異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

文字の大きさ
238 / 549

二百三十八話

しおりを挟む
 閑泉の兵士たちを指揮していたのは背丈、六尺(およそ180cm)ほどの肉づきの良い男だった。
 見た目からして齢、四十半ばほど。
 骨太な印象をうけるも、身だしなみにムラがない。
 男を見つけるなり「ナンダ……」とアビィがその名を呟く。

「これが北の守護代なのか……イメージとはだいぶ異なるぞ」

 ギデオンが話を聞く限り、ナンダとは狡猾で卑怯な自分の手を汚さない輩。
 もっと、シュッとした顔立ちに細長い手足をした貧弱な人物像を思い描いていた。
 勝手な決めつけでしかなかったのだが、実物はそれと真逆。
 気持ち悪くなるぐらいの爽やさを周りに撒き散らしている。

 アスリートタイプの外見のせいで、皆、本気でナンダが知略の長けた将だと忘れているフシがある。
 あまりにもギャップがありすぎて、人間違いではないかと疑ってしまう。
 真偽のほどは別として、今はナンダに関する情報を一度リセットするしかない。

「貴様ら、何者だ? あの糞ジジイの知り合いか?」

「だとしたら、何だ?」

「即刻、捕らえて処刑だ。ジジイめ……強烈に臭い煙を屋敷の前に充満させおって。何事かと外に出てみれば、騒ぎに乗じて、さらに使役した魔獣でダークフレイムを放ちやがった!」

 歯ぎしりするほど、ナンダの心は怒り狂ってしまっていた。
「挑発してくれ」とロッティには頼んでおいたが、何をどうすれば、ここまで敵に恨みをかうのか?
 方法を訊き出すのも、酷く躊躇ためらわれる。

「ナンダ……とうとう……やっと、ワタシのまえに姿を現したな」

 恨みといえば、こちらも穏やかでない。
 アビィが腰のベルトにぶら下げていた短刀を引き抜きだした。
 話をするのでもなく、相手を真っ先に仕留めようしている。
 その行動は、完全に常軌を逸していた。

「よせ! 冷静になるんだ、アビィ!!」寸前のところでギデオンが彼女の手首掴み、引き留めた。

「放せ、放してくれぇぇぇ!! コイツは……コイツだけは生かしておけない! ワタシの手で裁かないと……」

「ふむ、思い出した。誰かと思えば、モンドの娘か……」

 取り乱すアビィを興味深く眺めつつもナンダは鼻で笑い飛ばす。
 自身の命を狙っている相手を前に随分な余裕を見せている。

「例え誰であろうとも、国家に仇なす逆賊は討ち取らねばなるまい」

「自分にとって不都合な奴は全員、逆賊扱いかよ……なら、逆賊はオマエの方だ! 父さん……北地域の守護であつた父を裏切り殺めた、造反者め覚悟しろ!!」

「ふん、導士といっても所詮は小娘か。私怨のみでワシを討てるなどと思おたか、実に浅はかである!」

 ナンダの全身から異質な気の流れを感じた。
 地肌がひりつくような空気が流れる気配。
 この感覚は、ギデオンも何度か経験している。
 間違いなく、危機的状況が迫っていると直感が働きかけている。

「アビィ、アンタの練功は奴には通じないんだろ? なら、下がっていてくれ……この男は、僕がサシで戦う」

「笑えん冗談だなぁ。小僧、霊幻ならともかく弟子の貴様に何ができる?」

「弟子でも冗談でもない。お前は、ここで僕に狩り取られる運命にある」

「死合か……いいだろう! 大口、叩いたことを覚悟せい!」

 異質な気がどんどん膨れ上がっている。
 その中心には、やはりナンダがいた。両目を閉じ両手を地に向けたまま動かずにいる。

「気をつけて、奴はチオンチになろうとしている」

「チオンチって………よもや、これはオーソライズキャリバー!?」

 アビィから忠告を受け、異様な感覚の正体に色がつき始めた。
 オーソライズキャリバー、今まで散々とギデオンを苦しめてきた悪意の邪法。
 人間の負の感情から武器化する魔物を産み落とす呪い。
 北の守護代から湧き出ているプラーナは、それらと酷似している。
 依然、シオン賢者との繋がりは見えてこないが、油断は禁物だ。

「うぎっぎいぎぎい!」
 額に血管を浮き上がらせながら、白目を向いたナンダの肉体が変貌してゆく。
 二本の角が生え、背中から鳥の翼が広がる。
 口元が大きく裂けて獣のように伸びている。

 そして、全身を包む純白の闘気によりチオンチの肉体が形成される。
 光の属性を持つ闘気、発光しながらも闘気はナンダを守る毛皮となった。

「小僧、心して聞くが良い! ワシは窮奇チオンチのナンダ。四凶スーシオンの一角を担う。どういう意図で襲撃を企てたのか知らんが、ワシに立てつくことはこの国の均衡を崩そうしているのも同義だ。すべてを敵に回す覚悟があるのならば、貴様の研ぎ澄ました刃を突き立ててみよ!!」

 チオンチの声は、もはや人間のものでもナンダのものでもない。
 男女と子供が一斉に発声しているかのように混じり合う悪魔の響きだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!

本条蒼依
ファンタジー
 氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。  死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。  大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

処理中です...