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第二部
ep10. 嫌な予感
しおりを挟む天候は晴れのち曇り。
登校した時にはさんさんと降り注いでいた日光も、お昼時になると完全に雲で遮断されていた。
そして私はいつものようにあおいちゃんと一緒に昼ごはんを食べる。
なんてことはない、記憶にも残らないようないつもの一日。
別に生徒会長になったからと言って何かが変わるわけじゃなかった。
朝クラスに入った時、「あ、会長じゃん」くらいのいつもと違う挨拶があったくらいで、それ以外は本当に何もなかった。
(なーんか、杞憂だったなぁ……)
それにしても私のクラスメイト達は飽きっぽいというか何というか…………私が生徒会長になった時はびっくりするくらい祝福してくれたのに。
もう既に『生徒会長の神奈みづき』として扱われる期間は終了し、今は『クラスメイトのみづき』としての扱いに戻っている気がした。
まあ変に特別視されるよりずっといいんだけどね。……いいんだけどね。
「今みづきが考えていること当ててあげよっか」
「へ?」
私がぼんやりしていると、あおいちゃんがパンを片手に口を開く。
「もっとちやほやされたい」
「うぐっ……」
正解。
私はみんなからもっと「生徒会長就任おめでとう!」と言われたいのです。
「生徒会長就任おめでとー」
「心が込もってなーい」
「注文の多い生徒会長だこと」
あおいちゃんは今日もツンツンしていて全然デレてくれそうにない。
それこそ今日夢で見たあおいちゃんのように――――いや、あれはもう忘れよう。
本当に申し訳なくなってくるから。
「ところで、今日は生徒会の仕事とかないの?」
あおいちゃんに言われて思い出す。
生徒会長としてやらなければならないこと。
この学校の生徒会は最初に会長だけ投票で決めて、残りの生徒会役員は会長が指名して決めなければならないんだった。
「ねぇあおいちゃん! 私と一緒に生徒会やらな――」
「や」
即答。
やっぱりダメだったか。
「私がそう言う目立つ事嫌いなの知ってるでしょ?」
「いやでも……もしかしたらと思って……」
さーてどうしたものか。
友達は何人かいるけど、自主的に生徒会に入りたがるタイプの子は思い当たらないなぁ……
「……まぁ、本当に困った事があったら相談くらいは乗ってあげるわ」
「あ、あおいちゃ~ん……っ!」
「本当に……ほんっっっっっとうに困った時だけね」
ほらね、なんだかんだであおいちゃんは優しいんだ。
きっと私がガチのマジで土下座して生徒会に入ってくださいって頼み込んだら、きっと首を縦に振ってくれるだろう。
うん……きっと…………多分ね。
***
「おやおや~、誰かと思えば生徒会長じゃ~ん!」
放課後。
私が生徒会室に向かうと部屋の前から陽気な声が聞こえてきた。
小動物みたいに小柄で愛らしくて、見ただけで何だか元気が出てくる我が校のマスコット――――じゃなくて元生徒会長。
いや、今は引き継ぎ期間だから現生徒会長でもあるのかな?
その辺は曖昧。
「いかにも、私がこの学校の次期生徒会長! で、ゆかちゃんは何してるの?」
「みづきちゃんに鍵渡しちゃったから生徒会室入れない!」
あ、そっかごめんね。
「ごめんごめん、次からは放課後になったらすぐ生徒会室に来るようにするね」
「気にしなくていいよ、なんか私がいつものペースで早くきちゃっただけだから」
慌てて私はポケットから鍵を取り出し、生徒会室の鍵を開ける。
並んだ机と、書類が無造作に置かれた棚。
部屋の作り自体は他の教室とほとんど変わらないはずだけど、なぜだか未だにこの部屋に来ると緊張する。
それはやっぱり、昨日の出来事を思い出してしまうからだろう。
「さ、適当なイスに座って。昨日は引き継ぎ作業全然できなかったからねー」
ゆかちゃんの陽気な声が、曇りかけた私の心を吹き飛ばす。
「はい、ご教授お願いします。現生徒会長!」
今後のスケジュールや生徒会長としての事務仕事の手続きなど、基本的な作業のヒアリングをしていたら、もう外は真っ暗になっていた。
「よし、今日はここまで! 続きはまた今度ね」
「はぁ~、思ったよりも覚える事たくさんあるなぁ……」
生徒会に入ってから二日目、私は既に心が折れそうだった。
当然だけど生徒会長って、イベントがある時に最初の挨拶をするだけの存在じゃないんだよね……
「はぁ~」
私はため息をついて机に倒れこむ。
するとゆかちゃんは私の後ろへと回り込み、私の肩を揉み始めた。
「お疲れですね~生徒会長」
「……ッ!?」
肩がほぐされて気持ちいい。
気持ちいいんだけど…………それ以上に体がビクンと反応してしまう。
ゆかちゃんが私の体に触れている、そう思ってしまうだけでむしろ私の体はどんどん硬直していく。
そして私が何も言わずに固まっていると、今度はゆかちゃんが私の体を後ろから抱きしめてきた。
ゆかちゃんの吐息が、私の右耳に当たる。
「ゆゆゆ、ゆかちゃんッ!!?」
「辛くなったらいつでも頼ってね」
「……え?」
「ほら、ここって…………こんな学校だからさ。辛い事があったら、いつでも私を頼ってね」
ゆかちゃんの口から出たのは純度100%の優しさでできた言葉。
不埒な事を想像していた私はむしろ混乱する。
そして反省する。
ゆかちゃんの優しさを身に受けて、泣きそうにもなる。
「うん…………うん、ありがとう、ゆかちゃん……私は恵まれてるなぁ…………生徒会長に選ばれて、ずっと不安だったけど…………頼れる人がたくさんいる……」
あおいちゃんにゆかちゃん。
私は本当に友人に恵まれている。
生徒会長として活動していくことへの期待と不安。
最初はそれぞれ半々くらいだったけど、今は期待の方が少しだけ上かもしれない。
「ゆかちゃん、ありがとう、ね……あれ?」
感謝の言葉と共に振り向く。
するとなぜだろう、ゆかちゃんは引きつったような微妙な表情をしていた。
……なんで?
「へ、へー、頼れる人が、た・く・さ・ん、いるんだ…………たくさん……私だけじゃないんだ」
「え、そこ!?」
予想外の部分でゆかちゃんは拗ねていた。
「いやだって……ゆかちゃんの心の底から味方になれるのは……私だけかと……」
「う、うん。ゆかちゃんのことは信頼してるよ!」
「でも他にも頼れる人いるんだ……」
「い、いるけどぉ……」
やばい、何て声をかけるのが正解か分からない。
「……こないだ私のこと……好きって言ったよね」
「はぇえッ!?」
「好きって言ったよね……」
「い……言った……けど…………ゆかちゃんも、私のこと好きって言った……」
「……うん…………言った」
あーまずい。
顔が熱い。
私今絶対顔真っ赤になってる。
あ、よく見たらゆかちゃんも顔真っ赤になってる……可愛い……
十秒経過。
え、どうするのこの空気。
ものすごく気まずい。
「好き……ってことはさぁ……」
沈黙を破ったのはゆかちゃんのその一言だった。
「……ぃ……ってことはさぁ!! 好きってことはさぁッ!! …………あの、その…………あっ」
その瞬間、ずっと逸らしていた二人の視線が重なる。
ゆかちゃんは首元まで真っ赤にして、なんかもう本当にダメそうな顔をしていた。
多分、そこで限界が来たんだろう。
「~~っ! 今日はもう帰るね!!」
「え……えぇ……ッ!?」
口早にそう告げると、ゆかちゃんはそのまま勢いよく部屋から出て行ってしまった。
生徒会室に、私だけが取り残される。
なんだろう、その……なんだろう。
「か……可愛かった…………な……」
そうして私はゆかちゃんの事がさらに好きになるのでした。
***
生徒会室の鍵を閉めた後、私は帰る前に職員室に寄った。
必要な書類を担当の先生に渡して、先生の小話に少しだけ付き合う。
これで今日の生徒会活動は終わり。
外はもう暗いけど、遠くから吹奏楽部の練習する音が聞こえたり、体育館の方からはボールがバウンドする音が聞こえる。
なんだろう、青春の音っていうのかな。
みんな頑張ってるんだなー、という感じがして聞いてて心地がいい。
そう思いなが昇降口の方へと歩いていると、部活動とは別の人の話し声が聞こえた。
私は声がする方へと視線を向ける。
そこはちょうど職員室の真下にある空き教室。
部屋に明かりは付いてない。
だけど話し声は間違いなくこの部屋から聞こえる。
「か~いちょ」
「うひぃッ!?」
不意に後ろから声をかけられ、口から漏れた変な声を私は必死に塞ぐ。
振り向くとそこには金髪碧眼の女子生徒、橋下先輩がいた。
「シーっ、中にいる子に声聞こえちゃうよん」
口の前で人差し指を立てて、先輩は意地悪そうな顔で微笑む。
「は、橋下先輩ッ!!?」
と、というか顔が近い。
橋下先輩の顔は本当にお人形のように整っていて、遺伝子レベルで上位存在って感じがする。
何が言いたいかというと、見つめられるだけで心臓がバクバクするからあまり見つめないでほしい。
「橋下先輩、じゃなくてエリーって呼んでほしいな~。生徒会長なんだから、もっと上から目線で呼んでくれてもいいんだよ?」
「そ、そんな上から目線なんて……」
私が口答えをしようとすると、先輩はわざとらしくムスッとした顔に変わる。
「じゃ、じゃあ……エリー…………せんぱい……」
「ふふっ、まぁいっか。その内もっとタメ口で呼んでくれると嬉しいな~」
とりあえず先輩のご機嫌を取ることはできたらしい。
「と、ところで……この部屋で誰かが何かしてるんですか?」
「ああそうそうそれそれ! かいちょ~、お仕事の時間だよ」
「へ?」
……なんだろう、急に背筋がひんやりしてきた。
「校則を破る不良生徒を更生するのも生徒会長の役目……だよね。そう思わな~い?」
くしし、と先輩が嫌らしく笑う。
ねぇ見てよ先輩のこの、わっっっっるい顔。
知ってるよこれ、いたずらっ子の顔だ。
あー、なんかもう…………すごく、嫌な予感がしてきた。
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