457 / 625
滅びの神託
第十章第38話 壊滅したダルハ
しおりを挟む
私たちはダルハの港へと入港した。以前シーサーペントと戦ったこの港も今では船を停泊させるための岸壁が残っているのみで、他は全て瓦礫の山と化していた。
黒煙が上がっているのは市場のあたりだろうか?
きっと、色々な物資があるせいで中々火が消えずに長期間燃え続けているのだろう。
「ダルハも手遅れでしたか……」
「そのようでござるな」
「フィーネ様、あの煙が上がっている場所に行ってみますか?」
「はい」
船を岸壁に固定して上陸した私たちは、完全に破壊されたダルハの町を歩いていく。
建物はやはり完全に破壊されているが、エイブラにあったような熱で溶けた建物は見当たらない。
「エイブラとはちょっと様子が違いますね」
「はい。私もそう思います。もしかすると、ここへの襲撃は例の竜ではなく魔物たちによるものかもしれません」
「竜は何もしなかったということですか?」
「はい。もしくは、配下の魔物に命じてやらせたのかもしれません」
「その竜は魔物を従えているということですか?」
「あくまで可能性の一つですが、竜が従えていないのであればエイブラに魔物が残っていなかった理由がわかりません。これをエイブラを襲った魔物を引き連れ、シャリクラとダルハを攻め落としたのだと考えると筋は通ります」
「……なるほど。そうかもしれません」
ただその説が正しいとなるとその竜には知能があり、軍勢を引き連れて人間の町を滅ぼして回っているということになる。
「もしそんな存在がいるのだとすると、狂った魔王並みの脅威でござるな」
「そうですね。それこそ、勇者の出番のような気がします」
「そうでござるな。勇者はどこで何をしているんでござろうな」
「そればかりは神のお決めになることだ。我々人間には神の御心は計り知れんよ」
クリスさんはそう言っているが、あのハゲ神様は大したこと考えてなさそうな気がするのは私だけだろうか?
「そうでござるな」
まるで私の心境を代弁するかのように、シズクさんはそう言って複雑な表情を浮かべた。
そんな話をしているうちに、私たちはかつて市場だった場所にやってきた。スパイスやドライフルーツを買い込み、串焼きを食べ歩きした想い出の場所だ。しかしその面影はもはや入口の門くらいしか残っていない。
その門の向こう側からはもうもうと黒煙が立ちのぼっている。一体何が燃えているのだろうか?
そう思って近づいていくと、視界の先に動く人影を見つけた。
「あっ!」
私が声をかけようとすると、その人影は慌てて逃げ出した。
「え?」
「あれは! 待つでござる! 拙者たちは敵ではござらん!」
シズクさんが猛スピードで逃げた人影を追いかけたので、私たちも急いで後を追う。
そして数十メートル走って追いつくと、シズクさんの前には尻もちをついた一人の男性の姿があった。
あ、れ? あの人、どこかで見たような? ええと、【人物鑑定】っと。
あ!
「アービエルさん。ご無事で何よりです」
「あ! せ、せ、せ、聖女様!」
アービエルさんは尻もちをついた体勢からいきなり立ち上がり、そしてすぐさまブーンからのジャンピング土下座を決めた。
うん。動きが素早かったのは良かったけれど、全体的にバランスが崩れていたので6点といったところか。
じゃなくて!
「神の御心のままに」
私はすぐさまアービエルさんを立ち上がらせた。
「アービエルさん。他のルマ人の皆さんは? それに町の人はどうなりましたか?」
「はい。恐らくですが、生き残ったのは我々ルマ人のみだと思います」
「一体何があったのですか?」
「西の空より、巨大な赤い竜が大量の魔物どもを引き連れてやってきたのです」
「西から?」
「はい。竜の吐いた巨大な火の玉は一撃で町の西側を吹き飛ばし、そこから魔物どもが雪崩れ込んできました。その魔物どもは見たこともない魔物でして、火を吹く虎や全身が炎で包まれた羊のような魔物でした」
「それは……」
きっと、虎の魔物というのはシズクさんが倒してくれたあの魔物だろう。
では、羊の魔物ほうはどうだろうか?
私はクリスさんたちをちらりと見るが、やはり誰一人としてそのような魔物には心当たりはないようだ。
「そんな恐ろしい魔物に襲われたのに、どうやって生き残ったんですか?」
「はい。我々ルマ人は普段よりダルハの者たちに虐げられおりましたので、万が一ダルハの者たちや魔物が襲ってきた際に避難するための地下シェルターを用意しておりました。何をされるかわかりませんし、魔物なら我々の区画は見殺しにされると分かっておりましたから。ですが、今回はそれが吉と出ました。ほとんどのルマ人たちはシェルターに避難し、難を逃れることができました。ただ、ワシもすぐに避難してしまいましたのでその後どうなったかまでは……」
「いえ、十分です。それに生きていてくれて良かったです。私と一緒に移住してくれた皆さんは、無事にホワイトムーン王国にたどり着きました。そこからブラックレインボー帝国に続々と渡り、サラさんの下で平等に暮らしていると聞きます。あの、良かったらアービエルさんたちもいかがですか?」
「おお! 聖女様!」
そう言って感極まった様子のアービエルさんは再びブーンからのジャンピング土下座を決めたのだった。
ええと、やっぱり6点かな。
黒煙が上がっているのは市場のあたりだろうか?
きっと、色々な物資があるせいで中々火が消えずに長期間燃え続けているのだろう。
「ダルハも手遅れでしたか……」
「そのようでござるな」
「フィーネ様、あの煙が上がっている場所に行ってみますか?」
「はい」
船を岸壁に固定して上陸した私たちは、完全に破壊されたダルハの町を歩いていく。
建物はやはり完全に破壊されているが、エイブラにあったような熱で溶けた建物は見当たらない。
「エイブラとはちょっと様子が違いますね」
「はい。私もそう思います。もしかすると、ここへの襲撃は例の竜ではなく魔物たちによるものかもしれません」
「竜は何もしなかったということですか?」
「はい。もしくは、配下の魔物に命じてやらせたのかもしれません」
「その竜は魔物を従えているということですか?」
「あくまで可能性の一つですが、竜が従えていないのであればエイブラに魔物が残っていなかった理由がわかりません。これをエイブラを襲った魔物を引き連れ、シャリクラとダルハを攻め落としたのだと考えると筋は通ります」
「……なるほど。そうかもしれません」
ただその説が正しいとなるとその竜には知能があり、軍勢を引き連れて人間の町を滅ぼして回っているということになる。
「もしそんな存在がいるのだとすると、狂った魔王並みの脅威でござるな」
「そうですね。それこそ、勇者の出番のような気がします」
「そうでござるな。勇者はどこで何をしているんでござろうな」
「そればかりは神のお決めになることだ。我々人間には神の御心は計り知れんよ」
クリスさんはそう言っているが、あのハゲ神様は大したこと考えてなさそうな気がするのは私だけだろうか?
「そうでござるな」
まるで私の心境を代弁するかのように、シズクさんはそう言って複雑な表情を浮かべた。
そんな話をしているうちに、私たちはかつて市場だった場所にやってきた。スパイスやドライフルーツを買い込み、串焼きを食べ歩きした想い出の場所だ。しかしその面影はもはや入口の門くらいしか残っていない。
その門の向こう側からはもうもうと黒煙が立ちのぼっている。一体何が燃えているのだろうか?
そう思って近づいていくと、視界の先に動く人影を見つけた。
「あっ!」
私が声をかけようとすると、その人影は慌てて逃げ出した。
「え?」
「あれは! 待つでござる! 拙者たちは敵ではござらん!」
シズクさんが猛スピードで逃げた人影を追いかけたので、私たちも急いで後を追う。
そして数十メートル走って追いつくと、シズクさんの前には尻もちをついた一人の男性の姿があった。
あ、れ? あの人、どこかで見たような? ええと、【人物鑑定】っと。
あ!
「アービエルさん。ご無事で何よりです」
「あ! せ、せ、せ、聖女様!」
アービエルさんは尻もちをついた体勢からいきなり立ち上がり、そしてすぐさまブーンからのジャンピング土下座を決めた。
うん。動きが素早かったのは良かったけれど、全体的にバランスが崩れていたので6点といったところか。
じゃなくて!
「神の御心のままに」
私はすぐさまアービエルさんを立ち上がらせた。
「アービエルさん。他のルマ人の皆さんは? それに町の人はどうなりましたか?」
「はい。恐らくですが、生き残ったのは我々ルマ人のみだと思います」
「一体何があったのですか?」
「西の空より、巨大な赤い竜が大量の魔物どもを引き連れてやってきたのです」
「西から?」
「はい。竜の吐いた巨大な火の玉は一撃で町の西側を吹き飛ばし、そこから魔物どもが雪崩れ込んできました。その魔物どもは見たこともない魔物でして、火を吹く虎や全身が炎で包まれた羊のような魔物でした」
「それは……」
きっと、虎の魔物というのはシズクさんが倒してくれたあの魔物だろう。
では、羊の魔物ほうはどうだろうか?
私はクリスさんたちをちらりと見るが、やはり誰一人としてそのような魔物には心当たりはないようだ。
「そんな恐ろしい魔物に襲われたのに、どうやって生き残ったんですか?」
「はい。我々ルマ人は普段よりダルハの者たちに虐げられおりましたので、万が一ダルハの者たちや魔物が襲ってきた際に避難するための地下シェルターを用意しておりました。何をされるかわかりませんし、魔物なら我々の区画は見殺しにされると分かっておりましたから。ですが、今回はそれが吉と出ました。ほとんどのルマ人たちはシェルターに避難し、難を逃れることができました。ただ、ワシもすぐに避難してしまいましたのでその後どうなったかまでは……」
「いえ、十分です。それに生きていてくれて良かったです。私と一緒に移住してくれた皆さんは、無事にホワイトムーン王国にたどり着きました。そこからブラックレインボー帝国に続々と渡り、サラさんの下で平等に暮らしていると聞きます。あの、良かったらアービエルさんたちもいかがですか?」
「おお! 聖女様!」
そう言って感極まった様子のアービエルさんは再びブーンからのジャンピング土下座を決めたのだった。
ええと、やっぱり6点かな。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる