勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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欲と業

第十一章第27話 暴かれた真実

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 ベンノさんが興奮状態となってしまったため、私たちは一度別室で話合いをすることにした。

「拙者は反対でござるよ。拙者もあの裁判結果は無茶苦茶だと思うでござるが、今そんなことをしてしまえば行く先々で同じことに巻き込まれるでござるからな」
「あたしも反対ですっ。あたしたちには関係ないですから。それよりも早く精霊の島に行って、精霊神様に会って、それでレイアを探したいですっ」

 うーん。やっぱりそうだよね。可愛そうな気はするけれど……。

「フィーネ様、もしよろしければリヒャルド会長の話だけでも聞いてみませんか?」
「えっ?」

 ルーちゃんが意外そうにクリスさんのほうを見た。

「正義が失われているのに見て見ぬふりをするのは、やはり良くないと思います。フィーネ様はアイロールで、【闇属性魔法】の力で人の心をお救いになられました。あれから大きくレベルアップされたフィーネ様であれば、罪を犯したかどうかの自白くらいはさせられるのではありませんか?」
「え?」

 なるほど? そんなこと、考えたこともなかった。

 たしかに闇属性の力を使えば精神状態に干渉することができる。それと【魅了】を組み合わせれば普通の人に自白させるくらいは簡単に出来そうな気がする。

 でも、そんなことをしていいんだろうか?

「リヒャルド会長が本当に罪を犯していたのであれば罰を受けるのは当然です。ですがそうでないならば……」

 ううん。それも一理ある気がする。

「わかりました。まずは一度、リヒャルド会長と話をさせてもらいましょう」
「フィーネ様! はい!」

◆◇◆

「おお、聖女様! まさか儂が生きている間にお目にかかれるとは! 神に感謝いたします!」

 牢屋の鉄格子の向こうで囚人服を聞いた高齢の男性がそう言うと、ブーンからのジャンピング土下座を決めた。

 牢屋の中がかなり狭いこともあり、綺麗なフォームで、というわけにはいかなかった。だが、それでも気持ちのこもったいい演技だったと思う。これは7点あげていいかもしれない。

「神の御心のままに」

 そんなお決まりのやり取りをしてから、私たちは本題に入る。

「して、聖女様。このような処刑を待つ老骨になんのご用ですかな?」
「あなたの息子のベンノさんにお願いされたのです。冤罪なので裁判のやり直しをさせてほしいと」
「ほっほっほっ。我が愚息が大変なご迷惑をおかけいたしましたなぁ。ですが、そのようなことはなさらずとも構いません。無駄ですからな」

 まるで諦めたような表情でリヒャルドさんはそう答えた。

「無駄? じゃあ、リヒャルドさんはその女性の殺害を指示したと認めるんですか?」
「まさか。誓って、そのようなことはしておりません。ですが、裁判をやり直したとしても無駄なのです」
「どういうことですか?」
「それは、裁判官の連中が買収されておるからですよ」

 はい?

「今の裁判官は聖女様がシルバーフィールドへ向かわれた後に任命された者ばかりです。彼らはグレンド商会などハスラングループと敵対関係にある商会の関係者でしてな。公正な裁判など期待できないのですよ」

 ええと? グレンド商会って、エドをくれた商会だよね?

「とはいえ、今まではハスラングループの関係者が裁判官をしておりましたからな。微妙な裁定であれば我々が有利になっていたという面もたしかにございました。しかしそれはあくまで法に則ったもので、このような無茶苦茶な判決はございませんでした」
「……」
「ですが、それも奴らは気に入らなかったのでしょうな……」

 そう言ってリヒャルドさんは遠い目をした。

「フィーネ様……」

 おっと、そうだった。目的を忘れるところだった。

「リヒャルドさん、魔法を掛けてもいいですか?」
「聖女様が? もちろんです。聖女様に魔法をかけていただけるなど、冥途の土産にしても過分なほどでございますな」
「……それじゃあ、ちょっと私の目を見てくれませんか?」
「はい」

 リヒャルドさんが私と目を合わせた瞬間、【魅了】を発動する。それと同時に【闇属性魔法】の力を発動させ、リヒャルドさんの意識をリラックスさせる。

「リヒャルドさん、私の質問に正直に答えてください」
「……はい」

 リヒャルドさんは虚ろな目でそう答えた。

「リヒャルドさんは、今回の事件で犯人に殺害を依頼しましたか?」
「……いいえ」

 なるほど。濡れ衣というのは本当のようだ。

 じゃあ、もう大丈夫かな?

 そう思ったのだが、シズクさんが横からそっと助言をしてくれる。

「フィーネ殿、犯人と知り合いかどうかも聞くでござるよ」
「あ、はい。それでは、リヒャルドさんと犯人は以前からの知り合いですか?」
「……いいえ」
「では、レストランで会ったのが初めてですか?」
「……はい」
「どうして会ったのかを聞くでござるよ」
「わかりました。それでは、なぜ犯人の男と会ったのですか?」
「……ヨハン・グレンドの代理人を名乗っていたのです」
「!?」

 ヨハンさんが?

「どういうことですか?」
「……聖女様に見放されたハスラングループと喧伝けんでんされ、それを止めさせるための話し合いをする予定でした。その際に、その男が代理人としてやってきました」

 んんん? なんだか妙な話になってきたぞ?

 実はヨハンさんが黒幕だったわけ?

「フィーネ殿、尋問を続けるでござるよ。その後、彼とは会ったでござるか?」
「あ、はい。ええと、リヒャルドさんは犯人の男とその後も会いましたか?」
「……いいえ」
「ええと……」
「間接的な接触はあったでござるか?」
「あ、はい。ええと、それじゃあ、連絡は取りましたか?」
「……いいえ」
「なるほど。ええと、シズクさん?」
「これは、完全に白でござるな」
「フィーネ様、やはりこの男が殺されるのは……」
「そうですね」

 私は【魅了】を解いた。

「……」

 リヒャルドさんはボーっとしている様子だが、すぐに意識が戻ってきたようだ。

「え? わ、私はなぜこんなことを!? ベンノを巻き込まぬよう墓まで持っていくつもりだったのに!」

 その様子に少しの罪悪感と、救えるなら救ってあげたいという気持ちが湧いてくる。

「……すみません。ですが、リヒャルドさんが死ぬ必要はないと思います。もちろん、ベンノさんも。ですから、どうか安心してください」
「……聖女様」

 そう言ってリヒャルドさんはブーンからのジャンピング土下座を決めた。それはとても気持ちのこもったいい演技で、演技の良し悪しはフォームやキレだけで決まるものではないということをまざまざと見せつけてくれるものだった。

 うん。8点。

「神の御心のままに」
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