勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

文字の大きさ
132 / 625
花乙女の旅路

第三章最終話 別離

しおりを挟む
私たちはゆっくりと眠り、すこし遅めの朝食を取っていた。

「姉さまっ! 美味しいですねっ!」

朝からルーちゃんがいつものように食べている。

「ふふっ。ルーちゃんは相変わらず美味しそうに食べてますね」
「だって美味しいですから!」

幸せそうな笑顔で話すルーちゃんを見ているとそれだけで元気が出てくる。

「次は帝都でござるな。出発はいつ頃にする予定でござるか?」
「うーん、そうですねぇ。今日と明日は休養日にして明後日出発にしましょう」
「了解でござる」

そうこうしているうちにルーちゃんが食べ終わったようだ。私たちが席を立とうとすると宿の男性が私たちのところにやってきた。

「お食事中失礼いたします。フィーネ・アルジェンタータ様、シズク・ミエシロ様、クリスティーナ様、ルミア様でお間違いないでしょうか」
「はい」
「昨晩の件で皆様を町長様がお呼びでございます。今から二時間後に迎えの馬車が参りますのでロビーまでお越しください」
「わかりました。思ったよりも早かったですね」

こうなることは予想できていたし、明日出発にするとこれで引き留められるかと思っていたのだが、これなら明日出発でも問題なかったかもしれない。

「それと、シズク・ミエシロ様は」
「拙者でござる」
「こちら、お手紙をお預かりしております」
「かたじけない」

そう言って封筒を受け取ったシズクさんはそのまま懐にしまい込んだ。

だが、シズクさんが受け取った瞬間、表情が固まったように見えたのは私だけだろうか?

「シズクさん?」
「……ん? どうしたでござるか? フィーネ殿」

なんとなく気になって声をかけてみたが特に変わったところはない……かな?

「いえ。どなたからのお手紙ですか?」
「実家からでござるよ。いまだにこうして居場所を突き止めては手紙を送ってくるでござる。いやはや、付きまとわれて困っているでござるよ。ははははは」
「そうですか。ご家族に愛されているんですね」
「はは、どうでござるかなぁ」

うーん、なんか様子が変な気もするんだけどな。

「さて、拙者は一足先に部屋に戻っているでござるよ」

そう言うとシズクさんはそそくさと部屋へと戻っていった。

「うーん、少しだけお茶でも飲んで時間を潰しましょう。お手紙を読む時間もあるでしょうし」

こうして私たちは 5 分ほど時間を潰してから部屋へと戻った。

****

「フィーネ・アルジェンタータです。こちらから順にルミア、クリスティーナ、シズク・ミエシロです。本日はお招きいただき感謝します」

私は小さく礼を取り挨拶の口上を述べる。

「ようこそお越しくださいました。私は町長のルゥーチァォでございます。聖女様、そして従者の皆様、この度は吸血鬼を討っていただきありがとうございました。皆様のご尽力のおかげで我が町は吸血鬼の巣とされずに済みました。町を代表して心より御礼申し上げます」

痩せた中年の男性がそう言うって恭しく頭を下げた。

「当然のことしただけですから」
「またまたご謙遜を。こちらに、皆様方へとのお礼をご用意いたしました。どうぞお受け取り下さい」

町長さんがそう言うと、口を閉じた小さな布袋がお盆に乗せられて運ばれてきた。そしてお盆を運んできた女性と一緒に私たちの前まで歩いてくると、一人ずつに布袋を手渡していった。

チャラチャラと金属音がしているので中にお金が入っているのだろう。

「ありがたく頂戴します」
「ところで、聖女様はこの後ご予定はございますか?」
「いえ。特にこれといった予定はありません」
「それは良かった。是非、この町をご案内したく」
「ありがとうございます。お申し出、ありがたくお受けいたします」
「おお、ありがとうございます」

こうして私たちはそのまま町長さんの案内で町の名所を見て回った。そして今は昼食をご馳走になっている。

「なるほど。聖女様が武器に祝福を授けておられたのですか。衛兵たちの報告で、聖女様の従者の方が吸血鬼を斬ると浅い傷一つでも灰になったとの報告があったのですが、そのような理由だったのですね。いやはや、さすがは聖女様。おみそれいたしました」
「私たちの使う武器は全て浄化魔法が込められていますので、吸血鬼やアンデッドには効果が高いはずです。剣まで用意したのはフゥーイエ村で不死の獣と戦ったことが直接の理由ですが」
「不死の獣、でございますか?」
「はい。そうです」

私はフゥーイエ村と、そこからこの町までの道中での話をした。

「なるほど、そのようなことが。聖女様、もしよろしければ私どもの武器にも祝福を賜ることはできませんでしょうか? もちろん、お礼はお支払いいたしますので」
「はい、もちろんです。この町を守るのにも必要でしょうから」
「おおお、ありがとうございます」
「では、食べ終わったら早速お邪魔してもよろしいでしょうか?」
「今からやっていただけるのですかっ? ありがとうございます!」

こうして私は町長さんの依頼で衛兵たちの武器に付与をすることになった。これでフゥーイエ村との間道も多少は安全が確保できるだろう。

「私はフィーネ様と共に残るがルミアとシズク殿は?」
「あたしは屋台の食べ歩きに行ってきますっ!」

ルーちゃんは相変わらずだね。いつも通りルーちゃんにはリーチェにくっついていって貰おう。

「拙者も町をぶらついてみるでござるよ」
「分かりました。それではまた後で」
「……では失礼するでござるよ」

あれ? やっぱり様子がおかしいような?

こうしてルーちゃんとシズクさんは町へと繰り出していった。

「クリスさん、なんだかシズクさんの様子がちょっと変だと思いませんか?」
「そうでしたか? 私は特には感じませんでしたが……」
「うーん、それなら良いのですが」

私はこの時シズクさんにちゃんと声をかけなかったことを心の底から後悔することになった。

****

そして夕方、私たちが町中の武器に浄化魔法をありったけ付与してから宿に戻ると、顔面蒼白のルーちゃんが私たちをロビーで出迎えた。

「姉さまっ! 姉さまっ!」
「ルーちゃん、落ち着いて。何があったんですか?」
「シズクさんが、シズクさんがっ!」
「それだけじゃ分からないですよ」
「シズクさんがいなくなっちゃったんです!」
「えっ?」
「あたしがさっき戻ってきたら部屋に荷物が無くて、それで、それで……」
「と、とりあえず部屋へ行きましょう」

私たちは急いでルーちゃんとシズクさんの部屋へと向かった。そこにはシズクさんの荷物は無く、この町で買ったシズクさんの刀と封筒が置かれていた。

「シズクさん、やっぱり何かあったんじゃ……」

私は不安に駆られながらも封筒を開け、手紙を読む。

──── 
親愛なるフィーネ・アルジェンタータ殿、クリスティーナ殿、ルミア殿

このような形で出ていくことになった事、大変申し訳なく思っているでござる。

拙者が今朝受け取った手紙は本家からの召喚状でござる。拙者には生まれた時より定められた使命があり、ついにその使命を果たす時が来てしまったでござる。それ故、フィーネ殿のパーティーを抜けさせていただく事を決心した次第でござる。

ほんの数か月という短い間ではござったが、拙者一人で旅をしていた時とは比べ物にならぬほどの体験ができたこと、心より感謝しているでござる。

ルミア殿、妹君を共に探すとの約束を違えてしまうこととなり申し訳ないでござる。無事に妹君が見つかることを心から願っているでござる。それと、食べすぎには注意するでござるよ?

クリス殿、再試合の約束を果たせずに去ること、申し訳なく思っているでござる。拙者も楽しみにしていたでござるが、それが果たせなかったことを残念に思っているでござる。もし来世があるのなら、その時こそはまた手合わせをお願いしたいでござる。

そしてフィーネ殿、聖女、そして恵みの花乙女という二つの重責を担いながらも謙虚で穏やかで、そして困っている者たちに自然と手を差し伸べ続ける優しさと時として突き放す強さを、貴女自身に与えられた試練にも負けずに持ち続けるその生き方を心より尊敬しているでござる。

もっと早く出会えていれば、このような時がずっと続けばと、どれほど願ったかは分からぬでござる。しかし貴女のその懸命な姿を見て、拙者も逃げずに使命を果たすことを決意したでござる。

貴女殿と出会うことが出来なければ使命を果たす勇気も持てなかったかもしれないでござる。

ありがとう。

貴女の、そして皆の顔を見れば決心が鈍ってしまうかもしれぬ故、この手紙を残して拙者はゆくでござるよ。

拙者が貴女をもうお守りすることができない事は心残りではござるが、貴女の旅の無事と今後の活躍を心から祈っているでござる。

感謝を込めて。

シズク・ミエシロ
──── 

手紙の最後のほうの文字はところどころ滲んでいた。

「なんですか! これは! 内容がまるっきり遺書じゃないですか!!!」
「シズク殿……」
「姉さま……」
「あーもう。私はこんなの認めませんよ。仲間だって言ったのに。勝手に死ぬようなことはしないって約束したのにっ! どうしてみんなそうやって勝手に勘違いしてっ!」
「フィーネ様、落ち着いてください」

思わず声を荒らげてしまったところをクリスさんに窘められる。

「とにかく、急いで追いかけましょう!」
「フィーネ様、もう日が沈んでおり門も閉じております。危険ですので明日に」
「……」

確かに、こんな置き手紙を残した以上はもうこの町にはいないだろうし、このまま闇雲に飛び出しても意味がないだろう。

「わかりました。明日の朝一で出発しましょう」

シズクさんの果たすべき使命とは何なのか。

そしてシズクさんは無事なのか。

私はこうして眠れぬ一夜を過ごすこととなったのだった。

================
いかがだったでしょうか? 様々な出会い経験し第三章はこれにて完結となります。

次章ではシズクを追いかけてゴールデンサン巫国へと旅をしていきます。果たしてフィーネちゃんはシズクに再開することはできるのでしょうか? そしてシズクの果たすべき使命とは一体何なのでしょうか? どうぞ第四章もご期待ください。

なお、この後恒例の設定まとめとクリスさんたちのステータス紹介などを挟みまして、第四章をお届け致します。

また、お気に入り登録やご感想を頂けますと執筆のモチベーションアップにつながります。もしよろしければお気に入り登録やご感想を頂けますと幸いです。

今後ともお付き合いいただけますようよろしくお願いいたします。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

処理中です...