異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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二百九十話

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 直球すぎるギデオンのやり方に、その場にいた全員が放心状態となっていた。
 混乱しているのなら、一撃喰らわせれば正気に戻る。
 そんな、原始的な発想を誰一人として抱かず、また実行する者などいないと決めつけていた。

 有言実行ではなく……実行有事とでも言うのだろうか? 宣言するよりも先に事を済ませているのだから誰にも止められない。
 一歩、間違えれば余計にひっ迫した事態になりかねないのに、どういうわけか?
 ギデオンが事を起こすと、ぴったり合致する。
 後世では、先見の明があったとわれるギデオンだが、大半はその場しのぎである。

 今回もまた、彼の突発的な閃きが大きな変化をもたらした。
 赤子となったマナシが泣き止み、暴れるのを止めた。
 倒れたままのヒイキの傍に移動すると、臍帯さいたい(へその緒)部分がモゾモゾと動き出し中から、肉筋の鎧をまとったマナシが頭から下腹部にかけて姿をあらわにした。

「よくぞ、ここまで耐えた。今日ほど、お前を誇りに思ったことはないぞ、せがれよ」

 マナシの発言により、南北の合同軍に衝撃が走る。
 これで、和睦交渉の芽は断たれた。
 身内がやられて大人しくできるマナシではない。
 すぐに犯人を見つけ出そうと躍起になっていた。

「誰だ……? ヒイキを討ち負かしたのは……名乗りをあげろ」

「僕だ。自軍の兵を引き下げるのを条件に、僕らは一騎打ちをした。その結果、ヒイキが敗北した」

 隠すこともなく、ギデオンは堂々と名乗り上げた。
 それは、ヒイキという戦士への敬意のあらわれでもあり、マナシに向けた挑発行為でもあった。

「ヒイキは強かったか?」

「全然……けど手強い相手だった」

「そうか。ならば、一軍の将に取り立てたジブンの判断は間違ってはいなかったということだな」

 瞳を閉じ、余韻に浸る西の守護代。
 思うところがあるようだが、ギデオンたちには関係のない話だ。
 ギデオン軍、パスバイン軍ともに探し求めた敵将への敵意を前面に押し出している。

「うつけ共が……このスーシオンたる混沌フントゥンのマナシに、適うと思うなよ」

 静かなる怒りが矛を向けた。
 赤子の背中から翼の生えた時計文字盤が出現するとカチカチと音を立てながら長針と短針が進んでゆく。

「気をつけてください。マナシが何かを仕掛けてくるつもりです」
 後方からパスバインの忠告が聞こえてくる。

「嫌な、音だ」ギデオンからしても、マナシが厄介な相手だというのは、すでに気づいている。
 見えざる衝撃波や超再生能力にくわえ、銃撃無効。さらに、未だその本領を発揮していない。

「このムーンフェイズにより、絶望と狂気の渦へと誘ってやろう」

 時計の針がグルグルと目まぐるしく回転してゆく。
 やがて、文字盤中央に月の絵柄が浮かんだ。
 それが意味するところは不安……理由なき恐れがマナシから橋の上にいる者たちへと伝播でんぱしていった。

「うわわわあああああ―――!!! 誰だ!? 俺の中で、叫ぶのは!?」

 どこからともなく、雄叫びが響いた。
 それを皮切りに、撤退していたはずのヒイキ軍が剣璽橋けんじきょうの中央に引き返してきた。
 ほどなくして、ギデオンたちの軍にも異常が発生し辺りは騒然となった。

「どういう事だ!? 急に兵士たちが争い始めたぞ」

「分かりません……ですが、これは何らかの催眠状態に掛かっているのかもしれません……くっ」

「おい! しっかりしろ! パスバインとか言ったな。アンタがしっかりしなければ、この部隊は壊滅するぞ!! エイル、状況解析を頼む!」

『了解です。マナシ及び、周辺の変化を検出……お答えします。現在、この剣璽橋一帯に強力なマイクロ波が発生しております。兵士たちの混乱はそれが起因しているのだと思われます』

「マイクロ? なんだ、それは?」

『人間の脳はマイクロ波など電磁波放射を受けると、頭痛や眩暈などの症状を引き起こし、場合によっては記憶障害や脳神経に深刻なダメージを受けます。マナシから発せられるモノは非常に特殊なもので人の感情に作用します』

「また、電磁波か……子が子なら親も同じというわけか」

 エイルが事細かに説明してくれるも、あまりにも現実味がない話にギデオンの目が思わず点となった。
 内容はともかく、何を言おうしているのかは辛うじて理解できる。
 要約すれば、マナシが人の頭の中を勝手にいじくり回しているということだ。
 問題は原因よりも、それを喰い止める方法だ。
 なにかしら策を展開しなければ全滅必死だ。

「このまま、共倒れになるなんて冗談じゃない。エイル、奴をこの場から引き離せば混乱は収まるよな?」
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