勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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滅びの神託

第十章第54話 それぞれの戦い

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「ひっ!?」

 突如襲ってきた黒いブレスを浴びたルミアが短く悲鳴を上げると青ざめ、カタカタと震えだした。

「ね、姉さま……」

 恐怖のあまりかルミアは一歩二歩と後ずさりするが、それでも弓だけはしっかりと握りしめて遠くに見える炎龍王の姿をじっと見ている。

 一方、隣で黒いブレスを受けたアランは前回と同様に顔面を蒼白にして震え、もはや一歩も動けないといった様子だ。

「あ……ユーグ様……」

 一瞬青ざめたシャルロットだったが神剣をぎゅっと握りしめるとすぐに立ち直り、すぐさま二人に鎮静魔法をかけた。

「シャルロット様。かたじけない」
「ありがとうございます。シャルロットさん」
「当然のことをしたまでですわ」

 そうして三人は生き残った騎士たちのほうへと駆け出すが、そこへすぐさま黒い波動が飛んできた。

 波動の通過した場所には次々と魔物が出現する。

「もうっ! なんなんですかっ! あいつっ!」
「無限に魔物を生み出すとは……」
「それでも、わたくしたちは負けるわけにはいきませんわ」

 ルミアは弓に矢を番え、シャルロットとアランは剣を構えて戦闘態勢を取る。

「さあ、騎士たちに合流しますわよ!」

 シャルロットのその言葉を合図にしたかのように、魔物たちは一斉にシャルロットたちへと襲いかかってきたのだった。

◆◇◆

 一方の魔物たちと戦っていた騎士たちは、その最中に再び黒いブレスを浴びたことで完全な恐慌状態に陥っていた。得も知れない恐怖に襲われ、魔物と戦うことなどとても考えられない状態になってしまったのだ。

「あ、あ、し、死ぬ……」
「む、無理だ」
「か、勝てっこない」
「終わりだ」

 恐怖におびえ、戦意を喪失する騎士たちの中で七人の男たちがなんとかそれを堪えて剣を構えている。

「お、お前たち! まだだ! まだ負けていない!」
「そ、そうだ! 俺たちが退けば王都は! 民は!」

 そこに追い打ちを掛けるかのように黒い波動が押し寄せ、次々と魔物を出現させていく。

「うわぁぁぁぁぁぁ」

 恐怖に怯えていた騎士の一人が逃げ出し、そして魔物に狩られて無残な最期を遂げる。

「ば、馬鹿! 固まれ! 固まれ!」

 なんとか立っている七人が声を出し、戦意を喪失した仲間の騎士を守るように円陣を組む。

「こ、ここは、俺たちが……」

 震えながらも七人の男たちは勇気を振り絞り、なんとか絶望的な防戦を続けるのだった。

◆◇◆

 一方の王都は、完全なパニック状態に陥っていた。町全体が恐怖に包まれ、まるで少し前の南部と同じような状態が王都全域で起こっているのだ。

 しかし、神殿の中だけはいつもと変わらない平静を保っている。

「もしや、これが滅びをもたらす災厄、でしょうか? おお、神よ!」

 教皇をはじめとする聖職者たちがブーンからのジャンピング土下座で一斉に神へと祈りを捧げる。

 それからしばらくすると、自暴自棄になった暴徒が神殿にも押し寄せてきた。

「どうせ死ぬんだ! 金目の物を奪え!」
「そうだ!」

 神聖な場所であるはずの神殿で盗みを働こうとする彼らの前に教皇が立ちはだかった。

「なっ! 教皇様!? いや、関係ねぇ。どうせもう終わりなんだ! やってやる」

 そんな彼らに教皇は鎮静魔法をかけた。

「あ、あれ? 俺、どうしてこんなことを?」
「し、神殿へ盗みに入るだなんて俺は!」
「も、もうしわけございません」

 暴徒たちは慌ててブーンからのジャンピング土下座を決める。

「良いのです。あなた方は、あの災厄によって狂わされてしまったのです。悪いのはあなた方ではなくあの災厄ですから、きっと神はおゆるしになるでしょう。さあ、みなさん。家へと帰り、家族を安心させてあげなさい」
「は、はいぃぃぃ」

 こうして暴徒たちは神殿を後にした。

「さあ、私たちも怯える者たちを救ってあげましょう」

 こうして神殿の聖職者たちは怯え、暴れる民衆に鎮静魔法を掛けるために町へと繰り出したのだった。

◆◇◆
 
 ルミアたちが魔物の包囲を潜り抜けて騎士たちのもとへと辿りつくと、そこにはわずかに二十名の騎士しか残っていなかった。

 怯えながらもなんとか戦っている騎士が七名おり、そして残る十三名は怯えて動けなくなっている。

 そんな彼らにシャルロットは一人一人に鎮静魔法を掛けて回り、ようやく落ち着きを取り戻した。

「やはり、あの黒いブレスですの?」

 シャルロットはなんとか戦っていた騎士の一人に尋ねた。

「はい。あの黒いブレスを浴びると得体の知れない恐怖が湧いてきて、動けなくなってしまったのです。残念ながらもう我々の他には……」
「そうですの。でも、どうしてあなたたちは戦えていましたの?」
「それが、分からないのです。前は私も動けなくなったのですが、今回はなんとか動けたのです」
「どうしてですの?」
「それは……」
「あ、あの!」

 戦えずにいた騎士の一人が手を挙げて発言を求める。

「なんですの?」
「もしかすると、聖女様が何かの魔法をかけられたのかもしれません」
「フィーネが?」
「はい。聖女様は救援に駆けつけられた際、お二人の聖騎士様の額に口付けを落とされて何かの儀式をされていました。その後何かの魔法を発動されていまして、お二人の聖騎士様とルミア様、そして彼ら七人が一瞬ですが淡い光に包まれていたのを自分は見ました」
「そう。フィーネが何かやったんですのね。でも、どうしてたった十人にしか? フィーネなら平気でこの場の全員、なんてことをやりそうですのに」

 シャルロットはそう言って首をひねる。

「シャルロット様! 魔物がきますぞ!」
「あっと、そうでしたわね。さあ、フィーネたちがあの竜を倒すまで、王都を守りますわよ!」
「ははっ!」

 シャルロットのおかげで立ち直った騎士たちが力強い返事をする。こうして数を減らした第一騎士団とルミアは魔物たちに再び立ち向かうのだった。
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