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黒き野望
第八章第31話 迫りくるモノ
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「何も起きませんね」
「危険は……なさそうでござるな」
しばらくあたりの様子を窺っていた私たちだったが、特に異常はない。
「大丈夫そう、ですかね?」
「そうでござるな。怪しい気配はないでござるな」
クリスさんはまだ周囲を警戒しているがやはり大丈夫そうだ。
私は着席すると大きく一息ついた。それにつられてシズクさんが座り、最後にクリスさんが座った。
そしてそれを見た周りのお客さんたちも安心したかのように着席し、レストランは普段の様子を取り戻した。
ちなみにルーちゃんは図太いのか食い意地が張っているのか、私たちが座るよりも前に着席して食事の続きを始めていた。
まったくもう。ルーちゃんは本当に……。
ただ、そのおかげで私たちは食事を早々に終わらせて元領主邸へと早々に戻ることができたのだった。
◆◇◆
「聖女様!」
私たちが戻ったことを知ったサラさんが慌てた様子でやってきた。
「サラさん、あの衝撃は一体なんですか?」
「わかりません。ただ、帝都の方角から発せられたようです。それから今日聖女様に池へ植えていただいたあの花が!」
「花? 花がどうかしたんですか?」
「あの衝撃波を吸収して大きく成長したのです」
「えっ?」
ということは、あれは瘴気を含んでいたってこと?
「帝都で何かあったんじゃ?」
「ですが、この暗闇の中ではさすがに何も……」
たしかにそれはそうだ。もう完全に日は落ちており、町の外は完全な闇に包まれている。
「ここから帝都が見えたりは……」
「いえ。ここから帝都までは五日ほどの道のりです」
「……じゃあ、明るくなるまで待つしかないですね」
「はい」
やはり情報の伝達が遅いという事はどうにももどかしいが、こればかりはどうしようもない。
私たちは不安を胸の奥へと押し込むと部屋へと戻り、これまでの行軍で疲れた体をゆっくりと休めるのだった。
◆◇◆
それから三日間、私たちはマライの町に留まっていた。その三日間に私は武器に浄化魔法を、そして防具には解呪魔法を付与して過ごした。一方のサラさんはというと町と塩田の支配権を完全に手中に収めた。
支配権を手に入れたといっても別に戦闘が起こったわけではなく、どちらも諸手の大歓迎だったそうだ。
やはり若い男性を無理矢理連れていくというアルフォンソの暴挙はかなりの反感を買っていたのだろう。そのため、黒兵という恐怖が取り除かれれば従う者などいないということのようだ。
アルフォンソに従っていた者たちも、サラさんが黒兵を倒す手段を持ち帰ったと知るや否やあっさりとサラさんに恭順してきたのだ。そのことからも恐怖による支配というものがいかに脆いのかがよく分かる。
しかも、もともとアルフォンソよりもサラさんの方が民に慕われていたらしい。そんな皇女様が憎きアルフォンソの手を逃れてホワイトムーン王国から聖女様を連れて戻ってきたということも相まって、サラさんの人気は日増しに高まっているようだ。
さて、そんなマライの町から偵察に出かけていた兵士から恐ろしい報告が上がってきたのだ。
なんでも、背の高さが数十メートルはあろうかという巨大な魔物がこちらに向かって歩いてきているというのだ。
「それは何という魔物なのですか?」
「それが、我々の知る限り未知の魔物です。見上げるほどの大きさの巨人の魔物で、巨大な尻尾を持つ魔物なのです」
「……誰か心当たりのある人はいませんか?」
私がそう尋ねるも、どうやら誰も心当たりがないらしい。
「一体、何なんでしょうね? 一匹だけなんですか?」
「はい。その巨大な魔物は一匹だけです。ただ、その背後には無数の黒兵たちが付き従っておりまして……」
「新種の魔物を支配下に置いてマライの町にけしかけてきた、ということでしょうか?」
「状況を考えれば、そういうことになりそうですね」
「……打って出ましょう。そのような巨大な魔物が町へと近づかいては民に大きな被害が出てしまいます」
「そう、ですね」
「わたくしも戦いますわよ。その魔物を打ち破れば帝都に届きますわ」
あと一歩のところまで来ているとあってシャルのやる気も十分だ。早くシャルとユーグさんを会わせてあげたい。
それにユーグさんならあの邪悪な秘術にも負けないで頑張ってくれているはずだ。
何しろ、聖剣に選ばれた聖騎士なのだ。きっと、きっと愛するシャルのために必死で抵抗してくれているはずだ。
そう思った私はシャルの目をしっかりと見つめて小さく頷く。
「それじゃあ、行きましょう。その魔物を倒してユーグさんを助けに行きましょう」
「ええ!」
シャルは強い意志を込めた瞳で私の目を見つめ返すとそう頷いたのだった。
===============
次回更新は通常通り、2021/04/11 (日) 19:00 を予定しております。
「危険は……なさそうでござるな」
しばらくあたりの様子を窺っていた私たちだったが、特に異常はない。
「大丈夫そう、ですかね?」
「そうでござるな。怪しい気配はないでござるな」
クリスさんはまだ周囲を警戒しているがやはり大丈夫そうだ。
私は着席すると大きく一息ついた。それにつられてシズクさんが座り、最後にクリスさんが座った。
そしてそれを見た周りのお客さんたちも安心したかのように着席し、レストランは普段の様子を取り戻した。
ちなみにルーちゃんは図太いのか食い意地が張っているのか、私たちが座るよりも前に着席して食事の続きを始めていた。
まったくもう。ルーちゃんは本当に……。
ただ、そのおかげで私たちは食事を早々に終わらせて元領主邸へと早々に戻ることができたのだった。
◆◇◆
「聖女様!」
私たちが戻ったことを知ったサラさんが慌てた様子でやってきた。
「サラさん、あの衝撃は一体なんですか?」
「わかりません。ただ、帝都の方角から発せられたようです。それから今日聖女様に池へ植えていただいたあの花が!」
「花? 花がどうかしたんですか?」
「あの衝撃波を吸収して大きく成長したのです」
「えっ?」
ということは、あれは瘴気を含んでいたってこと?
「帝都で何かあったんじゃ?」
「ですが、この暗闇の中ではさすがに何も……」
たしかにそれはそうだ。もう完全に日は落ちており、町の外は完全な闇に包まれている。
「ここから帝都が見えたりは……」
「いえ。ここから帝都までは五日ほどの道のりです」
「……じゃあ、明るくなるまで待つしかないですね」
「はい」
やはり情報の伝達が遅いという事はどうにももどかしいが、こればかりはどうしようもない。
私たちは不安を胸の奥へと押し込むと部屋へと戻り、これまでの行軍で疲れた体をゆっくりと休めるのだった。
◆◇◆
それから三日間、私たちはマライの町に留まっていた。その三日間に私は武器に浄化魔法を、そして防具には解呪魔法を付与して過ごした。一方のサラさんはというと町と塩田の支配権を完全に手中に収めた。
支配権を手に入れたといっても別に戦闘が起こったわけではなく、どちらも諸手の大歓迎だったそうだ。
やはり若い男性を無理矢理連れていくというアルフォンソの暴挙はかなりの反感を買っていたのだろう。そのため、黒兵という恐怖が取り除かれれば従う者などいないということのようだ。
アルフォンソに従っていた者たちも、サラさんが黒兵を倒す手段を持ち帰ったと知るや否やあっさりとサラさんに恭順してきたのだ。そのことからも恐怖による支配というものがいかに脆いのかがよく分かる。
しかも、もともとアルフォンソよりもサラさんの方が民に慕われていたらしい。そんな皇女様が憎きアルフォンソの手を逃れてホワイトムーン王国から聖女様を連れて戻ってきたということも相まって、サラさんの人気は日増しに高まっているようだ。
さて、そんなマライの町から偵察に出かけていた兵士から恐ろしい報告が上がってきたのだ。
なんでも、背の高さが数十メートルはあろうかという巨大な魔物がこちらに向かって歩いてきているというのだ。
「それは何という魔物なのですか?」
「それが、我々の知る限り未知の魔物です。見上げるほどの大きさの巨人の魔物で、巨大な尻尾を持つ魔物なのです」
「……誰か心当たりのある人はいませんか?」
私がそう尋ねるも、どうやら誰も心当たりがないらしい。
「一体、何なんでしょうね? 一匹だけなんですか?」
「はい。その巨大な魔物は一匹だけです。ただ、その背後には無数の黒兵たちが付き従っておりまして……」
「新種の魔物を支配下に置いてマライの町にけしかけてきた、ということでしょうか?」
「状況を考えれば、そういうことになりそうですね」
「……打って出ましょう。そのような巨大な魔物が町へと近づかいては民に大きな被害が出てしまいます」
「そう、ですね」
「わたくしも戦いますわよ。その魔物を打ち破れば帝都に届きますわ」
あと一歩のところまで来ているとあってシャルのやる気も十分だ。早くシャルとユーグさんを会わせてあげたい。
それにユーグさんならあの邪悪な秘術にも負けないで頑張ってくれているはずだ。
何しろ、聖剣に選ばれた聖騎士なのだ。きっと、きっと愛するシャルのために必死で抵抗してくれているはずだ。
そう思った私はシャルの目をしっかりと見つめて小さく頷く。
「それじゃあ、行きましょう。その魔物を倒してユーグさんを助けに行きましょう」
「ええ!」
シャルは強い意志を込めた瞳で私の目を見つめ返すとそう頷いたのだった。
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