Free Hugs〜最後のハグから始まる恋〜

はるみさ

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第四話

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 琴美は、須藤の顔を見つめる。寝顔を見るのはこれで二度目だが、相変わらず綺麗な顔をしている。

 すると一瞬須藤が眉を顰めた。琴美は、どうしたんだろう…と海斗を踏まないように気をつけて近付く。

 …ネクタイ苦しそう。
 それにこのまま寝たらスーツも皺になっちゃうよね…。

 そう思った琴美は、ネクタイに手を掛ける。スルスルと解き、取ってあげると少し楽になったのか、須藤は僅かに安堵したような表情になる。

 「ジャケットも…。」

 琴美は、何とか布団側にある腕をジャケットから出すことに成功した。もう片方の腕は、壁側だ。琴美はそっとベッドに乗り、片腕をジャケットから引き抜こうとする。なかなか上手くいかないが、ようやく出来た!と思ったところで須藤が寝返りを打ち、バランスを崩した琴美は須藤の胸の中に収まってしまった。

 すかさずそれを須藤がぎゅっと抱きしめる。琴美は何とか抜け出そうとするものの、須藤の抱きしめる力が強すぎて、抜けることが出来ない。琴美は一旦諦めて、腕の力が弱まるのを待つことにした。

 こうして大人しくしていると、あの日、ハグしてくれた時のことを思い出す。

 (やっぱり須藤さんの腕の中はなんだか落ち着く…。
 良い匂いだし、心臓の音も心地良い。抱きしめてくれる腕は逞しいし、鍛えているのかな…胸板も意外にしっかりとしてる。でも、硬すぎなくてあったかくて…気持ちいい。)

 その温かさを感じているうちに、琴美は寝てしまった。


   ◆ ◇ ◆


 カーテンの隙間から朝日が差し込む。
 琴美はぴったりと須藤に寄り添って寝ていた。

 「…ん。」

 琴美は目を開けて、目の前の白いシャツを見て、須藤の腕の中に囲われたまま寝てしまったことを思い出した。バスソルトのお陰か、須藤のお陰か、かなり深く寝た気がする。
 でも、これを見つかったら海斗に痴女扱いされる…と思った琴美は、急いでベッドから出ようと、クルッと寝返りを打ち、須藤に背を向け、そっとベッドから抜け出そうとした。

 その時、懐かしいアニメソングが流れた。
 海斗のアラームだ。

 (…まずい!)

 そう思ったら、琴美を隠すように頭から布団を掛け直され、ギュッと腰のあたりにある須藤の手に力が込められた。

 (え?…起きてる?)

 琴美は、体を硬くする。
 海斗が起き上がり、支度を始めている。この時間に起きるということは一旦自宅に帰るつもりなのだろう。琴美は早く出てってー!と、布団に隠れながら思う。

 海斗が少し離れたそのタイミングで布団から出ようか迷うが、すぐに戻って来る。下手に動くとばれそうだ。そう思っていると、海斗が洗面所に行ったタイミングで須藤が琴美の耳元で囁いた。

 「海斗が出て行くまでここにいた方がいい。あいつに見つかったらなんて言われるかわかんないでしょ?」

 ……ゾクゾクした。鼓膜に須藤の声が響いて、それが甘く琴美の身体に広がる。琴美は、コクンと頷いて、腰に回された須藤の腕に自らの腕を絡ませた。

 海斗が室内を見回して、琴美を探す。

 「あれ?姉ちゃんどこ行ったんだろ?
 コンビニかな?

 …ま、いっか。すぐに戻ってくんだろ。
 先輩はー」

 そう言って海斗がベッドに近寄り、須藤の顔を覗き込む。

 (やばいやばいやばいー!!)

 「…まだ寝てるか。本当にこの人一旦寝たら起きないなぁ。じゃ、先輩、俺帰りますんで、姉ちゃんに宜しく~。」

 海斗は、家を出て行った。
 暫く室内には沈黙が流れる。

 琴美は、バサッと布団から顔を出し、起き上がった。布団の中で息を殺しているのは、苦しかった。

 「ぷはぁ。」

 須藤がベッドの上で片肘を付き、笑顔で琴美を見る。

 「おはよう、琴美ちゃん。久しぶりだね!」

 琴美は須藤が自分の名前までしっかり覚えていることに驚き、ぎこちなく言葉を交わした。

 「す、須藤さん…お久しぶりです…。」

 須藤は満足そうに微笑んだ。

 「覚えててくれたんだ!嬉しいよ。
 もう俺のことなんて忘れてるかと思ってた。」

 「忘れるなんて…そ、そんな!」

 忘れるどころかあの日の思い出を支えにしてました、なんて言えるはずもなく、琴美は火照った顔を隠すように俯いた。

 「そう?あの日、あんな他人行儀に置き手紙とお金まで置いて行っといて?結構仲良くなったと思ってたのに、あれはショックだったなぁ~。」

 須藤の雰囲気が少し変わったような気がして、琴美は須藤を見つめた。

 「な、なんか…須藤さん、怒ってます?」

 須藤は、嘘くさい笑顔を浮かべた。

 「まさか!琴美ちゃんと再会できて、すごく嬉しい。」

 須藤は、ニヤッと笑うと、琴美の腕をぐいっと引っ張った。

 「わわっ!」

 琴美は、須藤の胸に倒れ込む。須藤は、逃げ出す暇も与えず、琴美を強く抱き締めた。琴美は、何が起こったのか一瞬分からなかった。

 「また、こうやって抱きしめられて…本当に嬉しい。
 探しても見つからないから、もう会えないかとー。

 ……あの日からずっと琴美ちゃんを忘れられなかったんだ。」

 (…須藤さんが私を探してた?な、なんで…。)

 琴美は混乱する頭を整理しようと必死だ。そんな琴美をよそに須藤は抱きしめたまま、琴美の耳や首筋に小さなキスを贈っていく。

 「…っあ。…ん。」

 考えたいのに、須藤の小さなキスが邪魔して、頭が働かない。しかも、くすぐったいような…気持ちいいような気がして、微かな熱にどんどん身体が侵されていく。

 「…はぁ…っ。」

 琴美から漏れる艶めいた吐息に須藤は口角を上げた。

 「まじで…堪んないな。」

 そう言って、須藤は手を琴美の腰に滑らせた。
 そして、昂った下半身を琴美に押し付けた。

 「…ぁ」

 琴美も何が押し付けられたのか分かり、顔を真っ赤にした。

 その時、ドアノブが回る音がして、琴美は慌てて須藤の上から飛び退いた。

 「忘れ物したー!!」

 海斗だった。琴美は、須藤が寝ているベッドの横に直立している。不自然に捲り上がった布団。手を広げたような格好で寝ている須藤。
 海斗はポカンとした後にニヤニヤと笑った。

 「姉ちゃん、先輩のこと襲おうとしてた?」

 琴美の顔がみるみる赤くなる。襲われてたのは、琴美のほうだとはまさか言えず、慌てて否定する。

 「しっ、してないわよ!!馬鹿!!」

 海斗はドアに背中をついて、いやらしい笑みを隠さない。

 「だって、布団が捲れてる。」

 琴美は必死に言い訳を考える。

 「す、スーツが皺になるかと思って取ろうと思っただけよ!」

 「ふーん…。まぁ、いいんじゃない?先輩、今フリーだし。格好良いもんなー!欲求不満の姉ちゃんが襲っちゃうのも仕方ないか。」

 海斗は何を納得したのか、うんうんと首を縦に振っている。

 「だから、違うってば!!」

 琴美が必死に否定したその時、須藤がふわぁと大きな欠伸をして、起き上がった。

 「あれ?海斗?
 …ここどこ?」

 海斗はニカッと笑って、須藤に近付く。

 「先輩、おはようございます!!
 ここは俺の姉ちゃんの家です。先輩呑んで寝ちゃったから、店から近かった姉ちゃん家に泊めてもらったんですよ!」

 須藤は驚いたような素振りをして、ベッドの上に正座をした。

 「海斗のお姉さん、ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした!どうお詫びすればいいか…。」

 心から申し訳なさそうな顔をする。すごい演技力だと、琴美は唖然とする。言葉も出ない琴美の代わりに海斗が答える。

 「先輩、大丈夫っすよ。姉ちゃん、先輩のこと気に入ったみたいだから。今度、食事にでも連れて行ってやってください。最近、失恋して、寂しい独り身なんです。」

 「海斗!!」

 怒鳴る琴美を海斗は楽しそうに見ながら、忘れ物の腕時計を回収して、扉に向かう。

 「じゃ、先輩!俺、仕事なんで。また連絡しますね!ゆっくりして行ってください。

 姉ちゃんもありがとなー!行ってきまーす!」

 そう言って、海斗は帰って行った。
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