこんなでオレンジスター公国を離れる日がやってきた。
「聖女様、この度は本当にありがとうございました」
「いえ、当然のことをしただけですから」
「我が国は聖女様に救われたも同然です。聖女様のこのご活躍は、必ずや末代まで語り継いで参ります」
「あ、いえ、そこまでしなくても……」
「本当は聖女様には末永く我が国にお住みいただきたいのですが……」
「それはちょっと……」
「もちろん、承知しております。聖女様には大切な使命がおありなのでしょうからな。ですが、我が国も国民も、いつだって聖女様をお慕い申し上げております。どうかいつの日か、使命を果たされましたら再び我が国にお越しください。大歓迎をいたしますぞ」
「はあ、ありがとうございます」
そこまでされるようなことをしたつもりはないけれど、まあ希望を持って暮らしてくれれば瘴気もそれだけ減るだろうからね。
「それじゃあ、お世話になりました」
「とんでもございません」
こうして私たちはオレンジスター公国を出発し、精霊の島を目指して歩き始めたのだった。
◆◇◆
ここはこの世界のどこかにある薄暗い部屋の中。そんな部屋の中ではローブ姿の二人の男がテーブルを挟んで向かい合っていた。
「ヘルマンよ。計画は聖女によって阻止されたようだな。隷属の宝珠も聖女の手に渡ったそうではないか」
「……深淵よ。嫌味を言いに来たのか?」
「まさか。だが、そろそろ計画の邪魔になっているのではないか?」
「……あの聖女は瘴気を浄化する能力を持っているのは間違いない。その証拠に聖女が赴いた場所では瘴気が減っている」
「本当にそうなのか? 聖女が得意とする【聖属性魔法】には瘴気を消滅させる力はない。聖女など人間に希望を持たせるように作られた哀れな神の操り人形なのだ。人間が勝手に希望を見出しただけではないか?」
「それだけでは説明がつかんのだ。まるで何かに吸い取られているかのように少しずつ減っていっている」
「……それにそもそも、あの聖女は吸血鬼なのだろう?」
「だからこそ、だ。あの聖女は何もかもが規格外なのだ。安易に始末してしまえば取り返しがつかないことになる。むしろ、機を見てこちらに引き込むべきであろう?」
「だが、その瘴気を消滅させる力についてはしっかりと確認をするべきだ。聖女がどうやって瘴気を消滅させているのか、進化の秘術にその力を利用できるのか、きちん見極めなければ我々も共倒れとなるぞ」
「わかっている。だからこそ、こうしてその足跡を追っているのではないか」
「だがせっかくの隷属の宝珠を奪われてしまっては意味があるまい。あれを使えば簡単に調べられたものを……」
「……過ぎたことを言っても仕方がない。我々の目的は進化の秘術を完成させ、瘴気を完全にコントロールすることだ。違うか?」
「ふ、まあいい。私は私で調査を続行する。せいぜい足元をすくわれんようにな」
深淵の言葉にヘルマンは眉間に皺を寄せるが、深淵はそんなヘルマンを見てニタリと笑うと踵を返して歩いていった。
「……いけ好かない男だ」
深淵を見送ったヘルマンは小さく舌打ちをすると、ぼそりとそう呟いたのだった。
================
お読みいただきありがとうございました。これにて第十章は完結となります。
本章は前章での激闘から一転して、人間社会の汚さや金にフォーカスした章となりました。罪を侵す者もいれば罪を反省する者もおり、また罪をなかったことにしようとする者もいます。
誰が悪で、誰が無辜で、何が正義なのか。
聖女となったフィーネちゃんに人間社会の壁が立ちはだかりました。
おそらく読者の皆様におかれましてはモヤモヤとした部分が残る幕切れだったと思います。ですが本章ではそういった人間社会の難しい部分もしっかり描写し、瘴気の問題の根深さを浮き彫りにすることを目指しました。
実は筆者としても本章はかなり悩みまして、中々納得がいかずに何度も修正した結果、最終的にこのような形となりました。
そういった部分も含め、何かが伝わっていましたなら幸いです。
まあ、その結果として別の小説の書籍版の原稿と予定が被り、本章は連載再開がかなり遅れてしまったわけですが……。
一方で魔王軍ことベルードと愉快な仲間たちがどうやら今回の一件は裏で糸を引いているようです。
ベルードとフィーネちゃんは瘴気の問題を解決するという目標は同じですが、はたして両者が共闘する未来はあるのでしょうか?
まだまだ多くの謎が残っておりますが、第十二章では精霊の島を目指して旅を続けていくこととなります。
どうぞ今後の展開にご期待いただけますと幸いです。
さて、この後はいつも通りフィーネちゃんたちのステータス紹介と設定のまとめなどを一話挟みまして、第十二章を投稿して参ります。
まとめの更新は通常どおりのスケジュールを予定しております。
第十二章の更新再開は未定ですが、プロット自体は出来ております。早期再開を目指して執筆を進めて参りますので、しばらくお待ちいただけますと幸いです。
まだの方はぜひ、お気に入り登録と筆者の Twitter ( @kotaro_isshiki ) をフォローして頂けますと幸いです。いち早く更新再開の情報をお届けできるかと思います。
セルジュさんに案内され、地下室へと向かった私たちの目の前にはドス黒い液体の入った大きなガラス瓶があった。
「これが、秘薬の原液となります」
「この秘薬を薄めて飲ませるんですか?」
「そのとおりです」
セルジュさんの話によると、この秘薬とやらは自分たちで生産したものではなく、ローブを目深にかぶった謎の男によって渡されたものなのだそうだ。
「これを飲めばたちどころに力が得られ、しかも全能感と多幸感を得られるのです。しかし飲み続けると飲まずには……うっ……」
セルジュさんは思い出してしまったようで脂汗を再び流し始めた。
「大丈夫ですか?」
私は先ほどと同じように鎮静魔法を掛け、さらに【闇属性魔法】でその衝動を減らしてあげる。
「聖女様、ありがとうございます」
「いえ」
「ともかく、こちらが原液です。あとはそちらに経口摂取用の麻薬がございまして、先ほどの原液をかなり薄めたものに混ぜて流しておりました。麻薬を入れるのは、そのほうが依存性がより高くなるからのようです」
「なるほど」
セルジュさんはそう説明しつつも、かなり後悔しているような表情を浮かべている。
「セルジュさん、隷属の呪印で操られていたのですから仕方ないですよ」
「……はい」
そうは言うものの、やはり良心の呵責に苛まれているのだろう。
まともな人だからこそ、フロランの悪事に加担したということは許せないのだろう。その気持ちはよく理解できる。
私は原液の入った瓶に近づいた。
その瓶の中身の液体は真っ黒だが、どことなく黒い靄のようなものが纏わりついているような?
うーん、どうも瘴気っぽい感じがする。
私は瓶のふたを開け、中に向かって全力で浄化魔法を叩き込んだ。
するとすさまじい手応えと共に中の液体が浄化されていく。やがて光が消えると中の液体は無色透明になっていた。
「やっぱり瘴気でしたね。一体誰がこんなことを……」
「フィーネ様、お疲れ様でした」
こうして私たちはここに保存されていた秘薬の原液を全て浄化したのだった。
◆◇◆
それからさらに調べていると、シズクさんが一つの帳簿を手に私のところへとやってきた。
「フィーネ殿、ルミア殿もこれを見るでござるよ」
シズクさんは帳簿を開いて差し出す。
「はい。ええと……これは!」
「そうでござる。アミスタッド商会が奴隷を売った相手でござる」
シズクさんの開いているそのページには、三件のエルフの販売記録が残されていた。
「ルミア、イルミシティ(ホワイトムーン)、販売先はアルフレッド・メイナード。リエラ、エルムデン、販売先はランベール・バティーニュ。そしてレイア、ダルハ(イエロープラネット)、仲介」
「っ!」
「ダル……ハ……」
探し求めていた情報だ。探し求めていた情報なのだが……。
「フィーネ様、ダルハはもう……」
そうだ。クリスさんの言うとおり、ダルハにはもう何一つ残っていない。文字どおりの廃墟だ。
「そん……な……」
ルーちゃんががっくりと膝から崩れ落ちる。
「ルーちゃん、まだ死んだと決まったわけじゃありません。イエロープラネットへ行ったときにいなかったんですから、まだ他の場所に売られた可能性だってあります。ほら、ここにも仲介って書いてありますから」
「……そう、でうすよね」
「はい。だから諦めずに探しましょう」
「……はい」
こうしてすっかり落ち込んでしまったルーちゃんをなんとか励まし、私たちはフロランのアジトを後にしたのだった。
◆◇◆
私たちはフロランの遺体を修道院の墓地に埋葬し、その墓地の端にリーチェの種を植えた。
とんでもなく悪いことをした奴ではあるが、それでも母親であるドロテさんにとっては大切な息子で、残された唯一の家族だったのだ。
ドロテさんがブルースター共和国で何をしてきたのかは分からない。だが家族を全て失い、罪を反省して修道院で祈り続けるというドロテさんにこれ以上の罰を与えても意味はないだろう。
そう考えた私はあえてドロテさんのことを通報しなかった。
その後再びジルベール七世のところに行き、ドロテさんのことをぼかしつつ事の顛末を報告した。
ジルベール七世は私たちに感謝をしてはいたものの、それよりも自分たちの入国管理が杜撰であったことを恥じている様子だった。
これからは国境警備をしっかりするだけでなく住民一人一人をきちんと管理し、民が幸せに暮らせるよう全力を尽くしていくと約束してくれた。
ジルベール七世が約束を守り、しっかりとオレンジスター公国を治めてくれることを願うばかりだ。
それからしばらくの間、私たちはスラム街でフロランが行った非道の後始末に追われることとなった。
隷属の呪印を入れられた人々を解放しつつ秘薬を処分し、さらには麻薬中毒者たちの治療も行った。
その過程で麻薬については解毒魔法でどうにかすることができたが、秘薬については解毒魔法が効かないということが分かった。
よくは分からないが、麻薬は毒だが秘薬は毒ではないということのようだ。
そんな秘薬に侵されてしまった人の症状も【闇属性魔法】で多少緩和することができたが、やはりレベルがMAXではないこともあってか完全に回復させることはできなかった。
こういった人たちを救うためにも、【闇属性魔法】をもう少し上げるというのもありかもしれない。
あ、でもこれを上げるにはまたあのハゲ神様のタブレットが必要になるんだったね。
となるとこれはちょっと難しいかもしれない。
◆◇◆
そんなこんなでオレンジスター公国を離れる日がやってきた。
「聖女様、この度は本当にありがとうございました」
「いえ、当然のことをしただけですから」
「我が国は聖女様に救われたも同然です。聖女様のこのご活躍は、必ずや末代まで語り継いで参ります」
「あ、いえ、そこまでしなくても……」
「本当は聖女様には末永く我が国にお住みいただきたいのですが……」
「それはちょっと……」
「もちろん、承知しております。聖女様には大切な使命がおありなのでしょうからな。ですが、我が国も国民も、いつだって聖女様をお慕い申し上げております。どうかいつの日か、使命を果たされましたら再び我が国にお越しください。大歓迎をいたしますぞ」
「はあ、ありがとうございます」
そこまでされるようなことをしたつもりはないけれど、まあ希望を持って暮らしてくれれば瘴気もそれだけ減るだろうからね。
「それじゃあ、お世話になりました」
「とんでもございません」
こうして私たちはオレンジスター公国を出発し、精霊の島を目指して歩き始めたのだった。
◆◇◆
ここはこの世界のどこかにある薄暗い部屋の中。そんな部屋の中ではローブ姿の二人の男がテーブルを挟んで向かい合っていた。
「ヘルマンよ。計画は聖女によって阻止されたようだな。隷属の宝珠も聖女の手に渡ったそうではないか」
「……深淵よ。嫌味を言いに来たのか?」
「まさか。だが、そろそろ計画の邪魔になっているのではないか?」
「……あの聖女は瘴気を浄化する能力を持っているのは間違いない。その証拠に聖女が赴いた場所では瘴気が減っている」
「本当にそうなのか? 聖女が得意とする【聖属性魔法】には瘴気を消滅させる力はない。聖女など人間に希望を持たせるように作られた哀れな神の操り人形なのだ。人間が勝手に希望を見出しただけではないか?」
「それだけでは説明がつかんのだ。まるで何かに吸い取られているかのように少しずつ減っていっている」
「……それにそもそも、あの聖女は吸血鬼なのだろう?」
「だからこそ、だ。あの聖女は何もかもが規格外なのだ。安易に始末してしまえば取り返しがつかないことになる。むしろ、機を見てこちらに引き込むべきであろう?」
「だが、その瘴気を消滅させる力についてはしっかりと確認をするべきだ。聖女がどうやって瘴気を消滅させているのか、進化の秘術にその力を利用できるのか、きちん見極めなければ我々も共倒れとなるぞ」
「わかっている。だからこそ、こうしてその足跡を追っているのではないか」
「だがせっかくの隷属の宝珠を奪われてしまっては意味があるまい。あれを使えば簡単に調べられたものを……」
「……過ぎたことを言っても仕方がない。我々の目的は進化の秘術を完成させ、瘴気を完全にコントロールすることだ。違うか?」
「ふ、まあいい。私は私で調査を続行する。せいぜい足元をすくわれんようにな」
深淵の言葉にヘルマンは眉間に皺を寄せるが、深淵はそんなヘルマンを見てニタリと笑うと踵を返して歩いていった。
「……いけ好かない男だ」
深淵を見送ったヘルマンは小さく舌打ちをすると、ぼそりとそう呟いたのだった。
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お読みいただきありがとうございました。これにて第十章は完結となります。
本章は前章での激闘から一転して、人間社会の汚さや金にフォーカスした章となりました。罪を侵す者もいれば罪を反省する者もおり、また罪をなかったことにしようとする者もいます。
誰が悪で、誰が無辜で、何が正義なのか。
聖女となったフィーネちゃんに人間社会の壁が立ちはだかりました。
おそらく読者の皆様におかれましてはモヤモヤとした部分が残る幕切れだったと思います。ですが本章ではそういった人間社会の難しい部分もしっかり描写し、瘴気の問題の根深さを浮き彫りにすることを目指しました。
実は筆者としても本章はかなり悩みまして、中々納得がいかずに何度も修正した結果、最終的にこのような形となりました。
そういった部分も含め、何かが伝わっていましたなら幸いです。
まあ、その結果として別の小説の書籍版の原稿と予定が被り、本章は連載再開がかなり遅れてしまったわけですが……。
一方で魔王軍ことベルードと愉快な仲間たちがどうやら今回の一件は裏で糸を引いているようです。
ベルードとフィーネちゃんは瘴気の問題を解決するという目標は同じですが、はたして両者が共闘する未来はあるのでしょうか?
まだまだ多くの謎が残っておりますが、第十二章では精霊の島を目指して旅を続けていくこととなります。
どうぞ今後の展開にご期待いただけますと幸いです。
さて、この後はいつも通りフィーネちゃんたちのステータス紹介と設定のまとめなどを一話挟みまして、第十二章を投稿して参ります。
まとめの更新は通常どおりのスケジュールを予定しております。
第十二章の更新再開は未定ですが、プロット自体は出来ております。早期再開を目指して執筆を進めて参りますので、しばらくお待ちいただけますと幸いです。
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