Free Hugs〜最後のハグから始まる恋〜

はるみさ

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第三話

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『今日、焼き肉なのですか?』
『エビが食べたいわ』
「巣をきちんとどうにか出来たらね」
 鼻息荒く大きな鼻面を押し寄せてくる。
 私はなんとか押し返す。約束した以上、焼き肉しなければ。ディレックスに行かねば。
 巣の掃討作戦に参加を伝えると、熊の職員さんは丁寧にお礼を言ってきた。私は戦わないけどね。ビアンカとルージュだけどね。
「晃太も来てよ」
「え、嫌や」
「支援魔法使えるやろ? 必要な時に、使ってもらわんと。来るよね?」
 有無を言わせない笑顔を浮かべると、しぶしぶな様子で頷いた。
 一旦席を外した、熊の職員さんが戻って来る。
「ミズサワ様、掃討作戦に参加する冒険者パーティーが一つ決まりました。後、必要数確保できましたら、出発の準備となります」
『人は必要ないのです。ルージュと2人で十分なのです』
『そうね、邪魔ね』
 お二人さん、お二人さん。
「あの、ビアンカとルージュはあまり冒険者の方にご足労頂かなくてもいいと」
 私はオブラートに包んで答える。
「そうですか。頼もしい限りです」
 いらない、というビアンカとルージュだが、巣の掃討後に、ゴブリンは証明として右耳を切り取らなくてはならない。我らには無理だ。それに証人いるしね。
「冒険者パーティーの方とご挨拶した方がいいですよね」
「そうですね。今、受け付けにいますので」
 熊の職員さんとご挨拶に向かう。
「彼らがBランクパーティーの『金の虎』です」
 おおおぉぉぉッ、猫の獣人さんだッ、耳、かわいかあッ。触りたかあッ。でも、よほど親しくないと、確か失礼になるらしい。我慢我慢。3人は猫の獣人さん、2人は人族さんだ。 
「リーダーのファング」
 大きな人だ。獣人の男性で、大きな剣を携えている。髪が立派な金髪だ。強そう。
「斥候のリィマ」
 スレンダーな獣人女性。きりっとして綺麗な人だ。
「タンクのガリスト」
 これまた大きな人。こちらは人族男性。盾を持っている。
「風魔法剣士のアルストリア」
 すらっとした獣人男性。腰に剣。顔に小さなタトゥーしてる。
「ヒーラーのフリンダ」
 最後はローブ姿の人族女性。穏やかそうな人だ。うん、私のイメージのヒーラーさん。
「こちらは、テイマーのユイさん。そして弟のコウタさん」
「よろしくお願いします」
 私達は頭を下げる。私と晃太はまったく戦力外だ。
「噂のテイマーか」
 リーダーのファングさんが、へえ、みたいな感じだ。まあ、当然だよね。もろに、一般人だしね。格好からしても、もへじ生活のシャツとズボンだしね。
「私と弟は戦力外だという自覚はあります。皆さんのお邪魔にならないようにしますので」
「ふーん」
 じろじろ見られる。
 今度は斥候の女性だ。
「いいんじゃない? 自覚あるなら」
 ちょっと鼻で笑うような言い方。
  グルルルルルッ
 唸り声を上げるビアンカとルージュ。
 一斉に下がる金の虎の皆さん。
「ちょっと2人とも、やめてん」
『気に入らないのです。ユイをバカにしたのです』
『ユイは私達のマスターなのよ』
 眉間にシワを寄せ、牙を剥き出し、唸り声を止めない2人。私の為だろうけど、ギルド内の空気が一気に悪くなる。
「止めてって、焼き肉なしにするよ」
『止めるのです』
『焼き肉、焼き肉』
 現金やね。
 牙剥き出しにしたのに、おねだりする時の目ですり寄って来た。この変わりようの激しさ。
「もう。皆さん、すみません。唸らないように言って聞かせますから」
「あ、ああ、こちらも失礼した」
 リーダーのファングさんが上ずった声で答えてくる。
「では、明日朝出発になります。ミズサワ様、ジェネラルがいた場所分かりますか?」
「ビアンカ、分かる?」
『分かるのです。森の中なら、私のフィールドなのです。巣ぐらい分かるのです』
「そうなん? ビアンカが巣の場所分かるそうです」
「そ、そうですか」
 熊の職員さん、びっくりみたいな感じだ。
「どれくらい歩くと? 姉ちゃんの歩行速度で」
 晃太が聞く。
『そうなのですね。朝出れば、昼前には着くのです。おやつ休みを入れてなのです』
 はいはい。おやつね。銀の槌のケーキやディレックスやもへじ生活のお菓子に味をしめたビアンカとルージュ。たまにゴロンとしておねだりしてくる。私の勝率はかなり低い。ほぼ連敗してる。
 帰ったら、買いに走ろう。
 熊の職員さんに説明して、明日の朝、アルブレンの門前で集合することになった。

 ログハウスに戻り、ゴブリンの巣の説明すると、母が反対した。
「なんで優衣と晃太が行かんといかんと?」
「お母さんの言いたいこと分かるけど、ビアンカとルージュが行くのに、主人の私が行かんのはね」
『大丈夫なのです。私とルージュがいるなら、何が来ても守れるのです』
『体調も大分いいし、ゴブリンぐらいで遅れは取ることもないわ』
 ビアンカとルージュは衰弱と栄養失調症か極度状態から、軽度になっている。本人にすれば、妊娠中から、もともとこれくらいだと。
『大丈夫なのです』
『心配ないわ』
 ビアンカとルージュの説得で、母はしぶしぶ納得した。
 それから、ディレックスやもへじ生活に通う。
 お肉や魚、野菜、ウインナー、パンを買う。
 日帰りにしたいが、野宿になった場合の為に食事の準備をした。後念のためにブランケットも準備。まさか冒険者の皆さんや警備兵の皆さんの前でルームは使えないしね。
 と、いうことでシチューを作った。ホワイトシチュー。
 母、父、晃太が焼き肉の準備。多分、帰って来たら焼き肉になる。
 うん、いい感じに玉ねぎ透き通って来た。
『焼き肉なのですか?』
『焼き肉?』
 ビアンカとルージュがルームとダイニングキッチンの境目で、そわそわしてる。
「巣ばちゃんとなんとかしたらね」
 私はシチューの素に鍋の煮詰めている汁を入れてある程度溶かし、牛乳を入れて更に溶かして鍋に投入。シチューの素が固まらないように混ぜる。味見、うん、まずまず。
 鍋一杯に作った。
「あ、おやつもいるね。お母さん、おやつ買って来るね」
「うん、分かった。お肉とエビ、野菜とか足りんけん。それもね」
「分かった。晃太、来てん」
「ん」
 私は小銭入れに金貨をびっしり入れて、晃太と異世界への扉を開けた。
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