326 / 625
砂漠の国
第七章第39話 疑問
しおりを挟む
「ここです!」
サラさんがまたも筋肉魔法、じゃなかった【土属性魔法】で壁を殴って破壊した。その先にはぽっかりと空洞が口を開けている。
「私の占いによると、ここを左に行けば出られるようです」
「流石ですね」
私達は浄化魔法の明かりを頼りに暗闇の中を進んでいく。ここは人が掘った跡があるので人工的に作られたもののようだ。天井も低いので背の高いシズクさんとクリスさん、そしてサラさんは腰を屈めなければいけないのでかなり大変だろう。
そんな狭い道を歩き続けていると、遠くに階段が見えてきた。
「出口、ですかね?」
「かもしれません」
そして私たちは警戒しながらゆっくりと階段を登る。耳を澄ますが階段の上の方からも後ろからも音は聞こえない。
「大丈夫そうでござるな」
「はい」
そうして階段を登りきると何かの建物の中に出てきた。周りの壁は全て日干し煉瓦で出来ている。
「どうやら、町の外に出たでござるな」
あれ? どういうこと?
「フィーネ様。おそらく、私たちが今通ってきた通路は大統領や首長が緊急時に脱出するための通路だったのだと思います」
「なるほど。占いというのはすごいですね」
「いえ、いつもはこれほど当たることはないのですが。その、何故か聖女様のお力になるための占いだけはよく当たるのです」
え? 何それ? もしかしてあのハゲたおっさんが何かしているのかな?
「それだけフィーネ様は神の寵愛を受けていらっしゃるという事なのでしょう」
いや、あのハゲたおっさんの寵愛はちょっと……。
ま、まあ助かったんだけどさ。ただどうにも良い印象がないと言うか。向こうも良い印象はないだろうしね。
「フィーネ殿。何やらルマ人達が妙なことになっているでござるよ」
「どういうことですか?」
外を確認して戻ってきたシズクさんに思わず私は聞き返す。
「外に危険はない故、出て確認すると良いでござるよ」
「はぁ」
私はシズクさんに促されて建物の外に出た。
ああ、ええと、うん。何であんなに人数増えてるの?
そう。かなりの余裕を持って張ったはずの結界の中はルマ人たちですし詰め状態になっていたのだ。
まあ、確かにルマ人以外は通り抜けられない結界を、と思って張ったけどさ。あのルマ人達は一体どこから来たんだろうか?
そしてその周りを兵士たちが取り囲んでいる。私の結界を壊そうと攻撃している者もいるようだ。
「ええと、あれどうしましょう? やっぱり」
「フィーネ様。私たちには点にしか見えません。一体何が起きているのですか?」
「え? ああ、そうでした」
私は見えていないであろう 3 人に状況を伝える。
「なんと。そのような状況になっているのですか」
「とりあえず、行ってみるしかないのではござらんか? 見捨てるという選択肢は無いでござろう?」
「そうですね。出来れば穏便に済ませたいんですけど……」
「難しいでござろうな……」
「でしょうね」
私の言葉にシズクさんとクリスさんは渋い表情を浮かべる。
「えー? 全員やっつけちゃえばいいんじゃないですか?」
「ルーちゃん、さすがにそれはちょっと……」
「え? 何でですか? あいつらはエルフの女性を無理矢理奴隷にしてましたし、ルマの人達にも酷いことをしているじゃないですか。悪いことをしている魔物を殺すのは良くてどうして悪いことをしている人間は殺しちゃいけないんですか?」
「それは……」
確かに、ルーちゃんからしてみれば人間も魔物も異種族だ。しかもルーちゃんは父親を殺されて無理矢理奴隷にされ、家族をバラバラに引き裂かれている。
ええと、どうしよう。
私が答えに窮しているとサラさんが代わりに答えてくれた。
「ルミア様。人間が人間を殺めるという事は神によって罪であるとされています。それに何より人間同士が社会を作って生きる以上、人間が人間を殺す事を容認しては社会が成り立ちません。そのため私たち人間は王を頂き、道を踏み外した者のみを処刑するのです」
「え? じゃあ人間がエルフを殺すのは良いんですか? あたしのお父さんは人間に殺されたのに!」
「いえ。そういう事ではありません。人間の社会に生きる以上は人間のルールに従う必要があるのです」
「でもあの人達はルマの人達を殺して土地を奪ったんですよね? どうしてあの人たちは良いんですか?」
「それは、もうエイブラは新しい王を頂き新しいルールが作られたからです」
「じゃあ、ルマの人達がエイブラの人達を殺して新しい王様になればいいんですか?」
「それは……」
何だか珍しくルーちゃんが執拗に食い下がっている。もしかすると、ルマ人たちの境遇とエルフの置かれている状況を重ねて見ているのかもしれない。
「ルーちゃん。今エイブラの人達を殺してしまえば余計な遺恨を産むことになりますし、今の人達はバルトロさんが生きていた時にはまだ生まれていません。まずは、ルマ人の皆さんを連れて逃げることを第一に考えましょう」
「むうぅ。姉さまがそう言うなら分かりました」
ルーちゃんは納得していないという表情をしているが、私だってやりきれない思いだし何が正解なのかは分からない。
ただ、なるべく人が傷つかないように、血が流れないで済むようにはしたいと思う。
そんな事を思いつつ、私たちはルマ人達のもとへと急ぎ向かうのだった。
サラさんがまたも筋肉魔法、じゃなかった【土属性魔法】で壁を殴って破壊した。その先にはぽっかりと空洞が口を開けている。
「私の占いによると、ここを左に行けば出られるようです」
「流石ですね」
私達は浄化魔法の明かりを頼りに暗闇の中を進んでいく。ここは人が掘った跡があるので人工的に作られたもののようだ。天井も低いので背の高いシズクさんとクリスさん、そしてサラさんは腰を屈めなければいけないのでかなり大変だろう。
そんな狭い道を歩き続けていると、遠くに階段が見えてきた。
「出口、ですかね?」
「かもしれません」
そして私たちは警戒しながらゆっくりと階段を登る。耳を澄ますが階段の上の方からも後ろからも音は聞こえない。
「大丈夫そうでござるな」
「はい」
そうして階段を登りきると何かの建物の中に出てきた。周りの壁は全て日干し煉瓦で出来ている。
「どうやら、町の外に出たでござるな」
あれ? どういうこと?
「フィーネ様。おそらく、私たちが今通ってきた通路は大統領や首長が緊急時に脱出するための通路だったのだと思います」
「なるほど。占いというのはすごいですね」
「いえ、いつもはこれほど当たることはないのですが。その、何故か聖女様のお力になるための占いだけはよく当たるのです」
え? 何それ? もしかしてあのハゲたおっさんが何かしているのかな?
「それだけフィーネ様は神の寵愛を受けていらっしゃるという事なのでしょう」
いや、あのハゲたおっさんの寵愛はちょっと……。
ま、まあ助かったんだけどさ。ただどうにも良い印象がないと言うか。向こうも良い印象はないだろうしね。
「フィーネ殿。何やらルマ人達が妙なことになっているでござるよ」
「どういうことですか?」
外を確認して戻ってきたシズクさんに思わず私は聞き返す。
「外に危険はない故、出て確認すると良いでござるよ」
「はぁ」
私はシズクさんに促されて建物の外に出た。
ああ、ええと、うん。何であんなに人数増えてるの?
そう。かなりの余裕を持って張ったはずの結界の中はルマ人たちですし詰め状態になっていたのだ。
まあ、確かにルマ人以外は通り抜けられない結界を、と思って張ったけどさ。あのルマ人達は一体どこから来たんだろうか?
そしてその周りを兵士たちが取り囲んでいる。私の結界を壊そうと攻撃している者もいるようだ。
「ええと、あれどうしましょう? やっぱり」
「フィーネ様。私たちには点にしか見えません。一体何が起きているのですか?」
「え? ああ、そうでした」
私は見えていないであろう 3 人に状況を伝える。
「なんと。そのような状況になっているのですか」
「とりあえず、行ってみるしかないのではござらんか? 見捨てるという選択肢は無いでござろう?」
「そうですね。出来れば穏便に済ませたいんですけど……」
「難しいでござろうな……」
「でしょうね」
私の言葉にシズクさんとクリスさんは渋い表情を浮かべる。
「えー? 全員やっつけちゃえばいいんじゃないですか?」
「ルーちゃん、さすがにそれはちょっと……」
「え? 何でですか? あいつらはエルフの女性を無理矢理奴隷にしてましたし、ルマの人達にも酷いことをしているじゃないですか。悪いことをしている魔物を殺すのは良くてどうして悪いことをしている人間は殺しちゃいけないんですか?」
「それは……」
確かに、ルーちゃんからしてみれば人間も魔物も異種族だ。しかもルーちゃんは父親を殺されて無理矢理奴隷にされ、家族をバラバラに引き裂かれている。
ええと、どうしよう。
私が答えに窮しているとサラさんが代わりに答えてくれた。
「ルミア様。人間が人間を殺めるという事は神によって罪であるとされています。それに何より人間同士が社会を作って生きる以上、人間が人間を殺す事を容認しては社会が成り立ちません。そのため私たち人間は王を頂き、道を踏み外した者のみを処刑するのです」
「え? じゃあ人間がエルフを殺すのは良いんですか? あたしのお父さんは人間に殺されたのに!」
「いえ。そういう事ではありません。人間の社会に生きる以上は人間のルールに従う必要があるのです」
「でもあの人達はルマの人達を殺して土地を奪ったんですよね? どうしてあの人たちは良いんですか?」
「それは、もうエイブラは新しい王を頂き新しいルールが作られたからです」
「じゃあ、ルマの人達がエイブラの人達を殺して新しい王様になればいいんですか?」
「それは……」
何だか珍しくルーちゃんが執拗に食い下がっている。もしかすると、ルマ人たちの境遇とエルフの置かれている状況を重ねて見ているのかもしれない。
「ルーちゃん。今エイブラの人達を殺してしまえば余計な遺恨を産むことになりますし、今の人達はバルトロさんが生きていた時にはまだ生まれていません。まずは、ルマ人の皆さんを連れて逃げることを第一に考えましょう」
「むうぅ。姉さまがそう言うなら分かりました」
ルーちゃんは納得していないという表情をしているが、私だってやりきれない思いだし何が正解なのかは分からない。
ただ、なるべく人が傷つかないように、血が流れないで済むようにはしたいと思う。
そんな事を思いつつ、私たちはルマ人達のもとへと急ぎ向かうのだった。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる