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Episode1/Raison detre
第二章╱Why is there something rather than nothing?
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(.4)
2016年8月10日、午前8時。いまにも雨が降りだしそうな曇天の空の下、コンビニの上にあるマンションの一室ーー201号室には、6人の女性が集まっていた。
右のソファーには、ルナーー瑠奈と翠月の二人。もう片方のソファーには、舞香と沙鳥が座っている。澄は欠伸をかきながら、テーブル付近で静かに正座している。朱音だけはテーブルから離れ、廊下と部屋を繋ぐ位置で、壁に背を預けながらただただ皆を傍観していた。
五人の集まるテーブルの上には、珈琲と紅茶が置かれている。
つい先ほど起きたばかりの瑠奈は、眠気が覚めきっておらず、うとうとしながら紅茶に口をつけ『こっちの紅茶って、あっちのハーブティーに似てるなぁ』などと無邪気に考えていたが、舞香にあることを伝えられたせいで、一瞬で目が冴えてしまった。
「舞香? わたしまだ、気持ち的につらいんだけど……」
「眠れたんだったら大丈夫でしょ? 基本は見学だけでオッケーだから安心しなさい。手伝うのは可能な範囲で構わないわ」
瑠奈は、いきなり舞香から『今日から仕事に慣れましょ』と言われてしまったのである。
「いやいや、眠れたのは、このゾルピデムとかいうの飲んだからであって……」
渡された薬が想像以上に効いてくれたから眠れたと、瑠奈はポケットからゾルピデムを取り出して見せる。
ーーいや、でも本当にびっくりするくらい効いたなぁ。久しぶりに、すんなり眠れたよ。
『ルーナエ・アウラ』から『微風瑠奈』に改名してまで行った病院ーーグリーンメンタルクリニック。効いてくれなければ困る。そう考えながらも、本当に効いてくれるのか、ルナは飲むまで疑っていた。しかし、予想に反して効きすぎるほどに抜群ーー。
「それ持ち歩いてどうするつもりよ?」
その効果に感動した瑠奈は、寝るとき以外は使わないのにも関わらず、常に持ち歩くという変な癖がついてしまい、今日もそのまま持ってきていた。
「いや、そこ突っ込まなくていいじゃん……なんだか持ち歩くと安心するんだもん」
「まあ、好きにすればいいけど……。さっき言ったとおり、今日から三日、一日ごとに、一人ひとり別の子たちに着いていって、仕事内容と一連の流れを見学してきてちょうだい。手伝うのは可能な範囲でいいから、ね?」
舞香に再度言われてしまい、瑠奈は『お金も借りたし、さすがに断れないか』と考え、諦めて頷いた。
誰に同行するのかは、沙鳥、翠月、澄の三名のうち誰からでもいいという。つまり、瑠奈の好きな順から選べということ。
「わたしからにしましょうか? 薬物の密売ですね。見つからないように工夫するのけっこう大変ですから、やりがいあるかもしれませんよ?」
「う、うん……どうしよっかな」
ーーそもそも、いろいろ調べてみてたら、舞香のやってた物が『覚醒剤』なんていう違法物だと知って、びっくりしたんだよね……。てっきり、わたしが処方された薬みたいな物かと思いきや、違法物質なんて物があるんだもん。
こんな異界の地で万が一にでも捕まったりしたら、まったく笑えない。それどころか、もう人生を予定どおりリタイアしてしまうかもしれない。そう頭を悩ませながら、瑠奈は唸る。
すると、そんな瑠奈の肩を翠月が叩いた。
「なら、イッチョ抱かれてみる? 男知らないから好きになれないかもしらないっしょ?」
瑠奈は静かに首を左右に振る。
「それだけは認めなられないなぁ。だってあいつら、わたしの狙ってる女の子を横から現れ颯爽と奪いとっていくんだもん。わたしからしてみれば敵でしかない。だから、翠月のは見学だけで終わるかな?」
「そっかー、産まれてくる性別間違えちゃった系かぁ~つってもさ、男だって主張したいのはわかるけど、あんまし男だって主張し過ぎると、ぼっこり抉れて凹んじゃうよ?」
「凹んでたまるかっ!」
「おっ、瑠奈っち珍しく怒るね~」
ーーまあ、もしかしたら翠月の言うとおり、この子たちは男だって自己主張しようとしてるのかもしれない。でも、片方だけ女だと主張し始めるよりは、はるかにマシな気がするけど……。
瑠奈は、いきなり自分の胸に手を当てて、それが増えていない単なる壁だと確かめた。もう幾度となりチェックしてきている瑠奈だが、まだ諦めきれていないようだ。
ーーあっ、ごめんごめん。壁だなんて言ってごめん。柔らかさはあるから、謝るから許して? それ以上減ると、本当に抉れちゃうじゃん。マイナスになっちゃうからやめといてね、ね? ……よーしよし良い子ちゃんたちだ。
いきなり自身の胸と脳内で対話を始める瑠奈。
直後、沙鳥は飲んでいた珈琲を噴き出した。
「ぶっッ!! げっほ!? げほっけほけほっ! はぁー、はぁー、はぁー……い、いきなり、笑わせないで、ください……ああ、もう」
沙鳥は珈琲まみれとなったテーブルを拭きながら文句を垂れる。
「……え? えっええっ? まさか聞いてた!?」
一人会話劇を読まれていたことを知り、瑠奈は恥ずかしくなる。
沙鳥は、そんな瑠奈から視線を外して翠月へと顔を向ける。
「異性に対して嫌悪を抱く理由なんて、人によって違います。ですから、そういった決めつけはいけませんよ?」
「はーいはい、はいはいはいはいわかったわかったってーもー沙鳥っちはほんっっっと頭かたいねー」
瑠奈はそれを見て、ふと、以前から気になっていた沙鳥の態度を思い出した。
ーー沙鳥って、同性愛を小バカにしてる翠月に対して、なんだかあたり方キツいような気がする。もしかて沙鳥も、わたしと……同じ……。
「瑠奈さん、それは違います。瑠奈さんみたく欲まみれではありませんからね。あと、一応伝えておきます」
沙鳥は瑠奈の胸を指差した。
「それは主張がどうこう以前の問題です。貧乳でも無乳でもありませんよ? そこに在るのは無だけです。乳はありません。AAカップを越える語り得ぬサイズですからぜったいに凹みません。おっきくもなりません。ですから、どうか安心なさってください」
沙鳥は笑顔を見せる。
口から吐いているのは毒以外の何物でもないが、満面の笑顔だ。
「ありがとう沙鳥“ちゃん”? わたしの胸をそこまでボッコボコに貶したひとは史上初だよ。お礼にあとで揉んであげるね? あと舐めてあげる」
「皆さん朝から下品ですよこのひと」
年上に平然と毒を吐く沙鳥に対して、瑠奈はわざわざ『ちゃん』をつけてそれをアピールする。しかし、ちゃん付けで呼ばれ慣れている沙鳥には、まるで効果がない。
「“在る”のは『無』だけ……ね」
そんなやり取りを眺めていた朱音は、唐突に呟いたかと思うと、なぜか感心したように頷いた。
「朱音さん?」
「いや、それは君の救いにはならないよ。けど、瑠奈ーールーナエ・アウラの……いや、やっぱり何でもない」
ーーこのひと、なんだかしゃべり方も思考回路も理解できないんだよなぁ。
意味も意図も不明瞭なことを急に述べたかと思うと、それを言い切るまえで途端にやめた朱音を見て、瑠奈はそう思った。
この世界に暮らしはじめて10日しか経っていない瑠奈だが、他の四人はなんとなくではあるものの、どういう人間なのか漠然とわかってきていた。しかし、朱音だけは別であり、その人物像はなにも掴めていない。
「でも、沙鳥は聞かなくてもわかるんじゃない? 心読めるんだしさ」
「いえ……」沙鳥は首を振る。「朱音さんだけは、心を読んだとしても、さらに理解できなくなるだけなんです」
部屋の空気が変わるのを肌で感じながら、瑠奈は無言で朱音を見つめる。
そんな瑠奈に対して、朱音は嘆息すると「ルーナエ・アウラーー月の微風よ。君の悩みを解くヒントを、特別に示唆してあげる」そう伸べると、言葉を続けた。
「Why is there something rather than nothing?」
「え?」「はい?」
瑠奈と沙鳥は、朱音の突飛な発言がなにを意味するのか理解できず、返事に困ってしまう。
「朱音さん、貴女だけは、心を読んでも本当に理解ができません……」
「君は理解しなくていいよ。いまのは、沙鳥ちゃんに贈るヒントじゃないからね。ルーナエ・アウラへのヒントだよ」
それだけ言い残すと、朱音は部屋から出ていってしまった。
ーーなんなんだろ、あのひとは本当にわからないや。
瑠奈は、その言語を知らなかった。だが、朱音の能力のおかげなのか、頭の中では日本語として翻訳できていた。しかし、だからといって、それが何の答えなのかまでは、何になるのかまでは、まるでわからない。
ーーなぜなにも無いのではなく、なにかが在るのか?ーー
その意味を、瑠奈は思考し紐解こうとする。
紐解こうとするが、悠長なやり取りをしているのが我慢ならなかったらしい。今まで正座しながら黙っていた澄がいきなり立ち上がった。そのせいで、瑠奈の意識から今さっきの発言は頭の奥底へと沈んでしまった。
「そろそろ行かねばならぬ時間じゃ。瑠奈とやら、沙鳥も翠月も嫌だと申すのであれば」澄は、細い指をポキポキと鳴らす。「お主、やはりわしと似とるの。ようは、悪を討ちたいんじゃろう? なれば覚悟しろ? 今日の相手は、ちと、厄介な相手でな。わしとて手間のかかる奴じゃ」
そんな澄の発言を、瑠奈は『はいはい凄い凄い』と適当に聞き流し、そのまま恐る恐ると手を上げた。
「……あのさ? 調べてみたらわかっちゃったんだけど、この集まりって、やっぱ犯罪集団?」
瑠奈は、みんなの会話から気になる単語をーー覚醒剤やら援助交際やらを調べていくうちに、その事実に気づいてしまった。どれもこれも、法に触れることばかりじゃないか、と。
「もちろん、いまさら何を言ってるのよ、当たり前じゃない。わたしーー青海舞香を始めとする、嵐山沙鳥、現世朱音げんせあかね、二 翠月、澄ーーまあ外部に協力者は居るけどーーこの5人で構成された“愛のある我が家”は、違法でも何でも、金になることをシノギとしている集まりなのよ?」
「あぁ、もう……既に頭が痛くなってきたんだけど……」
ーーアリスのやつ、この人たちがどんな集まりか知っていながら、わたしを任せたのかな?
――多分……違うよなぁ。
(.5)
午前9時半、202号室には沙鳥と瑠奈がテーブルを挟んで向かい合わせに座っていた。
「それでは、連絡の来ていないうちに、この箱の内側がどうなっているのか教えますね」
テーブルの上には、『パッキー』『トップ』『ブリッジ』『ラフラン』とパッケージに書いてある長四角のお菓子の箱、それと、粘着剤のみ。その中から、沙鳥は『ラフラン』を手に取る。
結局のところ、あの3人の中では一番まともそうだと感じた瑠奈は、最初は沙鳥に着いていくことに決めたのであった。
ーーむしろ、5人の中で一番まともなのって、もしかしなくとも沙鳥かもしれない。
舞香、違法薬“覚醒剤”中毒。
朱音、頭くるくる異世界転移よ。
翠月、まぢチョーヤバくね売女。
澄 、謎のじじばば幼女。
沙鳥、読心毒舌冒涜レディ。
「なんですか? 読心毒舌冒涜レディって」
沙鳥は、『ラフラン』のパッケージ全面にある切り取り線を爪でつまむと、それに沿って箱を開けた。
「やっぱり覗いてたんかーい……んん? 注射器?」
そこに入っていたのは、パッケージに描かれている細長い棒状のお菓子ではなく、注射器2本と袋がひとつ。
「これ、本来ならこっちの袋がふたつ入っているんです」沙鳥は袋を開けると瑠奈に差し出す。「どうぞ」
「いや、違法薬は――あれ、こっちはお菓子なんだ?」
瑠奈はパッケージに描かれた物と一緒だと認識すると、試しに一本だけ取り口にくわえる。
ーーうん、おいしいじゃん。
「そして、この箱の奥に」
沙鳥が箱をひっくり返すと、中から透明なパケが落下した。
「うん、なんとなくそうだと思った」
そこにあるのは、この世界にやって来た直後に目にした物ーー覚醒剤。
「これが、舞香をジャンキーに仕立てあげた物かぁ……」
「よくそんな単語まで調べてますね。向こうにはありませんよね、ジャンキーなんて言葉」
「ジャンキーって言葉はわたしのいた世界にもあったけど、ただ、それは精霊と契約するのを失敗して、身体か頭がくるくるぱーになったひとのことを指す。この世界だと、薬物乱用してるひとを指す言葉みたいだけどね」
沙鳥は立ち上がると、棚の扉を開けた。すると、その中には同じサイズの箱のお菓子が、ところ狭しと詰め込まれていた。
「これの作り方なんですが、まずは、この箱の底を丁寧に開けるんです」
沙鳥は慣れた手つきで開け口とは違う所ーー箱の底に爪を引っ掛けて剥がし取る。
「ここから中の袋を取り出して、品物を投入します」
中に入っているふたつの袋をひとつだけ取り出すと、さっきのパケと注射器をそのまま投入する。最後に、粘着剤を使い綺麗に閉じ直した。
「まあ、わかる人にはわかっちゃいますけど。ただ、安心感が違いますから」
前から見ると新品そのものだ。しかし、真下から見上げると、たしかに少し違和感がある。
「これを、連絡が来たら来た分」他のお菓子やメモ帳が入っているビニール袋を取り出す。「この中に入れて持ち歩くんです」
「これ、よくはわかんないけど、とりあえず面倒くさいね。しかも、連絡が来るたんびに行ったり来たりおんなじ事を繰り返すんでしょ? なんだかなぁ……」
「そうですか? わたしは楽しいんですけどね?」
「え?」
「楽しい、って言いました」
「いや聞いてるけど……まあ、沙鳥ちゃんにとっては楽しいんだ?」
「はい、もちろんです。だって……」
沙鳥は、いきなり恍惚とした顔になる。そんな人だったのかと問いたくなるくらい、ウットリとした表情を浮かべた。
「これで人生が崩壊していくひとを、間近で眺めていられるんですよ。見知らぬ誰かの大切なひとをーー伴侶を、お子さんを、親友を、恋人を、これによってぶっ壊してあげられるのですから」
「まともなひとなんて、ここにはいなかったかぁ……」
「大抵のひとは来なくなるだけです。ですが、なかには会社や学校などをやめてしまったのに、まだ追い求めてくる人たちがいるんですよ。最初は普通だったひとが惨めになっていくのを見ていると、ああ……無事に壊してあげられたんだなぁって、達成感で満ち溢れるんです。ふふ、ふふふっ」
瑠奈の頭のなかで『愛のある我が家まともな人間ランキング』で一位だった沙鳥が、最下位へと転落した瞬間だった。
ーーそういえば忘れてた。この子、最初に会ったとき、発狂したりしてたんだっけ。嫌になってきたなぁ……他のがマシだったのかもしれないなぁ。
「あっ、すみません、連絡が入りました」
沙鳥はすぐに表情を元に戻すと、まえに瑠奈が見たことのある携帯電話を取り出し耳に当てた。
「もしもし。はい、はい。大丈夫です。17でお願いします。……場所はどうしましょうか? ……はい、今日は指定地じゃない場所でも構いません。……わかりました。では、30分ほどで到着しますので、到着5分前になったら再度連絡を入れます。それでは後程」
そこまで言うと、沙鳥は通話を切った。
「それでは瑠奈さん、現場まで『パッキー』を運びます」
「え、箱によって違うん?」
いま物を納めた箱『ラフラン』を置くと、『パッキー』と書かれた箱を取り出し、ビニール袋に混入した。
「行きながら説明しますね?」
沙鳥はビニール袋を手に掛けて立ち上がった。
「ほいほーい……30分って、魔法なしでどのくらいの距離なの?」
二人は玄関を開けて部屋から出る。
「魔法の速さがわからないと答えようがないのですが……。まぁ、距離なんて知らなくても、時間さえわかればいいじゃないですか」
通路を歩き、二階端にある扉をあける。そこあるのは、階段。ここに出入りできる、唯一の正道である。
「それぞれのパッケージで、内容量と値段が異なるんです。『パッキー』は10g道具なし17万、『トップ』は5g道具なし10万、『ブリッジ』は2g道具4本で5万、『ラフラン』は1g道具2本3万です」
「ふーん、病院で払ったのが3000円ていどなんだけど、高くない?」
会話しながら階段を降りる。
ーーそういえば、病院行った日、最初はどうやってここから出るのかわからなくって焦ったっけ。
「普通はこんな構造していませんからね?」
「わかってるって、既に舞香から聞いてる」
このマンションへの出入口は、コンビニ店内のスタッフルームの端、そこにある扉しかなかった。行きは普通に出ていけるが、瑠奈のようなメンバーになったばかりのひとや、関係者がひとりで入るときは、欠番になっている煙草の番号を店員に告げないと入れない。そういう特殊な構造になっていた。
瑠奈は『捕まらないようにするためか』と察し、ひとまず納得しておくことにした。
「……ここ、“昔の舞香”さんが独立するときにつくったんです。すごい金額や人脈を使ったんです」
コンビニのカウンターから「お先失礼します」と声をかけながら出ると、そのまま店外へ出た。
「どういうこと?」
「現在いまより未来さきを考えた“昔の舞香”さんは、赤字覚悟で蓄えたお金を注ぎ込んでつくったんです。お金、人脈、技術、他にもいろいろと、使えるだけのものをすべて使って……。そうして完成したのが、“愛のある我が家”です」
「あのさ、どうして『昔』を強調するの? なんかそこを強調してない?」
沙鳥は、明らかに“昔の舞香”の部分だけ声に力が入っていた。瑠奈は、なぜだかそれが気になった。
「瑠奈さんは、いずれ帰国ーーいえ、帰界しますよね? それに、周りに言いふらしたりするようなひとでもなさそうですし……わたしも」一旦間をおくと続けた。「わたしもそろそろ、誰かに吐き出したいと思っていましたし……わかりました」
「ん?」
「わたしの本心、瑠奈さんにだけ特別に教えちゃいます」
近場の駐車場につくと、沙鳥は鍵を取り出して青い車に向け、解除キーを押した。
「え、あれ、車でいくの!?」
瑠奈は、空を飛んだほうが早いと思いつつも、まえまえから車やバイクといった乗り物に興味を持っていた。いきなりきらきらと瞳を輝かせながら、車に走り寄る。
「はい、それはそうですよ。相手の決めた指定地まで、いちいち徒歩で向かっていたら大変じゃないですか。ーーああ、そういえば瑠奈さん、車に乗るの初めてでしたっけ」
沙鳥は瑠奈に反対側の扉から入るように言う。ドキドキしながら、瑠奈はそれに従い助手席に座った。
「へぇ、これが車の中かぁ。これが走るって、凄いじゃん。魔法じゃなくて科学ってやつなんだよね?」
「ですから、そうですって何回言えばーーあ、すみませんけど、シートベルトはきちんとしてください」
沙鳥はエンジンを入れた。
「これのこと? 了解」
瑠奈は、沙鳥を真似してシートベルトを着用した。すると、からだが締め付けられてキツいと感じた瑠奈は、『本当に着けなきゃいけないの?』と聞いてしまう。それに対して頷いたあと、沙鳥は前を向き車を走らせた。
「うわ、なんだろう、この不気味な感覚……気持ち悪い」
自分の意思とは無関係に動く感覚に慣れず、瑠奈は違和感を覚える。
「……さっき、どうして昔を強調するのか聞きましたよね?」
「ん? あ、うん。聞いたけど」
「実はわたし、“今の舞香”さんのこと……」
ハンドルを握る沙鳥は、前を向きながら続けた。
「大嫌いです」
「えっ、な、なんで? もし嫌いだとしたら、なんのために一緒にいるの? お金?」
沙鳥は舞香のことが好きなのだろうと、瑠奈は予想していた。メンバーの中で、舞香と一緒にいる時間が一番長いのは沙鳥であり、なおかつ、いろいろと心配しているのも沙鳥だと感じていたからだ。
舞香が覚醒剤を注射するのが嫌いな理由も、すべて舞香のためを思っての行動だと思い込んでいた。瑠奈は、その考えを否定されてしまい、少しだけ驚いた。
「わたしの好きなひとは舞香さん、というのは間違っていませんよ?」
「舞香が好きなのに、舞香が嫌い?」
沙鳥は前を向きつつも、なにかを思い返しているような顔で、叶わない夢を追い続け、見えないなにかが見えてしまっているような瞳をしていた。
「わたしが好きなのは、“昔の舞香”さんです。“今の舞香”が嫌いなだけです。あんな、自分の欲を果たしたいだけのひとでは……虚言ばかりの無知蒙昧な人間では……なかったのに……」
いまにも泣き出しそうに、声を震わせる沙鳥。
「で、でも、昔も今も舞香は舞香じゃん。性格が変わったんなら、諦めて次行けばいいだけって気がするんだけど」
「あのひとは、自分というものを一度失ってしまったんです。善悪で構成されていた舞香さんの半身ーー善の部分が去ってしまっただけなんです。いつか、いつかそれを……取り戻してくれるはずだと……わたしは……」
沙鳥はハンドルを切り、十字路を曲がる。
「ああーーきっと私という人間は……諦めが悪いんでしょうね」
そこまで言い切り、沙鳥はいつもの真面目な顔に戻った。
「瑠奈さんは、神様って、いると思いますか?」
「へ? い、いきなりどしたの?」
沙鳥は答えるのを待っているのか、それ以上なにも言わない。
「そりゃ、神様はいるんじゃない? だって、わたしの住んでた世界も、この世界も、始まりがないと成り立たないんだし」
「いいえ、瑠奈さん。神様なんて存在しませんよ……ぜったいに」
沙鳥はそれだけ言うと、なにも口にしなくなるのであった。
あれから十数分、沙鳥は携帯電話を取りだすなり瑠奈に渡した。
「通話ボタンを押して、お客様に到着する旨を伝えてください」
「え、あ、通話ってのを押して、到着するって言えばいいん?」
「はい。あと五分で着くとだけ伝えてくだされば構いませんから」
瑠奈は言われたとおり通話と書かれている枠を押して、沙鳥がやっていたとおりに耳にあてた。
『……もしもし』
「え、あ、あと五分で、着く、らしいよ?」
瑠奈は緊張してしまったせいで、変な裏声が出てしまう。
『はい』
瑠奈はそれを切ると、沙鳥に携帯を返した。
「車からは降りなくて大丈夫ですからね?」
沙鳥はそう言いながら、数分車を走らせると、やがて駅付近の路肩に車を止めた。
すると、とたんに見知らぬ中年男性が後部座席へと乗り、それと同時に沙鳥は車を発進させた。
「いつもどおり、袋には『パッキー』が入っています」
「はい、わかった。お金はここに置いとけばいいかな?」
「瑠奈さん、数えてください」
外部からでは見えないだろう低位置で札を差し出す中年。沙鳥はお金を受け取ると、それをそのまま瑠奈へと渡す。
「え、あ、うん……17枚あるよ?」
「ありがとうございます」瑠奈に礼を述べる。「では、この辺りで大丈夫ですか?」
「うん、いつも悪いね」
沙鳥はそれを聞くと、乗ってきた所とは別の路肩に車を止めた。
「それじゃ、また」
中年はそう言うと車から降りる。それを確認すると、沙鳥はすぐに車を走らせた。
「ポイントは、毎回同じ場所で取引しないこと、品物とお金は周りからバレないように交換すること、そして、同じ場所でずっと止まっていないこと。この三点さえ守れば大丈夫です」
「うーん、そもそもわたし、車の免許証持ってないしなぁ……」
「あっ、そういえば言うの忘れていましたけど、玩具の偽札を混ぜて渡してきたり、そもそも金額が足りなかったりするひとがいます。そういう場合、交換するまえに気がついたら取引を中断しますが、もし相手が今みたいに先に受けとった場合は、車を止めず最寄りの拠点地ーー神奈川県横浜市に三箇所、川崎に三箇所、相模原と横須賀、三浦にそれぞれ一ヶ所ずつ存在するポイントまで乗せて行っちゃいます」
ーーなんなんだろうか? たしか神奈川県って、今いる場所の名前だったような気がする。
「そうです。そこには舞香さんと仲の良い暴力団ーー大海組や阿瀬組や、名前を貸していただいている総白会そうはくかいの事務所や関係する場所があります。あるいは、翠月さんが担当している商売地点ーーこちらにも、先ほど述べた暴力団の組員さんたちがいるんです。到着する10分まえにワン切りだけしておけば、屈強な方たちが、10分後に外に出てきてくれますので、その方に身柄を渡して任せるという手筈になっています」
暴力団という存在は、覚醒剤について調べたときの関連で知っていた。瑠奈は、払えなかったら暴力で締めるのかと、恐ろしいながらも納得した。
「あれ、でもさ? もしも、お客様? が、暴力振るってきたらどうすんの?」
「あっ、そうなるまえに降ろしますよ。安全第一ですからね。ただ、初回のお客様のときは、舞香さんや澄さんに、それか、大海組の方や阿瀬組のひとを一人、誰かしら貸していただき、ついてきてもらいます」
車は、違う道を走りながら愛のある我が家へと向かっていく。
「それに加え、わたしなら相手の思惑を見抜けますから、車に近寄ってくるまえに相手に顔を向けて思考を読めば、ある程度は確かめられますから」
「そういやそうじゃん。思考読めるんなら、ほとんど問題なくなるじゃん。ーーあっ、そーいえば気になってたんだけど、舞香が注射したのを知るとフラッシュバック? するなら、思考なんて覗かなければいいだけの話じゃない?」
沙鳥は少し迷ってみせると、まあいいかと説明し始めた。
「わたしの異能力は、相手を見てしまうと勝手に暴発してしまう欠陥品なんです。視界の中心が一番大きな声で聞こえてきて、視界の外へ行くほどその声は聞き取り辛くなるんです」沙鳥は一呼吸おいて続ける。「わたしの視界に舞香さんが入ったときに、舞香さんがたまたま注射した事を考えているだけで、ダメなんです」
「はぇ~大変だね、それ。聞きたくないときでも聞こえてくるんでしょ?」
沙鳥は頭を縦に振る。
「でもさでもさ? そもそもの話、どうして舞香が注射するのだけはダメなの? 他のひとは大丈夫なんでしょ?」
こうやって、わざわざ売人を務めているくらいなのだから、と瑠奈は質問する。
「答えは、車に乗ってからすぐに話したじゃないですか」
「え?」
「あれが、その答えです。覚醒剤はーー“昔の舞香”さんを、“今の舞香”へと変えた物、それが、覚醒剤の静脈内注射」
瑠奈は、ある質問を重ねて尋ねようとした。
しかし、そのまえに沙鳥は答える。
「だからこそ、これによって、わたしと同じ気持ちになるひとをいっぱい出してやるーーそう思いました。なぜなら神はいないのですから、どれだけジャンキーをつくりあげても文句は言われません。だからいいんです、汚染しても」
そう言いながら、これらの行為は神への当て付けなのではないか、と瑠奈は感じるのであった。
2016年8月10日、午前8時。いまにも雨が降りだしそうな曇天の空の下、コンビニの上にあるマンションの一室ーー201号室には、6人の女性が集まっていた。
右のソファーには、ルナーー瑠奈と翠月の二人。もう片方のソファーには、舞香と沙鳥が座っている。澄は欠伸をかきながら、テーブル付近で静かに正座している。朱音だけはテーブルから離れ、廊下と部屋を繋ぐ位置で、壁に背を預けながらただただ皆を傍観していた。
五人の集まるテーブルの上には、珈琲と紅茶が置かれている。
つい先ほど起きたばかりの瑠奈は、眠気が覚めきっておらず、うとうとしながら紅茶に口をつけ『こっちの紅茶って、あっちのハーブティーに似てるなぁ』などと無邪気に考えていたが、舞香にあることを伝えられたせいで、一瞬で目が冴えてしまった。
「舞香? わたしまだ、気持ち的につらいんだけど……」
「眠れたんだったら大丈夫でしょ? 基本は見学だけでオッケーだから安心しなさい。手伝うのは可能な範囲で構わないわ」
瑠奈は、いきなり舞香から『今日から仕事に慣れましょ』と言われてしまったのである。
「いやいや、眠れたのは、このゾルピデムとかいうの飲んだからであって……」
渡された薬が想像以上に効いてくれたから眠れたと、瑠奈はポケットからゾルピデムを取り出して見せる。
ーーいや、でも本当にびっくりするくらい効いたなぁ。久しぶりに、すんなり眠れたよ。
『ルーナエ・アウラ』から『微風瑠奈』に改名してまで行った病院ーーグリーンメンタルクリニック。効いてくれなければ困る。そう考えながらも、本当に効いてくれるのか、ルナは飲むまで疑っていた。しかし、予想に反して効きすぎるほどに抜群ーー。
「それ持ち歩いてどうするつもりよ?」
その効果に感動した瑠奈は、寝るとき以外は使わないのにも関わらず、常に持ち歩くという変な癖がついてしまい、今日もそのまま持ってきていた。
「いや、そこ突っ込まなくていいじゃん……なんだか持ち歩くと安心するんだもん」
「まあ、好きにすればいいけど……。さっき言ったとおり、今日から三日、一日ごとに、一人ひとり別の子たちに着いていって、仕事内容と一連の流れを見学してきてちょうだい。手伝うのは可能な範囲でいいから、ね?」
舞香に再度言われてしまい、瑠奈は『お金も借りたし、さすがに断れないか』と考え、諦めて頷いた。
誰に同行するのかは、沙鳥、翠月、澄の三名のうち誰からでもいいという。つまり、瑠奈の好きな順から選べということ。
「わたしからにしましょうか? 薬物の密売ですね。見つからないように工夫するのけっこう大変ですから、やりがいあるかもしれませんよ?」
「う、うん……どうしよっかな」
ーーそもそも、いろいろ調べてみてたら、舞香のやってた物が『覚醒剤』なんていう違法物だと知って、びっくりしたんだよね……。てっきり、わたしが処方された薬みたいな物かと思いきや、違法物質なんて物があるんだもん。
こんな異界の地で万が一にでも捕まったりしたら、まったく笑えない。それどころか、もう人生を予定どおりリタイアしてしまうかもしれない。そう頭を悩ませながら、瑠奈は唸る。
すると、そんな瑠奈の肩を翠月が叩いた。
「なら、イッチョ抱かれてみる? 男知らないから好きになれないかもしらないっしょ?」
瑠奈は静かに首を左右に振る。
「それだけは認めなられないなぁ。だってあいつら、わたしの狙ってる女の子を横から現れ颯爽と奪いとっていくんだもん。わたしからしてみれば敵でしかない。だから、翠月のは見学だけで終わるかな?」
「そっかー、産まれてくる性別間違えちゃった系かぁ~つってもさ、男だって主張したいのはわかるけど、あんまし男だって主張し過ぎると、ぼっこり抉れて凹んじゃうよ?」
「凹んでたまるかっ!」
「おっ、瑠奈っち珍しく怒るね~」
ーーまあ、もしかしたら翠月の言うとおり、この子たちは男だって自己主張しようとしてるのかもしれない。でも、片方だけ女だと主張し始めるよりは、はるかにマシな気がするけど……。
瑠奈は、いきなり自分の胸に手を当てて、それが増えていない単なる壁だと確かめた。もう幾度となりチェックしてきている瑠奈だが、まだ諦めきれていないようだ。
ーーあっ、ごめんごめん。壁だなんて言ってごめん。柔らかさはあるから、謝るから許して? それ以上減ると、本当に抉れちゃうじゃん。マイナスになっちゃうからやめといてね、ね? ……よーしよし良い子ちゃんたちだ。
いきなり自身の胸と脳内で対話を始める瑠奈。
直後、沙鳥は飲んでいた珈琲を噴き出した。
「ぶっッ!! げっほ!? げほっけほけほっ! はぁー、はぁー、はぁー……い、いきなり、笑わせないで、ください……ああ、もう」
沙鳥は珈琲まみれとなったテーブルを拭きながら文句を垂れる。
「……え? えっええっ? まさか聞いてた!?」
一人会話劇を読まれていたことを知り、瑠奈は恥ずかしくなる。
沙鳥は、そんな瑠奈から視線を外して翠月へと顔を向ける。
「異性に対して嫌悪を抱く理由なんて、人によって違います。ですから、そういった決めつけはいけませんよ?」
「はーいはい、はいはいはいはいわかったわかったってーもー沙鳥っちはほんっっっと頭かたいねー」
瑠奈はそれを見て、ふと、以前から気になっていた沙鳥の態度を思い出した。
ーー沙鳥って、同性愛を小バカにしてる翠月に対して、なんだかあたり方キツいような気がする。もしかて沙鳥も、わたしと……同じ……。
「瑠奈さん、それは違います。瑠奈さんみたく欲まみれではありませんからね。あと、一応伝えておきます」
沙鳥は瑠奈の胸を指差した。
「それは主張がどうこう以前の問題です。貧乳でも無乳でもありませんよ? そこに在るのは無だけです。乳はありません。AAカップを越える語り得ぬサイズですからぜったいに凹みません。おっきくもなりません。ですから、どうか安心なさってください」
沙鳥は笑顔を見せる。
口から吐いているのは毒以外の何物でもないが、満面の笑顔だ。
「ありがとう沙鳥“ちゃん”? わたしの胸をそこまでボッコボコに貶したひとは史上初だよ。お礼にあとで揉んであげるね? あと舐めてあげる」
「皆さん朝から下品ですよこのひと」
年上に平然と毒を吐く沙鳥に対して、瑠奈はわざわざ『ちゃん』をつけてそれをアピールする。しかし、ちゃん付けで呼ばれ慣れている沙鳥には、まるで効果がない。
「“在る”のは『無』だけ……ね」
そんなやり取りを眺めていた朱音は、唐突に呟いたかと思うと、なぜか感心したように頷いた。
「朱音さん?」
「いや、それは君の救いにはならないよ。けど、瑠奈ーールーナエ・アウラの……いや、やっぱり何でもない」
ーーこのひと、なんだかしゃべり方も思考回路も理解できないんだよなぁ。
意味も意図も不明瞭なことを急に述べたかと思うと、それを言い切るまえで途端にやめた朱音を見て、瑠奈はそう思った。
この世界に暮らしはじめて10日しか経っていない瑠奈だが、他の四人はなんとなくではあるものの、どういう人間なのか漠然とわかってきていた。しかし、朱音だけは別であり、その人物像はなにも掴めていない。
「でも、沙鳥は聞かなくてもわかるんじゃない? 心読めるんだしさ」
「いえ……」沙鳥は首を振る。「朱音さんだけは、心を読んだとしても、さらに理解できなくなるだけなんです」
部屋の空気が変わるのを肌で感じながら、瑠奈は無言で朱音を見つめる。
そんな瑠奈に対して、朱音は嘆息すると「ルーナエ・アウラーー月の微風よ。君の悩みを解くヒントを、特別に示唆してあげる」そう伸べると、言葉を続けた。
「Why is there something rather than nothing?」
「え?」「はい?」
瑠奈と沙鳥は、朱音の突飛な発言がなにを意味するのか理解できず、返事に困ってしまう。
「朱音さん、貴女だけは、心を読んでも本当に理解ができません……」
「君は理解しなくていいよ。いまのは、沙鳥ちゃんに贈るヒントじゃないからね。ルーナエ・アウラへのヒントだよ」
それだけ言い残すと、朱音は部屋から出ていってしまった。
ーーなんなんだろ、あのひとは本当にわからないや。
瑠奈は、その言語を知らなかった。だが、朱音の能力のおかげなのか、頭の中では日本語として翻訳できていた。しかし、だからといって、それが何の答えなのかまでは、何になるのかまでは、まるでわからない。
ーーなぜなにも無いのではなく、なにかが在るのか?ーー
その意味を、瑠奈は思考し紐解こうとする。
紐解こうとするが、悠長なやり取りをしているのが我慢ならなかったらしい。今まで正座しながら黙っていた澄がいきなり立ち上がった。そのせいで、瑠奈の意識から今さっきの発言は頭の奥底へと沈んでしまった。
「そろそろ行かねばならぬ時間じゃ。瑠奈とやら、沙鳥も翠月も嫌だと申すのであれば」澄は、細い指をポキポキと鳴らす。「お主、やはりわしと似とるの。ようは、悪を討ちたいんじゃろう? なれば覚悟しろ? 今日の相手は、ちと、厄介な相手でな。わしとて手間のかかる奴じゃ」
そんな澄の発言を、瑠奈は『はいはい凄い凄い』と適当に聞き流し、そのまま恐る恐ると手を上げた。
「……あのさ? 調べてみたらわかっちゃったんだけど、この集まりって、やっぱ犯罪集団?」
瑠奈は、みんなの会話から気になる単語をーー覚醒剤やら援助交際やらを調べていくうちに、その事実に気づいてしまった。どれもこれも、法に触れることばかりじゃないか、と。
「もちろん、いまさら何を言ってるのよ、当たり前じゃない。わたしーー青海舞香を始めとする、嵐山沙鳥、現世朱音げんせあかね、二 翠月、澄ーーまあ外部に協力者は居るけどーーこの5人で構成された“愛のある我が家”は、違法でも何でも、金になることをシノギとしている集まりなのよ?」
「あぁ、もう……既に頭が痛くなってきたんだけど……」
ーーアリスのやつ、この人たちがどんな集まりか知っていながら、わたしを任せたのかな?
――多分……違うよなぁ。
(.5)
午前9時半、202号室には沙鳥と瑠奈がテーブルを挟んで向かい合わせに座っていた。
「それでは、連絡の来ていないうちに、この箱の内側がどうなっているのか教えますね」
テーブルの上には、『パッキー』『トップ』『ブリッジ』『ラフラン』とパッケージに書いてある長四角のお菓子の箱、それと、粘着剤のみ。その中から、沙鳥は『ラフラン』を手に取る。
結局のところ、あの3人の中では一番まともそうだと感じた瑠奈は、最初は沙鳥に着いていくことに決めたのであった。
ーーむしろ、5人の中で一番まともなのって、もしかしなくとも沙鳥かもしれない。
舞香、違法薬“覚醒剤”中毒。
朱音、頭くるくる異世界転移よ。
翠月、まぢチョーヤバくね売女。
澄 、謎のじじばば幼女。
沙鳥、読心毒舌冒涜レディ。
「なんですか? 読心毒舌冒涜レディって」
沙鳥は、『ラフラン』のパッケージ全面にある切り取り線を爪でつまむと、それに沿って箱を開けた。
「やっぱり覗いてたんかーい……んん? 注射器?」
そこに入っていたのは、パッケージに描かれている細長い棒状のお菓子ではなく、注射器2本と袋がひとつ。
「これ、本来ならこっちの袋がふたつ入っているんです」沙鳥は袋を開けると瑠奈に差し出す。「どうぞ」
「いや、違法薬は――あれ、こっちはお菓子なんだ?」
瑠奈はパッケージに描かれた物と一緒だと認識すると、試しに一本だけ取り口にくわえる。
ーーうん、おいしいじゃん。
「そして、この箱の奥に」
沙鳥が箱をひっくり返すと、中から透明なパケが落下した。
「うん、なんとなくそうだと思った」
そこにあるのは、この世界にやって来た直後に目にした物ーー覚醒剤。
「これが、舞香をジャンキーに仕立てあげた物かぁ……」
「よくそんな単語まで調べてますね。向こうにはありませんよね、ジャンキーなんて言葉」
「ジャンキーって言葉はわたしのいた世界にもあったけど、ただ、それは精霊と契約するのを失敗して、身体か頭がくるくるぱーになったひとのことを指す。この世界だと、薬物乱用してるひとを指す言葉みたいだけどね」
沙鳥は立ち上がると、棚の扉を開けた。すると、その中には同じサイズの箱のお菓子が、ところ狭しと詰め込まれていた。
「これの作り方なんですが、まずは、この箱の底を丁寧に開けるんです」
沙鳥は慣れた手つきで開け口とは違う所ーー箱の底に爪を引っ掛けて剥がし取る。
「ここから中の袋を取り出して、品物を投入します」
中に入っているふたつの袋をひとつだけ取り出すと、さっきのパケと注射器をそのまま投入する。最後に、粘着剤を使い綺麗に閉じ直した。
「まあ、わかる人にはわかっちゃいますけど。ただ、安心感が違いますから」
前から見ると新品そのものだ。しかし、真下から見上げると、たしかに少し違和感がある。
「これを、連絡が来たら来た分」他のお菓子やメモ帳が入っているビニール袋を取り出す。「この中に入れて持ち歩くんです」
「これ、よくはわかんないけど、とりあえず面倒くさいね。しかも、連絡が来るたんびに行ったり来たりおんなじ事を繰り返すんでしょ? なんだかなぁ……」
「そうですか? わたしは楽しいんですけどね?」
「え?」
「楽しい、って言いました」
「いや聞いてるけど……まあ、沙鳥ちゃんにとっては楽しいんだ?」
「はい、もちろんです。だって……」
沙鳥は、いきなり恍惚とした顔になる。そんな人だったのかと問いたくなるくらい、ウットリとした表情を浮かべた。
「これで人生が崩壊していくひとを、間近で眺めていられるんですよ。見知らぬ誰かの大切なひとをーー伴侶を、お子さんを、親友を、恋人を、これによってぶっ壊してあげられるのですから」
「まともなひとなんて、ここにはいなかったかぁ……」
「大抵のひとは来なくなるだけです。ですが、なかには会社や学校などをやめてしまったのに、まだ追い求めてくる人たちがいるんですよ。最初は普通だったひとが惨めになっていくのを見ていると、ああ……無事に壊してあげられたんだなぁって、達成感で満ち溢れるんです。ふふ、ふふふっ」
瑠奈の頭のなかで『愛のある我が家まともな人間ランキング』で一位だった沙鳥が、最下位へと転落した瞬間だった。
ーーそういえば忘れてた。この子、最初に会ったとき、発狂したりしてたんだっけ。嫌になってきたなぁ……他のがマシだったのかもしれないなぁ。
「あっ、すみません、連絡が入りました」
沙鳥はすぐに表情を元に戻すと、まえに瑠奈が見たことのある携帯電話を取り出し耳に当てた。
「もしもし。はい、はい。大丈夫です。17でお願いします。……場所はどうしましょうか? ……はい、今日は指定地じゃない場所でも構いません。……わかりました。では、30分ほどで到着しますので、到着5分前になったら再度連絡を入れます。それでは後程」
そこまで言うと、沙鳥は通話を切った。
「それでは瑠奈さん、現場まで『パッキー』を運びます」
「え、箱によって違うん?」
いま物を納めた箱『ラフラン』を置くと、『パッキー』と書かれた箱を取り出し、ビニール袋に混入した。
「行きながら説明しますね?」
沙鳥はビニール袋を手に掛けて立ち上がった。
「ほいほーい……30分って、魔法なしでどのくらいの距離なの?」
二人は玄関を開けて部屋から出る。
「魔法の速さがわからないと答えようがないのですが……。まぁ、距離なんて知らなくても、時間さえわかればいいじゃないですか」
通路を歩き、二階端にある扉をあける。そこあるのは、階段。ここに出入りできる、唯一の正道である。
「それぞれのパッケージで、内容量と値段が異なるんです。『パッキー』は10g道具なし17万、『トップ』は5g道具なし10万、『ブリッジ』は2g道具4本で5万、『ラフラン』は1g道具2本3万です」
「ふーん、病院で払ったのが3000円ていどなんだけど、高くない?」
会話しながら階段を降りる。
ーーそういえば、病院行った日、最初はどうやってここから出るのかわからなくって焦ったっけ。
「普通はこんな構造していませんからね?」
「わかってるって、既に舞香から聞いてる」
このマンションへの出入口は、コンビニ店内のスタッフルームの端、そこにある扉しかなかった。行きは普通に出ていけるが、瑠奈のようなメンバーになったばかりのひとや、関係者がひとりで入るときは、欠番になっている煙草の番号を店員に告げないと入れない。そういう特殊な構造になっていた。
瑠奈は『捕まらないようにするためか』と察し、ひとまず納得しておくことにした。
「……ここ、“昔の舞香”さんが独立するときにつくったんです。すごい金額や人脈を使ったんです」
コンビニのカウンターから「お先失礼します」と声をかけながら出ると、そのまま店外へ出た。
「どういうこと?」
「現在いまより未来さきを考えた“昔の舞香”さんは、赤字覚悟で蓄えたお金を注ぎ込んでつくったんです。お金、人脈、技術、他にもいろいろと、使えるだけのものをすべて使って……。そうして完成したのが、“愛のある我が家”です」
「あのさ、どうして『昔』を強調するの? なんかそこを強調してない?」
沙鳥は、明らかに“昔の舞香”の部分だけ声に力が入っていた。瑠奈は、なぜだかそれが気になった。
「瑠奈さんは、いずれ帰国ーーいえ、帰界しますよね? それに、周りに言いふらしたりするようなひとでもなさそうですし……わたしも」一旦間をおくと続けた。「わたしもそろそろ、誰かに吐き出したいと思っていましたし……わかりました」
「ん?」
「わたしの本心、瑠奈さんにだけ特別に教えちゃいます」
近場の駐車場につくと、沙鳥は鍵を取り出して青い車に向け、解除キーを押した。
「え、あれ、車でいくの!?」
瑠奈は、空を飛んだほうが早いと思いつつも、まえまえから車やバイクといった乗り物に興味を持っていた。いきなりきらきらと瞳を輝かせながら、車に走り寄る。
「はい、それはそうですよ。相手の決めた指定地まで、いちいち徒歩で向かっていたら大変じゃないですか。ーーああ、そういえば瑠奈さん、車に乗るの初めてでしたっけ」
沙鳥は瑠奈に反対側の扉から入るように言う。ドキドキしながら、瑠奈はそれに従い助手席に座った。
「へぇ、これが車の中かぁ。これが走るって、凄いじゃん。魔法じゃなくて科学ってやつなんだよね?」
「ですから、そうですって何回言えばーーあ、すみませんけど、シートベルトはきちんとしてください」
沙鳥はエンジンを入れた。
「これのこと? 了解」
瑠奈は、沙鳥を真似してシートベルトを着用した。すると、からだが締め付けられてキツいと感じた瑠奈は、『本当に着けなきゃいけないの?』と聞いてしまう。それに対して頷いたあと、沙鳥は前を向き車を走らせた。
「うわ、なんだろう、この不気味な感覚……気持ち悪い」
自分の意思とは無関係に動く感覚に慣れず、瑠奈は違和感を覚える。
「……さっき、どうして昔を強調するのか聞きましたよね?」
「ん? あ、うん。聞いたけど」
「実はわたし、“今の舞香”さんのこと……」
ハンドルを握る沙鳥は、前を向きながら続けた。
「大嫌いです」
「えっ、な、なんで? もし嫌いだとしたら、なんのために一緒にいるの? お金?」
沙鳥は舞香のことが好きなのだろうと、瑠奈は予想していた。メンバーの中で、舞香と一緒にいる時間が一番長いのは沙鳥であり、なおかつ、いろいろと心配しているのも沙鳥だと感じていたからだ。
舞香が覚醒剤を注射するのが嫌いな理由も、すべて舞香のためを思っての行動だと思い込んでいた。瑠奈は、その考えを否定されてしまい、少しだけ驚いた。
「わたしの好きなひとは舞香さん、というのは間違っていませんよ?」
「舞香が好きなのに、舞香が嫌い?」
沙鳥は前を向きつつも、なにかを思い返しているような顔で、叶わない夢を追い続け、見えないなにかが見えてしまっているような瞳をしていた。
「わたしが好きなのは、“昔の舞香”さんです。“今の舞香”が嫌いなだけです。あんな、自分の欲を果たしたいだけのひとでは……虚言ばかりの無知蒙昧な人間では……なかったのに……」
いまにも泣き出しそうに、声を震わせる沙鳥。
「で、でも、昔も今も舞香は舞香じゃん。性格が変わったんなら、諦めて次行けばいいだけって気がするんだけど」
「あのひとは、自分というものを一度失ってしまったんです。善悪で構成されていた舞香さんの半身ーー善の部分が去ってしまっただけなんです。いつか、いつかそれを……取り戻してくれるはずだと……わたしは……」
沙鳥はハンドルを切り、十字路を曲がる。
「ああーーきっと私という人間は……諦めが悪いんでしょうね」
そこまで言い切り、沙鳥はいつもの真面目な顔に戻った。
「瑠奈さんは、神様って、いると思いますか?」
「へ? い、いきなりどしたの?」
沙鳥は答えるのを待っているのか、それ以上なにも言わない。
「そりゃ、神様はいるんじゃない? だって、わたしの住んでた世界も、この世界も、始まりがないと成り立たないんだし」
「いいえ、瑠奈さん。神様なんて存在しませんよ……ぜったいに」
沙鳥はそれだけ言うと、なにも口にしなくなるのであった。
あれから十数分、沙鳥は携帯電話を取りだすなり瑠奈に渡した。
「通話ボタンを押して、お客様に到着する旨を伝えてください」
「え、あ、通話ってのを押して、到着するって言えばいいん?」
「はい。あと五分で着くとだけ伝えてくだされば構いませんから」
瑠奈は言われたとおり通話と書かれている枠を押して、沙鳥がやっていたとおりに耳にあてた。
『……もしもし』
「え、あ、あと五分で、着く、らしいよ?」
瑠奈は緊張してしまったせいで、変な裏声が出てしまう。
『はい』
瑠奈はそれを切ると、沙鳥に携帯を返した。
「車からは降りなくて大丈夫ですからね?」
沙鳥はそう言いながら、数分車を走らせると、やがて駅付近の路肩に車を止めた。
すると、とたんに見知らぬ中年男性が後部座席へと乗り、それと同時に沙鳥は車を発進させた。
「いつもどおり、袋には『パッキー』が入っています」
「はい、わかった。お金はここに置いとけばいいかな?」
「瑠奈さん、数えてください」
外部からでは見えないだろう低位置で札を差し出す中年。沙鳥はお金を受け取ると、それをそのまま瑠奈へと渡す。
「え、あ、うん……17枚あるよ?」
「ありがとうございます」瑠奈に礼を述べる。「では、この辺りで大丈夫ですか?」
「うん、いつも悪いね」
沙鳥はそれを聞くと、乗ってきた所とは別の路肩に車を止めた。
「それじゃ、また」
中年はそう言うと車から降りる。それを確認すると、沙鳥はすぐに車を走らせた。
「ポイントは、毎回同じ場所で取引しないこと、品物とお金は周りからバレないように交換すること、そして、同じ場所でずっと止まっていないこと。この三点さえ守れば大丈夫です」
「うーん、そもそもわたし、車の免許証持ってないしなぁ……」
「あっ、そういえば言うの忘れていましたけど、玩具の偽札を混ぜて渡してきたり、そもそも金額が足りなかったりするひとがいます。そういう場合、交換するまえに気がついたら取引を中断しますが、もし相手が今みたいに先に受けとった場合は、車を止めず最寄りの拠点地ーー神奈川県横浜市に三箇所、川崎に三箇所、相模原と横須賀、三浦にそれぞれ一ヶ所ずつ存在するポイントまで乗せて行っちゃいます」
ーーなんなんだろうか? たしか神奈川県って、今いる場所の名前だったような気がする。
「そうです。そこには舞香さんと仲の良い暴力団ーー大海組や阿瀬組や、名前を貸していただいている総白会そうはくかいの事務所や関係する場所があります。あるいは、翠月さんが担当している商売地点ーーこちらにも、先ほど述べた暴力団の組員さんたちがいるんです。到着する10分まえにワン切りだけしておけば、屈強な方たちが、10分後に外に出てきてくれますので、その方に身柄を渡して任せるという手筈になっています」
暴力団という存在は、覚醒剤について調べたときの関連で知っていた。瑠奈は、払えなかったら暴力で締めるのかと、恐ろしいながらも納得した。
「あれ、でもさ? もしも、お客様? が、暴力振るってきたらどうすんの?」
「あっ、そうなるまえに降ろしますよ。安全第一ですからね。ただ、初回のお客様のときは、舞香さんや澄さんに、それか、大海組の方や阿瀬組のひとを一人、誰かしら貸していただき、ついてきてもらいます」
車は、違う道を走りながら愛のある我が家へと向かっていく。
「それに加え、わたしなら相手の思惑を見抜けますから、車に近寄ってくるまえに相手に顔を向けて思考を読めば、ある程度は確かめられますから」
「そういやそうじゃん。思考読めるんなら、ほとんど問題なくなるじゃん。ーーあっ、そーいえば気になってたんだけど、舞香が注射したのを知るとフラッシュバック? するなら、思考なんて覗かなければいいだけの話じゃない?」
沙鳥は少し迷ってみせると、まあいいかと説明し始めた。
「わたしの異能力は、相手を見てしまうと勝手に暴発してしまう欠陥品なんです。視界の中心が一番大きな声で聞こえてきて、視界の外へ行くほどその声は聞き取り辛くなるんです」沙鳥は一呼吸おいて続ける。「わたしの視界に舞香さんが入ったときに、舞香さんがたまたま注射した事を考えているだけで、ダメなんです」
「はぇ~大変だね、それ。聞きたくないときでも聞こえてくるんでしょ?」
沙鳥は頭を縦に振る。
「でもさでもさ? そもそもの話、どうして舞香が注射するのだけはダメなの? 他のひとは大丈夫なんでしょ?」
こうやって、わざわざ売人を務めているくらいなのだから、と瑠奈は質問する。
「答えは、車に乗ってからすぐに話したじゃないですか」
「え?」
「あれが、その答えです。覚醒剤はーー“昔の舞香”さんを、“今の舞香”へと変えた物、それが、覚醒剤の静脈内注射」
瑠奈は、ある質問を重ねて尋ねようとした。
しかし、そのまえに沙鳥は答える。
「だからこそ、これによって、わたしと同じ気持ちになるひとをいっぱい出してやるーーそう思いました。なぜなら神はいないのですから、どれだけジャンキーをつくりあげても文句は言われません。だからいいんです、汚染しても」
そう言いながら、これらの行為は神への当て付けなのではないか、と瑠奈は感じるのであった。
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