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二百三十八話
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閑泉の兵士たちを指揮していたのは背丈、六尺(およそ180cm)ほどの肉づきの良い男だった。
見た目からして齢、四十半ばほど。
骨太な印象をうけるも、身だしなみにムラがない。
男を見つけるなり「ナンダ……」とアビィがその名を呟く。
「これが北の守護代なのか……イメージとはだいぶ異なるぞ」
ギデオンが話を聞く限り、ナンダとは狡猾で卑怯な自分の手を汚さない輩。
もっと、シュッとした顔立ちに細長い手足をした貧弱な人物像を思い描いていた。
勝手な決めつけでしかなかったのだが、実物はそれと真逆。
気持ち悪くなるぐらいの爽やさを周りに撒き散らしている。
アスリートタイプの外見のせいで、皆、本気でナンダが知略の長けた将だと忘れているフシがある。
あまりにもギャップがありすぎて、人間違いではないかと疑ってしまう。
真偽のほどは別として、今はナンダに関する情報を一度リセットするしかない。
「貴様ら、何者だ? あの糞ジジイの知り合いか?」
「だとしたら、何だ?」
「即刻、捕らえて処刑だ。ジジイめ……強烈に臭い煙を屋敷の前に充満させおって。何事かと外に出てみれば、騒ぎに乗じて、さらに使役した魔獣でダークフレイムを放ちやがった!」
歯ぎしりするほど、ナンダの心は怒り狂ってしまっていた。
「挑発してくれ」とロッティには頼んでおいたが、何をどうすれば、ここまで敵に恨みをかうのか?
方法を訊き出すのも、酷く躊躇われる。
「ナンダ……とうとう……やっと、ワタシのまえに姿を現したな」
恨みといえば、こちらも穏やかでない。
アビィが腰のベルトにぶら下げていた短刀を引き抜きだした。
話をするのでもなく、相手を真っ先に仕留めようしている。
その行動は、完全に常軌を逸していた。
「よせ! 冷静になるんだ、アビィ!!」寸前のところでギデオンが彼女の手首掴み、引き留めた。
「放せ、放してくれぇぇぇ!! コイツは……コイツだけは生かしておけない! ワタシの手で裁かないと……」
「ふむ、思い出した。誰かと思えば、モンドの娘か……」
取り乱すアビィを興味深く眺めつつもナンダは鼻で笑い飛ばす。
自身の命を狙っている相手を前に随分な余裕を見せている。
「例え誰であろうとも、国家に仇なす逆賊は討ち取らねばなるまい」
「自分にとって不都合な奴は全員、逆賊扱いかよ……なら、逆賊はオマエの方だ! 父さん……北地域の守護であつた父を裏切り殺めた、造反者め覚悟しろ!!」
「ふん、導士といっても所詮は小娘か。私怨のみでワシを討てるなどと思おたか、実に浅はかである!」
ナンダの全身から異質な気の流れを感じた。
地肌がひりつくような空気が流れる気配。
この感覚は、ギデオンも何度か経験している。
間違いなく、危機的状況が迫っていると直感が働きかけている。
「アビィ、アンタの練功は奴には通じないんだろ? なら、下がっていてくれ……この男は、僕がサシで戦う」
「笑えん冗談だなぁ。小僧、霊幻ならともかく弟子の貴様に何ができる?」
「弟子でも冗談でもない。お前は、ここで僕に狩り取られる運命にある」
「死合か……いいだろう! 大口、叩いたことを覚悟せい!」
異質な気がどんどん膨れ上がっている。
その中心には、やはりナンダがいた。両目を閉じ両手を地に向けたまま動かずにいる。
「気をつけて、奴はチオンチになろうとしている」
「チオンチって………よもや、これはオーソライズキャリバー!?」
アビィから忠告を受け、異様な感覚の正体に色がつき始めた。
オーソライズキャリバー、今まで散々とギデオンを苦しめてきた悪意の邪法。
人間の負の感情から武器化する魔物を産み落とす呪い。
北の守護代から湧き出ているプラーナは、それらと酷似している。
依然、シオン賢者との繋がりは見えてこないが、油断は禁物だ。
「うぎっぎいぎぎい!」
額に血管を浮き上がらせながら、白目を向いたナンダの肉体が変貌してゆく。
二本の角が生え、背中から鳥の翼が広がる。
口元が大きく裂けて獣のように伸びている。
そして、全身を包む純白の闘気によりチオンチの肉体が形成される。
光の属性を持つ闘気、発光しながらも闘気はナンダを守る毛皮となった。
「小僧、心して聞くが良い! ワシは窮奇のナンダ。四凶の一角を担う。どういう意図で襲撃を企てたのか知らんが、ワシに立てつくことはこの国の均衡を崩そうしているのも同義だ。すべてを敵に回す覚悟があるのならば、貴様の研ぎ澄ました刃を突き立ててみよ!!」
チオンチの声は、もはや人間のものでもナンダのものでもない。
男女と子供が一斉に発声しているかのように混じり合う悪魔の響きだった。
見た目からして齢、四十半ばほど。
骨太な印象をうけるも、身だしなみにムラがない。
男を見つけるなり「ナンダ……」とアビィがその名を呟く。
「これが北の守護代なのか……イメージとはだいぶ異なるぞ」
ギデオンが話を聞く限り、ナンダとは狡猾で卑怯な自分の手を汚さない輩。
もっと、シュッとした顔立ちに細長い手足をした貧弱な人物像を思い描いていた。
勝手な決めつけでしかなかったのだが、実物はそれと真逆。
気持ち悪くなるぐらいの爽やさを周りに撒き散らしている。
アスリートタイプの外見のせいで、皆、本気でナンダが知略の長けた将だと忘れているフシがある。
あまりにもギャップがありすぎて、人間違いではないかと疑ってしまう。
真偽のほどは別として、今はナンダに関する情報を一度リセットするしかない。
「貴様ら、何者だ? あの糞ジジイの知り合いか?」
「だとしたら、何だ?」
「即刻、捕らえて処刑だ。ジジイめ……強烈に臭い煙を屋敷の前に充満させおって。何事かと外に出てみれば、騒ぎに乗じて、さらに使役した魔獣でダークフレイムを放ちやがった!」
歯ぎしりするほど、ナンダの心は怒り狂ってしまっていた。
「挑発してくれ」とロッティには頼んでおいたが、何をどうすれば、ここまで敵に恨みをかうのか?
方法を訊き出すのも、酷く躊躇われる。
「ナンダ……とうとう……やっと、ワタシのまえに姿を現したな」
恨みといえば、こちらも穏やかでない。
アビィが腰のベルトにぶら下げていた短刀を引き抜きだした。
話をするのでもなく、相手を真っ先に仕留めようしている。
その行動は、完全に常軌を逸していた。
「よせ! 冷静になるんだ、アビィ!!」寸前のところでギデオンが彼女の手首掴み、引き留めた。
「放せ、放してくれぇぇぇ!! コイツは……コイツだけは生かしておけない! ワタシの手で裁かないと……」
「ふむ、思い出した。誰かと思えば、モンドの娘か……」
取り乱すアビィを興味深く眺めつつもナンダは鼻で笑い飛ばす。
自身の命を狙っている相手を前に随分な余裕を見せている。
「例え誰であろうとも、国家に仇なす逆賊は討ち取らねばなるまい」
「自分にとって不都合な奴は全員、逆賊扱いかよ……なら、逆賊はオマエの方だ! 父さん……北地域の守護であつた父を裏切り殺めた、造反者め覚悟しろ!!」
「ふん、導士といっても所詮は小娘か。私怨のみでワシを討てるなどと思おたか、実に浅はかである!」
ナンダの全身から異質な気の流れを感じた。
地肌がひりつくような空気が流れる気配。
この感覚は、ギデオンも何度か経験している。
間違いなく、危機的状況が迫っていると直感が働きかけている。
「アビィ、アンタの練功は奴には通じないんだろ? なら、下がっていてくれ……この男は、僕がサシで戦う」
「笑えん冗談だなぁ。小僧、霊幻ならともかく弟子の貴様に何ができる?」
「弟子でも冗談でもない。お前は、ここで僕に狩り取られる運命にある」
「死合か……いいだろう! 大口、叩いたことを覚悟せい!」
異質な気がどんどん膨れ上がっている。
その中心には、やはりナンダがいた。両目を閉じ両手を地に向けたまま動かずにいる。
「気をつけて、奴はチオンチになろうとしている」
「チオンチって………よもや、これはオーソライズキャリバー!?」
アビィから忠告を受け、異様な感覚の正体に色がつき始めた。
オーソライズキャリバー、今まで散々とギデオンを苦しめてきた悪意の邪法。
人間の負の感情から武器化する魔物を産み落とす呪い。
北の守護代から湧き出ているプラーナは、それらと酷似している。
依然、シオン賢者との繋がりは見えてこないが、油断は禁物だ。
「うぎっぎいぎぎい!」
額に血管を浮き上がらせながら、白目を向いたナンダの肉体が変貌してゆく。
二本の角が生え、背中から鳥の翼が広がる。
口元が大きく裂けて獣のように伸びている。
そして、全身を包む純白の闘気によりチオンチの肉体が形成される。
光の属性を持つ闘気、発光しながらも闘気はナンダを守る毛皮となった。
「小僧、心して聞くが良い! ワシは窮奇のナンダ。四凶の一角を担う。どういう意図で襲撃を企てたのか知らんが、ワシに立てつくことはこの国の均衡を崩そうしているのも同義だ。すべてを敵に回す覚悟があるのならば、貴様の研ぎ澄ました刃を突き立ててみよ!!」
チオンチの声は、もはや人間のものでもナンダのものでもない。
男女と子供が一斉に発声しているかのように混じり合う悪魔の響きだった。
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