異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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二百三十七話

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「とどくか!? クリティカルパス!」
 
「そう易々と!! 禁幻不動縛鎖きんげんふどうばくさ

 ギデオンの繰り出すクリティカルパスが、イスカリオテの弓を弾き飛ばした。
 手元の武器を失い、完全に無防備状態となる霊幻のアビィ。
 だが、導士称号を持つ者にとっては、ほんのたわむれ程度のことだ。

 勝機を見出し、さらに一歩踏み込んでくるギデオンに自らの武器を差し出した。
 油断ではなく、敢えての行為。
 中長距離を得意とする彼女とって接近戦は避けたいところ。
 アビィが念じるとイスカリオテの弓が弓形状から巻物へと戻り、ギデオンの手足に絡みつく。

 一瞬のできごとに、ギデオンでさえ回避する余裕はない。
 このままだと、動きを封じられてしまう。
 とっさの決断が勝敗を分ける。
 巻物に絞めつけられて挙動が不自由になろうとも、ひるんではならない。
 迷いが生じれば、あっけになくアビィに敗北してしまう。
 格上の相手との戦いとは、刹那で決着をつけなければ次第に力量差が広がってくるものだ。

「極天蒼炎鸞、蒼炎蹴嶽そうえんしゅうがく!!」

 全身から蒼い闘気を噴射させながら、辛うじて動かせる右足で宙を蹴り上げる。
 蹴りの動作に続いて闘気がランダムに放たれてゆく。
 ほぼ、隣り合ったこの距離なら確実に攻撃が入る。

「甘いよ、硬壁こうへき……からの! 霞飛び」
 蒼炎をものともせず、アビィは巧みに受け流してきた。
 無傷というよりも、攻撃自体がプラーナの壁に阻まれ地肌に触れてもいない。
 防御用の練功のことは聞いてはいたが……実際、目の当たりにすると想像していた以上に精密で繊細な技能だ。

 初めて直で目にする新たなる技能に、ギデオンの胸中は高鳴りを覚えた。
 極天をもってしても三大導士を、押し切ることはできない。
 やはり、一筋縄ではいかない。

「覇光……」アビィの手のひらがトンとギデオンの左肩を叩いた。
 瞳から火花が飛び出そうなほどの衝撃波が、全身を打ち抜いてゆく。

 激痛で叫んでいるのかも分からない。
 まだ、防御法もままならないのに気の直撃を浴びてしまったのは不味かった。
 ふらつく足元に踏ん張りをきかせ、すぐに体勢を直そうする。

「所詮、付け焼き刃の練功。まだ、君の実力は高みの領域からほど遠い……さっさと、おねんねしなよ」

「……二度も食らうかぁ。孔壁鳳尖牙こうへきほうせんが!!」

 二発目の覇光は、少し離れた距離から手をかざした状態で撃ち込まれた。
 満身創痍まんしんそういだと思われたギデオンは、巻物の捕縛から解放され、闘気の剣で覇気の塊を斬り伏せた。

「やってくれる。全身から放出されている極天を刃のように尖らせ、針ネズミのようにして巻物を貫くなんて……まったく、とんでもない子だよ。それに防御ではなく、カウンター技を思いつきで編み出すなんて常識の範疇はんちゅうでは成し得ないことだよ」

 右の手で左肩をおさえながら、アビが片膝をつく。
 目をこらして眺めていると彼女の指先の合間から鮮血があふれ出っている。
 さきほどの鳳尖牙は、すでに相手の元にまで届いていた。

「こりゃー、一本とられたわな。細身くせに、どこにそんな怪力を隠しているんだか……」

「アンタこそ、感情任せに動かなければ僕に圧勝できるんじゃないのか?」

「さあ、どうだか? 謙遜しなくても君は充分、手強い相手だ。今度は、手加減抜きでやらして貰う」

「いや、時間切れだ。アビィには悪いが、この戦いは前座に過ぎない……今からやって来る本番に、備えて得るモノは得た」

 広場の奥に見える、ナンダの屋敷をギデオンは指で指し示した。
 心なしか、地鳴りが聞こえてくる。
 当然、錯覚などではない。沸き立つ戦士たちの雄叫びとともに、大地を打ちつける音は明瞭に響いてくる。

「あれは、ギデ君の犬だよね。その背に乗っているのはロッチさん?」

 スコルが大群を率いて主がいる大広場の方へと真っすぐに駆けてくる。
 彼らの背後を固めているのは陸龍の一団。ナンダ直属の一軍となる。
 ロッティによる、敵兵への挑発、引きつけは大成功を収めた。
 追走する龍の中に、一際、際立った存在が混じっている。

「ギデッ――――!! 頼まれたとおり、ナンダの軍を連れてきたぞ。早くエイルにナンダ軍を分断するように伝えてくれ!」

「上出来だ! エイル、クロオリで敵軍の勢いを殺してくれ。オッサンとスコルを敵から切り離す」

 雪崩込むように広場に入ってくる陸龍に鉄塊が衝突スレスレまで接近し、相手の脚を止めた。
 龍に騎乗した兵士たちに混じり、その男の姿がはっきりと確認できる。
 北の守護代ナンダが、ついに姿をあらわにした。
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