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欲と業
第十一章第20話 ルミアの悩み
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私たちが洞窟を出ると、すでに夜の帳が下りていた。そのまま里に戻った私たちはリエラさんとも合流し、少し遅めの夕食をいただいている。
「あらぁ? 聖女様ったら、もっと食べないと大きくなれませんよぉ?」
いやいや。リエラさんだってスリム体型じゃないか。そりゃあ、私よりは背も高いし胸だってあるけどさ。
「たくさん食べるのが、健康の秘訣ですよぉ。ほら、もっと食べないとぉ」
「お主が食べすぎなんじゃ」
そう言ってトナカイ肉のステーキがこんもりと盛られたお皿を勧めてくるリエラさんにインゴールヴィーナさんが呆れた様子でそうツッコミを入れる。
「そんなことありませんよぉ。ほら、うちのルミアだって……あらぁ? 食欲がなさそうね?」
「あれのどこがじゃ!」
ルーちゃんの前には食べ終えたお皿が五皿ほど積まれているのをみたインゴールヴィーナさんがまたしてもツッコミを入れる。
だが、たしかにルーちゃんにしてはあの量は少ない。
「ルーちゃん、何かありましたか?」
「え? そんなこと……」
何やら浮かない表情だ。どうしたのだろうか?
「ほら、お母さんに相談してみなさい?」
「それは……」
ルーちゃんはそう言って俯くと、目の前のお皿からトナカイのステーキを摘まんで口に運ぶ。それを見たインゴールヴィーナさんはうんざりとした表情になった。
「ルミア? 相談できない悩みなの?」
「……」
ルーちゃんは無言でステーキを口に運んでいる。
「そう。じゃあ、あとでいらっしゃい」
「……うん」
よく分からないが、あれで会話が成立しているようだ。
さすがは親子だ。
きっとリエラさんに任せておけば元気も出るに違いない。
そう考えた私は自分のステーキを口に運ぶ。
うん。やっぱり美味しいね。すごく淡白な味だけれどぎゅっとうま味が詰まっていて、噛めば噛むほどそれが口いっぱいに広がる。しかもこのあたりの名産らしいコケモモを使って作られた甘酸っぱいソースが絶妙にその味を引き立ててくれている。
その土地に行ってその土地ならではの食べ物を味わう。これぞ旅の醍醐味といったところだろう。
あとは温泉があれば最高なのだが、この里には残念ながら源泉は湧いていない。同じ島のあちこちに温泉が湧いているのだから、この里にも湧いていてくれればいいのにね。
◆◇◆
「お母さん……」
「どうしたの? ルミア」
「うん、あのね……」
食事を終え、フィーネたちが自室に戻り人数の減った食卓にはリエラとルミア、そしてインゴールヴィーナが残っていた。インゴールヴィーナは気を遣って席を外そうとしたのだが、リエラが同席を依頼したのだ。
「あたし、姉さまのお役に立ててないんじゃないかって……。助けてもらって、レイアを探すのだって手伝ってもらってるのに」
苦しそうに語るルミアをリエラは母親らしい優しい目で見守っている。
「この前炎龍王と戦ったときなんてあたしは戦いの邪魔だって……」
「ふむ。じゃが、炎龍王と戦える者なぞそうはおるまいて。フィーネ殿が強すぎるだけで、ルミアとて弱いわけではないじゃろう」
「でもっ! あたしは姉さまと一緒に! 姉さまのお役に!」
目に涙をためてルミアは叫んだ。そんなルミアをリエラは後ろからそっと優しく抱きしめる。
「ルミア、焦ってはダメよ。それに、聖女様はルミアのことを役立たずだなんて思っていないわ。その証拠に、聖女様はここに残れだなんて言っていないでしょう?」
「でも! でもっ!」
ルミアの目からは涙が零れ落ちる。
「ふむ。じゃが、エルフのルミアには無理じゃろうな」
「そんな!」
「焦るでない。話は最後まで聞くのじゃ」
「あ……」
「そなたは精霊との契約に成功したのじゃろう? であれば、その精霊を育ててハイエルフへと存在進化することが一番の近道じゃな」
「でも……」
「あともう一つは、精霊弓士に転職することじゃな」
「え? なんですか? それ?」
「精霊と契約した者のみがなれる戦闘職じゃ」
「そんな職業があったなんて……」
「まあ、普通は百歳くらいでなるものじゃからな。そなたが知らされていなくてもなんの不思議もないのう」
「あたしなんかがなれるんですか?」
「精霊弓士となるには精霊と契約し、【弓術】のスキルをレベル3とすることが必要じゃのう」
「あたし、なれます! 【弓術】、レベル3です!」
「ふむ。よく努力したのじゃな」
「そうよ。よく頑張ったわね」
「あ……」
二人に褒められ、ルミアはハッとした表情を浮かべた。
「なら、今のうちに転職するかの?」
「はい! お願いしますっ!」
ルミアは二つ返事でそう答えたのだった。
「あらぁ? 聖女様ったら、もっと食べないと大きくなれませんよぉ?」
いやいや。リエラさんだってスリム体型じゃないか。そりゃあ、私よりは背も高いし胸だってあるけどさ。
「たくさん食べるのが、健康の秘訣ですよぉ。ほら、もっと食べないとぉ」
「お主が食べすぎなんじゃ」
そう言ってトナカイ肉のステーキがこんもりと盛られたお皿を勧めてくるリエラさんにインゴールヴィーナさんが呆れた様子でそうツッコミを入れる。
「そんなことありませんよぉ。ほら、うちのルミアだって……あらぁ? 食欲がなさそうね?」
「あれのどこがじゃ!」
ルーちゃんの前には食べ終えたお皿が五皿ほど積まれているのをみたインゴールヴィーナさんがまたしてもツッコミを入れる。
だが、たしかにルーちゃんにしてはあの量は少ない。
「ルーちゃん、何かありましたか?」
「え? そんなこと……」
何やら浮かない表情だ。どうしたのだろうか?
「ほら、お母さんに相談してみなさい?」
「それは……」
ルーちゃんはそう言って俯くと、目の前のお皿からトナカイのステーキを摘まんで口に運ぶ。それを見たインゴールヴィーナさんはうんざりとした表情になった。
「ルミア? 相談できない悩みなの?」
「……」
ルーちゃんは無言でステーキを口に運んでいる。
「そう。じゃあ、あとでいらっしゃい」
「……うん」
よく分からないが、あれで会話が成立しているようだ。
さすがは親子だ。
きっとリエラさんに任せておけば元気も出るに違いない。
そう考えた私は自分のステーキを口に運ぶ。
うん。やっぱり美味しいね。すごく淡白な味だけれどぎゅっとうま味が詰まっていて、噛めば噛むほどそれが口いっぱいに広がる。しかもこのあたりの名産らしいコケモモを使って作られた甘酸っぱいソースが絶妙にその味を引き立ててくれている。
その土地に行ってその土地ならではの食べ物を味わう。これぞ旅の醍醐味といったところだろう。
あとは温泉があれば最高なのだが、この里には残念ながら源泉は湧いていない。同じ島のあちこちに温泉が湧いているのだから、この里にも湧いていてくれればいいのにね。
◆◇◆
「お母さん……」
「どうしたの? ルミア」
「うん、あのね……」
食事を終え、フィーネたちが自室に戻り人数の減った食卓にはリエラとルミア、そしてインゴールヴィーナが残っていた。インゴールヴィーナは気を遣って席を外そうとしたのだが、リエラが同席を依頼したのだ。
「あたし、姉さまのお役に立ててないんじゃないかって……。助けてもらって、レイアを探すのだって手伝ってもらってるのに」
苦しそうに語るルミアをリエラは母親らしい優しい目で見守っている。
「この前炎龍王と戦ったときなんてあたしは戦いの邪魔だって……」
「ふむ。じゃが、炎龍王と戦える者なぞそうはおるまいて。フィーネ殿が強すぎるだけで、ルミアとて弱いわけではないじゃろう」
「でもっ! あたしは姉さまと一緒に! 姉さまのお役に!」
目に涙をためてルミアは叫んだ。そんなルミアをリエラは後ろからそっと優しく抱きしめる。
「ルミア、焦ってはダメよ。それに、聖女様はルミアのことを役立たずだなんて思っていないわ。その証拠に、聖女様はここに残れだなんて言っていないでしょう?」
「でも! でもっ!」
ルミアの目からは涙が零れ落ちる。
「ふむ。じゃが、エルフのルミアには無理じゃろうな」
「そんな!」
「焦るでない。話は最後まで聞くのじゃ」
「あ……」
「そなたは精霊との契約に成功したのじゃろう? であれば、その精霊を育ててハイエルフへと存在進化することが一番の近道じゃな」
「でも……」
「あともう一つは、精霊弓士に転職することじゃな」
「え? なんですか? それ?」
「精霊と契約した者のみがなれる戦闘職じゃ」
「そんな職業があったなんて……」
「まあ、普通は百歳くらいでなるものじゃからな。そなたが知らされていなくてもなんの不思議もないのう」
「あたしなんかがなれるんですか?」
「精霊弓士となるには精霊と契約し、【弓術】のスキルをレベル3とすることが必要じゃのう」
「あたし、なれます! 【弓術】、レベル3です!」
「ふむ。よく努力したのじゃな」
「そうよ。よく頑張ったわね」
「あ……」
二人に褒められ、ルミアはハッとした表情を浮かべた。
「なら、今のうちに転職するかの?」
「はい! お願いしますっ!」
ルミアは二つ返事でそう答えたのだった。
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