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百八十一話
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砕けかけていた彼女の心を、繋ぎとめたのは仲間から信頼だった。
こんな弱々しく情けない姿をさらしても、彼の心は揺るがない。
その真っ直ぐな眼差しが語る――逃げることを恐れるなと。
自分を責めるだけでは、誰も救えないぞと。
バージェニルにとって、ギデオンの言葉が持ち直すきっかけとなった。
勇気を与えてくれた彼に、力強く頷くと、即座にブロッサムたちのところへ駆け寄ってゆく。
「外野もいなくなったことだ。オマエをぶっ壊して、さっさと宰相を返して貰うぞ、ギデ!」
「お前こそ、僕が勝ったら魔笛の呪いを解除してもらうぞ」
「はん! テロリスト風情が舐めた口を利くが……次はねぇーぞぉぉぉぉ!!! ここが、テメェの墓標だぁあああ――」
ファルゴの全身が、発光し燃え上がった。
湧き上がるプラーナの息吹が男の細胞を活性化させる。
適度な筋肉の緊張、乱れぬ、呼吸のリズム。
アドレナリンが抑えきれず、精神が荒ぶる。
敵を屠る最適条件が揃っていた。
絶大なる力が、膨張しあふれギデオンを襲撃する牙となる。
「ギガノレイダー!!」
「そう何度も同じ技が通じると思うな! クリティカルパス」
凶器と化す拳をギデオンの拳が受け止める。
そこから、絶妙に角度をずらし衝撃を他方へと逃がす。
今まで、剣ごしでしか出来なかった技巧は土壇場で、進化を遂げた。
いつ、いかなる時でも適応できる能力の高さこそがギデオンの強みだ。
「また、インファイトか!? つくづく懲りねぇ野郎だ。呻れ! インクルードガーダー」
練功で強化されたファルゴの脚が大地を踏みつける。
その衝撃によりひび割れた地表が、立て続けに破裂してゆく。
爆竹のような、けたたましい音を響かせて、近づこうする敵を爆風で吹き飛ばす。
それだけに留まらず、飛び散った土砂で辺り一面が埋め尽くされてしまった。
厄災に匹敵するほどの凶悪な一撃の前では、誰であろうとも抗うことすらままならない。
流れに逆らえず、為すがままに潰えてゆく。
少なくとも、ファルゴの常識の中では、それが確定していた。
「……なんで、そこにいるんだ? 小僧!?」
集中砲火の真っ只中に巻き込まれたはずのギデオンが、自身の懐に潜り込んできた。
その事実に身体が打ち震えるよりも速く、ファルゴの目から火花が散るほどの衝撃が走っていた。
「があああっ……一撃、モロに喰らった……のか!? 馬鹿な、プラーナの防御を上回る破壊力なんて存在するのか……?」
「もう一発だ、うぉおおらあああ――――――!!」
素手で顔面を押えるファルゴの顔が苦痛で歪む、延髄に重い一発が追加された。
ギデオンよりも一回りも大きい巨躯が大きくフラついた。
これまで、散々通らなかった攻撃が嘘のように決まってゆく。
これは奇跡でも、覚醒でもない……現実の延長線上に立たされた者による決死の悪あがきだ。
極限まで高められた集中力と、それに伴う禁じ手が、彼の技をここまで昇華させていた。
「オマエ……どうかしてるぜ。自身の肉体にエンチャントをかけたのか……? しかも、天属性だと!!」
傾いた首元をゴキッと鳴らしながら、ファルゴが前傾姿勢を取った。
すぐ様、反撃がとんでくるのかと思われたが……そうではないらしい。
その構えは、彼がギデオンに初めて見せる警戒の現れ、身を護るための動作だった。
「どうした? 急に大人しくなって。僕をブチのめすんじゃないのか?」
「ほざけ、小僧! 意味、分かってんのか? 自分自身にエンチャントをかけるということは、その身を滅ぼすだけだ、自傷行為と何ら変わりねえーぞ!」
「なんだ、そんな事か……お前は止めるには、そこまでする必要があるという事だ。後のことなど、気にしてられるか」
「はっ、呆れて物も言えないぜ。いいぜ! それがいかに無意味なことか教えてやろう、ウィナーズカース」
目の前に、悪夢のような光景があった。
ウィナーズカースの能力が発動すると共に、ファルゴの全身の傷が一瞬で癒えてゆく。
そればかりか、消耗していた魔力も同時に回復し、彼のフィジカルは万全の状態に戻った。
「ダメージを分散するだけじゃないのか……」
ギデオンは言葉を詰まらせるしかなかった。
ウィナーズカースが持つ力の本質……能力のカラクリがまだ全然、解き明かされていないことに気づいてしまった。
能力の正体を暴かなければ、ファルゴを止めることができない。
「初めから、決着はついていたのも同然だ。俺のウィナーズカースは無敵の力だ! テメェがどんな方法を用いても俺は何度でも復活するぞ」
解を求めるには、複雑すぎる。
「せめて……ヒントがあれば」苦虫を噛むような思いで呟く、ギデオンの肩に一匹の毛玉が舞い降りた。
こんな弱々しく情けない姿をさらしても、彼の心は揺るがない。
その真っ直ぐな眼差しが語る――逃げることを恐れるなと。
自分を責めるだけでは、誰も救えないぞと。
バージェニルにとって、ギデオンの言葉が持ち直すきっかけとなった。
勇気を与えてくれた彼に、力強く頷くと、即座にブロッサムたちのところへ駆け寄ってゆく。
「外野もいなくなったことだ。オマエをぶっ壊して、さっさと宰相を返して貰うぞ、ギデ!」
「お前こそ、僕が勝ったら魔笛の呪いを解除してもらうぞ」
「はん! テロリスト風情が舐めた口を利くが……次はねぇーぞぉぉぉぉ!!! ここが、テメェの墓標だぁあああ――」
ファルゴの全身が、発光し燃え上がった。
湧き上がるプラーナの息吹が男の細胞を活性化させる。
適度な筋肉の緊張、乱れぬ、呼吸のリズム。
アドレナリンが抑えきれず、精神が荒ぶる。
敵を屠る最適条件が揃っていた。
絶大なる力が、膨張しあふれギデオンを襲撃する牙となる。
「ギガノレイダー!!」
「そう何度も同じ技が通じると思うな! クリティカルパス」
凶器と化す拳をギデオンの拳が受け止める。
そこから、絶妙に角度をずらし衝撃を他方へと逃がす。
今まで、剣ごしでしか出来なかった技巧は土壇場で、進化を遂げた。
いつ、いかなる時でも適応できる能力の高さこそがギデオンの強みだ。
「また、インファイトか!? つくづく懲りねぇ野郎だ。呻れ! インクルードガーダー」
練功で強化されたファルゴの脚が大地を踏みつける。
その衝撃によりひび割れた地表が、立て続けに破裂してゆく。
爆竹のような、けたたましい音を響かせて、近づこうする敵を爆風で吹き飛ばす。
それだけに留まらず、飛び散った土砂で辺り一面が埋め尽くされてしまった。
厄災に匹敵するほどの凶悪な一撃の前では、誰であろうとも抗うことすらままならない。
流れに逆らえず、為すがままに潰えてゆく。
少なくとも、ファルゴの常識の中では、それが確定していた。
「……なんで、そこにいるんだ? 小僧!?」
集中砲火の真っ只中に巻き込まれたはずのギデオンが、自身の懐に潜り込んできた。
その事実に身体が打ち震えるよりも速く、ファルゴの目から火花が散るほどの衝撃が走っていた。
「があああっ……一撃、モロに喰らった……のか!? 馬鹿な、プラーナの防御を上回る破壊力なんて存在するのか……?」
「もう一発だ、うぉおおらあああ――――――!!」
素手で顔面を押えるファルゴの顔が苦痛で歪む、延髄に重い一発が追加された。
ギデオンよりも一回りも大きい巨躯が大きくフラついた。
これまで、散々通らなかった攻撃が嘘のように決まってゆく。
これは奇跡でも、覚醒でもない……現実の延長線上に立たされた者による決死の悪あがきだ。
極限まで高められた集中力と、それに伴う禁じ手が、彼の技をここまで昇華させていた。
「オマエ……どうかしてるぜ。自身の肉体にエンチャントをかけたのか……? しかも、天属性だと!!」
傾いた首元をゴキッと鳴らしながら、ファルゴが前傾姿勢を取った。
すぐ様、反撃がとんでくるのかと思われたが……そうではないらしい。
その構えは、彼がギデオンに初めて見せる警戒の現れ、身を護るための動作だった。
「どうした? 急に大人しくなって。僕をブチのめすんじゃないのか?」
「ほざけ、小僧! 意味、分かってんのか? 自分自身にエンチャントをかけるということは、その身を滅ぼすだけだ、自傷行為と何ら変わりねえーぞ!」
「なんだ、そんな事か……お前は止めるには、そこまでする必要があるという事だ。後のことなど、気にしてられるか」
「はっ、呆れて物も言えないぜ。いいぜ! それがいかに無意味なことか教えてやろう、ウィナーズカース」
目の前に、悪夢のような光景があった。
ウィナーズカースの能力が発動すると共に、ファルゴの全身の傷が一瞬で癒えてゆく。
そればかりか、消耗していた魔力も同時に回復し、彼のフィジカルは万全の状態に戻った。
「ダメージを分散するだけじゃないのか……」
ギデオンは言葉を詰まらせるしかなかった。
ウィナーズカースが持つ力の本質……能力のカラクリがまだ全然、解き明かされていないことに気づいてしまった。
能力の正体を暴かなければ、ファルゴを止めることができない。
「初めから、決着はついていたのも同然だ。俺のウィナーズカースは無敵の力だ! テメェがどんな方法を用いても俺は何度でも復活するぞ」
解を求めるには、複雑すぎる。
「せめて……ヒントがあれば」苦虫を噛むような思いで呟く、ギデオンの肩に一匹の毛玉が舞い降りた。
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