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巫女の治める国

第四章第31話 封印

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「グガァァァァァ! オノレ、オノレ、オノレ!」

胴に一撃を受けたヨシテルが咆哮をあげながらクリスさんを睨み付ける。きれいな一撃が入ったように見えたがあまりダメージが通っているようには見えない。それに、何だか様子がおかしい。

しかしクリスさんは涼しい顔でヨシテルを挑発する。

「ふ。借りものの力に頼るようでは私には勝てんぞ?」
「キサマ、キサマ、キサマぁぁぁぁ!」

再びヨシテルがクリスさんに剣を打ち込んでくるが、それをクリスさんは剣で受け止める。

「フィーネ様、早くキリナギを! 私はこの程度の輩に敗れはしません」

クリスさんがそう私に向かって叫んだ。

「わかりました。必ず無事に私とのころに戻ってきてください」
「はい、必ずや!」

私はその言葉を聞き届けると、急いで道場の奥へと駆け出す。ここは衛兵の詰め所も兼ねているそうだからこのままカンエイを放置しても問題ないだろう。

下手に治療してまた妨害されても困るしね。

私は走りながら魔力操作で聖属性の魔力を飛ばし、道場の中におかしな魔力がないかを探していく。封印されているにしろ、妖刀であるにしろ、何らかの気配は見つけられるはずだ。

「あ! 見つけました。こっちです!」

怪しげな魔力の反応を見つけた私はルーちゃんとソウジさんを連れ、その場所へと向かったのだった。

****

「この扉の向こうだと思います」

私たち重たい鉄の扉の前にやってきた。ここに来るまでにも数十人の衛兵たちを斬り伏せてきた。私たちの事情で斬ってしまうことに申し訳ないという気持ちはあるが、シズクさんを取り返すために自分で決めたことだ。後悔はない。いや、後悔してはいけない。

ちなみに、こういった流血の事態を見越して昨日の夜にクリスさんから血を貰っておいた。なので今は吸血衝動に襲われることはない。そう、準備は万全だ。

私はこの重たい鉄の扉を指さしてソウジさんに訪ねる。

「ソウジさん、この扉を開けられませんか?」

この扉は頑丈そうな南京錠で閉ざされており、鍵無しで開くことは難しそうだ。

「やってみるでござる」

ソウジさんが力づくで鍵を引っ張ってみるが、やはり鍵を壊すことはできない。

「鍵開けの魔法なんて使えないですし、ううん、どうしましょうね……」

私は考える。ピッキングなんて技術はないし、金属を無理やり引きちぎるというのも難しそうだ。クリスさんやシズクさんなら鍵ごとぶった切るなんてことをしてくれそうな気もするが、ソウジさんには荷が重いようだ。







「あ、そうか。私だけなら入れますね。じゃあ、ちょっと行ってきます。クリスさんが追いついてきたら壊してもらって中に入ってきてくださいね」
「「え?」」

私は影に潜るとそのまま扉の隙間から室内へするりと侵入する。

その中には小さな祭壇のようなものがあり、その上に一振りの見覚えのある刀が安置されている。その刀の周りには、包み込むかのように黒い結界が張られている。

私は灯りのない部屋の中を祭壇へと向かって歩いていく。やはり【影操術】で影に潜れることといい、暗い場所でも問題なく見えることといい、吸血鬼の能力は便利だ。

吸血衝動が面倒だが、クリスさん、そしてたまにルーちゃんのおかげで何とかなっているし、私はつくづく仲間に恵まれたと思う。

そんなことを思いながら祭壇の前へと歩いてきた。私は結界に触れるように手を伸ばすが、結界に触れた瞬間バチッと電気が走ったように私の手は弾かれてしまった。

そしてどこからともなくおどろおどろしい声が聞こえてきた。

「ォォォォタチサレ……」
「誰ですか?」
「……」

どうしよう。話が通じない。というか、これどう考えても襲ってくるパターンだよね?

「ォォォォ……」

おどろおどろしい声が再び聞こえたかと思ったその瞬間、祭壇の向こう側から黒い霧が噴き出してきた。

その霧は徐々に集まり化け物の形を成していく。横に裂けた牙だらけの巨大な口、そしてその口の上部は平らになっており、飛び出た目玉が八つほど滅茶苦茶に配置されている。そんな頭部からはまるで百足のような胴体がするりと伸びている。

「うえぇ、気持ち悪い」

思わずポロリと呟いてしまったが、こいつはそんな私の反応にはお構いなく噛みつこうと襲い掛かってくる

「防壁」

物理も魔法もこれ一枚で何でも防げる便利魔法でその攻撃を受け止める。

「オォォォォォォォォ!」

名前のよく分からない妖怪百足(仮)が地の底から響くような雄たけびをあげる。その瞬間、妖怪百足(仮)を中心に衝撃波が走る。

私は自分の周りを覆うように結界を展開して防壁の脇を抜けて襲ってくる衝撃波を防いだ。

「さて、浄化は効きますかね? えい!」

妖怪百足(仮)に浄化魔法を叩き込んでみる。妖怪百足(仮)の足元から浄化の光が立ち上ると、それをまともに浴びた妖怪百足(仮)は「ォォォォ」と苦し気なうめき声をあげる。

そしてその浄化の光が消えると、妖怪百足(仮)の姿はなかった。

うん、大したことない敵で助かったね。

私は他に気持ち悪いのがいると嫌なので部屋を丸ごと浄化する。そしてその浄化の光が収まってすっきりしたところで私は再び祭壇の結界へと手を伸ばす。

バチン

結界によって私の手は弾かれてしまったが、私自身は特にダメージを受けていない。

よくよく観察してみるとどうやらこれは闇属性の魔力で封印されているようだ。なるほど、だから【闇属性耐性】が MAX の私には一切の効果がなかったようだ。

結界をつんつんしながらどうしようかと考えていると、私の指先に黒い魔力が絡みついてきた。それはまるで触手のようにうねうねとうごめきながら私の腕を伝って来ようとしている。

どうやら私に何かの呪いを掛けようとしているようだが、私の【呪い耐性】を発揮するまでもなく王様に貰ったローブがそれを防いでくれている。

うん、やっぱりこのローブ、何気に優秀だよね。オタエヶ淵の時も呪いを防いでたし。

それにしてもこの国、呪いが多すぎなんじゃないかな?

そんなどうでもいいことを考えつつ、どうやって結界を破るかを考えてみる。

うーん、闇の魔力だし、聖属性の魔力をぶつければいいのかな? あ、いや、待てよ。確か白銀の里で結界について教えてもらったような? えーと、なんだっけ?







そうだ。色々と小難しい話はあったけど結局は「封印修復」って念じて【聖属性魔法】を発動すれば修復できるってことだったね。うん。ダメじゃん!

考えることをやめた私は心の中で「封印解除」と念じて【聖属性魔法】を発動する。私の手から放たれる眩い白い光と黒い結界がぶつかり合い、そして徐々に私の魔力が黒い結界を侵食していく。

私が少しの間それを続けていると、この黒い結界は形を保てなくなり音を立ててバラバラに砕け散ったのだった。
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