勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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砂漠の国

第七章第12話 首都エイブラ

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大統領との会談を終えた私たちはそのまま宮殿でお世話になりながら 1,000 本の剣に浄化魔法の付与を行うこととなった。

また、町を見て回るのも護衛の兵士がいれば構わないという事だったので色々と見せて貰うことにした。

と、いうわけで 5 日程かけて付与の仕事がひと段落した私たちは今町に出ている。護衛の兵士が 10 人ほどぞろぞろとついてきてはいるがどこに行くにも止められると言うことは無い。

「随分と栄えているんですね。こんな砂漠の中なのに」
「イエロープラネット首長国連邦は交易の要衝です。ここより東にあるグリーンクラウド王国で産出される貴重な香辛料の取引はほぼ全てイエロープラネット首長国連邦を通り、そしてノヴァールブールを経由して我が国やブルースター共和国へと運ばれます」
「そうなんですか。船で直接運ぶのはダメなんですか?」
「魔物が出現する海域があるので難しいと聞きます」

なるほど。それでホワイトムーン王国では胡椒をあまり見かけなかったのか。

「あ、フィーネ様。あそこ……のようですね」

クリスさんが指さすと立派な建物が見えてきた。まるで貴族のお屋敷のようだが孤児院らしい。

既に門の前には関係者らしき人が私たちの出迎えのために立っている。

「聖女様。ようこそ第一孤児院へお越しくださいました」

そう言ってビタンと地面にひれ伏したので例のやり取りをしてから会話を始める。せっかく綺麗な服を着ているのに汚れてしまってもったいない。

「はじめまして。フィーネ・アルジェンタータと言います。突然の訪問を受け入れて頂きありがとうございます」
「いえいえ。聖女様に慰問いただけるとは、子供たちもきっと良い思い出になることでしょう。私はこの第一孤児院を預かっております院長のラシードと申します」

そうしてそのまま院長さんに案内されるが、院内もきれいに掃除されていて子供たちの服もきちんとしている。とりあえず孤児院は困っているだろうからと思って来てみたのだが、まるでそんな様子はなさそうだ。

「何だか、思っていたのと違いますね。なんと言うか、あまり困っていないような……?」
「聖女様。我が国の孤児院は全て首長による私費で運営されております。子供は国の宝でございますからそこにかけるお金を惜しむ首長などおりません。ああ、他の国ではどうなのかは存じませんが……」

そう言って院長はクリスさんの方をちらりと見遣ると、クリスさんは悔しそうに顔を俯ける。

うーん、確かにホワイトムーン王国の孤児院はあまりお金がなさそうだったもんなぁ。

そんなやり取りをしながら私たちはホールのような場所へと案内された。

「さ、聖女様。こちらでございます」

私達が中に入るとそこには子供たちが整列して私たちを出迎えてくれた。そして子供たちも大人たちと同じようにビタンと地面にひれ伏す。

「「「神は偉大なり! 神は偉大なり! 聖女は神の使徒なり! 聖女の救済に感謝を!」」」

子供たちの声もぴったり揃っている。

いや、うん。すごいけどこれはやりすぎなんじゃないかな?

「神はあなた方を赦します」

私が若干うんざりしながらもそう答えると子供たちは一斉に立ち上がる。

「聖女様、子供たちは聖女様のために歌を練習していたそうです。どうかお聴き頂けませんか?」
「は、はい」

それから演奏が始まった。何やら台形の木の上に弦の張られた打楽器を使って一人の男の子が伴奏をし、それに合わせて合唱が始まった。

なんと言うか、うん。

歌は子供たちなのにものすごく上手だ。上手なんだが……その、歌詞の内容が首長様を讃えているのだ。

神の遣わした偉大なる首長様がいるこの国は偉大だ、的な内容なのだが、子供にこんな歌を歌わせていいのか?

それから三曲子供たちの演奏に付き合って、私は営業スマイルで子供たちを褒めてあげた。そして「皆さんに祝福を」と伝えると子供たちとお別れすることになった。

いや、だって、交流しようにも院長さんに連れていかれてしまったし。

この後、院長さんと当たり障りのないお話をした後孤児院を後にすると病院にも慰問に行った。やはりここも見事に整った設備と充実したスタッフのおかげで不自由している様子もなかった。

何でも首長の命令で治療は神殿ではなく全て病院で行われることになっているらしい。そのため、治癒師も神殿ではなく病院で働いているのだそうで、病気の知識を持った医師と【回復魔法】の使える治癒師、そして病人や怪我人を支える看護師がそれぞれの役割のもとで分担して治療に当たっているらしい。

すごい!

そうして医療体制を確認し、彼らの手に負えない患者さんだけ治療してあげると私たちは帰路に付いたのだった。

****

「何だか、不思議な場所ですね」
「はい。孤児たちがあのように豊かな暮らしをしているとは予想外でした。一体どうしてあのような事ができるのでしょう……」

クリスさんは孤児院の事を考えてか、またも悔しそうな表情をしている。

「病院も、ホワイトムーン王国では神殿が治癒師や司祭の職業を持つ人を囲ってしまうのであんな風にはできないですよね」
「……囲う、というわけではありませんが、皆神殿に勤めたいという想いはあるのだと思います」

またもクリスさんは悔しそうな顔をしている。

「えー、でも何か変でしたよ? 特に最初に行った子供たちのいるところ」
「そうでござるな。拙者もそう思うでござるよ?」
「え?」

ルーちゃんとシズクさんの言葉にクリスさんは疑問の表情を浮かべる。

「今日訪れたあの孤児院でござるが、あれは外国の客人に良いところを見せるための施設だと思うでござるよ」

ああ、そう言えば前の世界でもそんな話をどこかで聞いたような? 何だっけ?

「そうでなければ、子供たちにフィーネ殿と遊ぶ時間を作ってやるのではござらんか?」
「む」
「フィーネ殿とあの院長の中身のないあの会談は、子供たちの口から何かボロがでないようにするためだと思ったでござるよ」
「……」
「ま、だからと言って拙者たちが何かできるわけではござらんがな」

そう言ってシズクさんは複雑そうな表情で笑ったのだった。
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