勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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巫女の治める国

第四章第42話 治療(前編)

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「あの、そろそろ」
「そうね。あなたももう大丈夫そうだし、治療してあげなさい」

アーデの膝枕から解放された私は MP 回復薬を飲むと立ち上がった。

まずはクリスさんを診る。先ほど慌てて掛けた治癒魔法のおかげで命に別状はなさそうだ。

次にルーちゃんを診る。傷口は塞がっているものの、腹を貫かれていたのできちんと治療したほうが良さそうだ。

シズクさんは……目立った外傷はないし、先ほど動いて刀を振れていたので肉体面は急ぎではないだろう。だがあれだけいろいろされていたのでやはり不安ではある。

よし、優先順位は決まった。

私はまずルーちゃんの治療をはじめる。治癒魔法を巡らせ、体の中で治っていない部分を探し、その傷を癒していく。

む、これは内臓に傷がありそうだ。この場所は多分、腸とかかな? ということは解毒もしてあげないと。

私は解毒魔法で傷ついた腸から血液に乗って流れたと思われる毒素を分解していく。そして病気治療魔法をかけて同じく腸から血に流れ込んだ雑菌による病気の予防と治療をする。その後もう一度治癒魔法をかけ、浄化魔法、解呪魔法、洗浄魔法と順に使って治療を終える。

浄化と解呪はスイキョウの纏っていたあの黒いオーラが怖かったので念のためかけたのだが、特に手応えはなかったので大丈夫なようだ。

次はクリスさんだ。私は治癒魔法をかけてクリスさんの傷を癒す。手応えからしてもやはりほとんど傷は治っていたようだ。このまま安静にしておけばそのうち目を覚ますだろう。私は洗浄魔法をかけてクリスさんの治療を終える。

最後にシズクさんを診る。やはり戦闘中にかけた治癒魔法のおかげで怪我は治っているようだ。だが意識が戻らない。

あれ? 確か香を使って思考を麻痺させたと言ったような?

私はスイキョウの言葉を思い出して解毒魔法をかける。僅かに手応えを感じるが、毒によって危険な状態に陥っているわけではなさそうだ。

私はスイキョウの言葉を再び思い出す。あいつは香、隷属の呪印、そして黒狐を調伏し、そして力を与えて人ではなくしたと言っていたはずだ。

このうち最初の二つはもう解決済みだ。なので対処しなくてはいけないのは残りの二つなのだが、正直言って何をしたらいいのかさっぱり分からない。

「困っているのかしら?」

困っていた私にアーデがそう声をかけてくる。

「はい。どう治療したらいいのか見当がつかなくて」
「ちょっと見せてくれるかしら?」

アーデはシズクさんをじっと観察している。どうやら闇属性の魔力を使って何かしているようだ。

「浄化をしてあげないと狂ってしまいそうなくらいの瘴気が入り込んでいるわね。それと、その瘴気が最初に汚染したのは憑いてた黒狐の方ね。このおかしな瘴気の入り込み方は、そうね。この黒狐を媒介にして後から無理やり注入されたのかしら? ああ、でもその黒狐がこの子の魂と融合してしまっているわ。これはずいぶんと厄介ね。あなたの力で浄化したらきっとこの子の魂も一緒に消滅しちゃうんじゃないかしら?」
「そんな!」

私は悲鳴に近い声をあげてしまう。

「あいつ、ホントに性格悪そうだったものね。わたしのフィーネを悲しませるなんて許せないわ」

え、あ、いや、そうですか。

何故だか分からないけれどアーデのその発言で我に返ったというか、とにかく冷静になることができた。

「さっきのはどうやっていたんですか?」
「闇属性の魔力を使って魂の状態を調べたのよ。【魅了】の応用ね。あなたほど魔力の扱いに慣れているなら簡単にできるはずよ?」
「やってみます」

私は MP 回復薬をもう一本飲み干すと、闇属性の魔力を【魔力操作】を使って制御してシズクさんの体を調べていく。

私はシズクさんの体の中に何かどろどろとしたものが入っているのをすぐに見つけた。

だが、こんなどろどろした気持ち悪いものがシズクさんの魂なのか?

いや、もしかするとこれがアーデの言っていた瘴気に侵された黒狐と融合したシズクさんの魂なのかもしれない。

そうか、人ではなくした、というのはそういう意味か。

スイキョウの仕打ちに私はギリリと歯噛みする。

でも、諦めるもんか!

シズクさんならきっと、こんなものに負けないはずだ。そう、負けないはずなんだ!

私は慎重にこのどろどろした何かかの中からシズクさんを探す。

壊さないように。

慎重に。

優しく。

ゆっくりと。

ゆっくりと。

****







ふと気が付くと周りは真っ暗だった。これが死後の世界と言うものなのだろうか? 

何も見えない

誰もいない

『これが、生贄となった者の末路、でござるか』

拙者は誰もいない暗闇の中で独り小さく呟いた。







その時だった。何かの気配があることを感じ、拙者は周りを見回す。

暗い。やはり真っ暗だ。

いや、あれは?

狐?

黒い狐?

闇に溶け込むような黒い、狐。

次の瞬間、何かが拙者の中に入ってくる。

あ、これは……記憶?

『そう、で、ござるか。狐殿、そなたは、人間に……』

黒い毛皮が珍しいと笑う声

追い回される恐怖

生きたまま毛皮を剥がされる痛み

そうか。これは狐殿が生きていた頃の記憶だ。

『復讐したい、でござるか?』

いや、違うようだ。狐殿の想いが拙者の中に流れ込んでくる。

『そう、でござるか。楽に、なりたいでござるか……』

拙者は手を伸ばしそっと頭を撫でた。すると狐殿は気持ちよさそうに目を細めた。

その時だった。

何かどろどろした黒いものが拙者たちを飲み込むかのように押し寄せてきた。

次の瞬間、拙者のものでも狐殿のものでもないおぞましい何かが拙者の中に流れ込んできた。

殺そう。

だめだ。そんなことは!

奪おう。

だめだ! だめだ!

憎い。

復讐しよう。

やめろ! やめろ! やめろ!

皮を剥いでやろう。

はらわたを喰らおう。

子供の肉は柔らかい。

『あ、あ、あ、あああああああ! 入ってくるな! 拙者は! 拙者は!』

…… 拙者は?
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