上 下
465 / 625
滅びの神託

第十章第46話 遅すぎた救援

しおりを挟む
 私たちが戦場に到着すると、王都を守るべく戦っていた騎士たちはすでに満身創痍といった状況だった。騎士たちが戦っているのはあのときの恐ろしい虎の魔物に加え、炎をまとった羊や猿、イノシシなど様々な種類の魔物たちだ。

「フィーネ殿! 口付けを!」
「あ、はい」

 私は急いでシズクさんに【聖女の口付】を使い、キリナギの力を解放した。するとシズクさんはすぐさま魔物の群れの中へと飛び込み、次々と魔物たちを切り捨てていく。

 斬り捨てられた魔物はやはりあのときと同様に、魔石を残さず塵となって消えていった。

「おおお、すごい」

 なんとか持ちこたえていた騎士たちからは驚嘆の声が上がる。私はそんな彼らに駆け寄り、まとめて全員に治癒魔法をかけてあげた。

「おおっ! これは!? ああっ! 聖女様! ありがとうございます!」
「いえ。それよりどうなっているんですか?」
「わかりませんが、あの竜が襲って来たのです。しかも、倒しても倒してもキリがなく……」
「キリがない?」
「はい。倒しても倒しても、あの竜が無限に魔物を生み出し続けているのです」

 ちょうどそのとき、炎龍王の全身から黒い波動がほとばしった。するとその波動が通過した場所に次々と魔物たちが誕生する。

「こ、このようにです!」
「フィーネ様!」

 突如目の前に現れた猿の魔物の首をクリスさんがすぐさま一撃でねた。見事な一撃だったが、首を刎ねられたというのにこの魔物は消滅していない。

 あれ? どういうこと?

「フィーネ様! 私にも口付けをお願いいたします!」
「あ、はい」

 私は急いでクリスさんの額に唇を落とし、【聖女の口付】を発動した。

「フィーネ様。蹴散らして参りますので結界をお願いいたします!」
「分かりました」

 私は自分とルーちゃんを覆う結界を張り、自分たちの安全を確保した。

「ルーちゃんは近づいてくる魔物を牽制してください」
「はいっ」

 マシロちゃんもスタンバイしており、臨戦態勢は整った。

 あ、そうだ。ついでだから【聖女の祝福】もかけておこう。

 ええと、クリスさんとシズクさんとルーちゃんに祝福っと。それから、ええと他の騎士さんにもいけるかな?

 そうして手近な人に掛けていくと、七人の騎士さんに掛けたところでこれ以上は手応えがなくなってしまった。

 なるほど。どうやら十人までしかできないようだ。もしかするとレベルが上がればもっと人数を増やせるようになるのかもしれない。

 まあ、このスキルにはなんの効果があるのか分からないのでお守りくらいにしかならないかもしれないけど。

 ちらりとクリスさんたちのほうに目を向けると、やはりクリスさんが圧倒的な火力で無双している。強烈な光の斬撃をバンバン飛ばして魔物たちをばっさばっさと斬り捨てているのだ。

 しかも、なぜかクリスさんが斬った魔物はシズクさんが斬った魔物と同じように塵となって消えている。

 ううん? どういうことだろう?

「あ、魔物ですっ!」

 ルーちゃんがこちらに向かってきていた猿の魔物の頭を見事に射貫いた。あそこまできれいに入っていれば致命傷だろう。

 その予想どおりその魔物は倒れて動かなくなったのだが、塵となって消えることはない。

 いや、違う。矢の刺さった場所の周囲だけがほんのわずかに塵になっているようだ。

 ええと? この違いは一体なんだろうか?

「す、すごい。まるで勇者様のようだ」
「勇者! そうです。シャルはどこですか!?」
「え? あ、その……」
「ですから、勇者はどこにいるんですか!?」

 私が慌てて騎士の一人に詰め寄るが、なぜかしどろもどろになって話してくれない。

「姉さま。落ち着いてください」
「あ……そうでした。ルーちゃん、ありがとうございます。それで、勇者がこの戦場にいると聞いたのですが、どこにいるか知りませんか?」
「は、はい。聖女様。たしかアラン団長と一緒にいたはずです。なので、あちらのほうではないかと」

 そう言って彼は炎龍王を指さした。

「アラン団長でしたら、少し前にあの竜に向かって突撃していきました。ですが我々は恥ずかしながら得も知れない恐怖に駆られてしまい、動けなくなってしまったのです」

 騎士の人は悔しそうにそう言った。

 そう言われて炎龍王のほうを見ると、何やら大きく行きを吸い込んでいるではないか!

 ブレスが来る!

 そう直感した私は私たちと炎龍王の中間あたりに大きめの防壁を展開した。

「GRWReeeeeeeee!!!」

 その直後、妙な叫び声を上げた炎龍王が真っ黒なブレスを吐き出した。

 これは!

「うっ」

 騎士たちは身構えたが、防壁はあの黒いブレスをきっちりと受け止めてくれた。大きめの防壁を展開したことが功を奏した形だろう。

 それを見た炎龍王が飛び立とうとしたところで、私は炎龍王の足元にシャルがいることを発見した。

 シャルは炎龍王を飛び立たせまいと手に持った剣を振るい、その攻撃は炎龍王の足に小さな傷を作る。そのことに気付いたらしい炎龍王は飛び立つのを止めた。

 そして炎龍王は大きな足を上げる。

「あ……」

 降ろされた足はシャルのことを容赦なく、思い切り踏みつぶしたのだった。

「シャルーーーーーーー!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...