勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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白銀のハイエルフ

第二章第25話 奴隷解放

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「まぁまぁ、ルミアちゃん、無事だったのね~、よかったわぁ~」
「う、うん、お母さんも相変わらず元気そうでよかった」

無事、かどうかはよくわからないがルーちゃんのお母さんを救出した私たちは、衛兵の詰め所で感動の再会、のようなことをしている。

なんと言うか、うん。気まずい。

「ええと、解呪……していいんですよね?」
「はい、よろしくお願いいたします」

私はルーちゃんのお母さんの隷属の呪印を解呪する。

「まぁまぁ、すごいですねぇ。ルミアちゃん、すごい人と一緒にいるのねぇ」
「うん。お母さん。ねえさ、ええと、この方がフィーネ・アルジェンタータ様、聖女様であたしの恩人です」
「はじめまして。フィーネと申します」
「まぁまぁ。わたしはルミアの母のリエラと言います。娘がお世話になっていますぅ」

恐ろしく整った顔立ちのスレンダー美人が私に柔らかい笑顔で丁寧に挨拶してくる。これだけ整っているのに口調のおかげかぽやぽやした柔らかい印象をうける。

これだけみるとイメージ通りのエルフだ。それに二人の子供がいるというのに二十歳くらいの容姿を保っている。これは世の女性たちからしたらチートだと文句を言いたくなるところだろう。

それに目鼻立ちなんかはルーちゃんとそっくりなので、彼女もあと 5 年もしたらこんな美人に成長するのかもしれない。

うん、あの時の女王様はどこ行った?

「わたしをぶ……あの男から解放していただきありがとうございます」

今、豚って言おうとしたよね? 絶対言おうとしたよね?

「お母さん、こっちの人は聖騎士のクリスティーナさん」
「クリスティーナと申します。ご無事で何よりです」

クリスさんの声が少し固い気がする。

「あらぁ?」

ゾクリ

何やら得も知れぬ悪寒が? というか、リエラさんの目が一瞬獲物を狙う目になったような?

え? もしかして私、世に解き放ってはいけないモンスターを解き放ってしまった?

「まぁまぁ、ご丁寧にありがとうございます。聖騎士様。ルミアがいつもお世話になっていますぅ」

あ、丁寧だけど柔らかくてぽやぽやしている女性に戻った。

「ところで聖女様、ルミアはご迷惑をお掛けしていませんかぁ? それに、ちゃんとご飯を食べていますかぁ? あの子は昔からずっと食が細くて、亡き夫も心配していたのですぅ」

ええと? あれで食が細いんですか?

「最近のルーちゃんはとてもよく食べています。それに元気になって狩りもできるようになりました」
「あらあら、それはそれは。これも聖女様のおかげですねぇ~。どうもありがとうございますぅ」
「いえ」

なんだか、すごく嫌な予感がする。確か、あの執事さん、食費のせいで家計が苦しくなったって言っていたような?

「聖女様、お話し中失礼いたします。アミスタッド商会の地下牢より被害者を救出し、こちらで保護いたしました。聖女様のお慈悲を賜ることはできないでしょうか?」
「もちろんです。案内してください」
「はっ。こちらでございます」

やってきた衛兵さんの言葉で思考を止めた私は被害者の解呪に向かう。

****

案内された部屋で待っていたのはボロ布を一枚纏っただけの年端もいかなぬ少女たちであった。一、二、三、……、合計十二人もいる。

皆一様に髪も肌も汚れており、中には殴られたような痣のある子までいる。少女ばかり、ということはそういう事なのだろう。この外道どもめ。

気が付くと私はギリリ、と音を立てて歯噛みしていた。

「せめて、お風呂に入れてあげたり、ちゃんとしたお洋服を着させてあげたりすることはできませんか?」

私は案内をしてくれた衛兵さんに質問する。

「申し訳ございません。私どもにはそのような権限はなく」

全く。女性をこんな状態で。いや、そもそもそれ以前にまだ子供だ。こんな酷い状況に置き続けるなんて信じられない。

「そうですか。それではこれであの子たちに服を買ってきてあげてください。女性の衛兵さんもいらっしゃるでしょう?」

私は隣にいた衛兵さんに金貨 3 枚を手渡すと私は少女たちに向き合う。

「助けに来るのが遅くなってごめんなさい。私はフィーネ・アルジェンタータといいます。これから皆さんの解呪と治療をしますね」

子供たちがびくっと震える。怯えたような表示で私を見ている。

「大丈夫です。お姉さんは皆さんの呪印を解呪できるし、治療も得意ですから」

私はかがんで少女たちと視線の高さを合わせ、安心させるように優しく諭す。

「う、うそだ。奴隷にされたら、教会でも無理だって」

少女たちの中で一番体の大きい女の子が他の子たちを守るように前に出る。この子は顔面にも痣ができている。もしかしたら、他の子を庇ったせいで集中的に暴力を受けていたのかもしれない。

「大丈夫ですよ。私はできますから。あなた、お名前は?」
「……ブレンダ」

ブレンダちゃんが小さな声で答える。

「そう。ブレンダちゃんですね。大丈夫。まずはその怪我を治療しますね。治癒!」

私はできるだけ優しく話しかけると、治癒魔法でブレンダちゃんの体につけられた傷を癒す。割と時間がかかったので目に見えない部分に重傷があったのかもしれない。

ブレンダちゃんは目をぱちくりしている。

ふふふ、伊達に【回復魔法】のレベルを MAX まで上げてはいないのだよ。

「じゃあ、次は隷属の呪印を解呪しますよ」

ブレンダちゃんが驚いている間にお腹に手を当てる。そしてこの胸糞悪い呪いを解呪魔法でサクッと解いてやる。そして最後に洗浄魔法で体と服をきれいにしてあげる。

「はい。これでブレンダちゃんはもう自由です。今までよく頑張りました」

私はそう言ってブレンダちゃんの頭を優しく撫でてあげる。するとブレンダちゃんは驚いたように私を見上げてくる。

目と目が合ったので私は優しく微笑みかけてあげる。

すると彼女の目から大粒の涙がポロポロと零れ落ち、そしてそのまま私のお腹に顔をうずめてワンワンと大きな声で泣き出した。

私は彼女をそっと抱きしめ、泣き止むまで頭を撫で続けてあげたのだった。
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