勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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滅びの神託

第十章第16話 セムノスにて

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 美味しいランチを食べて満足した私たちはペカを調理するためのお鍋を買うと、クラウディオさんのところへと向かった。お招きを受けているということもあるが、一番の目的はこのあたりの魔物の被害について確認するためだ。

「ようこそおいでくださいました。聖女様。無事のお戻り、心よりお慶び申し上げます」
「ありがとうございます。ご心配をおかけしました」

 クラウディオさんは心底安堵したような表情を浮かべている。どうやらかなり心配をかけてしまっていたようだ。

 思えばクラウディオさんには何度もお世話になっている。ここは一つ、周囲で暴れている魔物たちはしっかりと浄化してあげよう。

「聖女様。またあのイエロープラネットへと向かわれるとのことですが……」
「はい。ですが今回は私が特使というわけではありませんから大丈夫です。きちんと先遣隊の皆さんが向かって段取りを整えてくれる手筈になっていますから、前のようなことにはならないと思います」
「だと良いのですが……」

 そうクラウディオさんは言葉を濁した。やはり心配してくれているようだ。

「ところでザッカーラ侯爵。このあたりの魔物の様子はどうでしょうか? 南はかなり大変な状況でしたが……」
「そうですな。実は、我がセムノスの近辺の被害はそれほど酷くないのです。そのため、ザラビアなどの近隣の領地へ応援の騎士を派遣しております」
「そうなんですか?」
「はい。我が町は第三騎士団の本部もある中核都市でございますので、多くの戦力が駐屯しております。そのおかげもありまして、魔物の駆除が追いついている次第でございます。もちろん聖女様の提唱された説に従い、魔石は回収前にきちんと浄化しております」

 どうやらアイロールでの話はきちんと伝わっているようだ。

 もちろん、浄化魔法を使って浄化したところで瘴気を消滅させることはできていない。

 ただ、それでも関わった人が瘴気に当てられて邪悪な性格に変わってしまうのは避けられるのだ。だから、それだけでもやる意味はある。

 もちろん私がその場にいればリーチェを呼んで瘴気をなんとかすころはできるのだが、毎回そういうわけにはいかない。

 とはいえ今私がここにいるのだから同行して瘴気を……いや? この町はどうにかできているのだから、これ以上は首を突っ込まないほうがいいのかな?

 聖女はただの偶像なのだから、その聖女に頼りきりになるのはあまりいいことではない気がする。

「聖女様?」
「あ、いえ。本当はこの町でも魔物たちの浄化のお手伝いをしたいと思っていたのですが、どうにかなっているのでしたら他の町に行ってお手伝いをしたほうがいいのかなと思っていました」

 するとクラウディオさんは複雑な表情を浮かべた。

「……そう、ですな。我々セムノスに住む者としてはいつまででも聖女様にご滞在いただきたいところですが、聖女様にご滞在いただくという栄誉を我々だけで独占するわけには参りませんからな」

 そう笑顔で言ったクラウディオさんだが、その表情は寂しそうだ。

「ありがとうございます。そういえば、差し上げたあの種はどうなっていますか? きちんと育っていますか?」

 私がそう質問すると、クラウディオさんは待っていましたとばかりに笑みを浮かべる。

「はい! 我が屋敷のもっとも日当たりの良い場所に植えましたところ、先日になってようやく芽が出たのです。まだ芽吹いたばかりの双葉ではありますが、屋敷の者たちも皆喜んでおります」
「それは何よりです」
「はい。どのような花を咲かせてくれるのかと楽しみにしております。あの植物はどのくらいで花を咲かせるものなのでしょうか?」
「え? ああ、そういえばどうなんでしょうね? 浄化とセットだとすぐに花が咲きますが……」
「左様でございますか。では、我々の楽しみとして取っておくことにいたしましょう」

 クラウディオさんはそう言って優しく笑った。私もそれに微笑みで答える。

 うん。やはりクラウディオさんはいい人だ。きっとこの人が治めている町だからこそ瘴気の発生が少なくて、それで周囲の魔物たちも人を襲おうという衝動が小さくて済んでいるのかもしれない。

 なんとなくそんな気がするのだ。

 もちろん根拠はないけれど……。

◆◇◆

 その後、私たちは予定を変更して孤児院や病院を回っての奉仕活動を行った。久しぶりの奉仕活動だが、この町の人たちに希望を持ってもらうにはこれが一番だと考えたからだ。

 そうして三日間にわたって奉仕活動をした私たちは、次の目的地であるサマルカへと旅立つのだった。
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