超絶転身少女 インフィニティアニキ 特撮ヒーローから魔法少女系νtuberに転職します

心絵マシテ

文字の大きさ
49 / 59

四十八話 アニキ、ブルジョアと駆ける

しおりを挟む
田所さん先導のもとボクたちは山道へと踏み込んだ。
海岸とは道路を挟んで対面に位置する傾斜は、かなり急こう配となっている。
その悪路を楽々と進んでゆく田所さんとチームTMG(田所魔法技術研究所)の面々。
ボクはどうにかついてゆけるものの、田宮さんが少し遅れている。

「大丈夫?」そう聞いても芯の強い彼女は弱音を吐いたりはしない。
助けを必要としない以上は、ボクも相棒を信じて進むしかない。

間もなく始まる決戦をひかえて誰もが緊張している。
少なくともボクの想像では皆、決死の覚悟で戦いに臨んでいるビジョンが浮かんでいた。

「おっ! キノコの群生地じゃん!! おっちゃん、帰りに取っててもいい?」

「近所のオバはんかい! やめとおけよ、愛子君。地主にシバかれんぞ」

「そういいますけど、店長……現時点で不法侵入なのでは?」

「どこの世界に、不法侵入を気にする魔法少女がいるというのかね? そもそも法とは冒す為にあるのだよ」

絶対に違うと思います……。
田所さんの価値観は、普通ではないとよく分かった。
天才と変態は紙一重というが、田所さんの場合はごちゃ混ぜ、一緒くたになっている。
そんな奇抜さの塊みたいな人だからこそ、変身装置やドブデバイスなど開発することができるのだろう。

「キュイちゃん、皆! ここから先は気をつけて進んでくれ。おそらく敵は近くの電波塔を魔改造して、侵入者を察知できるようにしている――――らしい」

らしいって……アンタ。
山の中腹に差し掛かったところで肩に乗せているドブさんが怪電波をキャッチした。

「キャッチ・ザ・ハート……シンフォニーベイク」

対策としてシンフォニーが持つ能力、によりボクたちの存在を曖昧あいまいにする。
いくら電波でくまなく探そうとも、ウエザリングでコーティングされたボクらを見つけるのは容易ではない。

バチィ――――ン!! 
正面から、金具が弾け飛んだような音がした。

「て、敵襲か!?」

「見て、アッチに人影が見える!」

思わず身を屈め辺りを見回す。田宮さんが指さす方角に、こちらを覗いている紅い覆面がチラチラと見え隠れしていた。

「何者だぁ!? ことと次第によっては容赦しないぞ!」

「待て待て――――!! ワタシは怪しいものではない! 通りすがりの戦隊ヒーローだ!」

アイカちゃんの罵声におののきながら、姿の見せたのは全身真っ赤なバトルスーツを装着した戦隊レッドだった。
本人は怪しくないと豪語するが、周りの目は彼を不審者だと認識していた。
そもそも動物を捕獲する虎バサミをうっかり踏んでしまうオチョコチョイに戦隊ヒーローが務まるとは思えない。

「それで、そのヒーローさんが何用で? ここにいるんですか?」

レネ子さんの鋭い質問に自称レッドが無言になった――――かと思いきや。

「ちょっと、リテイクしてもいいかな? 罠に捕獲された登場の仕方じゃヒーローとして恰好がつかないからね!」

「そこ? そこ、こだわるモノなの!? あの人、絶対に怪しい人よ」

「う―――ん、そっだね……」

田宮さんが愕然とするほどレッドはトチ狂っていた。
人の話を聞かない、質問には答えない。マイペースすぎるのも考えモノだ。

「チャチャチャ―――アチャ、チャチャチャ―――アチャ、チャラチャチャラチャ! ズダダダダ――――ン!!」

「何か……口ずさんでいる気持ち悪い」

「えーと、テーマソング的なものだよ……シンフォニー」

「というか……私のウエザリングが効いていないみたい。あの人、本物かもしれない」

確かにそうだ……ボクたちは今、シンフォニーの能力で不可視化している。
にもかかわらず、レッドは難なくコチラに気づいた。
やはり、油断できない人物だ。
少なくとも彼の目的が明確となるまで気を許してはならない。

「赤い星は梅干しか―――い。空彼方で見失う希望と明日っぁぁあ~。何が必要? アレが徳用! 感謝しろぉぉぉ―――!!」

「ヤバっ……アイツ、歌いだしたぞ」

「すんごい、わびしい歌詞を熱唱しているね……ハハハッ」

もはや、苦笑いするしかない。
あのアイカちゃんまでも、ドン引きしすぎて絶句している。

「うむ。付き合っていられん」

「そうだね。吾輩もああいう輩には関わらない方が良いと思うよ」

ついに、ドブさんや田所さんですら相手にしないと言い出す始末だ。
ボクたちは急ぎ、その場から離れることにした。

「誰が呼んだ!? 誰か呼んだ!?」

「しつけぇぇぇぇ―――!! なんか、後からついて来ています!」

「キュイ君、エルナ君、速度を上げるから変身してついてきたまえ!」

「はい! ピュアセ――――」

蜘蛛ごとき動きで目の前にレッドが飛び出してきた。
四肢を広げて地を這う姿は、どう見てもヒーローらしさの欠片もない。
ボクと田宮さんは変身する間もなく奴に捕まってしまった。

「アイ アイム ブルジョアレッドォ――――」

ウィスパーボイスが気持ち悪さを引き立てていた。
何がしたいのか、よく分からないけど……そんな自己紹介をされても傍迷惑だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...