異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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二百四十二話

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 竜生九子りゅうせいきゅうし、ホロウのごとく吼えながら兵士をなぎ倒すアビィ。
 手にした巻物を鞭のように細長くし敵を振り払ってゆく。
 敵との間合い確実に取り、誰一人として近づけさせない。

 自ら仕掛けた戦は、いつしか防戦一方になっていた。
 戦火を拡大させたくないギデオンの一手が、思わぬカタチで苦戦を引き寄せていた。

「それも、また戦乱というもの……」

 アビィはギデオンの行動に対して憤慨することなく、むしろ当然の在り様だと受け止めていた。
 自分の都合よく、彼を利用しようとした。
 本心では望まなくとも、そうせざるを得なかった。
 そう言い訳をしながら、父親の敵討ちを代行させてしまった。
 払拭しきれない罪悪感が、彼女の心をむしばんでゆく。

 だからこそ、己のやり方を貫こうするギデオンに少しだけ救われたような気がしてならない。
 このまま脇目も振らずに突き進んでいたら、間違いなく惨劇を生み出してしまうところだった。

 武を振りかざす度に溜まっていた鬱憤うっぷんが解消されてゆく。
 怒りが静まるにつれて、それまで曇っていた視野が明瞭なってきた。
 そのあとに残るのは、何とも表し難い虚無感のみ……。

「ワタシは何をしたかったんだろうな。散った命はもう戻らないというのに……」
 一瞬、アビィの動きが鈍くなった。
 ナンダの私兵たちは、その僅かな迷いを見逃すほど甘くはない。

「もらったわ! 霊幻のアビィ、覚悟!!」
 すぐさま、長槍を持った兵士が飛び掛かってくる。頭上に煌めく刃が振り落とされようとしていた。

「ぎゃっああああ!!」次の瞬間、アビィの前で兵士が絶叫をあげた。
 その身体は弓なり曲がり、手足があらぬ方向を向いていた……。
 猛スピードをあげた黒色の鉄塊が、閑泉軍の中に飛び込み兵士たちを轢過れきかし蹂躙している。
 質量、重量からして弾き飛ばされたら生身の人間など一溜まりもない。
 球体というシンプルな見た目とは裏腹に、クロオリは恐ろしい凶器と化していた。

 クロオリを内部で操縦しているエイルは慈悲という感情を知らない。
 ただ、敵対行動を取る者を駆除する。それだけがメモリーにインプットされていた。

「むむっ……あの二人をこのままにして置くと、ちぃとマズイか。いざこざレベルでは済まなくなるぞ」

 状況を見極めんとす将は、ギデオン側にもいた。
 これまで相手を挑発し、この盤面を築き上げた張本人、ロッティがいよいよ動き出す。
 革のマントの中をゴソゴソと漁り取り出したのは、紐が飛び出ている円筒状の物体、数本だった。
 カタチからしてどう見ても爆薬の類だ。

 ロッティはその場で屈みこみ、紐の部分をブーツで踏みつけると勢いよく筒を引っ張った。
 紐が取れるのと同時に開いた穴から白煙が立ち込めてくる。
 走りながら前線にいる兵士たちに向けてソレらを一斉に投げ込む。
 白煙はさらに激しく噴射し、兵士たちを視界を奪ってゆく。

「なっ! どういう事だ? 前が見えない。目が、目がしみるぅ――!!」

 立ち込める煙の中、閑泉軍から苦痛の声が飛び出していた。
 混乱に乗じて防毒マスクを装着したロッティが奔走する。

「エイル、撤退するぞ! ここに我々がいてはギデのジャマになるだけだ!」

『理解しかねます。ギデが勝利する為には、害敵はすべて排除するべきです』

「んな、ことワスが知るか! ここでの大規模戦闘を避けたいのが奴の意向だ。ギデに嫌われたくないのなら、さっさとワスとアビィをつれて戦線離脱するのだ」

『………………了承しました。クロオリに乗って下さい』

 マスターの意向は絶対。
 オートマタであるエイルにとって、それが最優先事項だった。
 クロオリの両端が可動し足場が出てきた。
 ロッティが飛び乗るのと同時にアビィのもとへと急行する。

「アビィ!! もう、充分に暴れたろう。これ以上は消耗戦になるだけぞ!」

「ロッチさん? ワタシに下がれと?」

「そうだ。貴女の目的は何ぞ? ナンダを打ち倒すことだけだろう! あとはギデに託すのだ」

「はぁ……正論だね。ロッチさんの言う通りにするよ」

 このままでは、禍根を残しかねない。
 そのことに納得がいかないアビィではあったが、自身が撒いた種の重さが分からないほど愚かではない。
 渋々と承諾し矛を収めた。

「ナンダぁぁああ!! これからワタシたちは閑泉を出る。それが、どういうことを意味をするのか分からないアンタではないだろう!? 」

「あの小娘め、ワシを脅す気か? 不味いな、西門にはレプラゼーラがいる……大元の軍勢と合流されたら軍が半壊させられてしまう。者ども!! 奴らを追えぇぇぇい! 一人たちとも逃がすな」  

 怒声を上げるナンダだが、指揮の下がった兵士たちの反応は希薄だった。
 霊幻の導士にオートマタというデタラメな戦力に、戦意喪失した者は少なくなかった。
 部下の不甲斐なさに北の守護代は牙を噛みしめていた。
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