勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

文字の大きさ
22 / 625
吸血鬼と聖女と聖騎士と

第一章第20話 ゾンビ退治 前編

しおりを挟む
そしてその夜、私たちは村の中央広場で待っていた。肌寒い季節なので王様に貰ったローブを羽織っていても少し寒い。寒空の下、私たちはたき火の前で暖を取っている。空気の澄んだ冬空に浮かぶ三日月が私たちとこの村をほのかに照らす。

「フィーネ様、どうかあまり無茶はなさらず。ゾンビたちの動きはさほど速くないとはいえ、噛まれると毒や呪いを受ける恐れがあります。MP の枯渇に十分ご注意ください」
「はい。分かっています」

とはいえ、毒と呪いは耐性がMAXになっているのだから効果はない気もする。でもゾンビって不潔そうだし、触られただけで変な病気になったりしそうだ。そもそも、気持ち悪いものに噛みつかれるのは遠慮しておきたい。

そんなことを考えていると、墓地のある方向から「う゛ー」という唸り声が聞こえてきた。

「フィーネ様、来ましたよ」
「わかっています。やりましょう」

墓地の方を見ると、くすんだ青緑色の二足歩行をしている何かがよろよろとこちらに向かってくる。あれがゾンビのようだ。よく見ると目玉が落ちかけていたり、そもそも落ちてなくなって眼窩にぽっかり穴のあいている奴もいる。うええ、気持ちわるっ。

そう思って見ていると、風向きが変わったようで鼻をつく酷い腐敗臭が漂ってくる。

「く、臭い……」

思わず鼻をつまんでしまう。すると、クリスさんが驚いている。

「フィーネ様、臭いを感じるのですか?」
「えええ、すごい臭いじゃないですか。臭い臭い。あと、見た目が気持ち悪いです」
「おお、この暗い中でも見えるのですか。さすが、ハイエルフの感覚は凄まじいですね」
「ハイエルフじゃないですけどね……さあ、さっさと終わらせましょう。臭くてたまらないです」

私が立ち上がると、クリスさんも立ち上がり、聖剣セなんとかを抜き放つ。

「ええと、村の通路をこっちに向かって歩いてきているのが 4 匹ですね。ここからだと 200 メートルくらいはありそうです。あと 6 匹くらい。どこかにいるはずですけれど、姿が見えませんね」
「では、フィーネ様。まずはその 4 匹を浄化しましょう。私は後ろについてフィーネ様をお守りします」

そう、これは私の経験値稼ぎなのだ。クリスさんが戦ってしまうと経験値が得られないのだ。

「お願いします!」

私は魔法の射程範囲に入るまでゆっくりと歩いて近づいていく。およそ 50 メートルくらいで届きそうな気がしたので立ち止まり、浄化の魔法を使う。

──── ええと、ゾンビの皆さん、臭くて気持ち悪いので早く天国でも地獄でも良いからさっさといなくなってください。浄化魔法っと

すると、ピンポイントで光の柱が立ち上り、 4 匹のゾンビが天国か地獄かしらないけどどこかへ還っていく。

「まだ臭いですね。鼻が曲がりそうです。こればかりは臭いを感じないクリスさんが羨ましいです」
「でも、臭いを辿っていけば大本に辿りつけるのでは?」
「犬じゃないんですから、そんなことできませんよ」

いくら吸血鬼は五感が優れていて嗅覚に優れているとはいえ、漂ってくる臭いだけで相手がどこにいるかを判断するなんて無理だ。

それにしても臭い。ただただ、ひたすらに臭い。本当に臭い。

「「う゛ー」」

お、また墓地のほうからだ。

「どうやら墓地のようですね。行ってみましょう。フィーネ様」
「そうですね」

私たちは墓地へと歩を進める。その途中にいたゾンビを二匹浄化した。

そして、墓地へとたどり着いた私たちが見たのは、墓の下からゾンビが這い出して来るというなんともショッキングな構図だった。墓石の前の土から身を捩って這い出してきている。

「うええぇぇ、気持ち悪い。それに臭い、臭い、臭い!」

私は思わず愚痴ってしまう。

「いやぁ、これは中々見られるものではありませんね。私もはじめて見ました」

さすがのクリスさんも少し顔をしかめている。

「見たくないですよ。こんな光景。えーい、全員浄化!」

私は浄化魔法を発動して這い出てきているゾンビ達をまとめて浄化する。

「相変わらずフィーネ様の浄化魔法は桁違いですね。ところで、MP は大丈夫ですか?」
「あれ? そういえば大丈夫ですね。まだまだ余裕がありそうです。なんで?」

そういえば、シュヴァルツを浄化したときも意識せずに結構な魔法を使っていた気がするけれど、MP は全く問題はなかった。治癒活動の時はあんなに MP 切れを起こしていたのに。

「なるほど。分かりました」
「お。どうしてなんですか?」
「フィーネ様は、本番に強いタイプなんですよ、きっと!」

ああ、期待した私がバカだった。MP と消費 MP は決まってるんだから、そんなわけないでしょうが!

そんな下らないやり取りをしていたが、後続のゾンビたちは一向に出てこない。どうやら打ち止めのようなので、今日のゾンビ退治はお開きとなった。

私たちはその足で村長さんのお宅に戻り、いつもよりも固いベッドで眠りにつくのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

処理中です...