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花乙女の旅路
第三章第42話 ツィンシャの戦い
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2020/08/28 誤字を修正しました
================
最悪の事態が起こってしまった。
刺された子供は気管に穴がいたのか、ヒューヒューと音を立てて蹲っている。太い血管の通っていない場所を刺されたからか、血しぶきは上がらなかった。
「あ、あ、あ、ハオユー! わ、わたしは、あっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
我が子をお母さんの絶望の嘆きがロビーに響き渡る。その手には血塗られたナイフが握られている。
「さあ、聖女様。あと何人殺しましょう?」
厭味ったらしい笑顔をフェリルが私に向けてくる。
ダメだ。もはや策なんて考えていられない。
「三人で外で暴れる下級吸血鬼を止めてください。こいつの相手は私がします」
「ですがっ!」
「早く行ってください! 魅了解除!」
私は叫ぶと【聖属性魔法】の魅了解除をこのロビーとホテルの周囲 500 m くらいのエリアにまとめて放つ。
その光を合図に三人はロビーから飛び出していく。
「そんな馬鹿な! 出鱈目だ!」
フェルヒが焦ったような声を上げる。
どうやら人質はこのロビーにいる十組とこの宿の外に待機させていた何組かだけだったようだ。
というのも、この宿の外でも何人かに魅了解除の魔法が作用した手ごたえがあったが、それより遠い場所には手ごたえが全くなかったからだ。
そして魅了が解除されたお母さんたちとその子供たちは何だかよく分からないといった表情であたりの様子をキョロキョロとうかがっている。
「治療!」
そして私は刺されてしまった子供に遠隔で治癒魔法をかける。
淡い光に包まれて子供の傷がみるみる治っていき、そしてそのまま穏やかな表情となると静かな寝息を立て始めた。
「そこのお母さん、その子は大丈夫ですよ。大丈夫、あなたは殺していません」
「え……」
憔悴しきっていた彼女は静かな寝息を立てている傷一つない息子の姿を見て目を見開く。
「あ、あ、あ……」
彼女は涙を流し、そして言葉を詰まらせながらも自らの手で刺してしまったその子の喉を優しく撫でた。
私はフェルヒの方へと向き直ると決意を込めて言い放つ。
「さあ、覚悟してもらいます。今度こそ逃がしませんよ」
****
フィーネ様の指示で私たちが宿から飛び出すとそこは既に騒ぎとなっており、中央広場の方では火の手が上がっていた。
「くっ、あの卑劣な吸血鬼め」
「急ぐでござるよ。フィーネ殿は必ずフェルヒを打ち取ってくれるでござる」
「そうですよ。姉さまが負けるわけありませんっ!」
「そうだな。急ごう!」
私たちが中央広場へと駆けつけると、既に町の衛兵たちが下級吸血鬼となった町民たちと既に戦闘となっていた。敵の数は 15、衛兵たちはかなり劣勢のようで傷を追っている者や倒れている者が多数いるようだ。
「加勢する!」
「有り難い! だが相手は吸血鬼だ。かなり強いがやれるか?」
私に衛兵たちのリーダーと思われる男が声をかけてきた。
「そいつらは下級吸血鬼だ! 下級吸血鬼など恐るるに足らず」
「下級? この強さで下級なのか?」
「敵の親玉、吸血鬼フェルヒは聖女フィーネ・アルジェンタータ様が戦っておられる。すぐに打ち取られるだろう。お前たち! この戦い、勝ったも同然だぞ!」
「なに? 聖女様がこの町に? よし、いけるぞ! お前ら、気合を入れろォー!」
「「「「「「おおおおおお」」」」」」
フィーネ様の名前を出すと一気に衛兵たちの士気が上がった。これでそう簡単に崩れることはないはずだ。
「やるでござるな」
シズク殿がニヤリと笑う。
「吸血鬼相手なら、この刀の出番でござるな」
そしてシズク殿はフィーネ様に浄化魔法をかけて頂いた刀を構える。
そうだ、私にもフィーネ様に浄化魔法をかけて頂いたショートソードがある。
この町であの死なない獣対策として買ったが一度も使われていなかったこの武器が役立つ時がついにやってきた。
「いくぞ!」
私たちは下級吸血鬼の群れへと突っ込む。
まずはシズク殿がそのスピードを活かして距離を詰めると、通り抜けざまに三体の下級吸血鬼を切り付けた。斬られた下級吸血鬼達は傷口からしゅーしゅーと白い煙を上げてその場に倒れ、そしてすぐに灰となって消滅した。
ヒュンヒュン
ルミアの放った矢が別の下級吸血鬼たちに命中する。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」
矢の刺さった下級吸血鬼達はは凄まじい叫び声を上げて苦しむ。矢の刺さった傷口からはしゅーしゅーと白い煙が立ちのぼり、そしてしばらくするとそのまま力尽きて灰となった。
動揺した吸血鬼たちを私はフィーネ様に頂いた剣で切り付ける。
ザシュ、ザシュ
私は二体の下級吸血鬼を斬る伏せると飛び退る。やはり傷口からはやはりしゅーしゅーと白い煙が立ちのぼり、そしてすぐに灰となって消滅した。
「おおお、行ける、行けるぞぉー! さすが聖女様の従者様だ!」
「うぉぉぉぉぉぉ」
「俺たちも負けるな!」
衛兵たちの士気が一気に上がり、下級吸血鬼たちを押し返し始める。
その間にシズク殿が更に二体の下級吸血鬼を切り伏せている。ルミアも二発の矢を放ち、そのうち一発は下級吸血鬼に命中した。もう一発は明後日の方向に飛んで行き、建物の壁に突き刺さった。
私たちの泊まっている宿の方向な気もするがまさか……いやさすがにそれはないだろう。
そして私のところに突っ込んできた下級吸血鬼にカウンターで一撃を入れて灰にしたところで他の下級吸血鬼たちも衛兵たちによって倒された。
衛兵たちに 20 人ほど重軽傷を負う被害が出たが、死者は出さずに撃退ができた。衛兵や私たちが駆けつける前に襲われた町民たちの被害が小さければ良いのだが。
そんなことを思っていると、宿の方角から白い光が立ち上るのが見えた。
「早くフィーネ様の下へ戻ろう」
私は二人に声をかけると宿へと駆け出したのだった。
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最悪の事態が起こってしまった。
刺された子供は気管に穴がいたのか、ヒューヒューと音を立てて蹲っている。太い血管の通っていない場所を刺されたからか、血しぶきは上がらなかった。
「あ、あ、あ、ハオユー! わ、わたしは、あっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
我が子をお母さんの絶望の嘆きがロビーに響き渡る。その手には血塗られたナイフが握られている。
「さあ、聖女様。あと何人殺しましょう?」
厭味ったらしい笑顔をフェリルが私に向けてくる。
ダメだ。もはや策なんて考えていられない。
「三人で外で暴れる下級吸血鬼を止めてください。こいつの相手は私がします」
「ですがっ!」
「早く行ってください! 魅了解除!」
私は叫ぶと【聖属性魔法】の魅了解除をこのロビーとホテルの周囲 500 m くらいのエリアにまとめて放つ。
その光を合図に三人はロビーから飛び出していく。
「そんな馬鹿な! 出鱈目だ!」
フェルヒが焦ったような声を上げる。
どうやら人質はこのロビーにいる十組とこの宿の外に待機させていた何組かだけだったようだ。
というのも、この宿の外でも何人かに魅了解除の魔法が作用した手ごたえがあったが、それより遠い場所には手ごたえが全くなかったからだ。
そして魅了が解除されたお母さんたちとその子供たちは何だかよく分からないといった表情であたりの様子をキョロキョロとうかがっている。
「治療!」
そして私は刺されてしまった子供に遠隔で治癒魔法をかける。
淡い光に包まれて子供の傷がみるみる治っていき、そしてそのまま穏やかな表情となると静かな寝息を立て始めた。
「そこのお母さん、その子は大丈夫ですよ。大丈夫、あなたは殺していません」
「え……」
憔悴しきっていた彼女は静かな寝息を立てている傷一つない息子の姿を見て目を見開く。
「あ、あ、あ……」
彼女は涙を流し、そして言葉を詰まらせながらも自らの手で刺してしまったその子の喉を優しく撫でた。
私はフェルヒの方へと向き直ると決意を込めて言い放つ。
「さあ、覚悟してもらいます。今度こそ逃がしませんよ」
****
フィーネ様の指示で私たちが宿から飛び出すとそこは既に騒ぎとなっており、中央広場の方では火の手が上がっていた。
「くっ、あの卑劣な吸血鬼め」
「急ぐでござるよ。フィーネ殿は必ずフェルヒを打ち取ってくれるでござる」
「そうですよ。姉さまが負けるわけありませんっ!」
「そうだな。急ごう!」
私たちが中央広場へと駆けつけると、既に町の衛兵たちが下級吸血鬼となった町民たちと既に戦闘となっていた。敵の数は 15、衛兵たちはかなり劣勢のようで傷を追っている者や倒れている者が多数いるようだ。
「加勢する!」
「有り難い! だが相手は吸血鬼だ。かなり強いがやれるか?」
私に衛兵たちのリーダーと思われる男が声をかけてきた。
「そいつらは下級吸血鬼だ! 下級吸血鬼など恐るるに足らず」
「下級? この強さで下級なのか?」
「敵の親玉、吸血鬼フェルヒは聖女フィーネ・アルジェンタータ様が戦っておられる。すぐに打ち取られるだろう。お前たち! この戦い、勝ったも同然だぞ!」
「なに? 聖女様がこの町に? よし、いけるぞ! お前ら、気合を入れろォー!」
「「「「「「おおおおおお」」」」」」
フィーネ様の名前を出すと一気に衛兵たちの士気が上がった。これでそう簡単に崩れることはないはずだ。
「やるでござるな」
シズク殿がニヤリと笑う。
「吸血鬼相手なら、この刀の出番でござるな」
そしてシズク殿はフィーネ様に浄化魔法をかけて頂いた刀を構える。
そうだ、私にもフィーネ様に浄化魔法をかけて頂いたショートソードがある。
この町であの死なない獣対策として買ったが一度も使われていなかったこの武器が役立つ時がついにやってきた。
「いくぞ!」
私たちは下級吸血鬼の群れへと突っ込む。
まずはシズク殿がそのスピードを活かして距離を詰めると、通り抜けざまに三体の下級吸血鬼を切り付けた。斬られた下級吸血鬼達は傷口からしゅーしゅーと白い煙を上げてその場に倒れ、そしてすぐに灰となって消滅した。
ヒュンヒュン
ルミアの放った矢が別の下級吸血鬼たちに命中する。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」
矢の刺さった下級吸血鬼達はは凄まじい叫び声を上げて苦しむ。矢の刺さった傷口からはしゅーしゅーと白い煙が立ちのぼり、そしてしばらくするとそのまま力尽きて灰となった。
動揺した吸血鬼たちを私はフィーネ様に頂いた剣で切り付ける。
ザシュ、ザシュ
私は二体の下級吸血鬼を斬る伏せると飛び退る。やはり傷口からはやはりしゅーしゅーと白い煙が立ちのぼり、そしてすぐに灰となって消滅した。
「おおお、行ける、行けるぞぉー! さすが聖女様の従者様だ!」
「うぉぉぉぉぉぉ」
「俺たちも負けるな!」
衛兵たちの士気が一気に上がり、下級吸血鬼たちを押し返し始める。
その間にシズク殿が更に二体の下級吸血鬼を切り伏せている。ルミアも二発の矢を放ち、そのうち一発は下級吸血鬼に命中した。もう一発は明後日の方向に飛んで行き、建物の壁に突き刺さった。
私たちの泊まっている宿の方向な気もするがまさか……いやさすがにそれはないだろう。
そして私のところに突っ込んできた下級吸血鬼にカウンターで一撃を入れて灰にしたところで他の下級吸血鬼たちも衛兵たちによって倒された。
衛兵たちに 20 人ほど重軽傷を負う被害が出たが、死者は出さずに撃退ができた。衛兵や私たちが駆けつける前に襲われた町民たちの被害が小さければ良いのだが。
そんなことを思っていると、宿の方角から白い光が立ち上るのが見えた。
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私は二人に声をかけると宿へと駆け出したのだった。
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