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黒き野望
第八章第14話 ユスターニ名物
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一仕事した後はやはり食事を、ということで私たちは湖畔のレストランへと案内された。
どうやらこの町の若い男性たちが連行されていったということ以外には何もされなかったらしい。男手を奪われたせいで苦しくなったことは確かだが、それでも市民の生活は苦しいながらも何とか維持されていたらしい。
ちなみに町長さんの一家はユスターニが陥落したときに見せしめとして殺されてしまったそうで、お屋敷は主人不在のままメイドさんや年老いた執事さんがとりあえず守っていたらしい。
ただ、アルフォンソがなぜこんな意味不明なことをしているのかがさっぱりわからない。
国として治めているんだから代官くらいは派遣しないと成り立たないのではないだろうか?
それにいくら皇帝になったとはいえ国民がいるから統治者としてやっていけているわけで、このまま若い男性だけを連れ去るなんてことを続けていたら最終的には子供がいなくなって滅んでしまうのではないだろうか?
ホワイトムーン王国に攻め込んできたときも若い男性を連れ去っていったそうだが、あれは敵国の戦力を削ぐということが目的ではなかったという事なのだろうか?
そんな疑問を抱きつつも、私たちは案内されたテラス席へと着席した。湖から吹き寄せる冷たい風が頬を心地よく撫でてくれる。
すると、お店のお姉さんが小さな水槽を持ってやってきた。中には金色に光る美しい魚が優雅に泳いでいる。
「こちらはユスターニゴールドという魚で、ここユスターニ湖のみで確認されている固有種です。本日はこちらの魚を召し上がっていただきます」
サラさんがその魚を指さしてそう説明してくれた。
「そんな貴重な魚を食べていいんですか?」
「もちろんです。ユスターニに住む者は毎日食べていおります」
「はあ。そうなんですね」
「はい。そしてあちらの沖合に小さな島が見えるかと思います」
「見えますね。小さな藁ぶきの家が建っていますね」
「はい。フィーネ様は本当に目がよろしいんですね」
もう何度目のツッコミか分からないけど、私は吸血鬼だからね。
「それでですね。あちらは浮草を編んで作った浮島となります。人々はその浮島の上に暮らし、ユスターニゴールドを獲ってはこちらの港に運んでくるという生活を送っています」
「それは、興味深いですわね。嵐の時はどうするんですの?」
「ご覧の通り、こちらは大きな湾となっておりますので多少の嵐では問題ございません。そして、大きな嵐がやってくる季節は陸に避難して生活するのです」
なるほど。不便そうだけどそういう生活を生まれたときから送っていれば気にならないのかもしれない。
そんな会話をしていると料理が運ばれてきた。
「ユスターニゴールドのムニエルと季節の野菜のソテー、そしてマッシュポテトでございます」
給仕をしてくれたお姉さんがそう言って説明してくれた。ユスターニゴールドは金色の外見とは違いその身はきれいなピンク色でまるでトラウトのようだ。
私はユスターニゴールドをナイフで切ると口に運ぶ。すると口の中でまるで溶けるかのようにその身が崩れ、すぐにじゅわりとうま味と脂がしみだしてきた。脂がのっているのにくどく無いのはやはり魚だからなのかもしれない。それから焼くときに使ったと思われるバターが少し焦げた香ばしい香りとハーブの清涼な香りが一体となって口の中で幸せなハーモニーを奏でる。
「美味しいですね」
「美味しいですっ! あたしも毎日このお魚が食べたいですっ!」
「あはは。そうしたらルーちゃんはここに住まなきゃダメですね」
「むぅ。姉さまと一緒に行けなくなるのは困りますっ。でもユスターニゴールドが……」
ルーちゃんはかなり気に入ったらしい。
「多少なら買っていきますよ」
「わーいっ」
そんな会話をしている私たちを横目にシャルは護衛騎士の二人と小声で会話を交わしている。
「この魚、生きたまま持ち帰って育てれば良いのではなくて?」
「ですが、生きたまま輸送するのは……」
「卵の状態で運べばどうですの?」
何やら持ち帰る算段をしているようだが、さすがに淡水魚を海を越えて連れていくのは難しいんじゃないかな?
ただ、シャルもかなり気に入ったことは間違いないようだ。クリスさんとシズクさんも無言で魚を口に運んでいる。
私は自分の料理に視線を戻し、そして付け合わせの野菜のソテーを口に運ぶ。
うん。バターと塩とハーブのシンプルで優しい味付けだ。メインディッシュがこれだけ美味しいのであれば、付け合わせは余計な主張をしないこういった素朴なものがよく合う。
私はユスターニゴールドをもう一切れ口に運ぶと次はマッシュポテトを口に運ぶ。まず驚いたのはそのとろとろであまりの滑らかな口あたりだ。しっかりと味がついているにも関わらずユスターニゴールドの味と喧嘩していないのところが絶品と言えるだろう。
ルーちゃんの方に視線を向けると、あっという間に平らげて二皿目をつついては幸せそうな表情を浮かべている。
うん。この国の料理は美味しいし、実はすごく良い国なんじゃないだろうか?
定住する候補に入れても良いかもしれない。
あ、いや。でもあのマッスルポーズはちょっと困るかな。
こうして私たちはユスターニの名物料理を堪能したのだった。
ちなみに資源には余裕があるそうなので、この後新鮮なユスターニゴールドを金貨 20 枚分購入して私の収納に入れておいた。
================
ユスターニゴールドのモデルとした固有種の魚は外国の環境局が意図的に持ち込んだ外来種によって半世紀以上前に残念ながら絶滅してしまいました。そのため、味については完全なフィクションとなります。
どうやらこの町の若い男性たちが連行されていったということ以外には何もされなかったらしい。男手を奪われたせいで苦しくなったことは確かだが、それでも市民の生活は苦しいながらも何とか維持されていたらしい。
ちなみに町長さんの一家はユスターニが陥落したときに見せしめとして殺されてしまったそうで、お屋敷は主人不在のままメイドさんや年老いた執事さんがとりあえず守っていたらしい。
ただ、アルフォンソがなぜこんな意味不明なことをしているのかがさっぱりわからない。
国として治めているんだから代官くらいは派遣しないと成り立たないのではないだろうか?
それにいくら皇帝になったとはいえ国民がいるから統治者としてやっていけているわけで、このまま若い男性だけを連れ去るなんてことを続けていたら最終的には子供がいなくなって滅んでしまうのではないだろうか?
ホワイトムーン王国に攻め込んできたときも若い男性を連れ去っていったそうだが、あれは敵国の戦力を削ぐということが目的ではなかったという事なのだろうか?
そんな疑問を抱きつつも、私たちは案内されたテラス席へと着席した。湖から吹き寄せる冷たい風が頬を心地よく撫でてくれる。
すると、お店のお姉さんが小さな水槽を持ってやってきた。中には金色に光る美しい魚が優雅に泳いでいる。
「こちらはユスターニゴールドという魚で、ここユスターニ湖のみで確認されている固有種です。本日はこちらの魚を召し上がっていただきます」
サラさんがその魚を指さしてそう説明してくれた。
「そんな貴重な魚を食べていいんですか?」
「もちろんです。ユスターニに住む者は毎日食べていおります」
「はあ。そうなんですね」
「はい。そしてあちらの沖合に小さな島が見えるかと思います」
「見えますね。小さな藁ぶきの家が建っていますね」
「はい。フィーネ様は本当に目がよろしいんですね」
もう何度目のツッコミか分からないけど、私は吸血鬼だからね。
「それでですね。あちらは浮草を編んで作った浮島となります。人々はその浮島の上に暮らし、ユスターニゴールドを獲ってはこちらの港に運んでくるという生活を送っています」
「それは、興味深いですわね。嵐の時はどうするんですの?」
「ご覧の通り、こちらは大きな湾となっておりますので多少の嵐では問題ございません。そして、大きな嵐がやってくる季節は陸に避難して生活するのです」
なるほど。不便そうだけどそういう生活を生まれたときから送っていれば気にならないのかもしれない。
そんな会話をしていると料理が運ばれてきた。
「ユスターニゴールドのムニエルと季節の野菜のソテー、そしてマッシュポテトでございます」
給仕をしてくれたお姉さんがそう言って説明してくれた。ユスターニゴールドは金色の外見とは違いその身はきれいなピンク色でまるでトラウトのようだ。
私はユスターニゴールドをナイフで切ると口に運ぶ。すると口の中でまるで溶けるかのようにその身が崩れ、すぐにじゅわりとうま味と脂がしみだしてきた。脂がのっているのにくどく無いのはやはり魚だからなのかもしれない。それから焼くときに使ったと思われるバターが少し焦げた香ばしい香りとハーブの清涼な香りが一体となって口の中で幸せなハーモニーを奏でる。
「美味しいですね」
「美味しいですっ! あたしも毎日このお魚が食べたいですっ!」
「あはは。そうしたらルーちゃんはここに住まなきゃダメですね」
「むぅ。姉さまと一緒に行けなくなるのは困りますっ。でもユスターニゴールドが……」
ルーちゃんはかなり気に入ったらしい。
「多少なら買っていきますよ」
「わーいっ」
そんな会話をしている私たちを横目にシャルは護衛騎士の二人と小声で会話を交わしている。
「この魚、生きたまま持ち帰って育てれば良いのではなくて?」
「ですが、生きたまま輸送するのは……」
「卵の状態で運べばどうですの?」
何やら持ち帰る算段をしているようだが、さすがに淡水魚を海を越えて連れていくのは難しいんじゃないかな?
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私はユスターニゴールドをもう一切れ口に運ぶと次はマッシュポテトを口に運ぶ。まず驚いたのはそのとろとろであまりの滑らかな口あたりだ。しっかりと味がついているにも関わらずユスターニゴールドの味と喧嘩していないのところが絶品と言えるだろう。
ルーちゃんの方に視線を向けると、あっという間に平らげて二皿目をつついては幸せそうな表情を浮かべている。
うん。この国の料理は美味しいし、実はすごく良い国なんじゃないだろうか?
定住する候補に入れても良いかもしれない。
あ、いや。でもあのマッスルポーズはちょっと困るかな。
こうして私たちはユスターニの名物料理を堪能したのだった。
ちなみに資源には余裕があるそうなので、この後新鮮なユスターニゴールドを金貨 20 枚分購入して私の収納に入れておいた。
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ユスターニゴールドのモデルとした固有種の魚は外国の環境局が意図的に持ち込んだ外来種によって半世紀以上前に残念ながら絶滅してしまいました。そのため、味については完全なフィクションとなります。
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