勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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黒き野望

第八章第13話 ユスターニ奪還戦

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それから数日かけて高地に順応した私たちは一週間ほどかけて険しい山道を踏破し、ユスターニの町が見下ろせる小高い丘へとやってきた。

ユスターニの町は大きな湖に面した小さな町のようだ。町の防備も申し訳程度の低い街壁があるくらいでとても守りが堅固とは言えないように見える。

「なるほど。これはたしかに天然の要塞といった地形ですね」
「そうなんですか?」

どうやらクリスさんの目には私とは違う光景が映っているらしい。

「はい。このユスターニの町をぐるりと囲むこの丘の上が防衛ラインだったのでしょう。そしてこの丘にはご覧の通りほとんど木は生えていませんから見通しも良く、敵の侵入は容易に察知できるはずです」
「その割に私たちは何ともないですね。稜線にも監視をしている兵士がいるようには見えないですし……」
「仰るとおりですね。この辺りにはもう敵はいない、という判断なのかもしれません」

それはそれでどうなんだろうか、とは思うがチャンスのような気もする。

「うーん。町の門の警備も随分と手薄ですね。町中を歩いている人も少ないですし、兵士もほとんどいません。ああ、あと歩いているのは女性や老人ばかりですね」

私は町の様子をじっと見て、そして見えていないみんなのためにそのまま見えたものを伝える。

「サラ殿。攻撃するでござるか?」
「……はい。手薄なのであれば奪還してしまいましょう」
「誘っている、とも考えられるのではないか?」
「だとしても、ここで手をこまねいていても始まりません。一気に奪還してしまいましょう!」
「では出番でござるな」
「はい。よろしくお願いいたします!」

こうしてサラさんの号令で私たちは防備の手薄なユスターニの町へと攻撃を仕掛けるのだった。

****

丘を駆け下り私たちの兵士たちはユスターニの町の門へと押し寄せる。

すると門の中からふらりとホワイトムーン王国で見たあの黒いもやをうっすらと纏った死なない兵たちが現れた。その数はおよそ 50 ほどだ。

そしてすぐに私たちの兵士たちが彼らと激突した。私が浄化を付与した武器はその力をいかんなく発揮し、彼らが攻撃を加えると死なない兵はすぐに塵となって消滅していく。

「おおお! 倒せる! 聖女様の祝福がこれほどとは!」
「いける! いけるぞ!」

前線で戦っている兵士たちからはそんな声が聞こえてくる。

こうして兵士たちはあっという間に門を突破し、私たちもそれに続いて町の中へと雪崩れ込んだ。

そして町の中へ突入してもまとまった抵抗はほとんどなく、道を歩いていた通行人たちは私たちに道を空けてくれている。

彼らの中からは「おお、サラ様……」などといった声がちらほらと聞こえてきているのでおおむね歓迎されてはいるようだ。

それから私たちは兵舎と町長さんの屋敷、そして教会を制圧しユスターニの町の奪還戦は一人の犠牲者を出すこともなく私たちの圧勝で幕を閉じたのだった。

あれれ? こんなにあっさり勝ててしまって大丈夫なんだろうか?

****

町の中に残っていた住人たちを広場に集めたサラさんは住人たちに向かって演説を始めた。

「皆さん。わたしはサラ・ブラックレインボーです。我が愚兄、アルフォンソが魔の者と通じて皇帝陛下を弑逆しいぎゃくして以来、我が民の暮らしは悪くなる一方です。わたしは魔の者を追い払い、誇りあるブラックレインボー帝国を取り戻すため、聖女フィーネ・アルジェンタータ様、そして聖女シャルロット・ドゥ・ガティルエ様のお力添えを頂きこの地に戻ってきました!」

サラさんがそう言うと群衆はわぁっと湧き上がる。だが、集まっている住人に働き盛りである若い男性の姿はない。

「これからわたしは帝国全土を解放し、以前の安全な暮らしを皆さんにお返しすることをお約束しましょう。さあ、戦えるものは武器を取り立ち上がりなさい」

わぁーっと湧き上がるが、住人たちの表情は優れない。それから住人の一人が意を決したように叫んだ。

「サラ様! どうか私の夫を助けてください。奴らに連れていかれて!」

するとそれが呼び水になったのか、他の住人たちも次々と悲痛な叫び声を上げる。

「私は息子を」
「お父さんを返してください」

それに対してサラさんはニッコリと笑うと言い切った。

「ええ。必ずその行方を探しましょう。ですが、アルフォンソの行いを止めるには皆さんの協力が必要なのです!」
「で、でもあいつらは死なないって……」

そんな不安の声がちらほらと聞こえてくる。

「安心してください。わたしたちには聖女様がお力を貸してくださっています。聖女様に祝福を授けていただいた剣は魔をはらい、あの忌まわしき邪悪なる不死の兵を浄化することができるのです!」

そしてサラさんが小声で「さあ、聖女様」と言ってきたので私は小さく手を振る。

すると「ああっ! 聖女様っ!」などといった声が上がり、そして一斉にマッスルポーズを決める。

うん。いや、うん。何というか、凄まじい光景だ。

「神の御心のままに」

私はそう言うと片手を上げてマッスルポーズ、じゃなかった聴衆の祈りに応えたのだった。
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