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吸血鬼と聖女と聖騎士と
第一章第19話 浄化依頼
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2020/10/01 誤字を修正しました
================
「さあ、フィーネ様。村人たちを困らせる悪しきゾンビどもを浄化してやりましょう」
クリスさんはやたらと気合が入っている。
私たちは教皇様に紹介されたパーシー村というところにやってきた。王都から馬車を乗り継いで約 5 日の場所にある小さな農村だ。なんでも、数か月前からゾンビが出現するようになって困っているそうで、その浄化をしてほしいと神殿に依頼がきていたのだ。
ちょうどゾンビの浄化をできる人員に空きがなくて困っていたそうで私たちにその依頼が回ってきたのだ。ちなみに、神殿からは成功報酬として金貨 20 枚を支給してくれるのだそうで、しかも往復の馬車代と現地での宿泊代まで支給されるときている。
素晴らしい。久しぶりにまともな報酬の出る仕事、それに何より素晴らしいのはあの無駄にお金のかかるホテルの部屋代がかからないことだ。
「クリスさん、幽霊はダメなのに何でゾンビは大丈夫なんですか?」
するとクリスさんが何を自慢しているのかよく分からないが自信満々な表情で答える。
「ゾンビは目に見えますから。臭いは最悪ですが、斬ることも簡単です」
なるほど。どうやら、目に見えるかどうかの違いらしい。
「おお、もしやあなた方は聖女様と聖騎士さまでは?」
突然、村の人と思われる老人に声をかけられる。
「ええと、私はただの治癒師ですが、こっちのクリスティーナさんは聖騎士です」
「フィーネ様は今は治癒師ですが、後に聖女となられるお方です!」
ちっ、余計な説明をつけやがって。
「おおお、フィーネ様とクリスティーナ様。あのお噂の聖女様と聖騎士様が。このような寒村にいったい何故? もしや……?」
「はい。私たちはこの村を苦しめているというゾンビの浄化にやってまいりました! フィーネ様は最強の吸血鬼をも容易く浄化できるほどの聖なる力をお持ちのお方です。ゾンビに苦しめられているというお話を聞いて居ても立っても居られずやって参りました。フィーネ様がいらした今、もう安心です。この村は救われます」
「おおおぉ、それは!」
ああ、またクリスさんのハードル爆上げが始まった。正直、そろそろクリスさんの勘違いが妄想の域に昇華してきている気がしてならない。
「大丈夫です。フィーネ様はお救いくださいます。ゾンビが片付いたら怪我人も診て頂けるはずです」
「な、なんと! おお、なんと! ありがたや、ありがたや……」
おーい、クリスさーん? 何勝手なことを言ってくれてんの?
「あっ。ですがご覧いただいてお分かりかとは思いますが、我々の村は貧しく、十分なお礼など……」
「心配ご無用です! フィーネ様は貧しい者から法外な報酬を要求することはありません。大変でない範囲で、心ばかりのお礼を頂ければ十分だといつも仰っていますから」
あのー、私をおいて勝手に話を進めないでほしいんですが……
まあ、確かに借金してまで金払え、なんて言わないけどさ。
「おおお、なんという……」
なんか涙流し始めちゃったよ?
「おお、神よ!」
あ、ブーンのポーズだ。神殿の人たちのほうがきっちり指先まで伸びきっていたよな。まだまだだね。
「お導きに感謝します」
やはり、ジャンピング土下座にもキレが足りないな。これは、4 点、予選落ちだな。
私も慣れてきたもので、このヘンテコな祈りのポーズの芸術点を採点できる程度には余裕が出ているのだ。
って、忘れてた。
「神の御心のままに」
そう言ってにっこりと微笑む。
私は聖職者ではなくただの治癒師なのだが、神殿から派遣されたことになっているのでこれで良いんだそうだ。
ちなみに、このやり取りの意味はよく知らない。
そして、私たちは村長さんのお宅に招かれ、話を聞くこととなった。
****
一人暮らしの村長さんのお宅にやってきた。なんでも奥さんと息子夫婦に先立たれ、可愛がっていた孫娘も去年亡くして今は一人暮らしをしているらしい。それでもめげずに頑張って村を支えてきたところに、このゾンビ騒動らしい。踏んだり蹴ったりというやつだ。かわいそうに。
「なるほど。ゾンビが現れたのは4か月前からで、徐々に増えてきていまや 10 匹ほどになったのですね」
私の確認に村長さんが頷く。
「はい。どうやら墓地からゾンビが出てきているようで」
「そうですか。噛まれたらゾンビになったとか、生きている村人がゾンビになったとか、そういったことはありませんか?」
「な! そのような恐ろしいゾンビがいるのですか!」
「いえ、ただの確認です。気にしないでください」
どうやらいわゆるバイオでハザードなゾンビはこの世界にはいないようだ。
「そ、そうですか。それで、ですね。ゾンビ達はもちろん夜にしか現れませんので、私たちは日が落ちる前に家に鍵をかけて閉じこもることで身を守っております。ですが、家畜たちはそうはいかず、外に繋いでいた家畜たちが少しずつ食われていっているのです」
あー、なるほど。ゾンビたちは生者の血肉を欲する的な設定ね。
「分かりました。では、早速今晩、浄化に挑んでみましょう」
「よろしくお願いいたします。聖女様」
いや、聖女じゃないし。吸血鬼だし。
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「さあ、フィーネ様。村人たちを困らせる悪しきゾンビどもを浄化してやりましょう」
クリスさんはやたらと気合が入っている。
私たちは教皇様に紹介されたパーシー村というところにやってきた。王都から馬車を乗り継いで約 5 日の場所にある小さな農村だ。なんでも、数か月前からゾンビが出現するようになって困っているそうで、その浄化をしてほしいと神殿に依頼がきていたのだ。
ちょうどゾンビの浄化をできる人員に空きがなくて困っていたそうで私たちにその依頼が回ってきたのだ。ちなみに、神殿からは成功報酬として金貨 20 枚を支給してくれるのだそうで、しかも往復の馬車代と現地での宿泊代まで支給されるときている。
素晴らしい。久しぶりにまともな報酬の出る仕事、それに何より素晴らしいのはあの無駄にお金のかかるホテルの部屋代がかからないことだ。
「クリスさん、幽霊はダメなのに何でゾンビは大丈夫なんですか?」
するとクリスさんが何を自慢しているのかよく分からないが自信満々な表情で答える。
「ゾンビは目に見えますから。臭いは最悪ですが、斬ることも簡単です」
なるほど。どうやら、目に見えるかどうかの違いらしい。
「おお、もしやあなた方は聖女様と聖騎士さまでは?」
突然、村の人と思われる老人に声をかけられる。
「ええと、私はただの治癒師ですが、こっちのクリスティーナさんは聖騎士です」
「フィーネ様は今は治癒師ですが、後に聖女となられるお方です!」
ちっ、余計な説明をつけやがって。
「おおお、フィーネ様とクリスティーナ様。あのお噂の聖女様と聖騎士様が。このような寒村にいったい何故? もしや……?」
「はい。私たちはこの村を苦しめているというゾンビの浄化にやってまいりました! フィーネ様は最強の吸血鬼をも容易く浄化できるほどの聖なる力をお持ちのお方です。ゾンビに苦しめられているというお話を聞いて居ても立っても居られずやって参りました。フィーネ様がいらした今、もう安心です。この村は救われます」
「おおおぉ、それは!」
ああ、またクリスさんのハードル爆上げが始まった。正直、そろそろクリスさんの勘違いが妄想の域に昇華してきている気がしてならない。
「大丈夫です。フィーネ様はお救いくださいます。ゾンビが片付いたら怪我人も診て頂けるはずです」
「な、なんと! おお、なんと! ありがたや、ありがたや……」
おーい、クリスさーん? 何勝手なことを言ってくれてんの?
「あっ。ですがご覧いただいてお分かりかとは思いますが、我々の村は貧しく、十分なお礼など……」
「心配ご無用です! フィーネ様は貧しい者から法外な報酬を要求することはありません。大変でない範囲で、心ばかりのお礼を頂ければ十分だといつも仰っていますから」
あのー、私をおいて勝手に話を進めないでほしいんですが……
まあ、確かに借金してまで金払え、なんて言わないけどさ。
「おおお、なんという……」
なんか涙流し始めちゃったよ?
「おお、神よ!」
あ、ブーンのポーズだ。神殿の人たちのほうがきっちり指先まで伸びきっていたよな。まだまだだね。
「お導きに感謝します」
やはり、ジャンピング土下座にもキレが足りないな。これは、4 点、予選落ちだな。
私も慣れてきたもので、このヘンテコな祈りのポーズの芸術点を採点できる程度には余裕が出ているのだ。
って、忘れてた。
「神の御心のままに」
そう言ってにっこりと微笑む。
私は聖職者ではなくただの治癒師なのだが、神殿から派遣されたことになっているのでこれで良いんだそうだ。
ちなみに、このやり取りの意味はよく知らない。
そして、私たちは村長さんのお宅に招かれ、話を聞くこととなった。
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「なるほど。ゾンビが現れたのは4か月前からで、徐々に増えてきていまや 10 匹ほどになったのですね」
私の確認に村長さんが頷く。
「はい。どうやら墓地からゾンビが出てきているようで」
「そうですか。噛まれたらゾンビになったとか、生きている村人がゾンビになったとか、そういったことはありませんか?」
「な! そのような恐ろしいゾンビがいるのですか!」
「いえ、ただの確認です。気にしないでください」
どうやらいわゆるバイオでハザードなゾンビはこの世界にはいないようだ。
「そ、そうですか。それで、ですね。ゾンビ達はもちろん夜にしか現れませんので、私たちは日が落ちる前に家に鍵をかけて閉じこもることで身を守っております。ですが、家畜たちはそうはいかず、外に繋いでいた家畜たちが少しずつ食われていっているのです」
あー、なるほど。ゾンビたちは生者の血肉を欲する的な設定ね。
「分かりました。では、早速今晩、浄化に挑んでみましょう」
「よろしくお願いいたします。聖女様」
いや、聖女じゃないし。吸血鬼だし。
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