勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

文字の大きさ
506 / 625
欲と業

第十一章第27話 暴かれた真実

しおりを挟む
 ベンノさんが興奮状態となってしまったため、私たちは一度別室で話合いをすることにした。

「拙者は反対でござるよ。拙者もあの裁判結果は無茶苦茶だと思うでござるが、今そんなことをしてしまえば行く先々で同じことに巻き込まれるでござるからな」
「あたしも反対ですっ。あたしたちには関係ないですから。それよりも早く精霊の島に行って、精霊神様に会って、それでレイアを探したいですっ」

 うーん。やっぱりそうだよね。可愛そうな気はするけれど……。

「フィーネ様、もしよろしければリヒャルド会長の話だけでも聞いてみませんか?」
「えっ?」

 ルーちゃんが意外そうにクリスさんのほうを見た。

「正義が失われているのに見て見ぬふりをするのは、やはり良くないと思います。フィーネ様はアイロールで、【闇属性魔法】の力で人の心をお救いになられました。あれから大きくレベルアップされたフィーネ様であれば、罪を犯したかどうかの自白くらいはさせられるのではありませんか?」
「え?」

 なるほど? そんなこと、考えたこともなかった。

 たしかに闇属性の力を使えば精神状態に干渉することができる。それと【魅了】を組み合わせれば普通の人に自白させるくらいは簡単に出来そうな気がする。

 でも、そんなことをしていいんだろうか?

「リヒャルド会長が本当に罪を犯していたのであれば罰を受けるのは当然です。ですがそうでないならば……」

 ううん。それも一理ある気がする。

「わかりました。まずは一度、リヒャルド会長と話をさせてもらいましょう」
「フィーネ様! はい!」

◆◇◆

「おお、聖女様! まさか儂が生きている間にお目にかかれるとは! 神に感謝いたします!」

 牢屋の鉄格子の向こうで囚人服を聞いた高齢の男性がそう言うと、ブーンからのジャンピング土下座を決めた。

 牢屋の中がかなり狭いこともあり、綺麗なフォームで、というわけにはいかなかった。だが、それでも気持ちのこもったいい演技だったと思う。これは7点あげていいかもしれない。

「神の御心のままに」

 そんなお決まりのやり取りをしてから、私たちは本題に入る。

「して、聖女様。このような処刑を待つ老骨になんのご用ですかな?」
「あなたの息子のベンノさんにお願いされたのです。冤罪なので裁判のやり直しをさせてほしいと」
「ほっほっほっ。我が愚息が大変なご迷惑をおかけいたしましたなぁ。ですが、そのようなことはなさらずとも構いません。無駄ですからな」

 まるで諦めたような表情でリヒャルドさんはそう答えた。

「無駄? じゃあ、リヒャルドさんはその女性の殺害を指示したと認めるんですか?」
「まさか。誓って、そのようなことはしておりません。ですが、裁判をやり直したとしても無駄なのです」
「どういうことですか?」
「それは、裁判官の連中が買収されておるからですよ」

 はい?

「今の裁判官は聖女様がシルバーフィールドへ向かわれた後に任命された者ばかりです。彼らはグレンド商会などハスラングループと敵対関係にある商会の関係者でしてな。公正な裁判など期待できないのですよ」

 ええと? グレンド商会って、エドをくれた商会だよね?

「とはいえ、今まではハスラングループの関係者が裁判官をしておりましたからな。微妙な裁定であれば我々が有利になっていたという面もたしかにございました。しかしそれはあくまで法に則ったもので、このような無茶苦茶な判決はございませんでした」
「……」
「ですが、それも奴らは気に入らなかったのでしょうな……」

 そう言ってリヒャルドさんは遠い目をした。

「フィーネ様……」

 おっと、そうだった。目的を忘れるところだった。

「リヒャルドさん、魔法を掛けてもいいですか?」
「聖女様が? もちろんです。聖女様に魔法をかけていただけるなど、冥途の土産にしても過分なほどでございますな」
「……それじゃあ、ちょっと私の目を見てくれませんか?」
「はい」

 リヒャルドさんが私と目を合わせた瞬間、【魅了】を発動する。それと同時に【闇属性魔法】の力を発動させ、リヒャルドさんの意識をリラックスさせる。

「リヒャルドさん、私の質問に正直に答えてください」
「……はい」

 リヒャルドさんは虚ろな目でそう答えた。

「リヒャルドさんは、今回の事件で犯人に殺害を依頼しましたか?」
「……いいえ」

 なるほど。濡れ衣というのは本当のようだ。

 じゃあ、もう大丈夫かな?

 そう思ったのだが、シズクさんが横からそっと助言をしてくれる。

「フィーネ殿、犯人と知り合いかどうかも聞くでござるよ」
「あ、はい。それでは、リヒャルドさんと犯人は以前からの知り合いですか?」
「……いいえ」
「では、レストランで会ったのが初めてですか?」
「……はい」
「どうして会ったのかを聞くでござるよ」
「わかりました。それでは、なぜ犯人の男と会ったのですか?」
「……ヨハン・グレンドの代理人を名乗っていたのです」
「!?」

 ヨハンさんが?

「どういうことですか?」
「……聖女様に見放されたハスラングループと喧伝けんでんされ、それを止めさせるための話し合いをする予定でした。その際に、その男が代理人としてやってきました」

 んんん? なんだか妙な話になってきたぞ?

 実はヨハンさんが黒幕だったわけ?

「フィーネ殿、尋問を続けるでござるよ。その後、彼とは会ったでござるか?」
「あ、はい。ええと、リヒャルドさんは犯人の男とその後も会いましたか?」
「……いいえ」
「ええと……」
「間接的な接触はあったでござるか?」
「あ、はい。ええと、それじゃあ、連絡は取りましたか?」
「……いいえ」
「なるほど。ええと、シズクさん?」
「これは、完全に白でござるな」
「フィーネ様、やはりこの男が殺されるのは……」
「そうですね」

 私は【魅了】を解いた。

「……」

 リヒャルドさんはボーっとしている様子だが、すぐに意識が戻ってきたようだ。

「え? わ、私はなぜこんなことを!? ベンノを巻き込まぬよう墓まで持っていくつもりだったのに!」

 その様子に少しの罪悪感と、救えるなら救ってあげたいという気持ちが湧いてくる。

「……すみません。ですが、リヒャルドさんが死ぬ必要はないと思います。もちろん、ベンノさんも。ですから、どうか安心してください」
「……聖女様」

 そう言ってリヒャルドさんはブーンからのジャンピング土下座を決めた。それはとても気持ちのこもったいい演技で、演技の良し悪しはフォームやキレだけで決まるものではないということをまざまざと見せつけてくれるものだった。

 うん。8点。

「神の御心のままに」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

処理中です...