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四十八話 アニキ、ブルジョアと駆ける
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田所さん先導のもとボクたちは山道へと踏み込んだ。
海岸とは道路を挟んで対面に位置する傾斜は、かなり急こう配となっている。
その悪路を楽々と進んでゆく田所さんとチームTMG(田所魔法技術研究所)の面々。
ボクはどうにかついてゆけるものの、田宮さんが少し遅れている。
「大丈夫?」そう聞いても芯の強い彼女は弱音を吐いたりはしない。
助けを必要としない以上は、ボクも相棒を信じて進むしかない。
間もなく始まる決戦をひかえて誰もが緊張している。
少なくともボクの想像では皆、決死の覚悟で戦いに臨んでいるビジョンが浮かんでいた。
「おっ! キノコの群生地じゃん!! おっちゃん、帰りに取っててもいい?」
「近所のオバはんかい! やめとおけよ、愛子君。地主にシバかれんぞ」
「そういいますけど、店長……現時点で不法侵入なのでは?」
「どこの世界に、不法侵入を気にする魔法少女がいるというのかね? そもそも法とは冒す為にあるのだよ」
絶対に違うと思います……。
田所さんの価値観は、普通ではないとよく分かった。
天才と変態は紙一重というが、田所さんの場合はごちゃ混ぜ、一緒くたになっている。
そんな奇抜さの塊みたいな人だからこそ、変身装置やドブデバイスなど開発することができるのだろう。
「キュイちゃん、皆! ここから先は気をつけて進んでくれ。おそらく敵は近くの電波塔を魔改造して、侵入者を察知できるようにしている――――らしい」
らしいって……アンタ。
山の中腹に差し掛かったところで肩に乗せているドブさんが怪電波をキャッチした。
「キャッチ・ザ・ハート……シンフォニーベイク」
対策としてシンフォニーが持つ能力、ウェザリングによりボクたちの存在を曖昧にする。
いくら電波でくまなく探そうとも、ウエザリングでコーティングされたボクらを見つけるのは容易ではない。
バチィ――――ン!!
正面から、金具が弾け飛んだような音がした。
「て、敵襲か!?」
「見て、アッチに人影が見える!」
思わず身を屈め辺りを見回す。田宮さんが指さす方角に、こちらを覗いている紅い覆面がチラチラと見え隠れしていた。
「何者だぁ!? ことと次第によっては容赦しないぞ!」
「待て待て――――!! ワタシは怪しいものではない! 通りすがりの戦隊ヒーローだ!」
アイカちゃんの罵声におののきながら、姿の見せたのは全身真っ赤なバトルスーツを装着した戦隊レッドだった。
本人は怪しくないと豪語するが、周りの目は彼を不審者だと認識していた。
そもそも動物を捕獲する虎バサミをうっかり踏んでしまうオチョコチョイに戦隊ヒーローが務まるとは思えない。
「それで、そのヒーローさんが何用で? ここにいるんですか?」
レネ子さんの鋭い質問に自称レッドが無言になった――――かと思いきや。
「ちょっと、リテイクしてもいいかな? 罠に捕獲された登場の仕方じゃヒーローとして恰好がつかないからね!」
「そこ? そこ、こだわるモノなの!? あの人、絶対に怪しい人よ」
「う―――ん、そっだね……」
田宮さんが愕然とするほどレッドはトチ狂っていた。
人の話を聞かない、質問には答えない。マイペースすぎるのも考えモノだ。
「チャチャチャ―――アチャ、チャチャチャ―――アチャ、チャラチャチャラチャ! ズダダダダ――――ン!!」
「何か……口ずさんでいる気持ち悪い」
「えーと、テーマソング的なものだよ……シンフォニー」
「というか……私のウエザリングが効いていないみたい。あの人、本物かもしれない」
確かにそうだ……ボクたちは今、シンフォニーの能力で不可視化している。
にもかかわらず、レッドは難なくコチラに気づいた。
やはり、油断できない人物だ。
少なくとも彼の目的が明確となるまで気を許してはならない。
「赤い星は梅干しか―――い。空彼方で見失う希望と明日っぁぁあ~。何が必要? アレが徳用! 感謝しろぉぉぉ―――!!」
「ヤバっ……アイツ、歌いだしたぞ」
「すんごい、わびしい歌詞を熱唱しているね……ハハハッ」
もはや、苦笑いするしかない。
あのアイカちゃんまでも、ドン引きしすぎて絶句している。
「うむ。付き合っていられん」
「そうだね。吾輩もああいう輩には関わらない方が良いと思うよ」
ついに、ドブさんや田所さんですら相手にしないと言い出す始末だ。
ボクたちは急ぎ、その場から離れることにした。
「誰が呼んだ!? 誰か呼んだ!?」
「しつけぇぇぇぇ―――!! なんか、後からついて来ています!」
「キュイ君、エルナ君、速度を上げるから変身してついてきたまえ!」
「はい! ピュアセ――――」
蜘蛛ごとき動きで目の前にレッドが飛び出してきた。
四肢を広げて地を這う姿は、どう見てもヒーローらしさの欠片もない。
ボクと田宮さんは変身する間もなく奴に捕まってしまった。
「アイ アイム ブルジョアレッドォ――――」
ウィスパーボイスが気持ち悪さを引き立てていた。
何がしたいのか、よく分からないけど……そんな自己紹介をされても傍迷惑だ。
海岸とは道路を挟んで対面に位置する傾斜は、かなり急こう配となっている。
その悪路を楽々と進んでゆく田所さんとチームTMG(田所魔法技術研究所)の面々。
ボクはどうにかついてゆけるものの、田宮さんが少し遅れている。
「大丈夫?」そう聞いても芯の強い彼女は弱音を吐いたりはしない。
助けを必要としない以上は、ボクも相棒を信じて進むしかない。
間もなく始まる決戦をひかえて誰もが緊張している。
少なくともボクの想像では皆、決死の覚悟で戦いに臨んでいるビジョンが浮かんでいた。
「おっ! キノコの群生地じゃん!! おっちゃん、帰りに取っててもいい?」
「近所のオバはんかい! やめとおけよ、愛子君。地主にシバかれんぞ」
「そういいますけど、店長……現時点で不法侵入なのでは?」
「どこの世界に、不法侵入を気にする魔法少女がいるというのかね? そもそも法とは冒す為にあるのだよ」
絶対に違うと思います……。
田所さんの価値観は、普通ではないとよく分かった。
天才と変態は紙一重というが、田所さんの場合はごちゃ混ぜ、一緒くたになっている。
そんな奇抜さの塊みたいな人だからこそ、変身装置やドブデバイスなど開発することができるのだろう。
「キュイちゃん、皆! ここから先は気をつけて進んでくれ。おそらく敵は近くの電波塔を魔改造して、侵入者を察知できるようにしている――――らしい」
らしいって……アンタ。
山の中腹に差し掛かったところで肩に乗せているドブさんが怪電波をキャッチした。
「キャッチ・ザ・ハート……シンフォニーベイク」
対策としてシンフォニーが持つ能力、ウェザリングによりボクたちの存在を曖昧にする。
いくら電波でくまなく探そうとも、ウエザリングでコーティングされたボクらを見つけるのは容易ではない。
バチィ――――ン!!
正面から、金具が弾け飛んだような音がした。
「て、敵襲か!?」
「見て、アッチに人影が見える!」
思わず身を屈め辺りを見回す。田宮さんが指さす方角に、こちらを覗いている紅い覆面がチラチラと見え隠れしていた。
「何者だぁ!? ことと次第によっては容赦しないぞ!」
「待て待て――――!! ワタシは怪しいものではない! 通りすがりの戦隊ヒーローだ!」
アイカちゃんの罵声におののきながら、姿の見せたのは全身真っ赤なバトルスーツを装着した戦隊レッドだった。
本人は怪しくないと豪語するが、周りの目は彼を不審者だと認識していた。
そもそも動物を捕獲する虎バサミをうっかり踏んでしまうオチョコチョイに戦隊ヒーローが務まるとは思えない。
「それで、そのヒーローさんが何用で? ここにいるんですか?」
レネ子さんの鋭い質問に自称レッドが無言になった――――かと思いきや。
「ちょっと、リテイクしてもいいかな? 罠に捕獲された登場の仕方じゃヒーローとして恰好がつかないからね!」
「そこ? そこ、こだわるモノなの!? あの人、絶対に怪しい人よ」
「う―――ん、そっだね……」
田宮さんが愕然とするほどレッドはトチ狂っていた。
人の話を聞かない、質問には答えない。マイペースすぎるのも考えモノだ。
「チャチャチャ―――アチャ、チャチャチャ―――アチャ、チャラチャチャラチャ! ズダダダダ――――ン!!」
「何か……口ずさんでいる気持ち悪い」
「えーと、テーマソング的なものだよ……シンフォニー」
「というか……私のウエザリングが効いていないみたい。あの人、本物かもしれない」
確かにそうだ……ボクたちは今、シンフォニーの能力で不可視化している。
にもかかわらず、レッドは難なくコチラに気づいた。
やはり、油断できない人物だ。
少なくとも彼の目的が明確となるまで気を許してはならない。
「赤い星は梅干しか―――い。空彼方で見失う希望と明日っぁぁあ~。何が必要? アレが徳用! 感謝しろぉぉぉ―――!!」
「ヤバっ……アイツ、歌いだしたぞ」
「すんごい、わびしい歌詞を熱唱しているね……ハハハッ」
もはや、苦笑いするしかない。
あのアイカちゃんまでも、ドン引きしすぎて絶句している。
「うむ。付き合っていられん」
「そうだね。吾輩もああいう輩には関わらない方が良いと思うよ」
ついに、ドブさんや田所さんですら相手にしないと言い出す始末だ。
ボクたちは急ぎ、その場から離れることにした。
「誰が呼んだ!? 誰か呼んだ!?」
「しつけぇぇぇぇ―――!! なんか、後からついて来ています!」
「キュイ君、エルナ君、速度を上げるから変身してついてきたまえ!」
「はい! ピュアセ――――」
蜘蛛ごとき動きで目の前にレッドが飛び出してきた。
四肢を広げて地を這う姿は、どう見てもヒーローらしさの欠片もない。
ボクと田宮さんは変身する間もなく奴に捕まってしまった。
「アイ アイム ブルジョアレッドォ――――」
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何がしたいのか、よく分からないけど……そんな自己紹介をされても傍迷惑だ。
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