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花乙女の旅路
第三章第6話 囚われの聖女
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2020/05/20 ご指摘頂いた誤字を修正しました。ありがとうございました
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「ううん……」
私は違和感に目を覚ました。ベッドで眠っていたはずなのにまるで立っているかのようだ。
いや、違う。これは……?
どうやら私は十字架に磔にされているようだ。両手首と両足が鎖で縛られて十字架に磔にされている。
周りを見渡すと、どうやらここは教会とか礼拝堂といった類の場所のようだ。
さて、何が起こったんだろうか?
私は確かにシズクさんに見張りを受け渡してベッドに潜り込んだはずだ。それがなぜこんな状態になっているのだろうか?
普通に考えると私は寝ている間に攫われてきたのだろう。だが、シズクさんはクリスさんを倒すほどの実力者だし、敵襲があればクリスさんも目を覚ますはずだ。
一体何が?
それに、十字架に磔にされているということは、まさか私が吸血鬼なことがバレて処刑されようとしているのだろうか?
そんなことを考えていると、入り口の扉が開いて一人の男がゆっくりと歩いてきた。
「フェルヒ……町長……」
私はその男の名前を呟く。
「おや、覚えて頂いていたのですね。光栄ですよ。聖女フィーネ・アルジェンタータ様」
どうやら最初から私が聖女候補であることを知ったうえでの犯行らしい。
「こんなことをしてタダで済むと思っているのですか?」
慇懃無礼に礼を取るフェルヒを私は睨み付ける。
「もちろんですよ。聖女様にもこのあと私の下で奉公して頂くのですから。自発的にね」
そう言いながらフェルヒは私の元へと歩いてくる。そして、眼鏡を外した。
「その瞳は!」
「そう、そういう事です。さあ、聖女様、私の目を見るのです」
そういってフェルヒは無理やり私と視線を合わせる。そしてフェルヒの瞳が怪しく輝いた。
「あ……」
私は視線を通じて魅了の魔力が私の中に侵入しようとしてくるのを感じたのだった。
****
「くそ、フィーネ様」
私は男を追いかけ町の中央広場までやってきた。そこまではどうにか、姿を追うことができていたのだが、あまりに人間離れしたその速さに見失ってしまった。
もう深夜だというのに途絶えることのない人通りが追跡を邪魔する。
「クリス殿!」「クリスさん」
シズク殿とルミアが合流する。
「すまない。見失ってしまった」
「クリス殿、奴が逃げた方向はどちらでござるか?」
「ああ、あっちだ」
私はそう言って最後に逃げ去った方向を指さす。
「やはり、でござるか。確証はないでござるが、拙者はあの町長が怪しいと思うでござる」
「だが、何の確証も無しに町長の屋敷に行ったとして、入れてもらえるのかどうか……」
「今はそんなことを言っている場合でござるか? クリス殿の大切な主が危機に陥っているのでござるよ?」
私ははっとした。そうだ。私が間違ったところでフィーネ様を失うことに比べれば大した話ではないではないか! 私は一体何を迷っていたのだ。
「そうだった。間違っていたなら仕方ない。シズク殿、ルミア、付き合ってくれるか?」
「あのー、姉さまの居場所がわかるって言ってますけど」
「すまない。ルミアもこんなことに巻き添えになって――」
「だーかーらー! リーチェちゃんがこっちに来てって手招きしてるから、姉さまの場所に案内しようとしてくれているんだと思います!」
「なにっ?」
「クリスさん、いつも人の話を聞かなすぎです! あたしは純血のエルフなんですから、姉さまが召喚しなくても精霊は見えるんですっ!」
なるほど。そういえばそうだった。ルミアはこう見えてもエルフなのだった。
「そうか。ではルミア、案内してくれ」
私はルミアに道案内を頼む。いつもは守るべきムードメーカーだが、今回ばかりは心強い。
「クリス殿はもっと仲間を信用しても良いと思うでござるよ? クリス殿の大切なお姫様も、クリス殿が思っているほど弱くはないと思うでござるよ?」
「そう、かもしれんな」
私たちはルミアの後を追って走り出そうとした。すると、通りを歩いていた町人たちが一斉にこちらの進路をふさぐ。
「町長様のところには行かせねぇよ」
「この余所者め」
全員目がイッてしまっている。さらにぞろぞろと建物の中からも人が出てくる。
「クリス殿。これは!」
「ああ、何かで洗脳されているようだ」
「あの! あれを見てください」
ルミアの指さした方をみる。5 人の男の集団がいる。彼らは皆一様に、少し長い耳と縦長の瞳、そして少し尖った牙を持っていた。
「「吸血鬼!!」」
私たちは声を揃えて叫んだ。
「ということは、一連の誘拐事件は」
「吸血鬼の仕業でござるな」
「じゃあ姉さまは!」
「おそらく、吸血鬼の親玉のところだろう。よりにもよってフィーネ様の生き血を啜るつもりか!」
「そんなっ!」
ルミアが悲鳴を上げるが、こんなところで止まっているわけにはいかない。
「続けぇ! 道を切り開く!」
私はセスルームニルを強く握り祈りを込めると道を塞ぐ町人たちを蹴り飛ばし、吸血鬼の一団の中へと突っ込む。
キィィィン
私の一撃は吸血鬼の男の持つ剣によって防がれた。だが反撃は鈍く容易に躱すことができる。私は攻撃を避けると跳躍して距離を取る。
影による追撃は飛んでこない。
「こいつらは下級吸血鬼だ。固有の能力は持っていない!」
下級吸血鬼というのは、吸血鬼が吸血して眷属とした時にその者がなる種族、いわば元人間だったモノだ。下級吸血鬼は人間だった時とは比べ物にならないほど強力な力を得ると言われているが、影を操ったり血を吸ったりといった吸血鬼としての固有能力は持っていないと言われている。
その分太陽の下でも多少であれば行動が出来たりと吸血鬼が人間社会に紛れ込んで生活するための手助けをするための駒として利用されるのだ。
そして、こうなってしまった者を元に戻す方法は知られていない。あるいはフィーネ様であれば、と思わないでもないが、そのフィーネ様が今や敵の手の内だ。
「敵、敵、敵、テキ、テキテキテキテキ」
そうこうしていると、町の住人たちが虚ろな表情で私たちを取り囲み始めた。
「クリス殿、拙者はきれいごとは言わぬでござるよ。御免!」
そう言い放つとシズク殿が下級吸血鬼どもとの間に立ちふさがる町人たちを斬り捨て始めた。一応、足を斬って動けないようにする程度には抑えているようだが、容赦はない。
「く、ルミア。続け。囲まれるぞ!」
「はいっ!」
私たちはシズク殿の後に続く。
パシン
走りながら撃ったルミアの矢が下級吸血鬼の一人に突き刺さる。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」
矢の刺さった男は凄まじい叫び声を上げて苦しんでいる。傷口からはしゅーしゅーと白い煙のようなものが上がっている。
そして、そのまま力尽きると灰となって崩れ落ちた。
「ルミア、今のは?」
「どうしてでしょう? でも、これなら!」
「いける、でござるな。拙者たちが隙を作るでござる。ルミア殿、頼んだでござるよ!」
「任せて下さい!」
私は再び吸血鬼の一団へと飛びかかる。私とシズク殿が攻撃し、その隙にルミアが矢を叩き込む。
一撃必殺の矢が飛んでくると理解した吸血鬼たちの動きが集中を欠くようになる。その隙をついて私とシズク殿が一撃を入れて切り伏せていく。
やはり吸血鬼としての固有能力がないせいか、蝙蝠に化けて逃げたりもしない。
敵は徐々に数を減らし、ついには下級吸血鬼たちの一団を私たちは打ち倒すことに成功した。
「さあ、町長の館へ向かおう!」
しかし、走り出そうとした私たちは再び取り囲まれてしまう。そしてそれは数百人のも上るおびただしい数の下級吸血鬼たちであった。
「これは……もしやこの町は丸ごと吸血鬼に乗っ取られている?」
私の頭を最悪の事態がよぎる。
「くっ、フィーネ様っ! どうかご無事で……」
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「ううん……」
私は違和感に目を覚ました。ベッドで眠っていたはずなのにまるで立っているかのようだ。
いや、違う。これは……?
どうやら私は十字架に磔にされているようだ。両手首と両足が鎖で縛られて十字架に磔にされている。
周りを見渡すと、どうやらここは教会とか礼拝堂といった類の場所のようだ。
さて、何が起こったんだろうか?
私は確かにシズクさんに見張りを受け渡してベッドに潜り込んだはずだ。それがなぜこんな状態になっているのだろうか?
普通に考えると私は寝ている間に攫われてきたのだろう。だが、シズクさんはクリスさんを倒すほどの実力者だし、敵襲があればクリスさんも目を覚ますはずだ。
一体何が?
それに、十字架に磔にされているということは、まさか私が吸血鬼なことがバレて処刑されようとしているのだろうか?
そんなことを考えていると、入り口の扉が開いて一人の男がゆっくりと歩いてきた。
「フェルヒ……町長……」
私はその男の名前を呟く。
「おや、覚えて頂いていたのですね。光栄ですよ。聖女フィーネ・アルジェンタータ様」
どうやら最初から私が聖女候補であることを知ったうえでの犯行らしい。
「こんなことをしてタダで済むと思っているのですか?」
慇懃無礼に礼を取るフェルヒを私は睨み付ける。
「もちろんですよ。聖女様にもこのあと私の下で奉公して頂くのですから。自発的にね」
そう言いながらフェルヒは私の元へと歩いてくる。そして、眼鏡を外した。
「その瞳は!」
「そう、そういう事です。さあ、聖女様、私の目を見るのです」
そういってフェルヒは無理やり私と視線を合わせる。そしてフェルヒの瞳が怪しく輝いた。
「あ……」
私は視線を通じて魅了の魔力が私の中に侵入しようとしてくるのを感じたのだった。
****
「くそ、フィーネ様」
私は男を追いかけ町の中央広場までやってきた。そこまではどうにか、姿を追うことができていたのだが、あまりに人間離れしたその速さに見失ってしまった。
もう深夜だというのに途絶えることのない人通りが追跡を邪魔する。
「クリス殿!」「クリスさん」
シズク殿とルミアが合流する。
「すまない。見失ってしまった」
「クリス殿、奴が逃げた方向はどちらでござるか?」
「ああ、あっちだ」
私はそう言って最後に逃げ去った方向を指さす。
「やはり、でござるか。確証はないでござるが、拙者はあの町長が怪しいと思うでござる」
「だが、何の確証も無しに町長の屋敷に行ったとして、入れてもらえるのかどうか……」
「今はそんなことを言っている場合でござるか? クリス殿の大切な主が危機に陥っているのでござるよ?」
私ははっとした。そうだ。私が間違ったところでフィーネ様を失うことに比べれば大した話ではないではないか! 私は一体何を迷っていたのだ。
「そうだった。間違っていたなら仕方ない。シズク殿、ルミア、付き合ってくれるか?」
「あのー、姉さまの居場所がわかるって言ってますけど」
「すまない。ルミアもこんなことに巻き添えになって――」
「だーかーらー! リーチェちゃんがこっちに来てって手招きしてるから、姉さまの場所に案内しようとしてくれているんだと思います!」
「なにっ?」
「クリスさん、いつも人の話を聞かなすぎです! あたしは純血のエルフなんですから、姉さまが召喚しなくても精霊は見えるんですっ!」
なるほど。そういえばそうだった。ルミアはこう見えてもエルフなのだった。
「そうか。ではルミア、案内してくれ」
私はルミアに道案内を頼む。いつもは守るべきムードメーカーだが、今回ばかりは心強い。
「クリス殿はもっと仲間を信用しても良いと思うでござるよ? クリス殿の大切なお姫様も、クリス殿が思っているほど弱くはないと思うでござるよ?」
「そう、かもしれんな」
私たちはルミアの後を追って走り出そうとした。すると、通りを歩いていた町人たちが一斉にこちらの進路をふさぐ。
「町長様のところには行かせねぇよ」
「この余所者め」
全員目がイッてしまっている。さらにぞろぞろと建物の中からも人が出てくる。
「クリス殿。これは!」
「ああ、何かで洗脳されているようだ」
「あの! あれを見てください」
ルミアの指さした方をみる。5 人の男の集団がいる。彼らは皆一様に、少し長い耳と縦長の瞳、そして少し尖った牙を持っていた。
「「吸血鬼!!」」
私たちは声を揃えて叫んだ。
「ということは、一連の誘拐事件は」
「吸血鬼の仕業でござるな」
「じゃあ姉さまは!」
「おそらく、吸血鬼の親玉のところだろう。よりにもよってフィーネ様の生き血を啜るつもりか!」
「そんなっ!」
ルミアが悲鳴を上げるが、こんなところで止まっているわけにはいかない。
「続けぇ! 道を切り開く!」
私はセスルームニルを強く握り祈りを込めると道を塞ぐ町人たちを蹴り飛ばし、吸血鬼の一団の中へと突っ込む。
キィィィン
私の一撃は吸血鬼の男の持つ剣によって防がれた。だが反撃は鈍く容易に躱すことができる。私は攻撃を避けると跳躍して距離を取る。
影による追撃は飛んでこない。
「こいつらは下級吸血鬼だ。固有の能力は持っていない!」
下級吸血鬼というのは、吸血鬼が吸血して眷属とした時にその者がなる種族、いわば元人間だったモノだ。下級吸血鬼は人間だった時とは比べ物にならないほど強力な力を得ると言われているが、影を操ったり血を吸ったりといった吸血鬼としての固有能力は持っていないと言われている。
その分太陽の下でも多少であれば行動が出来たりと吸血鬼が人間社会に紛れ込んで生活するための手助けをするための駒として利用されるのだ。
そして、こうなってしまった者を元に戻す方法は知られていない。あるいはフィーネ様であれば、と思わないでもないが、そのフィーネ様が今や敵の手の内だ。
「敵、敵、敵、テキ、テキテキテキテキ」
そうこうしていると、町の住人たちが虚ろな表情で私たちを取り囲み始めた。
「クリス殿、拙者はきれいごとは言わぬでござるよ。御免!」
そう言い放つとシズク殿が下級吸血鬼どもとの間に立ちふさがる町人たちを斬り捨て始めた。一応、足を斬って動けないようにする程度には抑えているようだが、容赦はない。
「く、ルミア。続け。囲まれるぞ!」
「はいっ!」
私たちはシズク殿の後に続く。
パシン
走りながら撃ったルミアの矢が下級吸血鬼の一人に突き刺さる。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」
矢の刺さった男は凄まじい叫び声を上げて苦しんでいる。傷口からはしゅーしゅーと白い煙のようなものが上がっている。
そして、そのまま力尽きると灰となって崩れ落ちた。
「ルミア、今のは?」
「どうしてでしょう? でも、これなら!」
「いける、でござるな。拙者たちが隙を作るでござる。ルミア殿、頼んだでござるよ!」
「任せて下さい!」
私は再び吸血鬼の一団へと飛びかかる。私とシズク殿が攻撃し、その隙にルミアが矢を叩き込む。
一撃必殺の矢が飛んでくると理解した吸血鬼たちの動きが集中を欠くようになる。その隙をついて私とシズク殿が一撃を入れて切り伏せていく。
やはり吸血鬼としての固有能力がないせいか、蝙蝠に化けて逃げたりもしない。
敵は徐々に数を減らし、ついには下級吸血鬼たちの一団を私たちは打ち倒すことに成功した。
「さあ、町長の館へ向かおう!」
しかし、走り出そうとした私たちは再び取り囲まれてしまう。そしてそれは数百人のも上るおびただしい数の下級吸血鬼たちであった。
「これは……もしやこの町は丸ごと吸血鬼に乗っ取られている?」
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