473 / 625
滅びの神託
第十章第54話 それぞれの戦い
しおりを挟む
「ひっ!?」
突如襲ってきた黒いブレスを浴びたルミアが短く悲鳴を上げると青ざめ、カタカタと震えだした。
「ね、姉さま……」
恐怖のあまりかルミアは一歩二歩と後ずさりするが、それでも弓だけはしっかりと握りしめて遠くに見える炎龍王の姿をじっと見ている。
一方、隣で黒いブレスを受けたアランは前回と同様に顔面を蒼白にして震え、もはや一歩も動けないといった様子だ。
「あ……ユーグ様……」
一瞬青ざめたシャルロットだったが神剣をぎゅっと握りしめるとすぐに立ち直り、すぐさま二人に鎮静魔法をかけた。
「シャルロット様。かたじけない」
「ありがとうございます。シャルロットさん」
「当然のことをしたまでですわ」
そうして三人は生き残った騎士たちのほうへと駆け出すが、そこへすぐさま黒い波動が飛んできた。
波動の通過した場所には次々と魔物が出現する。
「もうっ! なんなんですかっ! あいつっ!」
「無限に魔物を生み出すとは……」
「それでも、わたくしたちは負けるわけにはいきませんわ」
ルミアは弓に矢を番え、シャルロットとアランは剣を構えて戦闘態勢を取る。
「さあ、騎士たちに合流しますわよ!」
シャルロットのその言葉を合図にしたかのように、魔物たちは一斉にシャルロットたちへと襲いかかってきたのだった。
◆◇◆
一方の魔物たちと戦っていた騎士たちは、その最中に再び黒いブレスを浴びたことで完全な恐慌状態に陥っていた。得も知れない恐怖に襲われ、魔物と戦うことなどとても考えられない状態になってしまったのだ。
「あ、あ、し、死ぬ……」
「む、無理だ」
「か、勝てっこない」
「終わりだ」
恐怖におびえ、戦意を喪失する騎士たちの中で七人の男たちがなんとかそれを堪えて剣を構えている。
「お、お前たち! まだだ! まだ負けていない!」
「そ、そうだ! 俺たちが退けば王都は! 民は!」
そこに追い打ちを掛けるかのように黒い波動が押し寄せ、次々と魔物を出現させていく。
「うわぁぁぁぁぁぁ」
恐怖に怯えていた騎士の一人が逃げ出し、そして魔物に狩られて無残な最期を遂げる。
「ば、馬鹿! 固まれ! 固まれ!」
なんとか立っている七人が声を出し、戦意を喪失した仲間の騎士を守るように円陣を組む。
「こ、ここは、俺たちが……」
震えながらも七人の男たちは勇気を振り絞り、なんとか絶望的な防戦を続けるのだった。
◆◇◆
一方の王都は、完全なパニック状態に陥っていた。町全体が恐怖に包まれ、まるで少し前の南部と同じような状態が王都全域で起こっているのだ。
しかし、神殿の中だけはいつもと変わらない平静を保っている。
「もしや、これが滅びをもたらす災厄、でしょうか? おお、神よ!」
教皇をはじめとする聖職者たちがブーンからのジャンピング土下座で一斉に神へと祈りを捧げる。
それからしばらくすると、自暴自棄になった暴徒が神殿にも押し寄せてきた。
「どうせ死ぬんだ! 金目の物を奪え!」
「そうだ!」
神聖な場所であるはずの神殿で盗みを働こうとする彼らの前に教皇が立ちはだかった。
「なっ! 教皇様!? いや、関係ねぇ。どうせもう終わりなんだ! やってやる」
そんな彼らに教皇は鎮静魔法をかけた。
「あ、あれ? 俺、どうしてこんなことを?」
「し、神殿へ盗みに入るだなんて俺は!」
「も、もうしわけございません」
暴徒たちは慌ててブーンからのジャンピング土下座を決める。
「良いのです。あなた方は、あの災厄によって狂わされてしまったのです。悪いのはあなた方ではなくあの災厄ですから、きっと神はお赦しになるでしょう。さあ、みなさん。家へと帰り、家族を安心させてあげなさい」
「は、はいぃぃぃ」
こうして暴徒たちは神殿を後にした。
「さあ、私たちも怯える者たちを救ってあげましょう」
こうして神殿の聖職者たちは怯え、暴れる民衆に鎮静魔法を掛けるために町へと繰り出したのだった。
◆◇◆
ルミアたちが魔物の包囲を潜り抜けて騎士たちの許へと辿りつくと、そこにはわずかに二十名の騎士しか残っていなかった。
怯えながらもなんとか戦っている騎士が七名おり、そして残る十三名は怯えて動けなくなっている。
そんな彼らにシャルロットは一人一人に鎮静魔法を掛けて回り、ようやく落ち着きを取り戻した。
「やはり、あの黒いブレスですの?」
シャルロットはなんとか戦っていた騎士の一人に尋ねた。
「はい。あの黒いブレスを浴びると得体の知れない恐怖が湧いてきて、動けなくなってしまったのです。残念ながらもう我々の他には……」
「そうですの。でも、どうしてあなたたちは戦えていましたの?」
「それが、分からないのです。前は私も動けなくなったのですが、今回はなんとか動けたのです」
「どうしてですの?」
「それは……」
「あ、あの!」
戦えずにいた騎士の一人が手を挙げて発言を求める。
「なんですの?」
「もしかすると、聖女様が何かの魔法をかけられたのかもしれません」
「フィーネが?」
「はい。聖女様は救援に駆けつけられた際、お二人の聖騎士様の額に口付けを落とされて何かの儀式をされていました。その後何かの魔法を発動されていまして、お二人の聖騎士様とルミア様、そして彼ら七人が一瞬ですが淡い光に包まれていたのを自分は見ました」
「そう。フィーネが何かやったんですのね。でも、どうしてたった十人にしか? フィーネなら平気でこの場の全員、なんてことをやりそうですのに」
シャルロットはそう言って首を捻る。
「シャルロット様! 魔物がきますぞ!」
「あっと、そうでしたわね。さあ、フィーネたちがあの竜を倒すまで、王都を守りますわよ!」
「ははっ!」
シャルロットのおかげで立ち直った騎士たちが力強い返事をする。こうして数を減らした第一騎士団とルミアは魔物たちに再び立ち向かうのだった。
突如襲ってきた黒いブレスを浴びたルミアが短く悲鳴を上げると青ざめ、カタカタと震えだした。
「ね、姉さま……」
恐怖のあまりかルミアは一歩二歩と後ずさりするが、それでも弓だけはしっかりと握りしめて遠くに見える炎龍王の姿をじっと見ている。
一方、隣で黒いブレスを受けたアランは前回と同様に顔面を蒼白にして震え、もはや一歩も動けないといった様子だ。
「あ……ユーグ様……」
一瞬青ざめたシャルロットだったが神剣をぎゅっと握りしめるとすぐに立ち直り、すぐさま二人に鎮静魔法をかけた。
「シャルロット様。かたじけない」
「ありがとうございます。シャルロットさん」
「当然のことをしたまでですわ」
そうして三人は生き残った騎士たちのほうへと駆け出すが、そこへすぐさま黒い波動が飛んできた。
波動の通過した場所には次々と魔物が出現する。
「もうっ! なんなんですかっ! あいつっ!」
「無限に魔物を生み出すとは……」
「それでも、わたくしたちは負けるわけにはいきませんわ」
ルミアは弓に矢を番え、シャルロットとアランは剣を構えて戦闘態勢を取る。
「さあ、騎士たちに合流しますわよ!」
シャルロットのその言葉を合図にしたかのように、魔物たちは一斉にシャルロットたちへと襲いかかってきたのだった。
◆◇◆
一方の魔物たちと戦っていた騎士たちは、その最中に再び黒いブレスを浴びたことで完全な恐慌状態に陥っていた。得も知れない恐怖に襲われ、魔物と戦うことなどとても考えられない状態になってしまったのだ。
「あ、あ、し、死ぬ……」
「む、無理だ」
「か、勝てっこない」
「終わりだ」
恐怖におびえ、戦意を喪失する騎士たちの中で七人の男たちがなんとかそれを堪えて剣を構えている。
「お、お前たち! まだだ! まだ負けていない!」
「そ、そうだ! 俺たちが退けば王都は! 民は!」
そこに追い打ちを掛けるかのように黒い波動が押し寄せ、次々と魔物を出現させていく。
「うわぁぁぁぁぁぁ」
恐怖に怯えていた騎士の一人が逃げ出し、そして魔物に狩られて無残な最期を遂げる。
「ば、馬鹿! 固まれ! 固まれ!」
なんとか立っている七人が声を出し、戦意を喪失した仲間の騎士を守るように円陣を組む。
「こ、ここは、俺たちが……」
震えながらも七人の男たちは勇気を振り絞り、なんとか絶望的な防戦を続けるのだった。
◆◇◆
一方の王都は、完全なパニック状態に陥っていた。町全体が恐怖に包まれ、まるで少し前の南部と同じような状態が王都全域で起こっているのだ。
しかし、神殿の中だけはいつもと変わらない平静を保っている。
「もしや、これが滅びをもたらす災厄、でしょうか? おお、神よ!」
教皇をはじめとする聖職者たちがブーンからのジャンピング土下座で一斉に神へと祈りを捧げる。
それからしばらくすると、自暴自棄になった暴徒が神殿にも押し寄せてきた。
「どうせ死ぬんだ! 金目の物を奪え!」
「そうだ!」
神聖な場所であるはずの神殿で盗みを働こうとする彼らの前に教皇が立ちはだかった。
「なっ! 教皇様!? いや、関係ねぇ。どうせもう終わりなんだ! やってやる」
そんな彼らに教皇は鎮静魔法をかけた。
「あ、あれ? 俺、どうしてこんなことを?」
「し、神殿へ盗みに入るだなんて俺は!」
「も、もうしわけございません」
暴徒たちは慌ててブーンからのジャンピング土下座を決める。
「良いのです。あなた方は、あの災厄によって狂わされてしまったのです。悪いのはあなた方ではなくあの災厄ですから、きっと神はお赦しになるでしょう。さあ、みなさん。家へと帰り、家族を安心させてあげなさい」
「は、はいぃぃぃ」
こうして暴徒たちは神殿を後にした。
「さあ、私たちも怯える者たちを救ってあげましょう」
こうして神殿の聖職者たちは怯え、暴れる民衆に鎮静魔法を掛けるために町へと繰り出したのだった。
◆◇◆
ルミアたちが魔物の包囲を潜り抜けて騎士たちの許へと辿りつくと、そこにはわずかに二十名の騎士しか残っていなかった。
怯えながらもなんとか戦っている騎士が七名おり、そして残る十三名は怯えて動けなくなっている。
そんな彼らにシャルロットは一人一人に鎮静魔法を掛けて回り、ようやく落ち着きを取り戻した。
「やはり、あの黒いブレスですの?」
シャルロットはなんとか戦っていた騎士の一人に尋ねた。
「はい。あの黒いブレスを浴びると得体の知れない恐怖が湧いてきて、動けなくなってしまったのです。残念ながらもう我々の他には……」
「そうですの。でも、どうしてあなたたちは戦えていましたの?」
「それが、分からないのです。前は私も動けなくなったのですが、今回はなんとか動けたのです」
「どうしてですの?」
「それは……」
「あ、あの!」
戦えずにいた騎士の一人が手を挙げて発言を求める。
「なんですの?」
「もしかすると、聖女様が何かの魔法をかけられたのかもしれません」
「フィーネが?」
「はい。聖女様は救援に駆けつけられた際、お二人の聖騎士様の額に口付けを落とされて何かの儀式をされていました。その後何かの魔法を発動されていまして、お二人の聖騎士様とルミア様、そして彼ら七人が一瞬ですが淡い光に包まれていたのを自分は見ました」
「そう。フィーネが何かやったんですのね。でも、どうしてたった十人にしか? フィーネなら平気でこの場の全員、なんてことをやりそうですのに」
シャルロットはそう言って首を捻る。
「シャルロット様! 魔物がきますぞ!」
「あっと、そうでしたわね。さあ、フィーネたちがあの竜を倒すまで、王都を守りますわよ!」
「ははっ!」
シャルロットのおかげで立ち直った騎士たちが力強い返事をする。こうして数を減らした第一騎士団とルミアは魔物たちに再び立ち向かうのだった。
0
お気に入りに追加
436
あなたにおすすめの小説
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
食堂の大聖女様〜転生大聖女は実家の食堂を手伝ってただけなのに、なぜか常連客たちが鬼神のような集団になってるんですが?〜
にゃん小春
ファンタジー
魔獣の影響で陸の孤島と化した村に住む少女、ティリスティアーナ・フリューネス。父は左遷された錬金術師で村の治療薬を作り、母は唯一の食堂を営んでいた。代わり映えのしない毎日だが、いずれこの寒村は終わりを迎えるだろう。そんな危機的状況の中、十五歳になったばかりのティリスティアーナはある不思議な夢を見る。それは、前世の記憶とも思える大聖女の処刑の場面だった。夢を見た後、村に奇跡的な現象が起き始める。ティリスティアーナが作る料理を食べた村の老人たちは若返り、強靭な肉体を取り戻していたのだ。
そして、鬼神のごとく強くなってしまった村人たちは狩られるものから狩るものへと代わり危機的状況を脱して行くことに!?
滅びかけた村は復活の兆しを見せ、ティリスティアーナも自らの正体を少しずつ思い出していく。
しかし、村で始まった異変はやがて自称常識人である今世は静かに暮らしたいと宣うティリスティアーナによって世界全体を巻き込む大きな波となって広がっていくのであった。
2025/1/25(土)HOTランキング1位ありがとうございます!

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!
理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。
ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。
仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。
女神様の使い、5歳からやってます
めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。
「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」
女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに?
優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕!
基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。
戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる