239 / 625
動乱の故郷
第六章第13話 王都へ
しおりを挟む
翌日、私たちは乗合馬車を使って王都を目指すこととなった。カポトリアス辺境伯爵が騎士団で護送してくれると申し出てくれたのだが私たちはそれを固辞した。
断った理由は政治的なもので、私たちがカポトリアス辺境伯爵の庇護下にあると思わせないためだ。それに、護衛騎士としてニコラくんがついてきそうになったのだ。
いくらなんでも 9 歳の子供に守られるほど私たちは弱くないし、どちらかと言えばニコラくんを私たちが守る側だ。
ただ、乗合馬車に乗っているもののその馬車の周りと前後を第五騎士団の皆さんが固めている。名目上は、魔王警報が準警報へと引き上げられたため、街道を走る馬車の安全を守るため、と言うことになっているが実際は私たちの護衛という事なのだろう。
正直そこまでしなくても、とは思うのだが帰れというわけにもいかない。
なんとなく居心地の悪い思いをしながらも私たちは馬車に揺られるのだった。
****
そしてサマルカを出て二度目の峠を越えたところで私たちの乗った馬車は止めらることとなった。
「第五騎士団の諸君、王命により聖女フィーネ・アルジェンタータ様の護送は我々近衛騎士団が責任を持って引き継ぐ」
そうするとこれまで護衛してくれた皆さんも何か敬礼をして引継の儀式のようなことをしている。
「フィーネ様、近衛騎士団がここまで迎えに来るということはまずあり得ません。これは何かあったようです」
「そうなんですか?」
「はい。近衛騎士団の任務は王族と王城、そして要人の警護です。つまり、近衛騎士団は国王陛下とその家族のための騎士団で、王都から出てくることはまずあり得ません」
なるほど。まだまだ王都までは遠いわけだし、確かにそれは異常事態かもしれない。
そんな話をしていると、近衛騎士団の人がこちらへとやってきて跪いた。
「聖女様、国王陛下の命によりお迎えに参上いたしました。近衛騎士団第三護送隊隊長リシャール・ドゥ・フルニエールと申します」
「フィーネ・アルジェンタータです。お勤めご苦労様です」
「それではこちらへ。王都まで我々の馬車にてお送りいたします」
「ありがとうございます」
私はクリスさんのエスコートで馬車を降りるとそのまま手を引かれて近衛騎士団の用意した馬車へと向かう。
正直、誰かの助けを借りなくても馬車は降りられるし自分で歩けるわけだがそういうのが、こういう場ではこれがマナーなのだそうだ。
「そういえば、クリスさんも近衛騎士団でしたっけ?」
「はい。所属はそういうことになっております」
「あの人に敬礼しなくて良いんですか? 隊長ってことは同じ騎士団の偉い人なんじゃないんですか?」
「必要ありません。私はホワイトムーン王国の騎士である前にフィーネ様の騎士です。古来より、聖騎士は聖女にその剣を捧げると決まっており、主を選んだ時点で国を離れるのが習わしです。その私たちを王国に残すために作られたのが近衛騎士団の特務部隊です。特務部隊は国王陛下の命を受けて独自の裁量で自由に行動する独立した騎士の集まりです。ですので私は騎士団の階級社会の外側におります。私が膝をつく必要があるのはフィーネ様以外ですと王族、教皇猊下、そしてシャルロット様に対してのみです」
「そうだったんですね。クリスさん、実は偉かったんですね!」
「……フィーネ様のほうが上なのですよ?」
私が感動してそう言うと、クリスさんに呆れたような表情でそう返されてしまった。
なるほど、確かにクリスさんの主という事になっているし、それに帝国でも皇帝と対等と言われたもんね。
そうか、私、実は偉かったのか。はぁ。階級社会って面倒くさいね。みんな平等のほうが楽でいいと思うんだけどなぁ。
「さ、フィーネ様」
私はクリスさんにエスコートされてホワイトムーン王国の王家の紋章があしらわれた豪華な馬車に乗り込む。先ほどまでの乗合馬車と比べてクッションもふかふかだし内装も豪華だ。
ルーちゃんが何度も座席の上でお尻で跳ねてはクッションの柔らかさを確かめている。
そうこうしているうちに馬車がゆっくりと動き出した。さすが、王家の紋章のついた VIP 用の馬車だ。座席のクッションがしっかりしているおかげもあるが、全体的にスムーズで振動が少なく随分と快適だ。
「王都まではあとどのくらいなんですか?」
「大体一週間といったところでしょう。この先にセムノスという大きな港町があります。そこを出ますとフィーネ様も一度馬車でお通りになった道となります」
「そうなんですか?」
「はい。セムノスの先でザラビアから王都へ向かう街道と合流いたします」
うん? ザラビア? どこだっけ?
そう思っていると表情を読まれてクリスさんが説明してくれた。
「フィーネ様、お忘れかもしれませんがザラビアというのはフィーネ様がシュヴァルツを退治なさってから最初にご逗留された港町で、マッシルーム子爵の治めております」
「え? あ、ああ、ええと、はい。もちろん覚えていますよ。はい」
うん。あの腹筋を殺しに来たキノコ子爵のね。
あ、ヤバい。ちょっと思い出したら笑いがこみあげてきそうに……
「あれ? 姉さまなんで俯いているんですかっ? お腹でもすいたんですか?」
「……いえ……そう、では……なくっ、う、くく」
その様子を見ていたルーちゃんが私の脇腹をつついてきた。
「ぶふっ」
私はこらえきれずに吹き出してしまった。
「あー、なんだかよく分からないけど我慢してましたねっ? えいっ」
「ちょ、ルーちゃん、あは、あははは、ちょ、まって――」
しかし私の必死の抗議も空しくルーちゃんに脇腹攻撃は苛烈さを増していく。
「えいっ、えいっ」
「あ、はは、くふふっ、ちょ、ちょっと、クリスさん! たすけっ、あはは」
「ルミア、ほどほどにな」
「はーいっ」
そんな私たちをシズクさんは微笑ましい物でも見るかのような目で見ていたのだった。
お願いだから助けてよっ!
断った理由は政治的なもので、私たちがカポトリアス辺境伯爵の庇護下にあると思わせないためだ。それに、護衛騎士としてニコラくんがついてきそうになったのだ。
いくらなんでも 9 歳の子供に守られるほど私たちは弱くないし、どちらかと言えばニコラくんを私たちが守る側だ。
ただ、乗合馬車に乗っているもののその馬車の周りと前後を第五騎士団の皆さんが固めている。名目上は、魔王警報が準警報へと引き上げられたため、街道を走る馬車の安全を守るため、と言うことになっているが実際は私たちの護衛という事なのだろう。
正直そこまでしなくても、とは思うのだが帰れというわけにもいかない。
なんとなく居心地の悪い思いをしながらも私たちは馬車に揺られるのだった。
****
そしてサマルカを出て二度目の峠を越えたところで私たちの乗った馬車は止めらることとなった。
「第五騎士団の諸君、王命により聖女フィーネ・アルジェンタータ様の護送は我々近衛騎士団が責任を持って引き継ぐ」
そうするとこれまで護衛してくれた皆さんも何か敬礼をして引継の儀式のようなことをしている。
「フィーネ様、近衛騎士団がここまで迎えに来るということはまずあり得ません。これは何かあったようです」
「そうなんですか?」
「はい。近衛騎士団の任務は王族と王城、そして要人の警護です。つまり、近衛騎士団は国王陛下とその家族のための騎士団で、王都から出てくることはまずあり得ません」
なるほど。まだまだ王都までは遠いわけだし、確かにそれは異常事態かもしれない。
そんな話をしていると、近衛騎士団の人がこちらへとやってきて跪いた。
「聖女様、国王陛下の命によりお迎えに参上いたしました。近衛騎士団第三護送隊隊長リシャール・ドゥ・フルニエールと申します」
「フィーネ・アルジェンタータです。お勤めご苦労様です」
「それではこちらへ。王都まで我々の馬車にてお送りいたします」
「ありがとうございます」
私はクリスさんのエスコートで馬車を降りるとそのまま手を引かれて近衛騎士団の用意した馬車へと向かう。
正直、誰かの助けを借りなくても馬車は降りられるし自分で歩けるわけだがそういうのが、こういう場ではこれがマナーなのだそうだ。
「そういえば、クリスさんも近衛騎士団でしたっけ?」
「はい。所属はそういうことになっております」
「あの人に敬礼しなくて良いんですか? 隊長ってことは同じ騎士団の偉い人なんじゃないんですか?」
「必要ありません。私はホワイトムーン王国の騎士である前にフィーネ様の騎士です。古来より、聖騎士は聖女にその剣を捧げると決まっており、主を選んだ時点で国を離れるのが習わしです。その私たちを王国に残すために作られたのが近衛騎士団の特務部隊です。特務部隊は国王陛下の命を受けて独自の裁量で自由に行動する独立した騎士の集まりです。ですので私は騎士団の階級社会の外側におります。私が膝をつく必要があるのはフィーネ様以外ですと王族、教皇猊下、そしてシャルロット様に対してのみです」
「そうだったんですね。クリスさん、実は偉かったんですね!」
「……フィーネ様のほうが上なのですよ?」
私が感動してそう言うと、クリスさんに呆れたような表情でそう返されてしまった。
なるほど、確かにクリスさんの主という事になっているし、それに帝国でも皇帝と対等と言われたもんね。
そうか、私、実は偉かったのか。はぁ。階級社会って面倒くさいね。みんな平等のほうが楽でいいと思うんだけどなぁ。
「さ、フィーネ様」
私はクリスさんにエスコートされてホワイトムーン王国の王家の紋章があしらわれた豪華な馬車に乗り込む。先ほどまでの乗合馬車と比べてクッションもふかふかだし内装も豪華だ。
ルーちゃんが何度も座席の上でお尻で跳ねてはクッションの柔らかさを確かめている。
そうこうしているうちに馬車がゆっくりと動き出した。さすが、王家の紋章のついた VIP 用の馬車だ。座席のクッションがしっかりしているおかげもあるが、全体的にスムーズで振動が少なく随分と快適だ。
「王都まではあとどのくらいなんですか?」
「大体一週間といったところでしょう。この先にセムノスという大きな港町があります。そこを出ますとフィーネ様も一度馬車でお通りになった道となります」
「そうなんですか?」
「はい。セムノスの先でザラビアから王都へ向かう街道と合流いたします」
うん? ザラビア? どこだっけ?
そう思っていると表情を読まれてクリスさんが説明してくれた。
「フィーネ様、お忘れかもしれませんがザラビアというのはフィーネ様がシュヴァルツを退治なさってから最初にご逗留された港町で、マッシルーム子爵の治めております」
「え? あ、ああ、ええと、はい。もちろん覚えていますよ。はい」
うん。あの腹筋を殺しに来たキノコ子爵のね。
あ、ヤバい。ちょっと思い出したら笑いがこみあげてきそうに……
「あれ? 姉さまなんで俯いているんですかっ? お腹でもすいたんですか?」
「……いえ……そう、では……なくっ、う、くく」
その様子を見ていたルーちゃんが私の脇腹をつついてきた。
「ぶふっ」
私はこらえきれずに吹き出してしまった。
「あー、なんだかよく分からないけど我慢してましたねっ? えいっ」
「ちょ、ルーちゃん、あは、あははは、ちょ、まって――」
しかし私の必死の抗議も空しくルーちゃんに脇腹攻撃は苛烈さを増していく。
「えいっ、えいっ」
「あ、はは、くふふっ、ちょ、ちょっと、クリスさん! たすけっ、あはは」
「ルミア、ほどほどにな」
「はーいっ」
そんな私たちをシズクさんは微笑ましい物でも見るかのような目で見ていたのだった。
お願いだから助けてよっ!
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる