163 / 625
巫女の治める国
第四章第30話 カンエイ・ミツルギ
しおりを挟む
2020/09/11 誤字を修正しました
================
「サイトウ、貴様は未だにあのミエシロの忌々しい女を守ろうとしているのじゃな。まったく、愚かなことよ」
「何だと!」
「くくく、キリナギを奪われたときはどうなるかと思ったがのう。所詮は頭の悪いミエシロの愚かな女じゃったということじゃ。今頃、あの女は八頭龍神様に捧げられて無様にくたばっておることじゃろうて。ふはははははは」
「貴様!」
「ソウジさん、落ち着いてください。挑発ですよ」
ソウジさんが怒りをあらわに斬りかかろうとするが私が窘めてそれを止める。この酷い言い草にはものすごく腹が立つが、ここでこいつのこんな安い挑発に乗ったらますます相手の思う壺というやつだ。
「あ、ああ、すまないでござる。フィーネちゃん。大丈夫。ちゃんとフィーネちゃんを守るでござるよ」
「はい」
「くく、スイキョウ様に足を治していただいたこの儂に勝てるとでも思っておるのか?」
そう言うとカンエイが抜刀し、そして凄まじい速さで斬りかかってきた。
「がっ」
ソウジさんもとっさに反応はしたが避けきれず、右の肩口を浅く切られてしまう。
「くくく。いかにシンエイ流といえど、テッサイのクソジジイとあの忌々しい女以外は敵ではない」
カンエイが見下すような口調でそう言い放つ。私はこっそりとソウジさんに近づいて治癒魔法で治療する。
「一体なぜ、こんな愚かなことを?」
ソウジさんを治癒しつつ時間稼ぎに話を向ける。
私のこの質問は普通に考えれば何を聞いているのか分かりづらく意味不明にも思えるが、一応ちゃんと意図はある。このカンエイというおじいさん、ちょっと何かコンプレックス的なものを抱えていそうなので、うまくそこをつついてあげれば勝手に喋り出すんじゃないかと思ったのだ。
私としては馬鹿にされたと勘違いしてくれたらいいな、くらいのものだったのだが、どうやらピンポイントで怒りのスイッチを押すことに成功したようだ。
私にそう聞かれたカンエイは一瞬にして顔を真っ赤にして私を怒鳴りつけてきた。
「なぜ、じゃと? 愚か、じゃと? 分家の分際で! 分家は本家の糧となれば良いのじゃ! じゃというのに、スイキョウ様にミツルギの姓を賜り剣としてお認め頂き、生贄は分家のみでよいとお約束頂いたというのに!」
ただ、あまりにも怒っているせいなのか、言っていることが滅茶苦茶で何を言っているのかいまいちよく分からない。
「それを何じゃ! 子も残さず死におって! 女なぞ適当に攫ってきて力づくで孕ませればよいのじゃ! 責任も果たさず! 分家が愚かなせいで! しかもキリナギまで奪っていきよって!」
ええと、つまり、ミエシロのご本家様は生贄の役目を分家に全て押し付けて国剣の地位を得たけど、分家のご当主様が子供を作らないで亡くなったせいでお家断絶になりそうなことを怒っている?
あれ? ということは、最終的に自分達にお鉢が回ってきそうだから怒っている、ということ?
それで女性を誘拐して乱暴しなかったのが悪いと?
あ、何だかすごい腹が立ってきた。こいつ、女性を、いや人を一体なんだと思ってるんだ!
「ルーちゃん、ソウジさん、私、こいつは許せません」
「あたしも同感ですっ。やっちゃいましょう」
「で、でも僕の腕ではあいつには」
ルーちゃんはやる気満々だが、ソウジさんは先ほどやられたせいか気後れしているようだ。
「大丈夫です。ソウジさん、私があいつの動きを止めます。合図したら攻撃してください」
治療を終えた私はソウジさんの目を見ながらそう宣言する。
「くくく、貴様のような小娘に一体何ができるというのじゃ! 切り刻んでぐれるわ!」
明らかにこちらを舐め切っているカンエイが一気に距離を詰めると上段からの刀を打ち込んできた。
「防壁」
私は目の前に防壁を作り出してカンエイの一撃を受け止める。冥竜王の一撃に比べれば何という事はない軽い攻撃だ。
「なんじゃと!? 怪しげな術を使うなぞ卑怯な!」
「は?」
それをお前が言うか? そっちなんか鬼になっている奴がいるくせに!
「このテロリストめが!」
「ルーちゃん!」
「はいっ!」
ルーちゃんが矢を打ち込み、それを刀で弾きながらカンエイが後退する。
「マシロちゃんも!」
「はいっ! マシロっ! 出番だよっ!」
ルーちゃんはマシロちゃんを召喚すると、マシロちゃんが風の刃を打ち込んでいく。
「ぐおおおお」
カンエイは必死になって避けようとするが、私はそれを許さない。
「はい、防壁」
カンエイの動く先にその足運びを邪魔するように防壁を立ててあげる。すると防壁にぶつかったカンエイはバランスを崩し、そこにマシロちゃんの風の刃が襲い掛かる。
「ぐあっ!」
マシロちゃんの風の刃がカンエイの左足に命中し、ふくらはぎがばっくりと開き鮮血が飛び散る。
「ソウジさん!」
「は、はい。任せるでござるっ!」
ソウジさんがカンエイにトドメを刺すべく駆け出す。
「ルーちゃん、援護!」
「はいっ!」
ルーちゃんが矢で援護射撃をする。もちろん、誤射対策に結界を張るのは忘れない。
ちなみにテッサイさんの紹介でルーちゃんは近所の弓術道場に通っていたのだが、このルーちゃんの誤射癖はついぞ改善されなかったと聞いている。なので、私だけでなくソウジさんの安全のためにもこの結界は必要不可欠なのだ。
幸いなことに今回はルーちゃんの誤射は発動せず、狙いすまされた矢がカンエイの眉間に、左胸にと打ち込まれていく。左足に傷を負ったカンエイがその矢を弾いた隙にソウジさんが距離を詰め、そしてがら空きの胴にソウジさんが一撃を入れる。
「が、はっ……」
ソウジさんの胴斬りをまともに受けたカンエイは血を吹き出して倒れこむ。
「お、親父ぃぃぃぃぃぃっ!」
その様子を視界の端で見ていたのか、クリスさんと鍔迫り合いをしていたヨシテルが悲痛な叫び声を上げた。
その隙を見逃さなかったクリスさんはヨシテルの刀をかち上げ、そして冷静に胴へと一撃を入れたのだった。
================
一応、カンエイさんは弱いわけではありません。いくらブランクがあるとはいえ、相当な強者の部類に入る人です。ただ、三対一なうえに防壁と結界による守りがカンエイさんには相性が悪すぎました。フィーネちゃんも司令塔として確実に成長していっていますね。
================
「サイトウ、貴様は未だにあのミエシロの忌々しい女を守ろうとしているのじゃな。まったく、愚かなことよ」
「何だと!」
「くくく、キリナギを奪われたときはどうなるかと思ったがのう。所詮は頭の悪いミエシロの愚かな女じゃったということじゃ。今頃、あの女は八頭龍神様に捧げられて無様にくたばっておることじゃろうて。ふはははははは」
「貴様!」
「ソウジさん、落ち着いてください。挑発ですよ」
ソウジさんが怒りをあらわに斬りかかろうとするが私が窘めてそれを止める。この酷い言い草にはものすごく腹が立つが、ここでこいつのこんな安い挑発に乗ったらますます相手の思う壺というやつだ。
「あ、ああ、すまないでござる。フィーネちゃん。大丈夫。ちゃんとフィーネちゃんを守るでござるよ」
「はい」
「くく、スイキョウ様に足を治していただいたこの儂に勝てるとでも思っておるのか?」
そう言うとカンエイが抜刀し、そして凄まじい速さで斬りかかってきた。
「がっ」
ソウジさんもとっさに反応はしたが避けきれず、右の肩口を浅く切られてしまう。
「くくく。いかにシンエイ流といえど、テッサイのクソジジイとあの忌々しい女以外は敵ではない」
カンエイが見下すような口調でそう言い放つ。私はこっそりとソウジさんに近づいて治癒魔法で治療する。
「一体なぜ、こんな愚かなことを?」
ソウジさんを治癒しつつ時間稼ぎに話を向ける。
私のこの質問は普通に考えれば何を聞いているのか分かりづらく意味不明にも思えるが、一応ちゃんと意図はある。このカンエイというおじいさん、ちょっと何かコンプレックス的なものを抱えていそうなので、うまくそこをつついてあげれば勝手に喋り出すんじゃないかと思ったのだ。
私としては馬鹿にされたと勘違いしてくれたらいいな、くらいのものだったのだが、どうやらピンポイントで怒りのスイッチを押すことに成功したようだ。
私にそう聞かれたカンエイは一瞬にして顔を真っ赤にして私を怒鳴りつけてきた。
「なぜ、じゃと? 愚か、じゃと? 分家の分際で! 分家は本家の糧となれば良いのじゃ! じゃというのに、スイキョウ様にミツルギの姓を賜り剣としてお認め頂き、生贄は分家のみでよいとお約束頂いたというのに!」
ただ、あまりにも怒っているせいなのか、言っていることが滅茶苦茶で何を言っているのかいまいちよく分からない。
「それを何じゃ! 子も残さず死におって! 女なぞ適当に攫ってきて力づくで孕ませればよいのじゃ! 責任も果たさず! 分家が愚かなせいで! しかもキリナギまで奪っていきよって!」
ええと、つまり、ミエシロのご本家様は生贄の役目を分家に全て押し付けて国剣の地位を得たけど、分家のご当主様が子供を作らないで亡くなったせいでお家断絶になりそうなことを怒っている?
あれ? ということは、最終的に自分達にお鉢が回ってきそうだから怒っている、ということ?
それで女性を誘拐して乱暴しなかったのが悪いと?
あ、何だかすごい腹が立ってきた。こいつ、女性を、いや人を一体なんだと思ってるんだ!
「ルーちゃん、ソウジさん、私、こいつは許せません」
「あたしも同感ですっ。やっちゃいましょう」
「で、でも僕の腕ではあいつには」
ルーちゃんはやる気満々だが、ソウジさんは先ほどやられたせいか気後れしているようだ。
「大丈夫です。ソウジさん、私があいつの動きを止めます。合図したら攻撃してください」
治療を終えた私はソウジさんの目を見ながらそう宣言する。
「くくく、貴様のような小娘に一体何ができるというのじゃ! 切り刻んでぐれるわ!」
明らかにこちらを舐め切っているカンエイが一気に距離を詰めると上段からの刀を打ち込んできた。
「防壁」
私は目の前に防壁を作り出してカンエイの一撃を受け止める。冥竜王の一撃に比べれば何という事はない軽い攻撃だ。
「なんじゃと!? 怪しげな術を使うなぞ卑怯な!」
「は?」
それをお前が言うか? そっちなんか鬼になっている奴がいるくせに!
「このテロリストめが!」
「ルーちゃん!」
「はいっ!」
ルーちゃんが矢を打ち込み、それを刀で弾きながらカンエイが後退する。
「マシロちゃんも!」
「はいっ! マシロっ! 出番だよっ!」
ルーちゃんはマシロちゃんを召喚すると、マシロちゃんが風の刃を打ち込んでいく。
「ぐおおおお」
カンエイは必死になって避けようとするが、私はそれを許さない。
「はい、防壁」
カンエイの動く先にその足運びを邪魔するように防壁を立ててあげる。すると防壁にぶつかったカンエイはバランスを崩し、そこにマシロちゃんの風の刃が襲い掛かる。
「ぐあっ!」
マシロちゃんの風の刃がカンエイの左足に命中し、ふくらはぎがばっくりと開き鮮血が飛び散る。
「ソウジさん!」
「は、はい。任せるでござるっ!」
ソウジさんがカンエイにトドメを刺すべく駆け出す。
「ルーちゃん、援護!」
「はいっ!」
ルーちゃんが矢で援護射撃をする。もちろん、誤射対策に結界を張るのは忘れない。
ちなみにテッサイさんの紹介でルーちゃんは近所の弓術道場に通っていたのだが、このルーちゃんの誤射癖はついぞ改善されなかったと聞いている。なので、私だけでなくソウジさんの安全のためにもこの結界は必要不可欠なのだ。
幸いなことに今回はルーちゃんの誤射は発動せず、狙いすまされた矢がカンエイの眉間に、左胸にと打ち込まれていく。左足に傷を負ったカンエイがその矢を弾いた隙にソウジさんが距離を詰め、そしてがら空きの胴にソウジさんが一撃を入れる。
「が、はっ……」
ソウジさんの胴斬りをまともに受けたカンエイは血を吹き出して倒れこむ。
「お、親父ぃぃぃぃぃぃっ!」
その様子を視界の端で見ていたのか、クリスさんと鍔迫り合いをしていたヨシテルが悲痛な叫び声を上げた。
その隙を見逃さなかったクリスさんはヨシテルの刀をかち上げ、そして冷静に胴へと一撃を入れたのだった。
================
一応、カンエイさんは弱いわけではありません。いくらブランクがあるとはいえ、相当な強者の部類に入る人です。ただ、三対一なうえに防壁と結界による守りがカンエイさんには相性が悪すぎました。フィーネちゃんも司令塔として確実に成長していっていますね。
0
お気に入りに追加
434
あなたにおすすめの小説
今日も聖女は拳をふるう
こう7
ファンタジー
この世界オーロラルでは、12歳になると各国の各町にある教会で洗礼式が行われる。
その際、神様から聖女の称号を承ると、どんな傷も病気もあっという間に直す回復魔法を習得出来る。
そんな称号を手に入れたのは、小さな小さな村に住んでいる1人の女の子だった。
女の子はふと思う、「どんだけ怪我しても治るなら、いくらでも強い敵に突貫出来る!」。
これは、男勝りの脳筋少女アリスの物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる