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滅びの神託
第十章第55話 炎龍王との死闘(3)
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シズクさんがいつもどおりのすさまじいスピードで魔物を斬り飛ばしたかと思えば、クリスさんは光の斬撃でまとめて何匹かの魔物を斬り飛ばす。そして二人に斬られ、致命傷を負った魔物はそのまま塵となって消えていく。
私は魔物たちを相手には特にやることがないので、炎龍王が上空に飛び立ってしまうのを妨害している。これで何かが解決するわけではないが、もし上空に行かれてしまっては手を出すことができなくなってしまう。それだけは避けなければならない。
とはいえ、私たちとしても手詰まり感はある。シャルの【雷撃】スキルであればもしかすると、と思わないでもないのだが……。
「倒しても倒してもキリがないでござるな」
シズクさんが私の隣に戻ってきた。それに合わせてクリスさんも戻ってくる。
「そうですね。魔物が無限に出てくるというのは……」
「だが、負けるわけにはいかない! ここで倒れれば王都の民は! それに何よりフィーネ様は!」
クリスさんはそう強がるものの、やや疲労の色が見え始めている気がする。
「あの魔物、やっぱり普通と違いますよね?」
「そりゃあ、炎龍王が生み出した魔物でござるからな」
「普通と違うというのは、炎を纏っているということでしょうか?」
「いえ。そうではなく、二人が斬ると塵になるところです。思い返してみると、解放された聖剣で倒したのにオーガはそうなっていなかったなと」
「……そういえば、そうでござるな。フィーネ殿はなぜだと思うでござるか?」
「それが分かれば苦労はないんですが……」
私がそう言うと、シズクさんは一瞬考えるようなそぶりを見せた。そしておもむろに口を開く。
「あれは進化の秘術の一種なのではござらんか?」
「え? 進化の秘術?」
全くの予想外な指摘に私は思わず聞き返した。
「そうでござる。まず、塵となって消えるのは死なない獣や黒兵も同じだったでござる」
「それは、そうですね」
「次に魔物は瘴気と密接に関係しており、瘴気の衝動を消化すると死ぬのでござるな?」
「はい。そうらしいです」
「最後に、フィーネ殿がリーチェ殿の種を使って瘴気を浄化すると魔物の死体は消滅するでござる」
「え? ああ、はい。そうですね」
「これらを総合すると、魔物とは瘴気が集まって変質したものだと考えられるのではござらんか?」
「ううん?」
言っている意味がよく分からない。
「つまり、炎龍王は進化の秘術を使って瘴気から魔物を生み出していると考えれば辻褄が合うでござるよ」
「え? ええと? でも、あの魔物は魔石を落としませんよ?」
「だから死なない獣や黒兵と同じように塵となって消えるのではござらんか?」
「???」
ダメだ。シズクさんの言っていることの意味がさっぱりわからない。
「もしあれが進化の秘術であるならば、傷口に浄化魔法を当てれば倒せると思うでござるよ」
「はぁ。よく分かりませんが、やってみましょう」
「では、討ち漏らしを頼むでござるよ!」
そう言って再びシズクさんは飛び出していった。
「フィーネ様。お任せください!」
クリスさんも後を追う様に飛び出していく。
私は炎龍王が飛び立とうとしていたので、もう何度目かは分からない頭ゴチンでそれを妨害した。怒った炎龍王があの青いレーザーブレスを撃ってきて、それを私が横っ飛びで躱すところまでがもはやセットのルーティンになっている。
と、そのときだった。目の端にシズクさんの斬撃で足を負傷しているものの傷が浅かったのか、塵になっていない猿の魔物が映った。
「浄化!」
半信半疑ではあるものの、死なない獣や黒兵にしたように傷口に浄化魔法を叩き込む。
するとなんと! 私の浄化魔法は猿の魔物をあっさり浄化し、塵へと変えてしまった。
「えっ? 本当に効いた!?」
「フィーネ殿! やはり浄化魔法が効くでござるよ!」
「それなら!」
私は近くの魔物たちにまとめて浄化魔法を掛ける。しかし今度は抵抗があって中々浄化されてくれない。
これは、普通の魔物や傷ついていない黒兵に浄化魔法を掛けたときと同じだ。
「じゃあ、これは本当に進化の秘術ってことですか!?」
しかし誰かが返事をする前に炎龍王が青いレーザーブレスを撃ってきた。それを横っ飛びで躱した私はすぐさま結界を張り直そうとする。だがあの素早い虎の魔物が猛スピードで突っ込んできたかと思うと、一瞬で結界を張ろうとした領域の内側に入り込まれてしまった。
「あっ!?」
右前脚が横に振り抜かれ、鋭い爪が私を襲った。強烈な一撃に私は成すすべなく吹き飛ばされ、左腕にすさまじい激痛が走る。
「フィーネ様!!!」
クリスさんの悲鳴を聞きながら私はそのまま地面をゴロゴロと転がり、腰ほどの高さの岩にぶつかってようやく止まった。慌てて立ち上がろうとするが左腕があらぬ方向に曲がっており、動かそうとすると激痛が走る。
「フィーネ殿! この!」
シズクさんが私に追い打ちを掛けようとしていた虎を横から一刀両断し、塵へと変えた。
「フィーネ様!」
クリスさんが心配そうに駆け寄ってくる。
「う……だ、大丈夫、です。治癒」
自分で自分に治癒魔法を掛けるとみるみる痛みが引いていき、傷口はあっという間に元通りとなった。
「まだ、戦えますよ」
そう答えると二人は安堵の表情を浮かべたのだった。
私は魔物たちを相手には特にやることがないので、炎龍王が上空に飛び立ってしまうのを妨害している。これで何かが解決するわけではないが、もし上空に行かれてしまっては手を出すことができなくなってしまう。それだけは避けなければならない。
とはいえ、私たちとしても手詰まり感はある。シャルの【雷撃】スキルであればもしかすると、と思わないでもないのだが……。
「倒しても倒してもキリがないでござるな」
シズクさんが私の隣に戻ってきた。それに合わせてクリスさんも戻ってくる。
「そうですね。魔物が無限に出てくるというのは……」
「だが、負けるわけにはいかない! ここで倒れれば王都の民は! それに何よりフィーネ様は!」
クリスさんはそう強がるものの、やや疲労の色が見え始めている気がする。
「あの魔物、やっぱり普通と違いますよね?」
「そりゃあ、炎龍王が生み出した魔物でござるからな」
「普通と違うというのは、炎を纏っているということでしょうか?」
「いえ。そうではなく、二人が斬ると塵になるところです。思い返してみると、解放された聖剣で倒したのにオーガはそうなっていなかったなと」
「……そういえば、そうでござるな。フィーネ殿はなぜだと思うでござるか?」
「それが分かれば苦労はないんですが……」
私がそう言うと、シズクさんは一瞬考えるようなそぶりを見せた。そしておもむろに口を開く。
「あれは進化の秘術の一種なのではござらんか?」
「え? 進化の秘術?」
全くの予想外な指摘に私は思わず聞き返した。
「そうでござる。まず、塵となって消えるのは死なない獣や黒兵も同じだったでござる」
「それは、そうですね」
「次に魔物は瘴気と密接に関係しており、瘴気の衝動を消化すると死ぬのでござるな?」
「はい。そうらしいです」
「最後に、フィーネ殿がリーチェ殿の種を使って瘴気を浄化すると魔物の死体は消滅するでござる」
「え? ああ、はい。そうですね」
「これらを総合すると、魔物とは瘴気が集まって変質したものだと考えられるのではござらんか?」
「ううん?」
言っている意味がよく分からない。
「つまり、炎龍王は進化の秘術を使って瘴気から魔物を生み出していると考えれば辻褄が合うでござるよ」
「え? ええと? でも、あの魔物は魔石を落としませんよ?」
「だから死なない獣や黒兵と同じように塵となって消えるのではござらんか?」
「???」
ダメだ。シズクさんの言っていることの意味がさっぱりわからない。
「もしあれが進化の秘術であるならば、傷口に浄化魔法を当てれば倒せると思うでござるよ」
「はぁ。よく分かりませんが、やってみましょう」
「では、討ち漏らしを頼むでござるよ!」
そう言って再びシズクさんは飛び出していった。
「フィーネ様。お任せください!」
クリスさんも後を追う様に飛び出していく。
私は炎龍王が飛び立とうとしていたので、もう何度目かは分からない頭ゴチンでそれを妨害した。怒った炎龍王があの青いレーザーブレスを撃ってきて、それを私が横っ飛びで躱すところまでがもはやセットのルーティンになっている。
と、そのときだった。目の端にシズクさんの斬撃で足を負傷しているものの傷が浅かったのか、塵になっていない猿の魔物が映った。
「浄化!」
半信半疑ではあるものの、死なない獣や黒兵にしたように傷口に浄化魔法を叩き込む。
するとなんと! 私の浄化魔法は猿の魔物をあっさり浄化し、塵へと変えてしまった。
「えっ? 本当に効いた!?」
「フィーネ殿! やはり浄化魔法が効くでござるよ!」
「それなら!」
私は近くの魔物たちにまとめて浄化魔法を掛ける。しかし今度は抵抗があって中々浄化されてくれない。
これは、普通の魔物や傷ついていない黒兵に浄化魔法を掛けたときと同じだ。
「じゃあ、これは本当に進化の秘術ってことですか!?」
しかし誰かが返事をする前に炎龍王が青いレーザーブレスを撃ってきた。それを横っ飛びで躱した私はすぐさま結界を張り直そうとする。だがあの素早い虎の魔物が猛スピードで突っ込んできたかと思うと、一瞬で結界を張ろうとした領域の内側に入り込まれてしまった。
「あっ!?」
右前脚が横に振り抜かれ、鋭い爪が私を襲った。強烈な一撃に私は成すすべなく吹き飛ばされ、左腕にすさまじい激痛が走る。
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クリスさんの悲鳴を聞きながら私はそのまま地面をゴロゴロと転がり、腰ほどの高さの岩にぶつかってようやく止まった。慌てて立ち上がろうとするが左腕があらぬ方向に曲がっており、動かそうとすると激痛が走る。
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「フィーネ様!」
クリスさんが心配そうに駆け寄ってくる。
「う……だ、大丈夫、です。治癒」
自分で自分に治癒魔法を掛けるとみるみる痛みが引いていき、傷口はあっという間に元通りとなった。
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