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白銀のハイエルフ

第二章第26話 解放されし暴食の女王

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ブレンダちゃん以外の残った子供たちも解呪してあげ、衛兵さんが買ってきてくれた服を着せてあげた。女性職員が衛兵さんと一緒に買出しに行ってくれたおかげで二度手間にならずに済んだ。シンプルなワンピースだけでなく、サンダルや下着類、靴下や髪留めなど小さな女の子に必要なものをまとめて買ってきてくれたのだ。

すっかりと小奇麗な格好になった子供たちとリエラさんを連れて、詰め所の近くにある定食屋さんに少し遅めのお昼を頂きにやってきた。衛兵さんと女性職員の人も一緒だ。

「あらあら、まぁまぁ、その子たちもなんですかぁ? 同族の子供たちにまでそんなことするなんて、人間は恐ろしいことしますねぇ~」

全くそう思う。同じ人間として恥ずかしい限りだ。

え? お前は吸血鬼だろうって?

いやいや、確かに自分は吸血鬼だが心は人間なのだ。

「さて、折角ですので食事代は我々衛兵隊でお出しいたします。どうぞお好きなものをお召し上がりください。ここは詰め所に近いせいか我々衛兵たちのお気に入りでしてな。あまり女性受けはしないかもしれませんが、牛肉のビール煮込みなどはおススメですよ」

一緒にやってきた衛兵さんたちの一人が私を見ながら少し照れくさそうな表情で言う。

「よろしいのですか? 予算的に大変な事になりそうな気がしますけど……」

私はリエラさんとルーちゃんの方をチラリと見ながら衛兵さんに尋ねる。

「ははは、問題ありませんよ。女性ばかりですし、子供たちも多いですから」
「本当によろしいんですね?」
「もちろんです。さすが聖女様、我々如きの懐事情まで気にしていただけるとは」
「はぁ、知りませんよ?」

私はせめてルーちゃんの分は出そうと心の中で誓い、牛肉のビール煮込みとフライドポテトのランチセットを頼む。クリスさんも同じのようだ。

「あたしは、この牛肉のビール煮込みと、子羊のローストと、豚の香草焼きと、サーモンのムニエルを全部ランチセットでお願いします!」

注文を取りに来てくれているウェイトレスさんと衛兵さんがギョッとしている。

「あらぁ? ルミアちゃん、それしか食べないのぉ? 相変わらず小食ねぇ。ちゃんと食べないと大きくならないわよぉ? そっちの子供たちもよぉ?」

いやいや、あなた方親子の食べる量がおかしいだけですから! 普通に考えてそんなに食べれるわけないでしょ!

「お母さん、あたしはこれで十分です」

ルーちゃんが首を横に振っている。子供たちは唖然としてルーちゃんとリエラさんのことを見ている。

「わたしはですねぇ、メニューのここからここまでを 3 つずつお願いしますぅ」

は? 今何と?

「ええと? 牛肉のビール煮込みから、ええと、どちらまででしょう?」

ウェイトレスさんが完全に挙動不審になっている。

「この、ソーセージの盛り合わせまでよぉ」
「ええと、 23 品ありますが、本当に 3 皿ずつお召し上がりになるのでしょうか?」
「そうよぉ。今までは満足に食べさせて貰えなかったのよぉ。せっかく解放されたんだからちゃんと食べたいんですぅ」

なんだか、このぽやぽやした口調がだんだん恐ろしく感じてきたのは私だけだろうか?

「ほ、本当にお持ちしてよろしいんですね?」
「大丈夫よぉ。それにお代は、衛兵隊が出してくれるそうよぉ?」
「わ、わかりました。それでは、しばらくお待ちください」

子供たちと衛兵さんたちの注文もとったウェイトレスさんが「店長!」と大きな声を出して走っていった。うん、そりゃそうなるよね。

衛兵隊の皆さんと子供たちはあまりに異常な注文に固まっている。

「ルーちゃん、リエラさんは本当にあの量食べるの?」
「はい。食べると思います。家族で暮らしていた時も一食で猪丸ごと一頭とか食べていたこともありましたし」
「ええぇ」

なんだろう。びっくり人間かな? あ、びっくりエルフか。

そうこうしている間に料理が運ばれてきた。牛肉のビール煮込み、味が染みていて、お肉も柔らかくてすごくおいしい。少し塩辛い気もするけれど、フライドポテトと一緒に食べることでますます美味しくなる。

これは絶品だ! おススメするだけのことはあるね!

さて、ルーちゃんのところはいつも通り沢山の料理が並んでいる。まあ、見慣れた光景だし、このぐらいならまあ理解できなくもない。

だがリエラさんはおかしい。どうやってあの量が胃袋に収まっているの?

次から次へと運ばれてくる料理を片っ端から平らげていく。私が唖然としてリエラさんを眺めていると、あげませんよぉ、と言われた。

──── いらないよっ!

その後、一時間ほどかけてリエラさんは完食してしまった。あれだけ食べたというのにお腹が大して膨らんでおらずスレンダーな体型のままだ。おい、物理法則どこいった?

「あぁ、美味しかったですぅ。デザートも頼んで――」
「お客様。申し訳ございません。昼の営業のラストオーダーはもう終了しております」
「ああん、残念~」

まだ食べる気だったんかい!

こうして解放記念のランチは私たちのメンタルと衛兵隊の予算に少なからぬ打撃を与えて終了したのだった。
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